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はじまり「鬼娘との出会いと巫女契約」
第6話 添い遂げる覚悟はあるか?(後)
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体はもうだめだ、おしまいだ、とうるさいことを言っているが、そんなの無視だ。俺だって彼女を助けると決めた。
彼女が生きたいと望むのなら、それを叶えてやるのが、己の憧れるいい人間の務めだろう。
必死に足を動かして彼女の持つ柄を一緒に握った。
「やろう!」
「はい!」
安住を押し込む。分が悪いと見たのか、安住は一度後ろに下がった。
「ほう……どうあっても助けるというのだな?」
「俺が助けると決めたんだ。なら、彼女の悩みや苦しみを解決するまでは助ける。それが、俺のなりたい人間としての責務だ」
「そうか。その無様な体でよく言った。俺もお前を少し侮っていたようだ。だが」
安住は俺を睨む。しかし憎しみではない。それは俺に覚悟を問うかのような真剣なまなざしだった。
「よく考えた方がいい。お前が守ろうとしたその女子《おなご》のことを」
「なに?」
「彼女は何故鬼になった? なぜ長い間眠りについていた? おまえも使うその力はどこから来たものだ? お前が守ろうとしているのはただの人間じゃない。想像をはるかに超える秘密や闇を抱えている」
間違っているとは思わなかった。俺と契約して流れ込んでくる力はそれほどまで神秘的で恐怖すら覚えるほどだから。
「それは見捨てる理由にはならない。一度助けると決めたら、それを途中で放り出すのは人間のやる事じゃない」
「その子の闇を背負う覚悟があるとでもいうのか? そのために死ねると?」
あいつ、少し笑った。馬鹿にしてるのか?
「レイ、剣を貸してくれ」
「でも」
「もう霊体になりかけで力が出ないんだろ。なら、俺がやる。大丈夫。次は信じてくれ」
恐る恐る差し出された剣を俺は受け取って駆け出す。
これは俺の始まりの一歩だ。今まで何も成し遂げられていなかった俺の初めての大一番。やれるだけやってやるとも。
「うおお!」
あいつは強い。斬りかかっても油断はしない。一振り、躱されたらすぐに後ろに下がる。胸の一寸先を刃先が通ったが当たってない。
今度は腕を掴まれないように機敏に動くことを意識した。その甲斐あって、今度はちゃんと戦いになっている。不利ではあるが先ほどのような無様は晒さない。
剣を振りかぶった。あれは先ほどと同じ〈空割〉を放つ合図かもしれない。
こちらも想像する。あの恐ろしい斬撃に対抗するための力を。
俺とあいつは同時に剣を振り切った。俺が放ったのは先ほどと同じ飛ぶ斬撃。しかし先ほどとは違い三日月には稲光が走っている。
2つの斬撃波ぶつかり爆発した。地面を巻き上げ砂煙を発生させて拡散する。
何も見えねえ。
「いいだろう。ここまでは及第点だ」
声がする。でもどこから話しているか分からない。レイは……?
背中にどう考えてもあいつのではない肌の感触がした。見るとレイが背中合わせで俺にピタッとくっついていた。悪くない感触……いや、今は邪念を持っている場合じゃないだろ。
「夢原礼。お前には試練が訪れる。鬼を恨む者からの攻撃、鬼を利用しようとする連中からの悪意、世界を変えようとする神人の襲撃。お前に耐えられるか?」
「何……?」
「その鬼に手を差し伸べた以上、お前はいずれ、絶望しながら処断される。それ以外に道はない。相応の覚悟をしておくことだ」
煙が飛びようやく視界が開ける。既にその男も、倒れていたはずの部下もいなくなっていた。
とりあえずは勝ったか。一安心だ。
レイはそんな状況になっても離れなかった。
「ありがとう。礼さん」
「え……?」
抱き着かれた。ふと、顔が近くにあるのを見て、男のときよりも若干身長が縮んていることをようやく自覚する。そして――なんといい気分だろうか。
いや、抱き着かれていることじゃない。否、それで伝わってくる感触は満更でもないけれど、それよりも弾んだ声は喜びを示していて、その声でお礼を言われたことが何よりも嬉しかった。こんな俺でも、助けることが、できたんだと実感する。
「私、嬉しかった。こんな頭に角がるいている悪霊を本気で助けてくれる人がいて」
「君は助けてと言ったんだ。それを助けるのは当然のことだよ。でも、何とか生き残れてよかった」
「ふふ、可愛らしい。素敵です、笑っている顔も」
「かわい……えぇ……」
そう言われるのだけは非情に複雑な心境だ。嬉しいというより恥ずかしいような、でも悪くないような。
「失礼しました。……お礼は必ず。私、人間に戻れるまで、貴方の式神になります」
「式神ってのは、その、俺にこれからも力を貸してくれるのか」
「元々霊体ですから相応しい在り方だと思います。だからあなたは私の力を十分に使ってください。私を、生かしてくれる報酬として受け取ってください。私もできる限り、貴方を守ります」
この力をまだ使っていいという条件ということか。悪くない条件だと思う。俺も彼女もそれで望みが叶えられるのなら。
そしてそれは俺にも責任が生じるだろう。でも、迷うべくもない。誓いの言葉を俺は、彼女に向かい合って宣言する。
「人間として生きたい。その願いが叶うまで、俺はレイと一緒にいるよ。君の力になり続ける。俺は、この力で、まずは君のヒーローになってやる」
「嬉しいです、けど、それだけじゃだめですね。なら私はあなたの味方になる。貴方は私の力を使って、困っている人々を助けてください。ヒーローになる夢を一緒に追わせてください」
嬉しいことを言ってくれるな。なら、遠慮なくそうしよう。
鬼の力がどんなものであるかはまだ未知数だ。そこには俺の知らない深淵があるのかもしれない。
でも、この力で助けを求める誰かを救えるのなら、そして俺を頼ってくれた彼女を助けられるのなら、俺は喜んでそうする。
だって俺は、そんな善い人間になりたいから。
彼女が生きたいと望むのなら、それを叶えてやるのが、己の憧れるいい人間の務めだろう。
必死に足を動かして彼女の持つ柄を一緒に握った。
「やろう!」
「はい!」
安住を押し込む。分が悪いと見たのか、安住は一度後ろに下がった。
「ほう……どうあっても助けるというのだな?」
「俺が助けると決めたんだ。なら、彼女の悩みや苦しみを解決するまでは助ける。それが、俺のなりたい人間としての責務だ」
「そうか。その無様な体でよく言った。俺もお前を少し侮っていたようだ。だが」
安住は俺を睨む。しかし憎しみではない。それは俺に覚悟を問うかのような真剣なまなざしだった。
「よく考えた方がいい。お前が守ろうとしたその女子《おなご》のことを」
「なに?」
「彼女は何故鬼になった? なぜ長い間眠りについていた? おまえも使うその力はどこから来たものだ? お前が守ろうとしているのはただの人間じゃない。想像をはるかに超える秘密や闇を抱えている」
間違っているとは思わなかった。俺と契約して流れ込んでくる力はそれほどまで神秘的で恐怖すら覚えるほどだから。
「それは見捨てる理由にはならない。一度助けると決めたら、それを途中で放り出すのは人間のやる事じゃない」
「その子の闇を背負う覚悟があるとでもいうのか? そのために死ねると?」
あいつ、少し笑った。馬鹿にしてるのか?
「レイ、剣を貸してくれ」
「でも」
「もう霊体になりかけで力が出ないんだろ。なら、俺がやる。大丈夫。次は信じてくれ」
恐る恐る差し出された剣を俺は受け取って駆け出す。
これは俺の始まりの一歩だ。今まで何も成し遂げられていなかった俺の初めての大一番。やれるだけやってやるとも。
「うおお!」
あいつは強い。斬りかかっても油断はしない。一振り、躱されたらすぐに後ろに下がる。胸の一寸先を刃先が通ったが当たってない。
今度は腕を掴まれないように機敏に動くことを意識した。その甲斐あって、今度はちゃんと戦いになっている。不利ではあるが先ほどのような無様は晒さない。
剣を振りかぶった。あれは先ほどと同じ〈空割〉を放つ合図かもしれない。
こちらも想像する。あの恐ろしい斬撃に対抗するための力を。
俺とあいつは同時に剣を振り切った。俺が放ったのは先ほどと同じ飛ぶ斬撃。しかし先ほどとは違い三日月には稲光が走っている。
2つの斬撃波ぶつかり爆発した。地面を巻き上げ砂煙を発生させて拡散する。
何も見えねえ。
「いいだろう。ここまでは及第点だ」
声がする。でもどこから話しているか分からない。レイは……?
背中にどう考えてもあいつのではない肌の感触がした。見るとレイが背中合わせで俺にピタッとくっついていた。悪くない感触……いや、今は邪念を持っている場合じゃないだろ。
「夢原礼。お前には試練が訪れる。鬼を恨む者からの攻撃、鬼を利用しようとする連中からの悪意、世界を変えようとする神人の襲撃。お前に耐えられるか?」
「何……?」
「その鬼に手を差し伸べた以上、お前はいずれ、絶望しながら処断される。それ以外に道はない。相応の覚悟をしておくことだ」
煙が飛びようやく視界が開ける。既にその男も、倒れていたはずの部下もいなくなっていた。
とりあえずは勝ったか。一安心だ。
レイはそんな状況になっても離れなかった。
「ありがとう。礼さん」
「え……?」
抱き着かれた。ふと、顔が近くにあるのを見て、男のときよりも若干身長が縮んていることをようやく自覚する。そして――なんといい気分だろうか。
いや、抱き着かれていることじゃない。否、それで伝わってくる感触は満更でもないけれど、それよりも弾んだ声は喜びを示していて、その声でお礼を言われたことが何よりも嬉しかった。こんな俺でも、助けることが、できたんだと実感する。
「私、嬉しかった。こんな頭に角がるいている悪霊を本気で助けてくれる人がいて」
「君は助けてと言ったんだ。それを助けるのは当然のことだよ。でも、何とか生き残れてよかった」
「ふふ、可愛らしい。素敵です、笑っている顔も」
「かわい……えぇ……」
そう言われるのだけは非情に複雑な心境だ。嬉しいというより恥ずかしいような、でも悪くないような。
「失礼しました。……お礼は必ず。私、人間に戻れるまで、貴方の式神になります」
「式神ってのは、その、俺にこれからも力を貸してくれるのか」
「元々霊体ですから相応しい在り方だと思います。だからあなたは私の力を十分に使ってください。私を、生かしてくれる報酬として受け取ってください。私もできる限り、貴方を守ります」
この力をまだ使っていいという条件ということか。悪くない条件だと思う。俺も彼女もそれで望みが叶えられるのなら。
そしてそれは俺にも責任が生じるだろう。でも、迷うべくもない。誓いの言葉を俺は、彼女に向かい合って宣言する。
「人間として生きたい。その願いが叶うまで、俺はレイと一緒にいるよ。君の力になり続ける。俺は、この力で、まずは君のヒーローになってやる」
「嬉しいです、けど、それだけじゃだめですね。なら私はあなたの味方になる。貴方は私の力を使って、困っている人々を助けてください。ヒーローになる夢を一緒に追わせてください」
嬉しいことを言ってくれるな。なら、遠慮なくそうしよう。
鬼の力がどんなものであるかはまだ未知数だ。そこには俺の知らない深淵があるのかもしれない。
でも、この力で助けを求める誰かを救えるのなら、そして俺を頼ってくれた彼女を助けられるのなら、俺は喜んでそうする。
だって俺は、そんな善い人間になりたいから。
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