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7章 普通の勇者とハーレム勇者
おいおい
しおりを挟むずっと騒いでた孝志、雄星、由梨。
お陰で三人は疲労困憊としていた。
今では息を切らし、肩で大きく息を吐いている。
「……はぁ……はぁ……(クソがっ)」
松本孝志はこの出来事を決して忘れやしないだろう。未来永劫恨み続ける筈だ……この世界の全てを。
「はぁ、はぁ……つ、疲れたな、孝志」
「おう!そうだな!」
──もう返事すら適当である。
あくまで心が歩み寄れたのは橘雄星視点での話……孝志からすると『まぁ思ってたよりマシかな?』程度に過ぎず、今でも雄星に対する総合評価は『まぁまぁ嫌い』なのである。
死ぬほど嫌いだった頃に比べれば飛躍した関係改善だが、それでも一緒に万歳をするなんて言語道断。
そこまで心を開いて居ない。
「今度甘いもの食べに行こうじゃないか!」
「おう!そうだな!」
気安く話し掛けるなゴミカス。
散々この俺に万歳させやがって……顔しか取り柄のないクソ野郎が──って言いたいけど言えないっ!穂花ちゃんの兄だし、何よりこの系統のヤツと揉めても碌な事にならないからな。
だからまぁコイツは良いよ、元々こういう奴だって解ってたんだから── 問題なのはこの女だっ!
「………ん?なに見てるの松本くん?」
橘の幼馴染で、アイツの取り巻きの割にまともで大和撫子だと思い込んでいた中岸由梨っ!
「もしかしてっ!私で変なこと想像してるっ!?やだエッチッ!どこ見てんのよっ!」
「おいおいおいおいおいおいおい……おいっ!そのテンションおいっ!」
「お~い?」
「お茶っ!──やかましいわっ!」
「やっぱり松本くんってイケるクチだね!」
なんだコイツは?
ずっと常識人枠と思ってたのに、まさかこんな形で裏切られるとはなぁ……しかも相当レベルの高いやべぇヤツじゃねーか。
この女、これまで本性を隠してやがったんだ……!
だって今観るからにニコニコしてるしっ、きっと今が彼女の本当の姿で間違いないっ!
これまで中岸には一目置いて来たが、そんな気はもう無いっ!超やべぇヤツ!やべぇやべぇやべぇっ!!
ああもうっどの世界にもやべぇヤツしか居ないっ!!雁字搦めじゃねーかっ!!
もう救いはテレサと穂花ちゃんだけだよ……
橘とか中岸とかと一緒に育ったのに、マトモで優しくて可愛らしい子に成長してくれたね。
穂花ちゃん、ありがとう。
テレサも居てくれてありがとう。
もうラクスール王国とか見捨ててテレサの所に行こうかしら?でも呪いが有るから穂花ちゃんと別れなきゃダメになるし、何だかんだアルマスを置いてくのも気が引けるし……こっちも雁字搦めじゃねーかっ!!
……というか、この中岸由梨とかいう女にはクレームを入れなきゃ気が済まない。今までずっと騙して来たんだ……若干の憧れを返せコラ。
「中岸さん」
「うん?どうしたの松本くん?」
「この裏切り者」
「って!なに言うてんね~んっ!」
──バシッ!
「いや違う!違うからっ!全然そういうんじゃないからっ!ツッコミが欲しかった訳じゃないからっ!」
「あはははははっ!」
──バシッ、バシッ!
え?なにコイツ?全然話が通じない?話せば話すほどヤバさが増すタイプだぞ?
ひょっとして橘と同格か……若しくはそれ以上か。とにかく、中岸由梨のやべぇヤツレベルは相当高いと見て間違いない。
それにチョップで俺の背中をさっきからバシバシ叩いて来やがるんだが?マリア王女もそうだったけど、女は直ぐに暴力を振るう……何回叩かれんのよ、俺。
「あ、その……」
「……チッ」
──そして、俺の真後ろに立ってるもう一人
「ま、松本……」
「…………」
「うぅ……私が話し掛けると無視される……」
──奥本美咲。
この女は評価する気も起きんな。
あれだけの態度を取っといて、今更何を話す事があると言うんだ。
王国から抜け出す直前は少し話をしたけど、やっぱり許そうとまでは思えない。
向こうの世界ですれ違いざまに『キモい』とか『邪魔』とか言われたことを今でも鮮明覚えている。
俺はキモがられるのが大嫌いなんだ……だってキモくないから。俺がキモいと言われてどれだけ傷付いたかコイツには分からないだろうよ。
別にキモくねーしマジで。
「ね、ねぇ」
「な、何だよ」
無視していたら腕を引っ張って来た。
文句を言おうと振り返ったが、奥本の顔を見ると涙目になっている。
「……おい、大丈夫かよ」
「……あっ」
俺弱いんだよな、こう言う感じなのに。
心の弱ってる人間に追い討ちを掛ける事がどうしても出来ない。だって優しい男だから。
「やっとコッチを見てくれた……嬉しい」
「…………ッ!?」
何その反応ッ!?
何その笑顔ッ!?
この三人マジで怖い……!!
ヤバいし、怖いし、コミニケーション取れないし……本当に出身が同じ日本かよっ?!
早く逃げないと……でも何処へ──あっ!
孝志は周囲を見渡し──そして見つけた、半笑いで此方を観察しているマリアの姿を。
孝志は全速力で彼女の下へと逃げ出した。
「マリア王女助けてっ!」
そして勢い余って彼女に抱き着いてしまう。
「きゃっ!な、なな、なんで抱き着いて来るのよっ!?」
「だってコイツら本当に怖くて……!異常者集団なんだよっ!」
「私から観れば貴方だって異常者……あっ、今度は後ろに隠れたわ。どれだけ怖がってるのよ?……それと良い加減離れなさいっ!」
「俺とマリア王女の仲じゃないか。困った時は助けてーや……な?」
「なんなのその居酒屋のおっさんみたいなノリは」
「何で王女なのに分かるんだよ」
「頭脳明晰、知性溢れた王女なんだから当たり前でしょ?ふふーん♫」
「いや関係ないから……ん?なんか臭うぞ?」
「今度はなに?」
「マリア王女から土の臭いがするんだけど……え、くさっ……ちゃんとお風呂入っ──あっ、痛っ!!」
マリアは顔を真っ赤にして孝志を殴る。
今度は結構な力を込めているが、マリアに殴られる時に関しては毎回間違いなく孝志が悪い。
「べ、別に臭くないわよ!!」
「いやだって……土の──ごめん、もう言わないから振り上げたその手を下げて」
因みに、マリアから土の臭いが漂っている理由は、オーティスが『魔物避けの小道具』をマリアに使ったからである。
ただし、至近距離に近付かなければ臭わない為、マリアに抱き着いた孝志にしか分からない。
「二度も打ちやがって……親父にも殴られたことないのに」
「ふん、随分と父親に恵まれたのね?」
「いや、父さんずっと前に死んだから」
「あ、ごめんなさい」
「いいよ、別に」
「……私もね、シャルロッテが産まれた時に母親を──」
「あの、無理に話を繋げなくていいから」
「……あっそ」
「てか誰も追い掛けて来ないぞ?」
「あら、確かにそうね?飽きたんじゃない貴方に」
「めっちゃ棘ある言い方……今の根に持ってる?」
相変わらず心の狭い女だ。
しかし橘達……もう俺に飽きたのか?
それはそれでムカつくけど……って、おっ?
更に事態をややこしくするのが来やがったぞ。
「孝志……なにやってんの?」
──アルマスである。
仲良く遊んでる様にしか見えない二人をアルマスは鬼の様な形相で睨み付ける……主にマリアを。
(私のこと凄い睨んでる……どうして?)
「おおアルマス!良いところに来たっ!一緒にこの王女絞めよーぜ!殴って来たんだ二度もっ!」
「……ソイツは後で必ず締めるとして……今はそれどころじゃないわ。大変な事態が発生しているの」
「……わかった」
(わたし、後で絞められるの?)
孝志が女とイチャイチャしてる現場を見たのに『今はそれどころじゃない』と話すアルマス。
これは尋常ではないと引き締め、孝志は真面目モードに突入した。
── そしてアルマスがある場所を指刺す。
「アレを観て」
「……え?穂花ちゃん?」
そこには橘雄星と橘穂花が居た。
ただし、その場には一触即発といった尋常ならざる雰囲気が漂っている。
「貴方が他の女とイチャイチャしてるのに、それに気付かない位あの子怒ってるわよ?」
「冷静に分析してる場合かっ!行くぞっ!」
孝志は慌てて穂花の元に向かった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
~マリア視点~
「──そんなに臭うかしら?」
マリアは服の臭いを嗅いでみた。
他人に臭いと言われたのは産まれて初めて……はしたないと分かっていても確かめずには居られなかった。
「ゔぇっ、くっさ!!」
──この道具はもう二度と使わないとマリアは心に決めるのだった。
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