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6章 勇者と、魔族と、王女様
歌姫テレサ
しおりを挟む──ユリウスが自らの無責任な立ち振る舞いの末、勝手に追い詰めらて行く最中、孝志はテレサに充分癒されて城へと戻って来ていた。
そのあとは特に変わった事は無く、オーティスと今後の話を少ししてから、孝志はアレクセイに用意された部屋へと向かうのだった。
─────────
ふぅ~……今日は疲れたなぁ~……
自室へ到着した孝志は服を着替えた後、直ぐにベットへ身を投げ出した。
──時刻は夜の十時を大きく廻っていた。
今から眠ることで、本当に長かった今日という一日がようやく持って終了となる。
彼の穏やかだったこれまでの人生において、たった一日でこんなにも疲れの溜まった日は無かったことだろう。
何だかんだで命懸けの場面も数多くあった訳である……精神的な気苦労も相当な筈だ。
孝志は目を瞑って既に睡眠体制だが、ここである事が頭に思い浮かぶ。
──あっ、アルマスに一言だけでも声を掛けるべきだっただろうか……?いや、眠ってたら悪いし辞めとくか……そうだな……辞めといた方が良いな流石にそれは。
「てかもう動けないしっ!なんでこんな状態でわざわざ挨拶に行かないとダメなんだっ!ざけんじゃないよっ!」
──本当にビックリである……大声を出してまさかの独り言による逆切れだ。
言うまでもない事だが周囲には誰も居ない。
普段被害者ヅラしている孝志だが、彼自身まともじゃない者達を引き寄せるだけの事はあるようだ。
『孝志?大丈夫?急に大きい声出して』
「……!?」
え?今の聞かれてた?!
めっちゃ恥ずかしいじゃんかそれ。
突然話掛けられた驚きよりも、独り言を聞かれた恥ずかしさの方が大きかったらしい。
少しの間、恥ずかしがる孝志だが冷静に戻ると、一つの可能性が思い浮かんだ。
──いや、待てよ?
そんなことより、今の独り言が聞こえてしまうってことは……テレサ、普段から俺のことを監視してんじゃなかろうか?
………ひと思いに聞いてみるか。
「もしかして俺の会話とか盗み聞きしていたの?」
『……え!?──あっ、うん………………ごめんなさい……してました……』
「…………マジか?」
当てずっぽで聞いたのに……ちょっとショック。
ふっ……相変わらず、俺ってプライバシーを守られない男だぜっ!まぁ良いけど……テレサに限って悪気はないだろうし。
……それよりも、テレサは聞かれた事を正直に答え過ぎなんだよなぁ……う~ん……余計なお世話かも知れないけど、今のままだと悪い詐欺とかに引っ掛かりそうだし、一度注意しておくか。
「テレサ……俺は別に怒ってないよ?──それよりさ、何でもかんでも正直に話さない方が良いと思うよ?正直に話したら怒られてしまうことだってあるから、適度に嘘はつかないと……相手の為にじゃなく、自分の為にも嘘って偶になら大事だったりするよ?」
──などと、純粋なテレサに余計な事を吹き込む孝志だが、テレサはタカシキラーの称号をその身に宿す者。
念話越しに少し困った唸り声を上げたあと、今の言葉に反論するかのように孝志を威る台詞を口にした。
『──う~ん…………孝志ってば、何か勘違いしているみたいだから言うんだけど……僕ってそんな正直者ってわけじゃないよ?』
少し息を呑んだ後、テレサは話を続ける。
『僕はただね?孝志に対して嘘が言えないだけだよ?孝志に聞かれた事には何でも正直に答えたいんだ。だって、本当に……その……僕にとって何よりも大切な人だから……だから、ね?……どんな些細な事でも孝志に嘘をついてしまったら心が押し潰される位に苦しくなっちゃうんだ……え~っと……ごめんね……?──嘘が付けない僕みたいな女の子は……孝志嫌い?』
不安そうに尋ねるテレサ。
だがこの瞬間、孝志の中にあるドス黒い何かが浄化された。
「ううん!全然そんな事ないよ!全く持ってこれっぽちも嫌いじゃないよ!テレサを嫌う要素なんて皆無だよっ!──さっき言った言葉は忘れて!どうやら僕の心が汚れてただけみたい!……うん、そうだよ!よく考えたら嘘なんてダメだよねっ!間違っているのは僕の方だよテレサ!」
流石はテレサ、彼女の孝志へ対する特攻効果により、彼の心は綺麗に浄化されたのであった。
今の孝志はとっても爽やかな表情をしている。
「──あっ!そうだ!良かったら子守唄歌ってよっ!このままだと僕、興奮して眠れそうに無いからさっ!」
『ええ?!こ、子守唄……?!唐突だよ……!!──それに、なんで興奮してるの?』
「テレサが悪いんだよっ!僕を興奮させた責任とってよねっ!」
『……えぇ……流石に理不尽じゃないかなぁ?それとなんか喋り方おかしくない?僕っ子みたいになってるよ?』
「──いや、僕っ子のテレサにだけは僕っ子とか言われたくないからな」
『え?!急に元に戻った!?それと僕っ子じゃないっ』
僕っ子を指摘されて恥ずかしがるテレサ。
しかし、孝志の無茶振りは続く。
「……あ~テレサの歌声が聴きたいなぁ~」
『う~ん……確かに、僕……ゴホンッ!──私の歌は上手いってお母さん褒めてくれたけど……』
あっ、『私』って言い直した。
もしかして僕って一人称気にしてたんだろうか?
だとしたら悪い事したな……でも今の言い直し方も可愛いし、気にしないでおくか!
孝志は全く反省せず、歌の催促を続けた。
「上手いなら良いんじゃない?ぶっちゃけ別にそこまで聴きたくは無かったけど、ハードルが上がったら急に聴きたくなってきたよ?」
『…………え?なんか今のは酷くない?』
──テレサはそろそろ本気で怒っても良いだろう。
しかし、惚れ過ぎた弱み……テレサは1ミリも怒ったりせず『孝志が喜ぶなら』……と、歌う準備に取り掛係るのであった。
『わ、わかったよ。孝志がそこまで言うなら僕……あっ!私は歌うよ!歌うの上手だし!──ん、んんっ!』
テレサは軽く咳払いした後、孝志の要望に応えるため、孝志を癒すため、自信満々に歌声を披露するのだった──
「──ねんね゛~んん~~こおろ゛ぉりぃよぉ~~ころお゛ぉ~りぃ~よおぉ~♫」
「…………へぇ?」
彼女が得意げに披露した歌声を聴かされた孝志は……まだ始まったばかりだと言うのに、顔を青くした。
そう……テレサは究極の音痴だったのだ。
『尋常では無い……このまま聴き続けるとマズイ』
──そう直感的に感じとった孝志は、彼女のリサイタルを止めに入る。それも必死で。
「……あの……ちょちょちょっとテレサ待ってお願いマジで」
『ころ゛ぉ~……?──まだ途中なんだけど……?』
「いや、あの……ごめんだけど、やっぱり静かにして貰って宜しいでしょうか……?」
『え?どうして…?何でそんな……お父さんみたいな事を言って止めようとするの…?』
──お父さん、めっちゃ被害者じゃん……
でもこの歌は同情では聴いてやれない。多分、ずっと聴いてたら耳と心が壊れると思う。
こっちから歌うようにお願いしといて悪いとは思うけど、俺って普通の好青年だからそんな歌には耐えられそうにないぜ。
孝志はライブを中止させようと行動を開始した。
「あの……眠くなったんだよ。素晴らしい子守唄をありがとう。だからもう寝るね……お休みテレサ」
『……嫌だっ!』
「……え?嘘でしょ?」
思わぬ反論に孝志は目を見開く。
『僕は歌にはこだわりがあるんだっ!だから途中で辞めるなんて出来ないよ!やだやだ歌うもん!』
いやその歌唱力だと、そのこだわり捨てた方が良いんじゃない?だってヘタクソだもん病的に。
流石に本人の前では言えないけども。
「その……寝かせて?ね?」
『いやっ!最後まで歌うのっ!孝志が歌わせたんだからね!この曲だけでも最後まで聴いてっ!』
「…………ゔぇ……わ、わかったよ……」
──その後、テレサは一曲を最後まで歌いきる。
本人はアンコールしたそうにウズウズしていたが、当然、孝志はその申し出を丁重に断るのであった。
──テレサの呪いに究極耐性のある孝志でも、彼女の歌声から発せられる呪いに対して耐性は無かったようだ。
床に着いた後も、彼女の歌声がまだ耳に残っていたらしく、孝志はしばらくうなされた。
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