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3章 フェイトエピソード
問題を起こす為に転移して来た男・後編
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~マリア視点~
「では紹介しよう、彼女が俺が買ってきた物だ」
──橘雄星が【物】扱いして招き入れた人物を見た瞬間、私は目眩で倒れそうになってしまった。
目を覆いたくなる様な現実とは間違いなくこの事だろう。
……橘雄星は奴隷を買っていた。それは良い。
いや、体裁的にも良くないし、わざわざパーティー会場で披露するものでもない。
良くは無いのだが奴隷が人間だったのなら、まだそれは良いで済まされた。
加えて人間が獣人を奴隷にする事は度々あるので、それを獣人に見せびらかしたりしなければ問題は起きない。
そう、問題……大問題なのは橘雄星という【勇者に選ばれた者】が獣人の奴隷を買ってきたという事。
──今でこそ完全に消え去った歴史だが、以前、我々人族が獣人を奴隷の様に取り扱っていた恥ずべき時代が有った。
今でこそ人間と同じ扱いなので、この時代で奴隷に落ちる獣人は貧困に苦しみ家族の為に自らを売る者、犯罪を犯して奴隷に堕とされる者となっている。
だが、その時代の獣人は産まれた時から奴隷として使われていた。
それから長い時間の流れと共に、獣人達の反逆や入れ替わった当時の王の偉業により無くなった。
獣人国という一つの国を作り上げる事で、人間と獣人達の間で渦巻いていた争いの歴史に終止符を打つ事が叶った。
そんな歴史が有るからこそ人間の勇者が獣人の奴隷を買い、それを大勢の前で披露する事が大問題となってしまうのだ。
せめてこの様な公の場で披露されなければ……
大昔に召喚した勇者の中にも大きな問題を起こした者が居ると聞いていたけど、もう昔の話には出来ないわね……
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
~ブローノ視点~
獣人奴隷を披露した事で周囲から凄まじいまでの殺気を浴びた橘雄星は、逃げる様にこの会場から立ち去った。……本当に彼はどこまで醜態を晒せば良いのだろうか。
要は獣人奴隷という爆弾を、獣人達の視線で爆発させに来ただけとしか思えない。
それにしても彼に付き添っていたメイドは確かミレーヌと言ったか?素性は知らないが後で調べてみる事にしよう。
そして女騎士の方はリーシャ・フランツと言ってこちらは少し厄介な事になるかも知れない。何しろ彼女は侯爵令嬢。
そして彼女の父、ゾルダム・フランツ侯爵は王族である我々に真っ向から対立している立場の人間だ。しかもそれのトップに君臨している男。
リーシャ・フランツを使って橘雄星に裏で接触してくる可能性が高い。
橘雄星なら簡単に取り込まれるだろう。
──だが今はこの問題より優先すべきがある。
一刻も早く、我々王族の誰かと騒動の発端である勇者が獣人国へと謝罪に向かわなければならなくなったという事だ。
この会場には数人の貴族獣人に、大勢の獣人騎士が集まっている。
これだけの人数を口止めするなど不可能だ。間違いなく獣人国の王に勇者が獣人を奴隷にしたという話が伝わるはずだ。
出来るだけ早急に対処しなくては、折角長い年月を掛けて築いた信頼関係が大きく崩れてしまう。
──だが獣人国側からすれば勇者一人の失態は勇者全員の失態と捉えるだろうが、この場合はこれが利点となる。それは連れて行くのが橘雄星で無くても良いと言う事になるからだ。
正直、彼を連れて行くなどあり得ない。
騒動の発端ではあるが、あんな人物を連れて行けばその場で宣戦布告されかねない。別の誰かに頼むべきだろう。
中岸由梨と奥本美咲も、まともそうに見えないから除外しよう……そうなると必然的に二人に絞られる。
松本孝志か……橘穂花のどちらか。
だがこの二人は今回の件にまったくの無関係だから頼み辛いところがある。それにその者には獣人の王にもマイナスな印象を与えてしまう事になる。
……それでもやはり獣人国へ向かう勇者の代表は、この二人のどちらかに頼むしかない。
完全に尻拭いをさせてしまう事になるが、もう彼と彼女に縋り付くしか手はないだろう。
だがもちろん、それ相応の礼はするつもりだ。
そして王族の代表は誰が行くべきかだが、これを決めるのは簡単な事だ。
国王として父が直接出向くのは流石に控えるべきだろう。
そしてシャルロッテは当然不可能として、ネリーなど橘雄星と同じ理由で行かせる訳にはいかない。
マリアという手もあるが、ここは王子である俺が行くのが適切で最適だろう。
自分自身もそれに一切不満はない。
……そしてこの話は今日にでも獣人国の王の伝わると考えた方が良い。
ならば向かうのは出来るだけ早い方が誠意が伝わる。明日の朝にでも行くべきだろう。
はぁ~……仕事が山ほどあると言うのに……本当に橘雄星はとんでもない事をしてくれたものだ。
しかし、今回の件は事前に教えていなかった我々側の責任の方が遥かに大きい。
彼は獣人国と我が国との事情を知らなかったのだから、橘雄星だけを責めるのは筋違いだ。
……でも愚痴を言わせてもらえるなら、これだけの好待遇を受けているのに、まさか奴隷を買いに行くとは思わなかったよ。
──明日からの事を思い、ブローノは頭を痛ませるのだった……
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「……実に面白くないパーティーだ……僕はもう帰るよ」
橘は猫耳の獣人奴隷を見せびらかした事で悍ましい程の敵意を向けられると、直ぐに耐えられなくなりちっぽけな捨て台詞を残して逃げる様に立ち去った。
そして他の女性達も慌てて橘の後を追う。
中岸も奥本も、今のみっともない橘の姿を見て何とも思わないのだろうか?
……それと穂花ちゃんはどうするんだろうか?俺は彼女の動向が気になり視線を向けた。
目が合った穂花ちゃんは可愛くウインクをするが、俺の視線の意味に気が付いたらしく、怒った表情を見せ始めた。
……ど、どうして怒った感じなの?
「あの、一つ言っておきたい事があるんですけど……良いですか?」
あらたまってどうしたんだろう?
俺は不思議に思いながら、彼女の言葉に返事を返す。
「どうしたの?穂花ちゃん?」
彼女は一呼吸置いてから衝撃的な事を話し出した。
「……私、兄のこと好きじゃありませんよ?」
「………え?!マジで!?」
あ、素で変な声が出ちゃったわ……てか本当に言ってるの?俺は思わず目を見開いて穂花ちゃんを見つめてしまう。それくらい衝撃的だった。
「はい、マジです。というか嫌いです……それも死ぬほど」
「……そ、そうだったのか……本当に勘違いしてたよ…………え!?死ぬほどなの!?」
更なる衝撃の事実だ。好きじゃないどころか嫌いだったなんて……しかも死ぬ程嫌いとかヤバくね?
多分、言い出した時の表情を見る限り冗談では無いだろう。多分ツンデレとかではない。
そうか、橘のこと好きじゃなかったのか……ちょっと嬉しい。
「ううぅ……やっぱ勘違いしてましたね……ずっと同じ所に居た私も悪いですけど……そもそも兄妹を好きになる訳無いじゃないですか…」
彼女は肩を大きく落として項垂れる。
嬉しいとか思ってる場合じゃなくて、俺って最悪な勘違いしてたんだな。
穂花ちゃんも俺に対してそう思ったらしく、唸りながら俺に非難の視線をぶつける。何気にこの子に非難の目を向けられるのは初めてだ。
「ほんとごめんね……」
「……解ってくれたのなら良いですけど~……えへへ~」
最初は肩を落として穂花ちゃんたが、途中から心のもやもやがやっと解かれたかの様に、清々しい顔色を見せ始めた。
「ほんとあの人って、クソ以下ですよね!」
「そこまで言っちゃう!?」
「橘穂花があの男を嫌いなんて、意外だったわね」
「マリア王女、居ましたのね……」
「居ましたのよ」
いつから居ましたの?
てか穂花ちゃん、ちょっと怒った顔してるし!勘違いしてた事は謝るから許して!嫌われたくない!
そしてクソ以下って……お下品だよ穂花ちゃん……
──「(むぅ~~マリア王女様と仲よさそう~~!)」
もちろん穂花は全く別の事に怒っていたのだが、孝志が知る由もない
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