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5章 明かされる真実と『狂』の襲撃者
幕間 〜最初の標的〜
しおりを挟む本日、6話同時投稿です。
6話目です。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
~フェイルノート視点~
弘子達が観えなくなったのを確認したフェイルノートは、岩の隙間に上手いこと隠れていたある人物に声を掛けた。
「……ふぅ~、情けないのうウィンター」
声を掛けられた人物は少年。名前はウインターと言う。
彼は魔族であるが、アッシュと同様で人に近い容姿をしている種類の魔族。
そしてフェイルノートは思う。あれほどの強者達を相手に良く隠れきる事が出来たものだな、と。
因みに、先程はここに隠れているウインターに声をかけようと岩場に近付いた所、アリアンに奇襲されたのだった。
物陰から顔を出した魔族の少年は、フェイルノートに掛けられた言葉に怯えながら反応する。
「あ、貴女って、そんなに凄かったのですか?」
フェイルノートは、こんな情けない奴がよくこんな最奥地に辿り着けたものだと感心しながら、ゆっくりと岩陰から出てきたウィンターを見る。
「はぁ~……力も知らずに妾の封印を解いたのか?……全く、どうしようも無い奴じゃ」
呆れ顔で罵られるウィンター……しかし、それに怒りを覚える事はない。
ただただ目の前の存在に恐れを抱くだけだった。
「あ、あの、こ、この結界から一生出られないと言ってましたが……本当でしょうか?」
ウィンターは恐る恐る尋ねた。
先ほどの会話を彼は全て聴いていたので、もしや本当にこのまま洞窟内に閉じ込められるのではと不安を抱く。
だが、そんな不安はフェイルノートの言葉によって解消された。
「ん?そんな筈なかろう!彼奴はこの結界に絶対的な自信を持っていた様じゃが、妾を一生涯拘束など出来る筈もない!……それにこのタイプの結界魔法は【あちらの世界】で何度も味わって来たからな──ま、その中でも上等な結界じゃから、これ破るのには時間が掛かりそうで少々面倒じゃがな」
「そうでしたか。僕は透明な壁を創り出す魔法なんて初めて見ましたけど……あーでも良かった~!」
ほっとしたウィンターは安心のあまり腰を抜かしてヘナヘナと地面にしゃがみ込んでしまった。
その光景を見てフェイルノートは改めて呆れ顔をする。
「お主にはもうちょっと男気を見せて欲しいのじゃ………わぁっ!」
「ひ、ヒィーッ!」
「ククク……そんな怯えんでも、取って食ったりせんわ」
軽いイタズラにも本気で怯えるウインター。
フェイルノートは目の前の少年に心底怖れられてるのを感じており、その事を内心残念に思う。
正直言って長いこと眠っている間に世界を滅ぼす欲求は薄れてしまい、今のフェイルノートは案外世界にとって無害な存在だった。
だが、封印を解かれた直後、解いた張本人であるウインターに言われた言葉が彼女を突き動かした。
『──この腐った世界を壊したいです……邪神様!』
妾は願いを叶える宝か!
それに邪神と名付けたり、悪魔と名付けたり、面倒じゃの人間は……しかし──
──他にしたい事も無かった妾はこやつの願いを聞き届ける事にした。
世界を壊す……結局はそうなるのか……まぁやり慣れてるから良いがのう。
「お主はこの世界を壊したいのだろう?……お主に何が有ったかは知らんが、それに手を貸すと約束したからには途中で裏切ったりなどせん。安心するがよい」
「わ、わかりました!邪神様!」
「フェイルノートじゃ!良い加減に覚えんかい!」
「ヒィー!!」
「………はぁ~、先が思いやられるわい」
破壊衝動が消え失せたフェイルノートに目的や特にやりたい事は無かった。
なので取り敢えず、封印を解いてくれたウインターの願いを聞き届ける事を、フェイルノートは当面の目的とする事にしている。
一度くらいは他者に仕えるのも良いじゃろう……という軽い気持ちで。
「お主に仕えると封印前とやる事が変わらん……もっと変わった事をさせてくれる主人が良かったわ」
「い、如何しましたかフェイルノート様?」
「何でも無い……して?世界を壊すプランは立てておるのか?」
ウインターはその言葉を待ってましたと言わんばかりに目を輝かせてプランを語る。
「は、はい!とりあえず、僕をいじめてた奴らや、裏切った友達に復讐したいです!」
その言葉を聞いたフェイルノートは、世界レベルとはあまりに掛け離れたしょうもないプランに思わず肩を落としてしまった。
「……あのな?違うじゃろ?世界を壊すなら、まずは勇者の排除が先じゃろ?……この時代にも居るんじゃろう?」
「勇者ですか……そういえば魔族学校で、最近人間の国で勇者が召喚されたって聞きましたけど?勇者ってそんなに重要でしょうか?」
魔族の天敵は勇者に決まっておるじゃろ!?
っと、叫びたかったフェイルノートだったが、言っても無駄だと思い止める。
ウインターの意見は聞かずに自分で何とかする事にした。
「最近か……呼ばれたばかりの奴らじゃと楽しみは期待出来そうにないわ……育つのを待つとお主の願いを叶えるのに時間が掛かるし……」
もう返答すらせずに独り言を呟くフェイルノート。
すると、呟きを聞いたウインターが彼女に話し掛けた。
「ゆ、勇者を倒すにしても、居場所なんて解りますか?も、もう王国を出たかも知れませんよ?」
最近呼び出されたなら、まだ王国に居るに決まってるのに、アホかコイツは。
まぁ罵っても仕方あるまい。質問にだけ答えるとするか。
「簡単な話じゃ。妾は勇者の居場所を索敵する能力があるからのう。何と言って封印前、彼奴ら倒しても倒しても何度も召喚されては、何度も挑んで来て鬱陶しかったから、こちらから仕掛ける為に覚えたスキルじゃ!」
それを聞いて、ウインターは更におっかなそうな顔でフェイルノートを見た。
邪神の事は魔族の間でも恐ろしい怪物だと伝わっている。
なんせ人間だけで無く、眼に映る全ての生物に襲いかかったそうだからもちろん魔族も例外では無かった。
ウインターは落ちこぼれで周りから疎まれて生きて来た。
そして去年、とうとう唯一友達だと思っていた人物の裏切りを受けて自暴自棄になり、フェイルノートの封印を解除に踏み切ったのだ。
この一年、彼はずっと封印解除の方法を調べ尽くしていた為、手順はバッチリ。
解除した直後に赤髪の騎士が現れたのには焦っていたが、それを何なく撃退するフェイルノートの姿に、より一層期待を膨らませる。
ただ、顔を合わせれば殺されるものだと思っており、封印解除直後は隠れていた訳だが、意外にもフレンドリーな態度で少し安心していた。
「では、世界征服の第一歩として、まずは勇者を殺しに行くとするかのう!……どれどれ」
フェイルノートは目を瞑りこの世界全体に索敵を掛ける。
そして数分足らずで五人の勇者のそれぞれの位置を完璧に捉える事が出来た。
「おったおった!……勇者の位置はラクスール王国に3。獣人国付近に1。そしてこの近くの城に……!!──近くの城に居るこの勇者……人間か?何かおかしな気配を感じるやつじゃ……気になるの~」
フェイルノートは、この勇者から得体の知れないものを感じ取った。
力こそは五人の中で一番微弱だが、どうにも表現し難い気配を漂わせている……その正体は何なのか?
良くわからなかったフェイルノートだが、とりあえず会って直接確かめる事に決めた。
「いよし!では結界を破壊した後は、この城へ向かうとしよう!コヤツが一番面白そうじゃ!」
それを聞いてウインターは静かに手を挙げる。
「あの~……自分に拒否権は?」
「無いのじゃ」
「そ、そうですか…」
ウィンターとしてはまずは復讐が最優先だったが、せっかく殺されずに生かして貰えているのに、下手に意見して殺されてしまっては元も子もないと、余計な事は言わない事にした。
「さぁ、この勇者はどんな戦いを見せてくれるのか……妾を楽しませてくれると嬉しいんじゃがのう!くふふっ」
口元を押さえてくつくつと笑う。
そして笑い終わったフェイルノートは、自分に視線を向けるウインターを尻目に結界の近くへ移動を開始する。
「ではこれより本格的に封印の解除に移る……ウインター、離れておれ」
「は、はいっ!」
言われたウインターは速攻でその場を後にする。
それを見てフェイルノートは話が速くて助かると思うが、大の男が情けないとも思う。
とにかく複雑な心境だった。
──ウインターが充分に離れたのを確認し、フェイルノートは両手を翳す。
そしてその突き出した両手から、結界の一箇所に向けて魔力による光線を放ち始めた。
膨大な魔力量の光線だがフェイルノートはこれを結界の一箇所に浴びせ続ける事で、その箇所に穴を開け、そこから抜けだすつもりでいる。
かなりの力技だが、この豪快で破壊的な行動こそが邪神・悪魔と呼ばれる由縁でもあった。
「……すげぇー」
ウインターはその魔力の光線を見て思わず驚きの声を上げてしまう。
高位に存在する魔族でも、こんな威力の魔力光線を放つ事など出来ない……しかもそれを長時間放ち続けるなんて……
ウインターは本当にフェイルノートが規格外な存在なんだと改めて思うのだった。
「退屈じゃろうが、1時間程じっとしておれよ!?近付き過ぎると巻き添えを食らうからのー!」
「わ、わかりましたーー!」
そう言って再び岩陰に隠れるウインター。
フェイルノートも声を掛けた後は、再び魔法行使に集中する。今からは結界を壊すまでの間、言葉を発する事はないだろう。
──彼女が結界から抜け出した後の目的地は、現在、孝志が滞在している閉ざされた古城。
ティファレトに封印される前、彼女は自分を倒す為に繰り返し召喚された勇者と何度も戦って来たが、どれも彼女にとっては大した実力では無く退屈な相手でしか無かった。
恐らくティファレトが降臨しなければ、あのまま世界は簡単に滅ぼす事が出来ていただろう。
そんな事を考えていたせいか、結界の破壊に集中しながらフェイルノートはニヤリと笑った。
──もう良い加減、普通の勇者の相手には飽き飽きしているところじゃ…!
この普通じゃないと感じさせた異常な勇者は、妾を愉しませてくれればいいがのう。
フェイルノートはこれからの戦いを想い、胸を滾らせるのだった。
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