普通の勇者とハーレム勇者

リョウタ

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7章 普通の勇者とハーレム勇者

流石にそろそろ獣人国へ

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「話が逸れ過ぎだ……そろそろ本題に入ろうぜ?橘穂花も、フェイルノートとウインターも……いいな?」

話が脱線したのは俺にも原因がある……反省しないとな。
ゼクス国王から剣帝の称号を授けて貰ったんだ、言われのない誹謗中傷にいちいち反応してては面目が立たない。

もっと心を強く保たなければ……!俺はやれば出来る男なんだからな!!よっしゃ!!


「は、はひぃ~!わ、わかりましたユリウスさん…!」

「わかりましたよ、三十路童貞さん」

「解ったのじゃ三十路童貞」

「…………ぴえん」

ウインターは普通に答えてくれたのに、女性陣からは不名誉極まりない渾名で呼ばれるユリウス。

そんな彼の瞼から、一雫の涙がこぼれ落ちる。
先程の『よっしゃ!!』は一体なんだったのか?

これが悲しみの涙なのか、それとも悔し涙なのか、はたまた別の何かか……
結局、ユリウスは生涯その答えに辿り着く事が出来なかったという。


「では童貞ユリウス、なにか大事な話があるんじゃろ?泣いてないで話すがよいぞ」

「あの……童貞を剣帝っぽく言うの辞めて貰って良いですか?」

「しつこい奴じゃのう~もう諦めるのじゃ」

「いや、しつこいのはどっちだよ?!」

流石のユリウスも気に触ったのだろう。眉毛がピクリと動く。そして腰に刺していたレーヴァテインの鞘に手を乗せる。

「……あんまり調子乗ってると、アレだぞ、その、レーヴァテインで斬っちゃうぞ?」

「お?やるか?……くくく、実はのう、お主とは一度戦ってみたかったのじゃよ」

すると、フェイルノートも自らの爪を伸ばし尖らせ、戦闘態勢に入る。意外にもユリウスはそんなフェイルノートを見て不敵な笑みを浮かべている。


「……正直言うとな、俺も邪神がどれほどのモノか、一度試してみたかったんだよ。昔に比べてだいぶ落ち着いた性格になったと自負していたが──そんな事も無かったようだ。やっぱり強そうな奴を見ると、どうしても………な!」

台詞の語尾を強めると、ユリウスはレーヴァテインを抜いた。腐っても人間では一番強い男なのだ。本気でぶつかれば相手が邪神でも遅れをとる事はない。


「目覚めろ!レーヴァテインッッ!!」

ユリウスが名前を叫ぶと、真っ黒な剣が赤黒い長剣へと姿を変える。
その禍々しい殺気でフェイルノートへ威圧を掛けるが、魔神具レーヴァテインの性質上、圧を掛ける対象を絞ることが可能な為、穂花とウインターに精神的な被害はなかった。

──しかし、それとは関係なく、戦闘態勢の二人を穂花は冷めた目で見ていた。





「ど、どうしたのじゃ穂花よ?」

「……そ、その目はちょっとお兄さん気になるかな……なんて」

開戦を中断し穂花の方を向く剣帝と邪神。
二人が恐る恐る訪ねた疑問に対し、穂花は溜息混じりに返答する。


「いえ……大の大人が恥ずかしいなぁ……そう思いまして」

「ぼ、僕もですぅ……それにユリウスさん、話を脱線させるなって言ってましたけどぉ……戦闘するなんて究極の話脱線ですよぉ~……恥ずかしいから辞めましょうよ……」

挙げ句の果てに、弱気なウインターからも辛辣な正論をぶつけられる始末だ。
ユリウスが顔を赤くしながらレーヴァテインを鞘に仕舞うと、フェイルノートもそれに続き、爪を元の長さへと戻した。


「………もうほんとごめん」

「ちょっと久しぶりに全力で戦えると思ったからのう……反省するから二度とあんな目で見ないで欲しいのじゃ」

「反省してるみたいなので、もう良いですよ──それに私、童貞とか下品な会話はあまり好きじゃないので……それも気を付けて下さいね?」

「「「(((今更なに言ってんだコイツ)))」」」


穂花の寝言にウインターを含む三人は困惑する。


「(急にカマトトぶりやがって……!!)」

しかしユリウスは気持ちを落ち着かせ、ここからは真剣に話をする事にした。ゴホンと軽く咳払いをして言葉を発する。



「──いきなりで申し訳ない。橘穂花、これから獣人国へ一緒に来てもらいたい」

「やです」

──即答かよおい。


「そこをなんとか頼む!」

「やだって言ってるじゃないですか!何度もしつこいですよ!?」

「あ、うん。まだ二回しか言ってないよね?」

「そんなの二回も百回も同じ事ですよ!!それだから童──」
「言わせねーよっ!!?」

「……………くっ、やりますね」

「へへ……一矢報いたぜ──ってあれ?下ネタ苦手なんじゃ無かったっけ?」



「──はぁ~また脱線しとるわい」

ユリウスの下手くそな交渉を見ていたフェイルノートは思わず溜息を漏らす。因みに彼女も一緒に行く予定だ。

フェイルノートとしては面白そうだから着いて行くのであって、ユリウスの思惑など知った事では無い。
しかし、穂花が一緒に来なければ獣人国へ行く意味が無くなるのも事実だ。

なので仕方なくユリウスに協力することにした。



「穂花よ……何か行きたくない理由でもあるのか?」

「はい。魔王城に私が連れ去られたと知ったら、孝志さんが助けに来てくれるような気がするんです──それに、一度此処に残ると決めた以上、おいそれと気持ちを変えるべきでは無いと思います」

「それはどうしてじゃ?」

フェイルノートからの問いに穂花は誇らしげに答える。


「孝志さんが教えてくれたんです。いえ、実際に言葉で言われた訳では無いですけど、普段の孝志さんを見ていて、あの人の芯の強さを少しでも真似出来たらなぁ~……て」

穂花は、どうやら強い意志を持っているようだ。ただ狂気的な愛情を向けるだけでなく、孝志が絡む事になると穂花はどこまでも強い。


「だから、この城に残ります。ラクスール王国へ戻るなら話は別ですけど、それ以外なら残ります。この決断は変わりません。本当にごめんなさい、ユリウスさん」

穂花はユリウスへ深々と頭を下げる。


「……俺みたいな誘拐犯に頭を下げる必要はない。橘穂花の気持ち確かに伝わったぞ」

ユリウスは穂花を連れて行く事を半ば諦め掛けている。
ある儀式を行わなければならないから、獣人国へはブローノと穂花の二人が一緒に来てくれなければ行っても意味がない。

しかし、その為に来てもらうべき少女は鉄の意志でそれを拒んだ。そんな彼女を無理強いして連れて行けば、それだけで彼女の心を傷付ける事になりかねないだろう。

なのでユリウスは違う方法はないかと、模索しようと考えるのだが──


「あ、そういえばその孝志と言う者、獣人国へ向かうらしいぞ?」

フェイルノートがとんでもない事を言い出す。


「ぬぇ?ほんとぉですか?」

無論、フェイルノートがたった今思い付いたデマかせである。しかし、穂花の心を動かすのには、たったそれだけで充分過ぎた。


「そうじゃとも!………ユリウスがそう言っておったぞ」

「……え?」

「ユリウスさん!本当ですか!!??」

「………お、おう」

「行きますっ!行きますっ!なにぐずぐずしてるんですか!!早く行きますよっ!!」

──鉄の意志どこ行った??

だが、此処はもう乗るしかないっ!このビックウェーブ…!!来て貰えないとしんどいのは事実だからな…!!
でも後で殺されるかも知れないから……そうなる前に終わったら逃げよう。橘穂花怖すぎ。


「そ、そうですか……孝志さんに……やっと会えるんですね……ぐずっ……本当に嬉しい……」

よほど嬉しいのか、穂花は泣き出してしまった。
嘘だとバレた時も怖いが、泣いてる彼女を目の当たりにし、ユリウスとフェイルノートの良心が痛んだ。


「なぁフェイルノート……なんであんな嘘言ったの?あんなに泣いてるじゃないか……俺ほんと申し訳なくてこっちも泣きそうなんだけど……?」

「わ、妾はお主の為に言うたんじゃ!!……でも可哀想な嘘をついてしまったのじゃ……我らも反省しないといけんのぉ」

「我ら?……え、俺も悪い感じなの?」

二人は焦りと罪悪感で周囲に気を配る余裕など無かった。
だからなのだろう……ウインターの今から発する失言を止める事が出来なったようだ。


「そういえば橘穂花さん……松本孝志って、ユリウスさんがこの前見せた念写の人ですよね?」

「そうですけど……会ったこと有るんですか?」

「いえ、遠くで見てただけなので、間近で見た事はないですけど……この前変な城で見かけましたね」

「変な城……ですか」

変な城……ラクスール城でないのは確かだ。王国のど真ん中にある城を、わざわざ変な城なんて言う訳が無いのだから……故に、王国以外の城でウインターは孝志を見掛けた事になると穂花は推測する。


「それにしても羨ましい人でしたよぉ?」

「……え?何がですか?」

「だって、その念写に写ってた人──







信じられない美女と一緒に居ましたよ?」

「…………………………………………………………………………………………………………………はぁ?」

場が一瞬にして凍りついた。橘穂花の瞳の奥からハイライトが消え、人を殺せそうな殺気を放ち始める。それはユリウスとフェイルノートの背筋さえも凍らせる程のモノであった。



──………………パタンッ。

当然、そんな殺気にあてられたウインターは気を失ってしまう。


「………………(チラッ」

彼を問い詰めようと考えていた穂花は、ウインターが気絶した事で尋問する相手を変更する事にした。
その相手とは、穂花とウインターのやり取りを一部始終目撃してしまった、剣帝ユリウス・ギアードである。

因みにフェイルノートは逃げ出していた。


(あの薄情者め……!!)」

「…………ユリウスさん……今の聴いてましたよね?」

「まぁその……ちょっぴりだけ……」

ユリウスは後退りながら質問に答える。


「……特徴は?」

「え?特徴??」

「ですからその女性の特徴はっ!?ユリウスさんなら知ってますよね!?──特にその女性のおっぱいはどうでしたか!!?マリアさん並みの男を誘惑するグラマラスボディですかっ?!それとも私やネリー王女のような魅惑のスレンダーボディですかっ!?ねぇユリウスさんってばねぇっ!!」

「あの……露出の少ない服だったので、良く分からなかったですけど……多分、普通です、はい」

何故か敬語になるユリウス。穂花は目を血走せながら集中して話を聴いている。

「おっぱいの大きさが普通って事は、アリアンさんタイプのおっぱいかっ!!そんなおっぱい全然心当たりがないですよっ!!」

「なんかすいません……けど、ネリー王女は胸の発育が悪いの気にしてるので、あまりそんな風に言わないであげて?橘穂花と違ってあの子もう20歳だから、あれ以上大きくならないんだよ」

「あ、それはごめんなさい。孝志さんとおっぱいの事しか頭になくて」

「それから穂花さぁん?女性の胸をおっぱいとかストレートに言うの辞めません?」

「ユリウスさん、いい歳してなにカマトトぶってるんですか?胸はおっぱいなんだから結局はおっぱいでしょ?」

「哲学かな?」

──哲学とかまた意味わかんない事言ってますねこのオジサン。それにどうしよう……これまで孝志さんには女性の影なんて無かったのに、私と別れて数日の間に何があったんだろう?私が目を離した隙になんて卑怯なんでしょうかその女の人。この世界に来てからずっと孝志さんにくっ付いて居ればこんな事にはならなかったのにやっぱりユリウスさんの所為だ、誘拐なんてしなければ今でも孝志さんとずっと一緒にいられたのに。どう落とし前付けてくれるんだろうこのオジサン死ね。

……いや、こんな所で悩んでも仕方ないですっ!もう一刻の猶予もないですからっ!孝志さんが毒牙に掛かる前に、なんとしても孝志さんの下へ向かわなければ──!!



「本当に早く行きましょう!!放っておくとまずいです……!手遅れになる前にさぁ行きましょう!!」

「お、おう。じゃあ行こうか」


──その後、友達が出来て上機嫌なブローノと合流し、ユリウス、穂花、ブローノ、フェイルノート、ウインター…………それと、何故かネネコとルナリアを含んだ7名で獣人国へ向かうのであった。


しかし、向かう先に孝志は居ない。



──果たしてユリウスは大丈夫なのであろうか?
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