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7章 普通の勇者とハーレム勇者
普通の勇者VSハーレム勇者
しおりを挟む勇者として召喚された松本孝志と橘雄星。
向こうの世界から微妙に、本当に微妙に因縁のある二人が戦闘を繰り広ようとしている──
──が、その前に……この世界に来てから両者のここまで経緯を簡単に振り返っておこう。
まず橘雄星についてだが──
──この男はこれまで特に何もして来なかった。
アリアンにこっ酷く痛めつけられて以降、一度も修練に励むことなく日々を過ごしていた。
王国への反骨心から来るサボりだが、それでもサボりはサボり、お陰で全く成長をしていない。
ポテンシャルは孝志を大幅に上回るものの、いかんせん経験値が不足している。
これは美咲にも言えることだが、隠れて弓術を鍛えていた由梨とは違い、雄星は戦闘の形すら一切知らないのだ。
──一方の松本孝志……この男は逆に引く位凄まじい成果や経験をこれまで積んで来た。
この世界に呼び出されてそれほど時間が経過してないのにも関わらず、既にカルマ、アッシュ、ザイスといった魔族最高峰の戦力・十魔衆と戦闘経験がある。
アッシュに関してはスキルモリモリの状態とはいえ、長時間凄まじい剣戟を凌いでみせた。
他にもフェイルノートとも戦い、味方側の強者達の戦いっぷりも間近で幾度も観せられている。オーティスやアルベルトなど名前を挙げればキリがない。
何よりテレサの圧倒的な強さも目の当たりし、挙げ句の果てにアリアンが師匠。
確かに、能力では雄星に大きく劣るものの、圧倒的に修羅場を潜ってきたのは文句なく孝志。
孝志本人が不本意だったとはいえ、この経験の差は雄星にとって絶望的な格差になる。
「………」
「………」
木刀を構える両者。
雄星はカルマを圧倒した時の力は、何らかの魔道具によるものだと考え、木刀のみの一騎討ちならば互いの実力はほぼ互角だと思っている。
孝志の勇者にしては低過ぎのステータスを知らないのだから無理はない。そもそも孝志を下に見た事のない雄星ならば、この場で孝志を侮るなど有り得ない。
対象に孝志は負けるはずがないという自信がある。
それは傲りではなく、実際に雄星と対峙することでそう確信するに至った。
まず、なにひとつ圧が雄星からは感じられなかった。
今まで戦って来たどんな相手と比べても、雄星は非常に脆く感じる。
ただそれは化け物クラスとばかり戦って来た所為で生じるイカれた正気じゃない感覚。
雑魚モンスターとの戦闘経験をすっ飛ばし、ボスクラスと戦い続けて来たお陰で、本来なら強い雄星を弱い部類だと錯覚しているのだ。
「──はぁっ!」
「…………」
そんな孝志の洞察になど気付きもせず、雄星は地面を踏み鳴らし孝志へと斬り掛かる。
既にスキル【ゴールドパワー】で限界を超えた力を発揮している。孝志相手に手加減などあり得ない。
爆発的に飛躍されたスピード……それにより、一瞬で孝志の懐に潜り込み、そのまま木刀で孝志に斬り掛かった。
──この戦いを見届けているギャラリーは四人。
一方的に雄星の勝利を願うミレーヌ。
孝志を応援するマリアと美咲。
両者に大きな怪我なく終わる事を祈る由梨。
観戦者に見守られながら放たれる雄星の一撃は──
「ぐぅ……!」
「………」
孝志が自らの持つ木刀の柄を、雄星の手の甲にぶつける事で止まった。
それどころか手に走ったあまりの痛みに、雄星は強く握り締めていた武器を手放してしまう。
カランと音を立てて地面に転がる木刀を雄星は慌てて拾い上げようとするが……その動きはピタッと止まった。
「ば、バカな……」
「勝負あったか?」
地面に膝を着き、武器を取ろうとした雄星の首元に、孝志の木刀が添えられている。
その行為は明確な『詰み』を表している。
つまり雄星は敗北したが故に、動きを止めたのだ。
(思ったより速かったな……でも──)
動きが単調すぎだな。
アリアンさんに比べると、繰り出す攻撃があまりにも真っ直ぐで見切るのが容易かったし、同じ感じで真正面から来るアッシュと比べても剣に鋭さとスピードがない。
何より橘の攻撃には『怖さ』を感じない。木刀を使ってるからとか以前の問題だ……何ひとつ怖くない。
流石に正面から受けるのは不可能だったけど、動きを目でちゃんと追うことが出来たお陰で、あんな風にタイミングを合わせてカウンターをキメる事ができた。
……ていうか、初めて他人の力に頼らず勝ったんだが?相手が橘なのは癪だけども……
アリアンさんとの地獄訓練の成果だな。
ステータスが全然上がらないから、本当に意味があるのかと心配だったが、こうして結果が出ると無駄な地獄では無かったと確信が持てる。
アリアンさん今迄本当にありがとう……もう訓練は卒業しても大丈夫そうですよ?
「ま、まだ終わりじゃない!」
「おっと」
落ちていた剣を掴んで再び雄星は構える。そして今度はさっき以上に神経を研ぎ澄ませ更なる力を発揮させる。
「ゴールドパワー!レベル2!」
更に身体能力を向上させるスキル。
これはまだ制御しきれてない力で、出来ることなら使いたくは無かったがどうしても負けられない戦い。
身体への負荷は大きいがここは耐えることにした。
「……ッ!!」
身体中が軋み始める。
痛みに弱い雄星だったが、孝志と名前で呼び合う関係になる為、涙目になりながらその痛みを必死で耐え忍んでいる。
かなり身体強化だ……ただ、孝志の戦う手段は何もアルマスだけではない。
【相手の能力向上により敵対者を格上と判断。スキル:ティファレトの加護を発動します】
相手の戦闘パラメーターにデバフを与える強力な加護スキル、ティファレトの加護が発動する。
「な、なんだ……身体が急激に重くなったぞ……?」
あのアッシュですら孝志とマトモに戦えるレベルにまで落とした特殊スキル。その負荷が雄星の身体に文字通り重くのし掛かる。
相当な自己強化スキルの筈なのに、さっきより動きが鈍くなってしまった雄星……むしろさっきより弱体化してしまった。
もはや彼に勝機は残されていない……だが──
「か、格上……?橘が俺より格上だと……?」
その事実に孝志は尋常じゃない程凹んでいた。
お陰で孝志の動きが鈍くなる……こちらもスキルが発動して弱体化してしまった様だ。
「か、身体よ……いう事を聞いてくれっ!!」
「た、たた、橘より格下……ひひひ、もう俺に生きる価値なし……死のうかしら……?へへへ……」
「──ふざけてるのかしら?」
マリアは呆れ顔でそう呟いた。
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