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7章 普通の勇者とハーレム勇者
幕間 〜異世界チート転移者は穂花だった件〜
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~ユリウス視点~
── 狂人共に追いかけ回されてるのは三十路童貞のユリウス(33)──そんな彼はこう思っていた。
『ただちょっと孝志をからかっただけで、どうしてこんな目に遭うんだ?流石に理不尽過ぎるだろ』と。
でもそれは仕方ない。
だって狂人なのだから……理不尽な行動を起こすからこそ狂人と呼ばれる。
ただアルマスはともかく、穂花がおかしくなるのは全て孝志関連のみ、普段の穂花は人見知りで控えめな少女。つまり孝志が全部悪い。
「此処まで来れば大丈夫か?」
初めは森林の中を駆け巡ってたユリウス。
しかし、いつの間にか抜け出しており、今は草木の生えていない荒野の岩陰に身を潜めていた。
そして、周囲に引火物がないのを良い事に──
「エンシェントボルケーノッ!!」
「うおっ」
隣の岩場が塵となる。
穂花の最上級魔法によるものだ。
その破壊力は火属性に限られるもののオーティスよりも高火力だった。
その余りの威力にユリウスは目を見開く。
勇者として呼び出された者は能力に恵まれている。
数ヶ月の鍛錬で六神剣クラスには成長する程だ……故にラクスール王国も積極的に呼び出す。
しかし、そんな中でも橘穂花の魔法の才は常軌を逸していた。
身体能力、スキル、魔力に恵まれてる勇者の中でも彼女は頭一つ抜け出た存在だと、ユリウスは追い掛けて来る少女に評価を下した。
「……初代勇者と、400年位前に魔王を単独で倒した勇者が居た。二人とも歴史に名を残すほどの強さだったと聞くが──まさか俺の代に、その二人に匹敵するレベルの勇者に出会えるとはなぁ」
ユリウスは岩場から顔を覗かせた。
真っ黒焦げの箇所には確かに大きな岩が置かれていた筈なのに見る影もなし。
穂花は座学こそ熱心に受けていたが、時間がなく実戦訓練はほとんど行っていない。
それでこの火力なのだから末恐ろしいとユリウスは心底思っていた。敵じゃなくて良かったと。
「いや、今は敵だったな」
──残念ながらそうなのである。
「……此処にも居ませんね」
学生服と少し丈の短いスカートを着た少女……孝志が制服好きなので敢えて着続けている。そして、岩場を消滅させた穂花本人は残念そうに首を振った。
それを観ていたユリウスは隙だらけの少女を目の当たりにし『やれやれ』と首をふりながら溜息を吐いた。
「──能力がずば抜けてても未熟だ。これだけ近くに居れば魔法を撃たれるよりも先に橘穂花を無力化できる。オーティスなら絶対にしない事だな」
狂人共に追い掛けられ時間が経っている。
ただ、本来であればユリウスの方が強いので簡単に押さえ込む事が出来る。
それをしないのは後で恨まれるのが怖いのと、例え狂人相手でも女性に手荒な真似はしたくないという心情から来るものだった。
「……でも、流石にそろそろ説教した方が良さそうだ。俺でなければ死んでるぞ?」
ユリウスがそんな風に考えてると、このエリアにユリウスは居ないと判断した穂花が移動しようとする。
そしてユリウスの隠れる岩場に背中を向けた。
『──今だ』
ユリウスは穂花を捕らえようと動き出す。不意打ちならば間違いなく無傷で少女を捕らえる事が出来る。
……ただ、この時のユリウスは失念していた。
本来この場にいる筈のイカレ女、華麗なる孝志狂いたるもう一匹の存在を──!
「──よしっ!」
「みぃ~つけた~」
「うぇ!!?」
距離を詰めようと踏み込んだ瞬間、背後から肩を叩かれるユリウス。振り返るとそこにはアルマスが立っていた。
アルマスも穂花も戦うべき敵ではないと考えていたユリウス……その認識の甘さが仇となる。
お陰で気配が分かり難い存在であるアルマスの接近を許してしまっていた。
「あっユリウスさん、そんな所に居たんですか」
二人の話し声に気付いた穂花も近付いて来た……こうなってしまったら多少手荒でも対処するしかない。
「すまない」
ユリウスはやむ終えず、一番怖い穂花に攻撃を仕掛ける事にした。もちろん倒すつもりはない。
瞬間移動の如く超スピードを駆使し、瞬く間に穂花の背後へと回り込み、手刀で気絶させようと目論む──だが……
「ファイヤーウォール」
「あぶねっ!」
穂花が魔法を展開する。
周囲に炎の壁を作り上げ、その獄炎はユリウスの接近を許さなかった。
──孝志がミーシャに拐われた時は動揺し、何も出来なかった。
……でも今は違う。
ユリウスが消えた瞬間、彼が接近する事を予め予測し、冷静に対処することが出来た。
ユリウスはそれも何とか躱したが、着地したタイミングをアルマスの銃口に狙い撃たれる。
「くそっ!」
「ほぉ?今のを躱しますか」
彼女から放たれる電撃銃を、ユリウスは大勢を大きく崩しながらも避け切った。
「ファイヤーランス・リミテッド!!」
次に穂花から無数の火槍が放たれる。
まさに息を吐く暇もない。
「さっきから無詠唱でバンバンと魔法を放ちやがって!火属性魔法ならオーティス以上だぜっ……!」
流石に避け切るのは無理と判断──ユリウスは腰にぶら下げていたレーヴァテインを抜き、迫り来る火槍を斬り落とした。
ずっと徒手で戦っていたユリウスが初めて得物を取り出した事で場に緊張が走る。
「行きますよ!!今日が貴方の命日ですっ!!」
「流石に恨み過ぎじゃね?」
気が付けば距離を取られてしまっていた。
魔法使いに有利な配置。
踏み込んでも届かない遠さに穂花は位置していた。
無詠唱で魔法が放てる穂花なら、ユリウスよりも速いだろう。
「…………」
剣士のユリウスには高い魔法耐性が備わっているが、穂花が放つ魔法の前では無意味であり、自力で対処しなくてはならない。
「ファイヤーランス・リミテッド!!」
先程と同じく、火槍の雨がユリウスに降り注ぐ。
数にして100以上。
そんな無数の魔法を斬り伏せながら前に進もうとするが──
「ファイヤーランス・リミテッドオーバーッ!!」
「うおっ!?」
追加で火槍の嵐が吹き荒れる。
それはファイヤーランス・リミテッドに上乗せされ、更に脅威が増す。
あまりの数に前に進む事を断念……ユリウスは後退を余儀なくされる。
魔法使い相手に一方的に押しやられるなど、オーティスが相手のとき以外で初めての経験だ。王国No.2のアンジェリカですら此処までユリウスを追い詰める事は出来なかった。
「やっぱり橘穂花はバケモンだ……!」
先程よりも更に距離が開かれる。
ユリウスは近寄るのを止めた……魔力切れを待つ事にする。アレほどの魔法なら失う魔力も相当な筈だ。
「いくぞ橘穂花────魔力の貯蔵は充分か」
──────
~10分後~
「全然魔力切れねーんだけどもっ!?もう何千発も連射してるのに!!」
「ユリウスさん、一発も当たらないなんて……」
「私、暇なんだけど?」
動き回った疲労で疲れの垣間見えるユリウスとは裏腹に、穂花は息すら上がってなかった。
常人なら一発で魔力が枯渇する最上級魔法を、穂花は湯水の如く行使し続ける。
「ねぇ暇なんだけど?」
そして暇そうなアルマス。
──穂花の使用する魔法は様々だ。
地面から火柱を発生させる魔法、広範囲の熱風、純粋な高威力の爆発魔法……全て火属性に限られてるものの、どれも最上級魔法だった。
「橘穂花!!魔力どれだけ残ってるんだっ!?」
「魔力が残ってる?減るんですか魔力って?さっきから全く減ってないんですけど?」
「いや化け物にも程があるだろ!!魔力の貯蔵量に関してはオーティス以上だぞっ!!」
「私、また何かやっちゃいました?」
「いやそう言うのいいから」
「むかっ」
──オーティス以上というのに嘘偽りはない。
ただし、これはユニークスキル【獄炎の支配者】によるもので、火属性魔法に限り、穂花は魔力消費なしで無尽蔵に放ち続ける事が可能なのだ。
(このままだとキツイな。しかし、レーヴァテインは解放すると穂花を殺してしまう………仕方ない、ここは神化を使ってひと息に勝敗を決するか)
ユリウスの長髪が少し揺れる。
どうやら覚悟を決めたようだ。
──スキル【神化】
ユリウスとアリアンにのみ使える特殊スキル。
雄星のゴールドパワーと違って、魔力や第六感をも研ぎ澄せる究極の身体強化。特に速度の上昇が凄まじく、これを使われてしまうとオーティスでも歯が立たないとか。
アリアンにはデメリットとして能力解除後は息切れを起こしてしまうが、ユリウスはこれを極めており、使用後にデメリットはない。
「──【神化・極】!!」
「え……?」
ユリウスの黒髪が銀髪へと変色する。アリアンが使用した時と同じ現象だ。そして、神化したユリウスは瞬時に穂花へと突っ込んで行く。
「あっ……ファイヤーランス・リミテッド!!」
慌てて対処を試みる穂花……しかし、迫り来る火槍を疾風の如く剣撃で立ち所に粉砕して行く。
これまでも十分に速かったが、今のユリウスの敏速は【神化】前とは比較にならない。
遂に穂花は数メートル付近までユリウスの接近を許してしまうのだった。
「ファイヤーウォール!!」
今度は身を守る炎の障壁……だがこれも、ユリウスはアッサリと斬り消した。そのあまりの剣圧に周囲には砂埃が巻き上がる。
「…………」
穂花に打つ手はもう残されていない。
至近距離まで詰められてしまったのだ。
「……(勝敗は決したがどうやって話そうか?)」
神化で思考がクリアになってるユリウス。
普段のダメ親父な感じとは異なり、しっかりとした印象が見受けられる。このまま神化状態で生涯生きて行けば良いのに。
「ユリウスさん……」
「どうした?」
俯き加減で話し掛けてくる少女。
例え凶悪でも相手は14歳の女の子だ。ユリウスは何を言われても冷静に受け答えする事に決めた。
「手合わせありがとうございましたっ!」
「ああ………ん?手合わせ?」
どういう事だ?
──気の抜けた所為でユリウスの神化が解かれる。
やばいと思い再び発動しようと試みる……しかし、暇そうなアルマスが事情を説明した。
「悪いわねユリウス。橘穂花を鍛えようと思って仕掛けたのよ。本当は私がいろいろ教えるつもりだったのだけど、どうにも私の手に負えなくて──実戦形式で貴方に鍛えて貰ってたのよ」
「………鍛える?」
「そうよ──そして思ったとおり、穂花に戦闘の経験を積ませる事ができたわ」
「……ああ~」
だからこんな荒野に追いやられたんだ……森の中だと危ないからなぁ……え?俺ってハメられたの?
「第一、私や穂花が孝志ラブ愛してる好き好きでも、ちょっと悪く言った位で殺す訳無いでしょ?」
「全くですよ!常識的に考えて下さい!」
「だよなっ!流石に驚いたぜっ!」
「「まぁ次は殺すけどな」」
「………なんでやねん」
もう悪口は言わないようにしよう。
──いや待て?
だからって何で追いかけ回されたんだよっ!?
「いやいや!鍛えて欲しいならそう言えよっ!勇者の頼みなら聞くからよっ!」
「「いやいや、ユリウスみたいな者に頭を下げるのはちょっと……」」
「………さっきから、なんで俺の悪口を言う時だけ息ぴったりなんだよ……」
腹立つな~アリアンに言い付けてやろうか?
いやでも、今は怒ってくれないだろう……多分、顔を合わせたら逆に俺がメチャクチャ怒られるな。
……それにコッチにとっても良い鍛錬になった。
オーティスとも頻繁に手合わせして来たが、穂花とオーティスとでは魔法の性質が違うから新鮮だった。
オーティスの場合は一発の威力に重きを置くタイプ、穂花は手数で勝負を決めるタイプ。
普段と違った訓練が出来て満足だ、でも──
「本当に怖かったからな?鍛えて欲しいならちゃんと前もって話してくれよな?」
「はい」
「うい」
全然心篭ってないんだが……まぁ良いけど。
──もう特に話すことも無かったので、三人は大人しく馬車に戻り始めた。そこまで距離も離れてなかったため数十分もあれば到着する。
「孝志の好きな焼肉の部位は?」
「カルビとタンとハラミ」
「ほうほう、ハラミを当てますか」
「じゃあ逆にアルマスさんに質問です。孝志さんの好きな寿司ネタは?」
「えんがわ」
「やりますね~!」
「…………」
道中、アルマスと穂花が孝話に花を咲かすも、内容がマニアック過ぎてユリウスには着いて行けなかった。
因みに焼肉と寿司自体はこの世界にも存在している。
「ユリウス」
黙って二人の話を聴いてるとアルマスが背後を歩くユリウスに声を掛けた。相手がアルマスなので剣帝おじさんはビクッと震える。
「えっ~と……アルティメット・マスターズ・スペシャルさん、どうした?」
アルマスって呼ぶとブチギレるからな……ふざけた名前だ、しかも呼び難いし。
「……穂花を鍛えてありがとう」
「お、おう」
ヤケに素直だな?
何かを企んでる……という感じでも無さそうに思う。普段冷たいやつに優しくされるの怖い。
「そして貴方も何かあったら孝志を守ってください。あの子は強大な敵に立ち向かおうとしていますから」
「……まぁ巻き込んだからな。しっかり守るさ」
「……どうも」
「ああっ」
「ただし、良い気になるなよ?」
「脳みそ大丈夫?」
孝志の奴、良くこんなのの相手が出来るぜ。
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~アルマス視点~
──きっと、私だけでは孝志を守りきれない。
最近それを痛感する出来事が立て続けに起きてる……私の不甲斐なさで、あの子を何度も危険な目に遭わせてしまっているもの。
信頼出来る人達で孝志の周りを堅めないと。
魔王テレサとアリアンが居れば安心なんだけど、テレサは呪いの所為で自由に動けないし、アリアンとは敵対してしまった。
それと、弘子とアレクセイは高齢だから無理をさせれないわ。
だから癪だけど穂花を頼る事にした。
彼女は何があっても孝志を裏切らないから……孝志を思う彼女の気持ちは本物だ。まぁだからムカツクんだけどね。
次にユリウス……精神面ではクソ頼りなくても戦力的には申し分ない。だから彼に穂花を鍛えさせれば孝志の周辺を磐石なものに出来る筈ね。
「私になにか有っても誰かに守って貰える様にね」
「アルマスさん?」
「なんでもないわよ──とっとと帰りましょう、ヤンデレ穂花、アホリウス」
(ヤンデレじゃないですし)
(誰がアホリウスやねん)
応援ありがとうございます!
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