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4章 仮面の少女
禁呪
しおりを挟むラクスール王国を出発してから2日目。
午前中はひたすら馬車を走らせ、現在は街道を少し外れたけもの道を移動している。
本当に道らしき道も無いような場所。
街道をそのまま真っ直ぐに行くとミカエル大草原にさし掛かる予定だったが、ブローノ王子の案で少々危険だが近道としてこの道を行く事になった。
危険とは言ってもそこまでではなく、ユリウスさんとオーティスさんが居れば問題など無いらしい。
何だかんだ、このおっさん二人には頭が上がらない。
そして正午に差し掛かった事もあり、今は全員が馬車を降りて、出来るだけ辺りを見渡せる岩場で昼食を取っている。
流石に馬車に揺られっぱなしだと体調を悪くしてしまう恐れがあるので、こうやって食事時は外で行う。
急ぎ獣人国へ向かわなければならないが、体を休ませないと肝心な面会の時に万全を期する事が出来ない。
なので食事時はリフレッシュも兼ねて馬車を停車させている。
現在、各々が散らばっており、穂花ちゃんはもはや定位置となった俺の隣で、ブローノ王子とオーティスさんは馬車の近くで一緒に食事。
ユリウスさんは一番離れた所で警戒している様だ。
──そして今は全員が食事を済ませて、少しの間だが休憩の最中である。
ここで昨日から気になってる事があったので、この休息の時間を使ってユリウスさんにそれを尋ねる事にした。
俺は離れた場所に居るユリウスさんの元へと向かう。
「……ユリウスさん。アリアンさんって何者ですか?」
「……急になんだよ」
急に何だよって何だよ……いや、聞き方が悪いな今のは単刀直入すぎた。
俺は昨日の朝、アルマスから聴いたアリアンさんが女神であると言う話を、ユリウスさんなら何か知ってるかも知れないと思ったのだ。
気を取り直して再び話し掛ける。
「いえね……アリアンさんって女神じゃないんですか?」
どう聞くべきか迷ったが、知ってたら何かしらリアクションが有るだろうと思い直球で聞く事にした。
この問いに対してユリウスは──
「いきなり酷くないか?流石にアリアンもそこまで言う事は無いと思うぞ?」
凄く嫌そうな顔で答える……あれ?意外な反応。
……あ、そうか!この世界の女神って一般的にはかなりマイナスなイメージなんだっけ?
アルマスが良い風に言うもんだから悪気なく聞いてしまった。
思いっきりしくじったなこれは。
「流石に言いすぎたかも知れません。ちょっと鬱憤が溜まってたみたいです」
俺もユリウスさんから女神の事は聞いていたので、女神が嫌われてるとは知らなかったと誤魔化す事は難しいと思い、ここは素直に謝る事にした。
「俺は良いけど、本当に女神を毛嫌いしてる人間も居るから、無闇に女神の名は出さない方が良いぞ?俺もアリアンも互いに女神の話題を出す事なんて無いからな」
「了解ですっ!この度は大変申し訳ございませんでしたっ!」
「……どんなキャラだよそれ」
ユリウスさんが変な目で見てくるが、この視線にも最近慣れてきたし最早何とも思わない。
俺はそのまま穂花ちゃんが昼寝している場所へと引き返した。
──しかし参ったな。
アリアンさんが女神かどうかの話、もしかしたらユリウスさんが知ってるかもと思ったが、どうやら女神の話題は藪蛇の様だ。
つまりアリアンさんはユリウスさんに自身の正体を隠してる事になる。
そしてアリアンさん本人にも聞きづらくなった。
『貴女は女神ですか?』とアリアンさんに尋ねて、もし違ってたりしたら、その場で斬り殺されるだろう。
あの人には人斬りを平然とやってのける狂気がある。(※孝志の偏見)
それに面倒くさい事も一つわかった。
俺のステータスカードにはティファレトの加護がもろに記載されているので、これからは誰にも見せない様に気を付けなくてはいけなくなった事だ。
人格者のユリウスさんですらあの反応なんだから、下手なヤツに見られると危ない事になるかもしれない。
──そして考え事をしながら歩き、穂花ちゃんの元へ辿り着いたタイミングで、それは起こった。
ユリウスさんが突然、俺と穂花ちゃんの前に超スピードでやって来ると庇う様な体勢を取る……それも殺気立ち、剣を手に掛けた状態でだ。
そんなユリウスさんを見て、俺は瞬時に敵が来たのだと認識し、激しく揺らして穂花ちゃんを起こす。
穂花ちゃんが目を覚ましたのを確認したので、それからユリウスさんの向いた視線の先を見る……そこには一人の女が立っていた。
褐色の肌で耳のとんがっている特徴が、事前に聞いていたダークエルフという種族と一致するので、それで間違いないだろう。
銀の長髪で後ろ髪はポニーテールで結んでいる女性だ。
彼女は剣を抜いてこちらを睨んでいるので、敵なのはまず間違いない。
「なんか急に現れたな……オーティスッ!ブローノ王子を守ってくれ!」
ユリウスさんは、目の前に突然現れた敵にも臨機応変に対応し、ブローノ王子の近くに居たオーティスさんにも的確な指示を送る。
「了解だ……友よ……」
オーティスさんは中二モード全開の仕草を取った後、ブローノ王子の前に立つ。
穂花ちゃんも状況を理解したようで真剣な面持ちでダークエルフを警戒する。
ダークエルフとの距離はおよそ100メートルと言った所だ。
かなり距離があるのだが、昨日の戦いっぷりを見る限り、ユリウスさんなら一瞬で縮める事が出来るだろう。
俺たちの背後には日陰代わりにしていた大きな岩石が有るが、ダークエルフとユリウスさんの間にはなんの障害物もないので尚更だろう。
───そして戦いの幕は静かに切って落とされた。
ユリウスさんがダークエルフへと踏み込む。
常識を遥かに逸脱した速さで、一瞬にして相手の懐に潜り込んだ。
そのまま斬りつけようとしたが……その瞬間、目の前に居た女が消えた。
ユリウスさんも踏み込んだ足は止まらず、誰も居ない空間を斬りつける。
空振りに終わったが、まるで次元でも切り裂いてしまいそうな鋭い斬撃。
斬りつけた後でユリウスさんは消えたダークエルフを見つける為、周囲を探すように見渡し、俺と穂花ちゃんも同じ様な動きをする。
……いったい何処へ消えたのか?俺が一瞬、そう思った時だった──
【後ろから剣の振り下ろし!前に飛べ!】
脳内に危険を知らせる、あの音声が鳴り響いた。
俺は考えるよりも早くこの声の指示に従って前へ転がった。
そして姿勢を整えて振り返ると、俺が居た場所に剣を突き立てるダークエルフの女の姿があった。
……あっぶねー、マジで死ぬとこだったし。危険察知にまた助けられたぜ。
だが、俺に躱されたにも関わらず、ダークエルフの女はニヤリとした表情を浮かべている。
「やはりこれでは仕留めきれないか……だがザイスを倒した勇者に、こんな不意打ちが通用するとは最初から思ってない!」
彼女はそう言うと俺に掌を翳してきた。
割と近くに穂花ちゃんも居るが、あの子には目もくれず、端からターゲットは俺のみであるかの様な立ち振る舞い。
そして手を向けられた俺も、その構えが只事では無いと感じ取り身構えた。
遠くからは凄まじいスピードでユリウスさんがやって来ているのだが──女の方が早かった。
「禁呪!ロスト・シフトッ!」
女がそう叫ぶと俺に向けていた掌が光り輝き、俺と発動したダークエルフをその光が包み込んだ。
「た、孝志さんっっ!!」
穂花ちゃんが俺の名を大声で叫びながら手を伸ばす。
ユリウスさんも必死で向かって来ているが間に合いそうにない。
そして、俺は術の影響で意識が朦朧として行くが、この光に包まれる感覚にある事を思い出すのだった。
この世界へ召喚された時と同じだなこれは……
そう思った所で、俺の意識は完全に途絶えてしまうのだった──
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