普通の勇者とハーレム勇者

リョウタ

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7章 普通の勇者とハーレム勇者

勇者同士の衝突

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──馬車から離れた薄暗い森林の中で、孝志は史上最大のピンチを迎えていた。
誰も味方の居ないたった一人の状態で橘雄星と向かい合っている現状……これをピンチと言わずして何と言うのか?

透明魔族ザイスに追い込まれたあの時とか、アッシュと戦ったあの時とか、フェイルノートと戦ったあの時とかもヤバかったが、今に比べたら気持ち的にまだマシだった。



「………松本、城から抜け出したみたいだね」

「うん……まぁ……」

『だね』みたいな語尾で語り掛けるのやめてくれ、なんか凄く鼻に付くんだよな。


「穂花も一緒と聞いたけど何処に居るんだい?」

なんかユリウスさんの所に来た事はバレてるっぽい。てことは馬車の在処とかも知られてる筈だが、それらは恐らくオーティスさんの魔法だと思う。
あの人めちゃくちゃ凄いからなぁ……ユリウスさんと違って裏切る感じもない。今回敵対してるのは俺の所為だし。

ユリウスさんが敵側にまわった時それほど怖く感じなかったけど、オーティスさんだとダンチだわ。
アリアンさんに至ってはノーコメント。


「穂花ちゃんはユリウスさんと一緒だけど?」

質問には正直に答えてやろう。


「穂花を名前で呼ぶなと忠告した筈だぞ」

そこに食い付くな……面倒くさいなもう。


「でも穂花ちゃんが良いって言ってるし」

「そういう問題じゃないんだよ──やれやれ全く……話の分からない男だ」


こっちのセリフだわ、やっぱり死ぬほど面倒くさいんだよマジで。
しかもいつもの面子はどうした?奥本は要らないけど中岸さんとは一緒に居なきゃダメだろ。


「……俺も名前で……いや、勝負に勝ってから……でも穂花は既に……クソっ!」

なにぶつぶつ言ってるんだ?
相変わらずやべぇ奴だぜ。

でもどうやって乗り切ろう……話の通じないヤツと二人っきりとかキツいんだが?


もうこの際マリア王女でも良いから助けてっ!!




「──どうして城を抜け出したのか、詳しく話して貰おうかしらぁ~?」

「……っ!!?この声はッ!?」


………そんな孝志の願いが通じたのか、この場に現れる長髪ブロンドの美しい女性。
貧相な姉と違い、中々の胸部を持つ彼女こそ第二王女マリア・ラクスール。

雄星の背後からシレッと姿を現したマリアを見て孝志は嬉しそうに駆け寄った。


「マリア王女っ!!やった!マリア王女だぁ!!」

「私に会えて、そ、そんなに嬉しいの……?」

「ううん、橘と二人っきりが嫌だっただけ」

「あっそ」

雄星に聴こえないように耳打ちしたが、その内容に対してマリアは不満そうな顔をしている。
どうやら自分に会えた事を純粋に喜んで貰えたと勘違いしたらしい。


「………ところで、この手紙は何かしらぁ?」

「え……あっ」

彼女は懐から例の手紙を取り出し、ヒラヒラとみせびらかす。内容が半分以上ふざけてた手紙だけに孝志は気まずそうに目を逸らした。


「どうして目線を逸らすの?んん?」

「お茶目な手紙ですやん、ねちっこい王女ですね」

「ねちっこく無いわよ!というか貴方!今は王国にとっての犯罪者よ!?私がなんとか頑張って指名手配は出さないで貰ったけど!帰って来てから大変よ貴方っ!?」

「ん?帰る?そう言えば手紙に書いてなかったっけ?──もう国には帰らないですよ?」

「はぁッッッ!!???」


マリアが叫び声を上げると、そのあまりの煩さに孝志は耳を塞ぐ。
その音量は、少し離れたところで魔法支援を行っているオーティスが思わず振り向く程の煩さだ。


「ひゃん」

「それやめて」

「あ、ごめん──手紙に書いてませんでした?」

「書いてなかったわよ!というか、しばらくすれば帰ってくると書かれてたわよっ!」

「あ、いや、しばらくすれば帰ってくるけど、挨拶してからその後直ぐに出て行く……みたいな感じ?」

「き、聞いてないわよ……それにどうやって外の世界で暮らしてくつもり!?」

「いや……まぁ……」

「それにふざけた文章を書く余裕があるなら、そういった事もしっかり書き記しなさいっ!!」

「……ごめんなさい」

ぐうの音も出ない……これからは書くべきことを完璧に書いた上でふざけよう。


「……城に居れば一生不便な暮らしはさせないわよ?もしそれが後ろめたいなら気にしなくても良いわ。お父様が勝手にこの世界に呼び出したのだから、なに不自由なく過ごす権利が貴方達にはある筈よ」

「そう……なんすね……」

「……?さっきから様子が変よ?」

珍しく歯切れの悪いがそれもその筈、ラクスール城を出ても弘子の城で贅沢な暮らしが孝志を待っているのだ。寧ろ堅苦しい思いをしないで済む分、弘子城で暮らす方が断然気が楽なのである。

何より、血の繋がった家族と一緒に居たいと思うのは至極当然の事だろう。

しかし、それを言えるはずがない。
400年前の勇者がおばあちゃんで、不老長寿になったお陰で生き残っており、そんな彼女の城で暮らす事にしたなんて……間違いなく正気を疑われる。
仮に橘雄星が同じことを言ったとして、孝志は絶対に信じないだろう。


「雄星様っ!」

「雄星っ!松本くんっ!」

「……あっ!たっくん……じゃなくて松本……」

そして遅れて現れるミレーヌ、由梨……そして美咲。
獣人少女ミライは別の場所に居るようだが、これで橘雄星は美女達に囲まれた事になる。

側から見れば完全にハーレムだ。
珍しく橘雄星がちゃんとしたハーレムっぽい状況になっていた──そして孝志視点だとマリア王女もハーレムの一人に見えてしまっていた。


「……見損ないましたよマリア王女。まさか橘のハーレム要員に成り下がるなんて……」

「そんな訳ないでしょッッッ!!!!」

「ひゃん」

「それやめて」

「あ、ごめん」

まぁ違うとは思ってたけど、そんなに怒らなくても良いじゃないか。
今も鼻息を荒くしながらコッチを睨んでるし。


「おいっ!松本っ!」

「どうした橘くん」

「今は俺がメインの筈だぞ?なんでマリアと楽しくお話してるんだ?」

「いや、ハーレム要因に成り下がってるから──」

「しつこいわね貴方っ!さっきから違うと言ってるでしょう!?」

「いだっ!じょ、冗談ですって……!」

思いっきり肩を叩かれた。
突発的に暴力を振るうとか、流石ネリー王女の妹なだけ有るわ。ていうか地味に痛いし。


──そんな二人を観ていた橘雄星のこめかみに青筋が浮かび始める──明らかに怒っていた。
美咲はそんな雄星など見もせず、孝志の顔色ばかりを伺っていたが、由梨とミレーヌの二人はあたふたし始める。



「……もういい松本、剣を抜け」

「はぁ?」

「た、橘雄星、別に戦わなくても説得すれば──」

「マリア、僕は説得するつもりで来たんじゃない。僕は松本と戦う為に此処へ来たんだ」

「呼び捨てめっちゃ腹立つ……」

「戦う為って、俺に対する嫌がらせ目的かよ」


どんだけ俺のこと嫌いなんだよ、流石にムカつくわ。
今まで面倒くさいだけの奴だと客観的に観ていたが、こうして実害が生じるなら受けて立とう。


「…………」

「…………」


それにコイツとは、ここいらで優劣をハッキリさせるのも悪くないな。


──孝志は魔法の道具袋の中から剣を抜いた。

これは弘子から授かったモノ。
一際輝くその剣はなかなかの技物らしく、その外見を孝志は気に入っている。

気合を入れるべき一戦に相応しい。
孝志はその剣を構え、橘雄星と対峙する。



「松本、真剣は流石に危ないから、勝負にはこの木刀を使ってくれ」

「あ、うん」



……だよね。
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