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7章 普通の勇者とハーレム勇者
目覚める女神
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~シーラ(ティファレト)視点~
「かなり傷を負ってましたけど、元気になって良かったです」
「……まさか弘子に助けて貰う時が来るなんて……ありがとう」
女神ティファレト──現世での名はシーラ。
彼女は産まれて直ぐに死ぬ運命だった赤子へ取り憑き、人間として現世を生きている。
故にシーラとしての両親と姉が居て、騎士団入隊前はその家族と一緒に暮らして居た。
仮に死んでも女神ティファレトとして再構築されるだけだが、そうなってしまうと両親や姉が悲しむ事となる。
それだけではない……騎士団の皆んなともお別れだ。
ティファレトは人を嫌っている。
それは人間が自分の事を嫌ってるからだ。
騎士団の少女達も例外ではなく、仲間に悪口を言われて何度凹まされて来たか事か……
ただ、それでも一緒に過ごす内に情が芽生えて護りたい存在の一つになってしまっていた。
シーラが死ねば少女達はきっと泣く……だから命を繋げられた事に女神はホッと溜息を吐いた。
「礼なら孝志ちゃんに言って下さい。あの子がティファレト様を見つけてなければ、間に合わなかったかも知れませんので」
「孝志ちゃん……ああ、貴女の孫ね」
そう言えば、弘子の孫に会えたのが嬉しくてつい加護を渡しちゃったんだけど……上手く活用してるのかしら?
別名【格上殺し】とも言われるティファレトの加護……スキル所有者が器用な程に効果が発揮されるのだけれど……彼は器用そうだし、いい感じに使ってくれるわね。
「そうですよ。それにお姫様抱っこされてましたああ羨ましい羨ましい」
「えっ!?お姫様抱っこ!?」
だ、だだ男性にお姫様抱っこだなんて……意識が無かったとはいえ、知ってしまうとドキドキして来たわね。
お、重くなかったかしら……?
今は世を忍ぶ仮の姿だから軽いとは思うけど……あの子って仲が良い弘子にそっくりだから、ちょっと好みのタイプなのよね。
うん、そう思うと悪い気はしないわ……意識がある時にまた抱いて貰おうかしら?
「……にへぇ~」
「もしかしてウチの孫で妄想してます?いくら敬愛するティファレト様でも許せない事ってあるんですけどねぇ?」
「……良いじゃない!ちょっとくらい妄想したって!男の人に抱き抱えられるの初めてだったのよ!?シーラとしてのお父さんはそういう愛情表現するタイプじゃなかったし!」
「………私だって……まだ……くう~……」
──ドンッ!ドンッ!
「弘子が怖い。机をドンドンしないで病人なのよ私?」
というか、こんな弘子初めて見たわ……もしやあの子って人を惑わす悪い子かしら?
だからお姫様抱っこ……お姫様抱っこ……
「でへへぇ~」
「……止めて下さい」
「ごめんなさでへへぇ~」
「喋ってる最中にデヘデヘしないでよっ!!」
「は、はいっ!」
シーラは初めて弘子に怒鳴られる。
自分に優しかった弘子から割と本気で怒られ、意気消沈する女神……でも嬉しさを抑えられなかったんだから仕方ないと考え、反省はしていない。
──そんな場へ、ある人物が慌ただしく入って来た。
「──弘子さんっ!」
「ん?ミーシャ、もう魔力は戻ったの?」
「はい、屈辱でしたがアレクセイ師匠のお陰で………って、それどころじゃ無いんですよっ!」
元十魔衆序列十位・ミーシャ。
これでもかなりの力を有している。そんな彼女が尋常ならざる様子で訪れたのだ……部屋に居た二人も困惑の表情を浮かべる。
そしてミーシャは窓の外を指差しながら、慌てる理由を説明し始めた。
「か、囲まれてます……!!しかもその数200を超えてますよっ!!」
「え?どういうこと?!」
弘子はすぐさま窓の外を確認した。
「ほんとだ……姿は見えないけど、気配を感じる……くっ!こんな近付かれるまで気が付かないなんて……!」
それは奢り、そして油断だった。
なんせ城は結界に覆われてる……存在すら視認される事はない。故に400年ここで平和を保って来れたのだ。
……だが今は違う。
アッシュの魔神具で結界の一角を壊され、それが原因で結界は認識阻害の能力を失ってしまったのだ。
それも厄介な事に、ベルセルクで壊されたモノは修復不可能な為、一から結界を作り直さなければならない。
新しい結界が出来上がるまで3日……この襲撃は結界作成中のタイミングで行われているが、この3日を弘子は甘く考えていた。
「計画性が感じられる……因みにミーシャさん、相手の種族は解るかしら?」
「……くっ!メスガキだがアレクセイ師匠の友人だ……無下には出来ん……!!──敵の種族は人間だっ!」
「そう……え?いまメスガキって言われた?」
「言ってませんっ!──あ、それと青い十字架の刺繍がされた白服を全員が身に付けてました……アレはなんでしょうか?」
「……まずいわね」
シーラはベッドから起き上がり、弘子と同じ窓から外の様子を窺う。
ミーシャの語った外見的特徴を聞いて、とんでもない連中に包囲されてると確信したからだ。
シーラだけでなく、弘子もそれについて知っており、表情が険しいモノへと変わった。
「ティファレト様……どうやら敵は聖王国のようです」
「ええ、間違いないわ……気配を隠蔽してるけど、集中して探れば神聖なる気配を感じ取れるわ」
「……厄介な話です……でも何故、聖王国がこの城を包囲しているのでしょう?」
「…………心当たりがあるわ」
「……ティファレト様?」
それが何なのか。
弘子が尋ねようとした瞬間、シーラは弘子の上着端を握り締め、申し訳無さそうに話し出した。
「狙いは私よ」
「え?ティファレト様ですか……?」
「ええ……私を倒した怪物の話を覚えているかしら?」
「はい、金髪で筋肉質だと……」
シーラは頷き、苦虫を噛むような表情で話を続ける。
「実はそれには続きがあって……私を倒したのはその男だけど、弱った私をあそこまで痛め付けたのは聖王国の連中だったわ」
「ええ!?……本当ですか!?」
「うん。傷が癒えてから話すつもりだったんだけど……まさか此処を嗅ぎつかれるとは考えても無かった……ごめんなさい」
「いえ、ティファレト様は悪く有りません。襲って来るアイツらが悪いんですっ!」
「優しいわね……機嫌直ったかしら?」
「ううん、孝志ちゃんには近付かせないです金輪際」
「……嫌だ会うもん」
「このっ……!!──いえ、今は揉めてる場合ではありませんね。まさかアレクセイ不在を狙われるなんて……あの二人が転移した直後のタイミングだから、やっぱり狙われたのかしら?……しかし、何故ティファレト様を……?」
「聖王国の連中、私の事を女神と呼んでいたのよ」
「それって、ティファレト様の正体がバレてるって事ですよね!?」
シーラは頷く。
そして、やはり現界するべきでは無かったかも知れないと後悔の念を抱き始める。
「どうして正体を看破されたのか分からない……けど、動けなくして連れ去ろうとしたのは事実よ」
「女神様を捕らえて何がしたいのでしょう?」
「目的は解らない……でも、良からぬ事に使われるのは間違いない──でも今はこの場をどう乗り切るか……それを考えないとね」
「ええ──はぁ~……こんな事になると解っていたら、メイアとジークを獣人国へ行かせなかったのに~……」
シーラは怪我で動けず、ハルートは現在再起不能。そんな状態下で今のピンチをどうやって乗り切れば良いのかと、弘子は頭を悩ませる。
……そして話をずっと盗み聞きしていたミーシャは神妙な顔で弘子にある事を尋ねた。
「……シーラって女神なのですか?」
「…………内緒よ?」
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
~???視点~
「モルドレッド様、包囲が完了しました!」
白装束の騎士がリーダーとおぼしき男性に報告を行った。
これより包囲で逃げ場を塞ぎつつ、アッシュが空けた大穴から城内へ潜入するのだ。
この団体を束ねる男は、青髪で腰には同じ色をした剣を刺している。鎧などで武装はしておらず、軽装で動き易さを重視しているのが観て分かる。
また、この男が放つ気は凄まじく、数百人規模の団体の中で頭ひとつ抜けた実力を有していた。
──その男が号令をかける。
「では包囲部隊以外の者達は城内に突入しろ!対象以外は殺害して構わん!──まずは第一部隊……行けっ!!」
まずは先駆けとして20人規模の小隊が剣を抜き、そのまま侵攻を開始する。
しかも全員が相当な手慣れで熟練の騎士だ。
シーラを護りながらに加え、包囲されて脱出も困難な状況では、いくら弘子でもかなりの苦戦を強いられる事だろう。
「──グワァッ!!」
「ガァッ!!」
「アウチッ!!」
「──ん?」
先陣を切った者たちの悲鳴が突如として鳴り響く。
モルドレッドが其方に目を向けると、二人の魔族が姿を現した。
「──ちょっと、剣持って人ん家入るとか……礼儀がなってないっしょ!」
「うむ……騒がしいと思えば敵襲とは……物騒なり」
現れたのは元十魔衆序列七位ミイルフと序列八位サイラム。二人は騒ぎを聞き付けこの場に姿を現した。
「んじゃ、いくっきゃないっしょ!!」
「応ッ!!」
ミイルフは巨大な斧を、サイラムは刀を構えて騎士達の前に立ちはだかる。
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