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6章 勇者と、魔族と、王女様
ネリーの『危険察知』
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~ネリー視点~
「…………ふふ」
ネリーはマリアが寝静りしばらくして部屋を出た。
そして今はその部屋の扉を背に立ち尽くしながら、不気味に思い出し笑いをしている。若干きしょい。
立ち尽くす理由は、これからどの様に行動して行けば良いのか考えているのと、さっきまでのマリアの行動を思い返して居るからだ。
「──ずっと手を握って欲しいだなんて…………あ、あの子ってば……もぉっ!!」
ネリーはさっきまで可愛く甘えてきた妹の姿を思い出し、顔を真っ赤にしながら一人で勝手に悶えている。
すぐ側にはぐっすり眠っているマリアが居るので、静かにした方が良いと思うが、そういった方面には全く頭が回らない……流石は暴姫の通り名を持つ王女だけの事はある。
──それでも、しばらしてネリーは扉の前から動き出す。
今はマリアの軟禁されていた部屋から随分離れた廊下を歩いてる最中だ。
だが歩きながらも思い浮かぶのは先程までの可愛らしいマリアの姿と、数日前に自らが告白した孝志の事ばかり。
迷惑そうに内心で文句を吐いて居ても、二人を想う度、自然とマリアの顔には誤魔化しようのない笑みが溢れるのだった。
「──松本孝志……!い、いつ帰って来ないのかしら……?ま、まさか私のこと忘れてるでしょうね……?──って、どうでも良くないですわ!あんな殿方っ!!」
(※言語が逆転してます)
こんな事を口にしながら、ネリーは王宮内の廊下を歩いている。
「マリア……あの子の手、あんなに大きかったかしら?……いえ、随分長いこと触れてないから、気付かないのも無理ないですわね……可愛いかったわ───はッ!?──いや、ぜ、全然可愛くなんてなくってよっ!?」
こんな事を口にしながら、ネリーは王宮内の廊下を歩き続けている。
「そ、それに、あ、あの孝志と言う勇者の部屋から奪い取ったTシャツ……どうしましょう……やっぱり勝手に持ち出したらマズイわよね?それに、昨日はシャツの匂いを嗅いじゃったけど……って、なにをしてましたの昨日の私はッ!?どうかしてましたわ!」
こんな事を口にしながら、ネリーは王宮内の廊下をまだ歩き続けている。
それと、匂いを嗅ぐ行動を恥ずかしいと感じる辺り、穂花に言わせればまだまだである。
──まだまだと言うか、コレが普通だ……いや、これでも充分におかしい。
こんな風にぐだぐだと文句を垂れながらも、かつてない程上機嫌に廊下を進んで行くネリー。
……しかし、そんな嬉々とした彼女の気分を台無しにする人物が、廊下の反対側から此方へ向かって来る姿がネリーの目に映し出された。
その者と距離は徐々に縮まり、彼女が目前に迫った所でネリーは身構える。
──その人物とは、ある理由からネリーが王国内で最も嫌う様になった人物──第三王女シャルロッテ・ラクスール。
彼女はヴァルキュリエ隊のモニクを一人、従者として引き連れネリーの前に姿を現した。
シャルロッテと出会したネリーは嫌そうな顔をしているが、シャルロッテに付き従うモニクの方も何とも言い難い表情で第三王女の後ろに付き従っている。
──そんなシャルロッテは、ネリーの姿に気が付くとパタパタと足音を立てると同時に、嬉しそうな笑みを浮かべて彼女の下へ駆け寄った。
「──あっ!おはようございます!ねりーおねぇさま!」
「…………ええ……おはよう、シャルロッテ」
ネリーは当たり障りの無い返答を返す。
シャルロッテの側に居たモニクは、ネリーへ深々と一礼した後、一歩後ろへと下がった。
彼女にしてみれば、仲の悪い姉妹の与太話になど関わりたくはないのだろう。
そんなモニクを余所に、二人は会話を続けてゆく。
「おねぇさま、わたくしはいまから、マリアおねぇさまのもとへむかいます。おねぇさまもいっしょにいかがで──?」
「遠慮するわ」
シャルロッテが台詞を言い終わらぬ内に、ネリーは食い気味で申し出に断りを入れた。
「そ、そうですか」
ネリーに即答で拒絶された事で悲しそうに表情を沈めるシャルロッテ。
──だがネリーには、このシャルロッテの姿が『演技』としか思えない……
何故なら──
【危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険!!!!!!!!】
──シャルロッテと対峙すると、決まって激しい『危険察知』による警告音が鳴り響くのだ。
あまりのプレッシャーに、ネリーは思わず生唾を飲む。
もはや何度聴いたか判らない音声だが、聴き慣れるなんて事は無い。非常に不愉快な感覚がネリーを襲う。
危険察知の警告音は対象の危険度が高ければ激しい警報音として鳴り響いてしまう。
そして警告音が、これ程の音量で激しく脳内に鳴り響くのは、ネリーにとってこのシャルロッテだけだ。
……なのでシャルロッテという幼女は恐怖を押し付けて来る存在でしかない。
『(わかったから静かになさい)』
ネリーは心の中で念じ、この警告音を止めさせる。
そしていま一度シャルロッテの方を観ると、少女は自分へ対し無垢な笑顔を振りまいている……が、その姿を見て更にネリーの恐怖心は増長してゆく。
危険察知が発動している以上シャルロッテの態度、口調、仕草など、全てがあざとい芝居にしか見えないからだ。
──ネリーがこの能力を手にしたのは数年前。
危険察知を覚えてから、まだ数日程しか経っていない孝志と違い、何年も前からスキルを身に付けているネリーは、この能力を使い熟している。
発動した警告音声を止めさせる事はもちろん、孝志には直前で身に降り掛かる危険しか予測出来ないが、ネリーは相手の内に秘めた危険性をも見抜く事が出来る。
ネリーの高レベルな危険察知は相手の戦闘力、性格、人間性などを自動で探り、危険だと判断した相手を警報音でスキルが知らせてくれる。
流石に、その者が将来的に自身へ対して害を及ぼすのかまでは判らないが、充分桁外れに有能なスキルと言えるだろう。
ただ、危険察知のスキルが希少なのと、ネリー本人が詳しい詳細を語らないので、このスキルの有能さはあまり知られてないらしいが……
また、シャルロッテだけでは無く、この王国だけでもネリーの危険察知が発動する人物は三人ほど存在している。
まず、一人目が女神であるシーラ。
彼女は女神であり絶大な潜在能力を秘めているのと同時に、王国に対してもあまり良い感情を抱いて居ない。
なので顔を合わせるとスキルの警告が鳴る。
もちろん、彼女が女神である事実をネリーは知らない為、ネリーにして見ればシーラは気味の悪い少女。
二人目が国王ゼクス。
彼はユリウスや六神剣を使って裏で暗躍している。
何を行なっているのかまでは判らないが、良くない事で有るのは確かなようで顔を合わせると警告が鳴るのだ。
また、危険察知が発動してしまうという事実こそ、ネリーが父を恐れる理由でもあった。
そして最後の三人目が、アリアンだ。
──ただ、この三人の場合は、どの様に対応すれば大丈夫なのかスキルが教えてくれる。
例えば──
シーラなら彼女に危害を加えないこと。
国王なら余計な詮索を行わないこと。
アリアンなら、彼女の前でユリウスを悪く言わないこと、嘘は付かないこと、裏切らないこと。
それらの注意点をネリーのスキルは教えてくれる。
なので乱暴で横暴なネリーも、この三人相手には余計な鉄を踏まずにこれまでやり過ごす事が出来た。
──だがシャルロッテの場合は少し違う。
この幼女が相手の時には、本来与えられるはずの危険回避手段が一切示されない。
唯一判るのが、彼女が危険な存在であると言う事実のみ。
だからこそネリーは、この得体の知れない幼女に大きな恐怖心を抱いて居るのだ。
「それじゃ……私は急いでいるから、もう行くわね?」
早々に話を切り上げたネリーは、急いでシャルロッテの横を通り過ぎようと前へ歩き出した。
──すると、シャルロッテは寂しそうな表情で、このまま通り過ぎて行こうとするネリーを見上げた。
「……あぅ……おねぇさまはシャルロッテのことが、おきらいですか?」
「…………ッ!」
ネリーとしては、まさかこんな返しが来るとは思っても無かった。
なので少し動揺するも、結局その問いには何も答えず、そのままシャルロッテの横を通り過ぎた。
第三者から見れば、ネリーの行動は幼い妹を無視している……冷酷な姉にしか見えないだろう。
だが実際は、何処に危険が潜んでいるか分からない相手だから、やむ終えず無視しているに過ぎない。
マリアやブローノを相手にする時は、ツンケンした態度で接するネリーだが、シャルロッテへは絶対にそんな事できない。無視してやり過ごすだけだ。
──悪いわね、マリア。貴女やブローノなら良い。
これまでの行いを悔い改めて、どうしても仲良くしたいと言うのであれば、私は寛大だからこれからは仲良くしてやらない事もないわ。
でもね?シャルロッテとだけは、どうしても仲良くなれそうに無いわよ……?
だって──
──本当に怖いんですもの。
ネリーは内心震えながら歩くスピードを速めた。
シャルロッテから自身の姿が観えない位置まで移動したネリーは、歩きながらも安心感で大きく息を吐いて気を緩める。
その所為で長過ぎるスカートの裾に足が引っ掛かり、盛大に頭から転けてしまうのだった。
あまりの赤っ恥に、ネリーは恥辱からしばらく起き上がる事が出来なかったという。
そして非常に残念な事だが、この醜態を目撃した者は一人も居なかったらしい。
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