普通の勇者とハーレム勇者

リョウタ

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3章 フェイトエピソード

王子の頼み

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波乱のパーティーを終えてから1時間程が経過し、時刻は午後9時。
俺は現在、穂花ちゃんと一緒にとある部屋の前に来ていた。理由はブローノ王子からの呼び出しである。
そしてこの部屋は昨日ブローノ王子と顔合わせした場所。

どうやら明日にでも俺たちに依頼しなくてはならない事があるみたいだ。
詳細はわからないが、俺は橘が奴隷少女を披露した事が原因ではないかと推測する。


──俺は部屋をノックした。
すると、昨日と同じ気品ある初老のメイドさんが扉を開けてブローノ王子の前に案内してくれる。

ブローノ王子から座るように促されると、俺と穂花ちゃんは来客用のソファーに腰を落とした。


「突然呼び出して本当にすまない。だが、どうしても明日を迎える前に二人のどちらかに頼みたい事が出来たんだ」

ブローノ王子は深刻そうな顔で語る。
俺と穂花ちゃんは只ならぬ事情を察して姿勢を更に正した。


「先程、橘雄星が披露した奴隷が獣人であった事で、かなりの問題になりそうなんだ」

やはりその事だったか。
あれ以降は本当に最悪な雰囲気だったからな……ぶっちゃけ王様の締めの挨拶とか聞かずに帰ってしまう獣人の方が多い程だ。


「獣人の方たちからの殺気が凄かったですけど、あれって同胞を人間の奴隷にされたから……という訳では無いですよね?」

獣人奴隷を頭が弱そうな橘が簡単に買えてしまうのだから、獣人を人間が買うことを禁止されてるという事は無いだろう。
もっと根本的な良からぬ理由がある様に思える。


「うむ、それを今から説明しようと思っていた所さ。……では最初にこの世界で昔、獣人と人族の間で何があったのかを話すよ?」

ブローノ王子は事情が解るように、この世界の歴史の黒い部分を掻い摘んで話してくれた。



──昔の話らしいが、人族が獣人を奴隷の様に取り扱っていた時代があったそうだ。
今の扱いは完全に人間と同じになっているが、その時代は獣人と言うだけで産まれながら奴隷として使われていたそうだ。

そんな歴史が有ったからこそ、獣人達は勇者が同胞を奴隷にした事に強い憤りを顕にしているらしい。
橘は恐らく、初めて見る獣人が珍しいと言ったくだらない理由で奴隷として買ったと思うが、結果は国を巻き込んだ大問題に発展している。

流石に今回に関しては売り付けた奴隷商人に責任が有ると思うんだけど、橘だしアイツが悪いって事でいいか、うん。

因みに売り付けた奴隷商人はこの僅かな時間で特定しており、既に拘束もしているとの事だ。
そして奴隷商人側も橘が勇者だと知らず、ただの金持ちボンボンだと思っていたらしい。
それでも事が事なので、今は牢屋にぶち込んでいるらしい。商人側も責任を感じて大人しく従ってる様だ。
良い人じゃんか……奴隷商人の癖に……


「それで謝罪するのと、此方側の誠意を見せる為にブローノ王子と、僕か穂花ちゃんのどちらかが獣人国へと向かう訳ですね?」

俺はたったいま聞かされた獣人国へ向かう目的を口に出して確認した。
王族の代表としてブローノ王子が行くらしいが勇者の代表は誰にお願いするか悩んでるみたいだ。
ただし、俺か穂花ちゃんの二択らしいが……


「それに関しては本当にすまないと思う。君たちはまったくの無関係なんだから……けど、他の勇者達には到底頼めないんだ」

ここに俺と穂花ちゃん二人しか居ないので察しているが、あの三人の誰かに任せる事は出来ないと判断したのだろう。俺も正解だと思います。
多分、いや間違いなくだが中岸と奥本のどちらが行く事になっても、あの二人なら橘を一緒に連れて行こうとするだろう。


「そういう事でしたら自分にお任せ下さい」

俺は迷う事なく立候補した。
別に強制された話では無いが、聞かされた状況が状況だけに断るという選択肢など選べるはずもない。何よりブローノ王子からの頼みでもあるので無碍にする訳にもいかない。

……それにいずれは魔王討伐に行くとはいえ、出来るだけ穂花ちゃんに危険な事はさせたくないって思いもあるし……本人が望むなら別だけど。

しかし、孝志の想いが伝わったかの様なタイミングで、穂花は恐る恐る手を挙げてある事を提案した。


「あの……二人一緒じゃダメですかね?」

「……いいのか?」

ブローノ王子は気を使ってどちらか一人と言っていたが、本音は二人一緒に来て欲しいだろう。
勇者の数は出来るだけ多い方が獣人国の印象も良くなる筈だから。

それでも残りの三人に声を掛けないのは、それを踏まえた上でも外交の場にアイツら連れて行くと邪魔にしかならないと考え至ったからだろう。


「はい。一人だと騎士さんが一緒でも怖いですけど、孝志さんと一緒なら怖くないです」

嬉しいこと言うじゃないか…
危険な事はさせたく無いが、自分から行きたいと言っている気持ちを踏みにじる事は出来ない。
それに、穂花ちゃんは橘の事を嫌いと言っていたし、出来れば遠ざかりたいのかも。

先ほど穂花ちゃんにこの事をカミングアウトされるまでは、なんで俺と一緒に居てくれるのか解らなかったが、今ならハッキリと解る。
穂花ちゃんは橘が嫌いなので一緒に居たくなく、顔見知り程度の俺に頼らざるを得なかったんだろう。
友達の兄として信頼されてんだ、きっと。

そうかっ!俺は頼られていたのか…!だとしたらこれまで以上に穂花ちゃんと一緒にいる時は引き締めないとな!

……穂花ちゃんから『また変な勘違いしてる』と言いたげな視線を向けられるが今度は大丈夫!安心して俺を頼って頂戴ねっ!


「自分も橘さんが来てくれるなら心強いです」

「………本当にありがとう……来たばかりでこの世界の事をろくに知らない君達をこれ程までに頼ってしまう事を許して欲しい」

感極まったブローノ王子は立ち上がり、俺たち二人に深々と頭を下げる。
……ブローノ王子は凄い人なのは間違いないのだが、少し王子にしては腰が低過ぎる気がする。現代日本人みたいな性格に近いんじゃないだろうか?

俺と穂花ちゃんも立ち上がり、ブローノ王子と同じように頭を下げた。


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