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4章 仮面の少女
4章 プロローグ 〜チート集団に囲まれて〜
しおりを挟む──ラクスール王国を出発してから3時間。
現在、見晴らしの良い整備された街道を少し離れ、薄暗い森の中で馬車を走らせていた。
そして、操馬者も今はユリウスさんからオーティスさんに代わっている。
馬車の中は案外広く、あちらの世界で言うところのリムジン程の長さがある。
とは言ってもテレビの知識で、もちろんリムジンなんて乗った事は無い。
また、座ってる椅子も快適でお尻が痛くなるとかの症状もない。
……ただ一緒にブローノ王子や穂花ちゃんも乗ってるので、快適だからと言って気を抜く事は出来ないんだけど。
それに、さっきまで居たオーティスさんも、ブローノ王子が居たので割と大人しかった。
王子が相手だと気を引き締めるとか……もっと突き抜けた人だと思ったのに、あの人にはガッカリだよ。
ただ窓の外を見ながら時折「なるほど……ここが古より伝わる地か……」と、何もない草原に向かってボソッと言っていた。因みに32歳らしい。
そしてブローノ王子は先ほどまで一緒に談笑していたが、今は難しい顔をしながら書類に眼を通している最中。
書類が獣人国に関する事なのか、普段の仕事なのかわからないが真面目な人間性が垣間見られる。
ユリウスさんは腕を組み、カッコつけながら目を瞑っている。最初は寝てるのかと思ったけど、たまに何かを感じ取った様に、目を開けて窓の外を見ているので警戒してるんだと思う。
オーティスさんは風を感じながら操縦。
そして穂花ちゃんはと言うと……
「──ぐぇへへへ♡もう……しあわせ♡」
俺の膝の上に頭を乗せて熟睡中。
ぐへへ、とか言ってるけど寝言だろう……シラフでそんな事を言う子じゃないと信じてるからね!
俺の膝で眠ってるのは、なんでも昨日あまり寝てなかったらしく『あ~アタマがフラフラする~タカシさんがヒザマクラしてくれたらよくなるのに~(チラッ』と言ってきたので貸してあげてる。
まさかここまで甘えて貰えるなんて。
いつのまにか本当に心から信頼されてる様だ。
ならばこの信頼を裏切る様なことは出来ないな……絶対に手は出さないから安心して穂花ちゃん!
──そして俺も昼下がりの微睡みの中、眠気を我慢できなくなってきたので、少し眠りに入ろうかと思った時だった。
ユリウスさんが突然目を見開き、オーティスさんに馬車を止めるように言う。
オーティスさんの方も止める理由が判っているみたいなので、戸惑いなく馬車を止めた。
ブローノ王子も書類から目を離し、今の起こった異常に意識を集中させる。
「どうしたんですか?」
只事ではないと思った俺は何事かと尋ねるが、ユリウスさんは余裕といった表情。
「なぁに、相手は数十体のゴブリンとオークが数匹って所だ。心配ない。……だが、念のために周囲には警戒しろよ?」
それだけ告げると、ユリウスさんは馬車のドアからでは無く、わざわざ窓から飛び出して行く。しかも羽織っている黒マントをはためかせながら。
このおじさん、若干ナルシスト入ってるんだよな。
……俺は最近気が付いたことがあるのだが、この国で強くなるにはまともな人間性だと無理かも知れない。
なのでスーパー真人間である俺が強くなれなかったとしても、それは仕方の無い事なんだ……悲観することなんてない。
飛び出したユリウスさんは複数のオークの元へ向かう。オークの数は6匹。
そして、馬車を操馬していたオーティスさんは集団で襲って来たゴブリンと対峙する。それも馬に乗ったままで。
オーティスさんはゴブリンが充分に近づいて来たところで、指先をパチンと鳴らす。
すると、ゴブリン達の頭上にそれぞれ小さな魔法陣が出現し、そこから稲妻が放たれた。
群がっていた数十体のゴブリン達全員にそれが命中。
ゴブリン達はその一撃が致命傷となり地面に倒れ伏した。
一人残らず黒焦げだ。絶命しているのが一目でわかった。
「…すげぇな」
「そうですね」
俺は単純な感想を漏らすが内心では驚愕していた。
魔法というのは詠唱に時間が掛かると聞いていたのに、この人は省略どころか指ぱっちんで発動されたのだ。しかも複数同時に……
そして戦闘が終わった後は、何事も無かった様にのほほんとしている。中二の癖にカッコイイじゃねーか。
──あっ!そう言えばユリウスさんは…?!
俺は6体のオークの元へ向かったユリウスさんの方に視線を向ける。
……そこには首の無いオークの体6つと、体から切り離されたオークの頭が6つ転がっていた。
……いや、戦闘が静か過ぎるわっ!戦ってるらしき音なんて一つも聴こえなかったぞ!?
そしてユリウスさんもオーティスさん同様、何事もなかったかのように剣を鞘に仕舞いながら此方へと歩いて来る。
そんな光景を目の当たりにした俺は、穂花ちゃんに視線を向けて言った。
「戦いは強い人達に任せて、戦闘では役に立たない俺達は大人しくしていような!」
「むぅ~~!」
え?何でムクれてるの?
──孝志には解らない事だが、そもそも穂花は孝志の役に立ちたくて一緒に着いてきたのだ。
それなのに、自虐の意味が強かったとは言え孝志本人から戦闘では役立たずのレッテルを貼られてしまったのだ……穂花はその事が納得出来なかった。
そんな時、ユリウスは何かに気が付いた様で馬車の中に居る3人に声をかける。
「ブローノ王子、それから後の二人!反対側にもオークが一体残ってるみたいだ!俺が片付けるから大人しく待っててくれ!」
誰が後の二人だ!個人名言えや!
ユリウスさんは馬車を迂回して残ったオークに飛びかかろうとした、その時だった──
「わ、私に任せて下さい!」
「え!?穂花ちゃん!?」
穂花ちゃんはユリウスさんが向かうよりも早く反対側に飛び出した。
俺が制止する時間さえ無いほどに早いスピード。
……孝志は何故この様な行動を穂花が取るのか解らない。
──実はこの時、橘穂花は焦っていた。
孝志さんに役に立たない女と思われてるんじゃないのかな?……と。
むしろ活躍出来なければ、それだけ孝志に親近感を持たれて孝志からの評価は上がって行くのだが、この時の穂花はそんな事など考えもしなかったと言う。
……あとは、せっかく寝たふりしながら孝志の膝枕を堪能してたのに、それを邪魔された事に対する怒りも大きかったりする。
扉から外へと飛び出し着地を決めた穂花ちゃんは、同時に魔法の詠唱らしきものを開始した。
「煉獄の炎よ、我が指先に集え──」
穂花ちゃんがそう言い、右手を上に挙げて人差し指を立てると、その指先に炎が集中してゆく。
1秒程でバスケットボールの大きさにまで膨れ上がった球体の炎から熱は感じないが、それは事前にマーキング(味方識別)された俺達やこの馬車だけ。
周囲の森は燃え盛っており、隠れていた哀れなオークも堪らず撤退を開始する。
だが、眼を瞑って詠唱する穂花ちゃんはその事に気付いてない。
「ちょ、ちょっと、穂花ちゃん!?もう敵は居ないよ?!」
俺は馬車を降りて穂花ちゃんに声を掛けた。
しかし、孝志の声も届かないほどに炎は煩く燃え盛っていた。大きさはすでに先程の数十倍。
「そして形あるものを燃やし尽くせ!プリズム・インフェルノ!!」
そして彼女はその巨大な炎の球体をたった一匹のオーク目掛けて放った。
──瞬間、狙いをつけられたオークを中心に大きな火柱がそびえ立つ。
範囲はオークだけに留まらず、森を広範囲で焼きつくす。オークなど影も形も既にない。
「………」
俺は唖然と立ち尽くす。
そこへ少し前から隣に立っていたユリウスさんが、馴れ馴れしく俺の肩に手を置いた。
「橘穂花は、お前達五人の中で一番強いんだぞ?しかも圧倒的に。だから別にお前がだらしない訳ではないさ……いや、だらしねぇか!はは!」
「………」
いや、マジかよそれ……てかウゼェなこのオヤジ。
ユリウスさんの言い方が物凄く癪に触ったのだが、俺は突っ込む事はせず、無言のまま突っ立ていた。
──すると、オークをオーバキルした穂花ちゃんがこっちに走って来るのが見えた。
「どうですか孝志さん!?私だって役に立つんですからね!」
穂花ちゃんは実に嬉しそうに俺の元へと駆け寄ると、胸を張ってそんな事を言い出す。
……確かに凄いけどね、違うんだ穂花ちゃん……俺が欲しかったのはチートな仲間じゃなくて、俺と同レベルなお友達なんだよ?
「………強いんだね」
俺は心が死んでる状態だったが、それでもなんとか返事を返す事が出来た。
「はい!これからどんどん私も頼りにして下さいね!」
「……………うん!」
もうヤケになった俺は凄く嬉しそうに返事をしてやった。
いや、まさか穂花ちゃんに裏切られるとは……あれ……もしかしてこの中だと俺って役に立たなかったりする感じ?ブローノ王子と同じで護られる立場だったりする?
それにブローノ王子は獣人国では外交なんかで大活躍するんだろうけど、俺は向こうに着いたって何か出来る訳じゃない。
……いや、本当にこのメンバーの中だと役に立てる気がしない。
孝志はいろんな事を想像して、憶測だけで強いショックを一人で勝手に受けてしまうのだった。
因みに、犠牲となった森の大部分は、オーティスさんの超範囲修復魔法で元通りになったという。
──何気にこれが一番の衝撃だったと言う……
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