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アルバラスト編

「………!」

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「………!」

「………!?」

バシュッ!

「あ!解除されました!」

「おい大丈夫か!?…うわ!?何だこりゃデバフ山盛りじゃないか!
おい!ノア君!聞こえるか!」


「…う…しまった、意識飛んでたか…」

「「ノ、ノア様大丈夫ですか!?」」


【魔法使い】らが発動した各種デバフとデッドが放った『隔絶』により音が遮られていたノアは僅か数分とは言え意識を失っていた。

あの後『転移』されたノアを発見した商人の護衛達がジョーや冒険者に連絡、直ぐに駆け付けるも『隔絶』の解除が出来ずにいた。

数多くの爆裂魔法を受け、凌いだりした為ノアの皮膚は所々焼け爛れ、意識も無い為安否が不明であった。

皆が手をこまねいているとデッドが次の手を発動、その対処に冒険者が総動員されているとの事だ。


「ノア様口を開けて下さい、はい、アーン。」

「あ、あーん…」


デバフだけならまだしも石柱と氷の棘で身動きが取れない為、ルーシー・ラベルタが手ずから万能薬をノアに飲ませる。
こういう事に慣れてないノアは何だか恥ずかしい思いで一杯である。

何故かルーシー・ラベルタは顔を赤らめ、ラーベは羨ましそうな顔をしているのが気になる。


「…むんっ!」バキッゴキッバゴッ!ガラガラ!


万能薬を飲んだ事でデバフが幾つか解除され、少し力が戻ったノアは石柱と氷の棘を自力で破壊。
拘束が解除されるが、地面に膝を付く。


「ぐっ…おかしいな…全部解除されてないな…」

「そりゃ10個以上のデバフを解除するのに万能薬1本じゃ無理だよ。
ほら、もう1本。」

「あ、どうも…」グヒビ。


万能薬を2本飲んだ事で火傷状態が解除され、一応戦える状態までは戻ったが体力までは戻らない。


「あー…あのバイタルドレインとか言う体力持っていかれるのが一番しんどいな…」

「体力は自然回復しかないからね。」

「一応回復効果のある固有スキル持ってますが、アイツら何かの準備してたからまだ使うかどうか迷うんですよね…」

「準備?覚えてる範囲で教えてくれるかい?」

「何か地面に大きな魔方陣描いてて、1人の男がその魔法陣に手を付けて魔力を流してました。
その周りで3、4人の【魔法使い】が男に手をかざしてましたね。」


ノアの大雑把な説明を聞いたジョーとルーシー姉妹は何か思い当たる事がある様で


「何か召喚するつもりでしょうね。」

「ですね。」

「だよなぁ…」

「召喚ですか…」

「基本的に魔方陣の大きさで召喚されるモンスターの大きさや強さが変わりますし、消費する魔力量や時間も異なります。
恐らく【魔法使い】達は魔力供給をしていたのかもしれません。」

「そうですか…何にせよ奴等の所まで行かないといけませんね。」

「その事なんだが今は厳しいと思うよ。」

「え?…そういえば、他の冒険者が総動員してるって言ってましたね?」

「見て貰った方が早いだろう、付いてきて欲しい。」


そう言って北門の近くまで行くと何人もの冒険者が座り込んでおり皆疲弊している。
門の外からは冒険者の声やモンスターの咆哮が聞こえてくる。


何か嫌な予感を感じたノアが門の外に出ると大量のゴブリンとウルフが押し寄せ、それを冒険者や兵士、アルバ等が抑えていた。


「お!少年!無事だったか!」


声のした方を見るとアルバが駆け寄ってきた。
他の冒険者もノアが来たのを横目に、目の前の敵で手一杯といった感じである。


「アルバさん、戦況は?」

「君が飛ばされた直後、奴は継続的にウルフやらゴブリン等を召喚し続けている。
恐らく時間稼ぎの為に魔力消費が少なく、量を重視して低級モンスターを喚んでいる様だ。
1匹1匹は弱いがこの数じゃ…」

「アルバさん!もう持ちません!応援を!」

「くそっ…すまないノア君、直ぐに戻らなくては…」


<気配感知>の範囲内に70を越えるモンスターの反応があり、冒険者らでは持ち堪える事が厳しくなった様だ。

ノアは咄嗟にバーサークベア並みの<殺気放出>低級モンスター共はびくりと体を強張らせ、動きを止める。

その隙を見逃さすハズが無いノアが叫ぶ。


「グリード!そいつらを食っちまえ!」


ノアが叫んだ瞬間、冒険者達が抑えているモンスターの群れに向かって地面から飛び出した何かが突撃し、反対側へと抜け、再び地中へと潜って行った。

ドバァッ!             ゾリッ!             ズボァッ!

すると先程までけたたましかったゴブリンやウルフの鳴き声や咆哮がピタリと止み、頭部や腕、体の一部を残して地面に落ちる。

冒険者や兵士、アルバやジョー、ルーシー姉妹も何が起きたか分からず声を発さないでいる中、朧とノアが餌やりをやっている所を見た兵士だけが事態を飲み込めた。


『彼は"アレ"を呼んだんだ』と。


ノアは<殺気放出>したまま押し留めていた冒険者らに近付き声を掛ける。


「お疲れ様です、引き続きここの事はお願いします。」

「あ、ああ…君は何をしに?」

「捕縛の途中だったので再開しないと。
それと後はこの子の食事ですかね。 」


そう言って地面を指差す。


「…やっぱり今のは君が…?」

「ええ、申し訳ありませんがこの子の事はあまり喋らない様にして下さい。
あとすいません散らかしちゃって…
ほらグリードちゃんと後片付けしないとね。」


そう言うと地面に落ちたモンスターの一部等が土の中に吸い込まれていき、地面の下から破砕音が響く。
その音を聞いただけで周りの冒険者が息を飲む。


「僕の契約獣なのでご心配なさらず。
さ、行こうかグリード、こっちにやって来るモンスターは全て食って良いからな。」


そう言い残して再びノアはデッドらの元へ駆けて行くのだった。









ウルフやゴブリン等の低級モンスターを召喚し続けていたデッドは、街の連中に時間稼ぎしつつもボコボコにやられたジュラとバグラの治療を行っていた。


「よし…っと。お前ら起きろおら!」

「ぐ、む…」

「いてて…」

「起きたか、早速だがお前らはこの場で待機、ゼノの護衛か魔力供給に当たれ。」


目覚めたジュラとバグラの2人はデッドから受けた指示に耳を疑う。


「ちょっと待て!俺達は遊撃のハズだぞ!」

「その遊撃が「殺って来て良い?」とか抜かした挙げ句、僅か数分後に瞬殺されてボロボロんなって帰って来たんだ!
野盗は全滅、あの坊主の迎撃と時間稼ぎ、召喚に加えてお前らの治療で全員魔力がかつかつなんだよ。
足止めにもなってねぇ奴が偉そうな事抜かしてんじゃねぇ!」

「「瞬殺って…」」

「何言ってるんだ?現に俺達はこうしてここに生き「生かされたんだよ。」


召喚陣の所で魔力を注ぎ続けるゼノが2人に告げる。


「あの坊主はアホみたいな攻撃力してるのに重傷者はいるが殺しは一切やってない。
お前、ぼろ雑巾にされても実際には生きてたろ?」

「ぅ…うるせぇ!?アイツが…あのガキが手加減したってのか?俺達に!?」

「そもそもお前ら、本当に剣術得意なんか?」


ゼノの一言に固まる2人。


「お前ら、新人冒険者やら動物と戦ってる所は見た事あるんだが、モンスターや商人とかと戦うって時いつも「気が乗らねぇ」とか言って参加してなかったよな?」


デッドも参加して2人を追及する。


「うるせぇな!デッドだって指示ばかりで何もしてねぇじゃねぇか!」

「お前らが気ぃ失ってた時にあの坊主が1回ここまで来たんだが、召喚まで15分って絶望的な時間を死守してくれたんだぞ?【魔法使い】の連中と連携してな。」

「そんなに気に食わないんなら足止めして来いよ、その為に送り込んでるんだぞアレ。」


デッドが街の方を指差して告げる。
街の方からは召喚されたウルフやゴブリン等の騒がしい声が聞こえる。


「お、俺達にゴブリンやウルフと一緒に戦えってのか!?」

「俺と【魔法使い】らがやったのは精々が足止め程度だ、直に拘束も解けてまたここにやって…!?」


その場にいた全員が言葉を失う。
数秒前まで聞こえていたゴブリンやウルフの鳴き声がピタリと止んだのだ。

目を凝らして見ると誰かがこちらへ向かって歩いて来ている様だ。


「ほら、お前らが毛嫌いしたゴブリンもウルフもいなくなったぞ?
舞台が整ったじゃないか。
召喚まであと少しある…足止め、頼んだぞ?お二人さん。」


手をヒラヒラと振って送り出すデッド。
送り出された2人は内心腸煮えくり返っていた。


「馬鹿にしやがって、クソが…」
「ガキ1人位どうって事無いぜ…」


ブツブツと小声で呪詛の様に呟きながらジュラとバグラはノアの元へ駆け出して行った。
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