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6章 勇者と、魔族と、王女様
運が良いのか?悪いのか?
しおりを挟むわたくしこと松本孝志は現在、王女と元魔王軍幹部、そして綺麗なメイドさんを引き連れ王宮内を移動していてる。
目的地は勇者二人が戦闘を行っているとこ。
アルベルトの特殊能力により、その二人が何処で戦闘して居るのかハッキリ解るらしい。すげぇ奴だぜ。
でもイケメンに変身してることは許さないからな?
──そして王宮を歩いて感じた事がある。
意識してみると、内装の造りなんかおばあちゃんの城と殆ど一緒だった。
違いと言えばレッドカーペットを敷いてるか、御偉いさんの肖像画を飾ってる位か?
完璧におんなじ人が設計してるな。
しかしよくよく考えれば俺って凄い男かも。
なんせ二つの城を行き来しているのだから。
聞けばおばあちゃん一生涯贅沢して遊べるだけの財産があるみたいだし?
ハハハハ!!俺って成金じゃないか、自然と笑いも漏れてしまうね!!
……機嫌良くしてるのに、呆れ顔で俺を観てくるマリア王女まじでなんなのよ?
「なにガン飛ばしてんすか?」
「……ごめんなさい、にやけててキモかったから」
え?今時の王女はこんな酷いこと平気で言うの?
俺、キモいって言われんのがどんな悪口よりも一番にダメージ受けるんだけど……
「ッッ!?き、キモくないっ!!……なぁアルベルト、俺ってちっともキモくないよな!?」
聞かれたアルベルトは笑顔で頷いた。
「もちろんで有ります孝志様。貴方は凛々しく、知的で、生物を卓越した素晴らしいお方ですっ!!ユー・ア・レジェンドッッ!!」
「…………アイアム・レジェンド?」
「イエス!!」
──やったぜッッ!!
「だそうですよ、マリア王女……ふふふ、はははは」
俺が高笑いしながら胸を張って言い放つも、マリア王女は心底冷めた目で観てくる。
「……いや頭おかしいでしょ貴方達」
「なんだとっ!小娘がっ!」
言われたアルベルトが怒ってる。
俺とマリア王女は友人同士だと話してあるので、彼女が俺に失礼な発言をしても『友人同士の会話』と認識し、アルベルトは主人へ無礼だと怒ったりしない。
そこら辺の空気もしっかり読める男だ……イケメンに変身したのは許さないけど。
それでも自分へ対する頭おかしい発言は許せなかったらしく、かなり怒っている様子。
王女なんだから魔族を怒らせるような事言うなし……アルベルトと違って空気の読めない女だな。
……今分かったけど、この世界ってあれだろ?
実は人間より魔族の方がまともだろ、絶対。
「ちょっ、まぁ、待てアルベルト、喧嘩すんなし……」
「イエス、マイロード」
「ッ!──いいねアルベルト今の感じ……でも中二っぽいから普段はあんま言わないでくれ」
「中二……?よくわかりませんが、主人がそう仰るのなら了解しました」
しかも素直。うん完璧だな。
──でもそう考えたらアルベルトって、な、ぜ、か、俺への忠誠心が異常に高い訳だから、何か聞いても喜ばせる言葉しか返ってこないよな……
よしっ!じゃあアッシュにも聞いてみるか!
「アッシュはどう思う?」
「あぁん?突然なんだよぉ?」
「いや、俺の事どう思う?マリア王女はキモいって言ってたけど、おれ別にキモくないよな?」
「……いや普通にきめぇ時あるぞ?」
「……おふ」
「ふふふ、残念だったわね?」
「くっ!これで勝ったと思うなよ!?」
「はん!三下の捨て台詞ね!」
「…………ぐぎぎぎっ」
めっちゃ煽ってくるんだけど?何なのマジで?
腹立つわ……俺のバックには魔王とかオカマとかおばあちゃんとかアルマスとか居るんだぞ?
馬鹿にされたこと全部チクるぞ?四人とも俺以外には怖いからどうなっても知らんぞ?
──由緒正しい王家の第二王女で、天才的な頭脳と見目麗しい容姿を兼ね備えたマリア。
そんな素晴らしき彼女は孝志とアホなやり取りを繰り広げている。
こんなやり取りだが……実は無意識にマリアとの殺伐とした言い合いを孝志は気に入っていた。
──アルマスも居なく、穂花とも仲良くなってなかった、この世界に来たばかりだった最初の頃。
孝志が一人で居る時、マリアはブローノを紹介するなどして孝志のことを気に掛けていた。
確かに、孝志にとって一人は気楽ではあったけど、やっぱり寂しい気持ちが少しはあった。
だからこそあの時、彼女にして貰った気遣いが非常に嬉しかったのだ。
マリア以外だと、ダイアナとユリウスの存在も孝志にとっては有り難いものだった。
結局ユリウスには裏切られてしまったが、マリアやダイアナ達に優しくして貰った恩を孝志は今でも忘れてない。
孝志にとってマリアは気安く話せる存在であると同時に『恩人』なのである。
心の中ではいろいろ腹黒王女とか言ってるが、それはただのツンデレだ。
──そんな相手でもキモいと言われたら落ち込む。
加えてアッシュにまで裏切られた。
ショックを受けた孝志がとぼとぼ歩いてると、戦闘メイド、ライラが孝志に声を掛ける。
「──あの……勇者松本様、いきなり失礼ですが、一つ聞きたい事があります……宜しいですか?」
「……?はい、大丈夫ですよ」
顔を上げると、とても綺麗なメイドさんだった。
──そしてぱっと見てまともな人だと分かった。
何故なら、俺はこの世界に来てから色んな苦労や、辛い出来事に災まれてきたのだ。
死ぬような目にも沢山会ってきたし、ユリウスさんの裏切りやアリアンさんのDV……本当に酷い目にばかり会ってきた。
けど、悪い事ばかりじゃない。
俺はテレサと出会う事が出来た。
行方不明のおばあちゃんとも出会えた。
アルマスのように、俺を命懸けで守ってくれる人が居る。
それにアレクセイさんやアッシュのように、魔族なのに俺を信じて着いて来てくれる人達もいる。
全員性格に難ありだが……
ともかく、色んな人との出会いが俺を急激に成長させ、こうして強くしてくれたんだ。
そして出会いの中で、俺は相手の本質を見抜く力をいつの間にか身に付ける事が出来た。
だからこそ、彼女を……このライラというメイドさんを、一目観てまともな人だと確信できた。
間違いない、ライラさんは数少ないまともな女性である。
「──その勇者様……ユ、ユリウス様とはどう言った関係なのですかぁぁッ!!?」
「………………ん?」
「実は私、仲良くしている二人を観ながら如何わしい事を想像していましたッ!!勇者×剣帝、くふふ!!」
「………………」
「どっちが攻めでどっちが受けですかねぇっ!?」
……全然まともじゃなかった。
今までの出会いや成長の軌跡はなんだったんだ?
さっき熱い自分語りしちゃったんだけど……超恥ずかしいじゃん。
「……どっちかと言うと俺が攻めだ」
そして質問にはしっかり答える俺……マジウケる。
まぁ、面倒くさいから適当に答えただけなんだけど……
ただ、答えを聞いたライラさんは興奮していた。
「きゃっーー!!まさかお答え頂けるとは思ってませんでした、はい!!明日から妄想がはかどるッ!!──貴方に仕えても良いですか!!?」
こんなメイドもちろんお断り。
だが断りをいれるよりも速く、もう一人のメイドさんが話しかけて来た。
「勇者さま、あの~私からも良いっすかね?」
「…………はい、なんでしょう?」
もう一人のメイドさんはまとも…………いやもう俺にはわかんないよっ!!人を見分ける洞察力とか覚えてないよっ!!
でも二人居るのだから、どっちか片方のメイドさんはまともであって欲しい……
神様!お願いします、これから良い子にするから!
おばあちゃんにババァとか二度と言わないから!
「勇者さまは……どんな刺激的な出来事が起これば、魔族と仲間になったり転移して来たりするんすかっ!?……わたし刺激的な出来事が大好きなんすよっ!にひひ」
──祈り通じず……この世は非情なり。
「……十魔衆と戦ったり、先に転移した知り合いと会ったり、ヤバい怪物とも戦ったな」
「え゛えぇぇ~~!!そんな刺激が有ったんすかぁ!信じられないっす!素晴らしい勇者さまです!──貴方に仕えてもいいっすか!?」
期待の眼差しで見詰めるメイド二人。
しかし、俺の中で答えは既に決まっていた。
「──お断り致します」
「いえ、そこをなんとか!!」
「お、お願いするっすよ!!」
しつこい奴らだ。
でも、こんなメイド二人に気を使う必要はないな。
「無駄口を叩のはそこまでだ、ど変態メイド共がっ!良いから先を急ぐぞっ!」
『((急に態度が悪くなった!?))』
孝志は相手を知るまでは猫を被る。
まともなブローノ、ダイアナ、穂花?の前では真面目な人間になるが、異常者と判断した者に対してはそれなりの態度で接する。
孝志の態度が悪くなったということはつまり──
メイド二人はそうそうに孝志からやばいヤツ認定された事になる。
─────────
変態メイドとのやり取りを終えた直後、前方から此方へやって来る3名の人影が見えた。
そして互いが正面を向いていた為、その正体が直ぐに分かる事となる。
「マリア王女、ダイアナさんじゃないですか?」
「ええ、それに彼女の孫娘、エミリアも居るわね……もう一人は護衛の騎士かしら?ダイアナの背後に居て顔が見えないわね」
三人のうち一人はダイアナさんで、俺が心配していた人物の一人だった。
エミリアという少女にも見覚えがある。
確かヴァルキュリエ隊に行った時に、俺から声を掛けた子だったな……ダイアナさんの孫なら、まともな人間だと期待して良いかも知れない。
いや、騙されるな!!そうやって裏切られてきたじゃないか!!もう信じないからな!※軽い人間不信※
三人目はダイアナさんが影になって顔が見えないが、今が危ない状況なのでマリア王女の言う通り二人を護衛する騎士だろう。
そして俺はダイアナさんと再会出来た事が嬉しくて、つい手を振りながら三人の元へと駆け寄った。
「ダイアナさんっ!」
「孝志様!?」
「あっ!勇者さまだっ!!」
「無事で良かったです。僕もちょうど今着いた……ところで………」
「──松本ッ!?君は松本じゃないかッ!!」
「…………ぁぁ……橘くぅん……ごきげんよぅ……」
──わたくし松本孝志は、この世で最も出逢いたくなかった男と合流してしまった。
……もうお祓いしてもらおうかしら?
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