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4章 仮面の少女
届けられない心
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~敵サイド~
私はダークエルフの女としてこの世に生を受けた。
名前をミーシャという。
十魔衆序列十位に位置する実力を誇っている……が、それも今日までの話。
私は今から力の全てを失う事になる。そうなってしまう《ワード(禁呪)》を発動するからだ。
大きなテーブルを囲う様な形で、装飾の施された椅子が十脚置かれている部屋。普段は十魔衆が集まる会議場がこの場所となっている。
だが、今この部屋に人影は二つしかない。一人はわたし……そしてもう一人が──
「何も悲観する事は無いぞ、ミーシャ。お前の功績は永劫に語られる事になるだろう」
なんて言葉を掛けてくる……十魔衆序列二位のアルベルト。そして彼が私にワードを使う様に直接指示した人物だ。
頭にはヤギのような渦巻き状の角が生えており、体はかなり痩せているが、それに比べて背丈は非常に高く2メートルはゆうに超えている。
私は最近おこった、とある出来事により勇者と刺し違えなければならなくなった。
その出来事とは同じ十魔衆ザイスの死である。
あの男は死ぬ直前に『単独で行動する勇者を暗殺する』との連絡を、実質的なザイスの主人となるこのアルベルトに送っていた。
相手が召喚されたばかりの勇者なので、ザイスの実力なら十分殺せる筈だった。
警戒されて、これ以降は暗殺が出来なくなるとしても、確実に一人は始末出来る。
……しかし、結果は無残なものとなってしまった。
死亡の原因はわからない。だが、ザイスを殺したのがこの勇者である事は間違いないだろう。
ザイスは暗殺行動を開始する前に『追うのは黒髪の男性勇者』と話していたそうだ。
「はい……御心のままに……」
「では任せたぞ?くれぐれも失敗などするな?先ほど魔物を通して観た戦闘から、勇者の護衛は相当な手練れだろうが、お前の禁呪なら簡単に出し抜ける筈だ」
「はっ。では直ぐに向かいます」
私は必要最低限の会話だけ終えると直ぐに部屋を出た。部屋の中には私とアルベルトの二人だけだったので、今はアルベルトしか居ない事になる。
そして誰も私を引き止めたり、心配してくれる者は一人も居ない。
「……今日私が黒髪の勇者と刺し違える事は、みんな知ってる筈なのにね」
いや、魔王様に秘密裏で行われてる事なので、魔王様は知らないだろう。魔王様以外の者が皆んな知っているということだ。
別段、私が嫌われてるという訳ではない。我々魔王軍はこういう種族の集まりだというだけの話。
元々、私自身もこれで良いと思っていたし、他の誰かが同じ状況でもわざわざ声を掛けたりしないだろう。
だが、実際に自分の番になると、それが少し寂しいと感じてしまう。
それでも思い残す事など無い……いや、ただ一つだけ心残りならある。
それは最後まで魔王様と直接顔を合わせる事が出来なかったこと。
直接顔を見る事も、視界に入る事も出来ない。
更に呪いが強くなり過ぎたらしく、今では声を聴くだけで気分が悪くなってしまう。
そのせいもあって魔王様はあれだけ圧倒的な強さを誇っているのに、他の者達は魔王様を嫌う。
それでも私は好きだし尊敬している。
──もう何年も前の話になるが、ただの一兵士だった頃の私が追い詰められた時に助けて貰った事があった。
それだけでも有難い話なのだが、魔王様は私に顔を見せず、私の方を見ようともしなかった。
自分の呪いの被害が私に及ばない様に気を使ってくれたのだ。
直ぐその場で礼を言おうと思ったが、魔王様の後ろ姿を見てるだけなのに鼓動が激しく乱れ、恐怖で身体が震え上がってしまっていた。
当時、十魔衆に成り上がって無かった私は魔王様を拝見するのがこの時で初めてだった。
……そして噂通りのお方なんだと思ってしまった。
そんな私に気付いた魔王様は、結局こちらには一瞥もくれず、敵を倒すと直ぐに私の前から立ち去ってしまったのだ。
去り行く姿を見ても引き止める事も出来ず、助けられた礼すら言えないのかと自分を責め立てたのを今でも覚えている。
それから私は魔王様に近づく為に必死に努力し、高い戦闘能力と十魔衆に加入するのに必要なユニークスキルを身に付けた。
そして一年前にようやく十魔衆に加入する事が叶ったのだ。
……しかしその結果、今から死ぬ事になるんだが。
私は不在である魔王様の部屋まで赴き、一度お辞儀をした。
確実に今回の任務で命を落とす事になるだろうから、どうしても儀式としてやっておきたかったのだ。
「それでは魔王様……一度も顔を合わせられなかった無礼と、助けて頂いた御礼すら言えずに逝く情けない私を、どうかお許しください……」
私は誰かに聞かせる訳でも無く、そんな言葉を残してこの場を後にした。
私の様に、魔王様を想ってる者が魔王軍にはどれくらい居るだろうか?
魔王様に近づく為に努力し、実際に会える状況を掴んでも、結局顔を見る事も視界に入る事も出来なかった……そんな情けない奴は私以外にどれだけ居るのだろうか?
───────
我ら十魔衆は、それぞれがユニークスキルという特殊能力を身に付けている。
序列八位のザイスは、気配消失と透明化が合わさり【インビジブル】と呼ばれるスキルに変容。
その効果は自らの存在を消失させるというもの。
ザイスのユニークスキルに関しては統合スキルとも呼ばれており、魔王軍でもスキルがそうなった事例は彼だけだった。
序列二位のアルベルトは、魔王軍に属する全ての魔物や魔族の見ている景色が自身にも見える【ビギニングアイズ】という能力。
この能力によりザイスを倒したという勇者の容姿を鮮明に把握しており、今回の馬車への魔物襲撃で発見する事が出来た。
ただ、ザイスがこの勇者の背後を取った瞬間に、何故か映像が途絶えてしまったらしいので、勇者がザイスを殺害する瞬間どころか、戦ってる姿すら見ていない。
かなり警戒すべき相手とアルベルトは判断を下したが、少人数で動いている今ならミーシャのワードを用いれば簡単に倒せると思ったのだろう。
今回の捨て身な勇者襲撃はこの為である。
そして、序列十位である私が有する能力が【テレポート】である。
この能力は自身の肉体を好きな場所へ転移させる事が出来る。行った事のある場所は当然、写真や映像越しで見た場所へも転移する事が出来るのだ。
そして私のワードとはこのテレポートの能力に、ある効力を追加させるというものだ。
因みに、十魔衆全ての者がこのワードを習得している。
ただし、どのワードも使用後に何らかのデメリットが生じる。デメリットは者によって様々。
私の場合は永久的に魔力を失ってしまうので、戦闘能力のほぼ全てを魔力で補っているダークエルフは死んだも同然。私にとってワードの使用とは自殺する事となんら変わりがないのだ。
本当の意味での禁呪なのだ……まぁ今から使わされるんだけど。
そしてアルベルトのデメリットは自らの両角を消失で、能力については不明。
ザイスに至ってはワードはもちろん、それのデメリットすら最後まで判らなかった。
「準備はよろしいですかな?」
声を掛けてきたのはアルベルトの従者である年老いたコウモリ族の男だ。因みに戦闘能力は皆無。
今は勇者が馬車で移動している姿を、アルベルトが代わりがわりと魔物の目で監視している。
一度マークされてしまえば完全に魔物の居ない場所へ行き着くまで、アルベルトによる監視の目から逃れる事は出来ない。
そしてアルベルトは、馬車で勇者一行が移動してる様子を映像化して私に見せている。この映像化も彼のビギニングアイズの能力の1つだ。
……場所の把握は完了した。
これで、この場所へ転移する事が出来る。
そして狙いは黒髪の勇者。
「いつでも大丈夫です」
「よし、ではテレポートを開始しろ」
「了解しました…」
このテレポートで向かう先は死地だ……もう生きて戻って来る事は無いだろう。
私は眼を瞑り、少しだけ思い耽る。
魔王様の助けになりたかったが、結局大した役にも立てずに死んでしまう事への不甲斐なさを。
……今の私に出来る事は、これから魔王様に幸福が訪れる事を願うのみとなった。
ふっ、これだけ想っていても、顔を見たら逃げ出すのだけれど……
……………よし。十二分に覚悟が決まった。
──私は目的地付近へのテレポートを開始した。
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