根雪の証

宮内

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 十日もせぬうちに、夫の思い人は離れの住まいに移ってきた。
その人の腹は、私の腹と同じように、まだ何の膨らみもなかった。

華やかな洋装に身を包んだその人は膨らみのないお腹に手をやりながら夫の隣に並びにこやかに、そこがずっと前からの帰る場所であるかのように家に表れた。
 

義母の前まで来ると、夫が
「お母さん今日から離れに住まわせます。」
私には目もくれず義母に告げる。
 
「おかあさまご無沙汰しております。玲子でございます。本日よりよろしくお願いいたします。誠一郎様のお力になれるよう良い子を産みます。」
腰を下ろすこともなく二人は義母を見下ろすように立ったままで、義母は何も言わず凍り付いたような空気が漂い義母の後ろに仕えていた私は置物のように息をする。
 
「色々と足りないものもあるだろうから、雪乃その辺頼んだぞ。」

「はい。」
これは役割。
夫の思い人の世話をする嫁の役割。
 
そしてそのまま二人が離れに向かおうとして私の前を通り過ぎる際、その人は立ち止まり、真っ赤な口紅の口角を上げてきれいな笑を浮かべる。

「私、身重ですから色々と気をつけていただきたいこともありますからよろしくお願いしますね。奥様。」
 
なんと返せばいいかわからない私の代わりに義母が大きな音で茶碗を置いた。
 
夫に手を引かれるように、二人は離れに消えていく。

元華族のお嬢様だと聞いていたが私の知っている華族のお嬢様はあのような攻撃的に話をされる方はいなかった。
 
誠一郎さんはこんな人を好いておられるのかと驚いた。

せめて姉のような天真爛漫な方ならもう少し心が凪いで出迎えることが出来たのに。

煩わしさの増えそうな日々に溜息が出た。
 
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