ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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アルバラスト編

終始無言

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場所は移って北門の防壁の上ではジョー、アルバ、ベルドラッド、ライリが終始無言で事の成り行きを眺めていた。

ただ全員考えている事は全く同じで『あれは何だ?』である。


先程ヒュドラからの集束ブレスを受けそうになったノアの前に現れた"アレ"はヒュドラに反撃しただけで無く、ノアと共闘して捕食を開始。
今では一方的に食べ進めている。

街の中は依然として外で戦っているヒュドラの事で騒然となっていたが更に騒がしくなる出来事が発生。
追加で要請していた重装兵と上級魔法使い、合計60人が到着したのだ。

ベルドラッドとライリは防壁を降りてその集団の元へと向かい、重装兵はベルドラッドに敬礼をした。


「ベルドラッド殿、重装兵30、上級魔法使い30要請により参集しました。」

「ああご苦労。」

「早速で申し訳無いのですが対象はヒュドラとの事ですが…もう一体の…蛇ですか?アレは…」

「言いたい事は分かる。俺も正直"アレ"が何なのか分からん、見た事が無い。
が、前線で戦っていた者と共闘していたのでな、一先ず手は出さんでくれ。」

「り、了解しました。」


すると防壁の方で声が上がる。


「ノ、ノア君!?どうしてここに!?」

「あ、ジョーさん、今運んできたのがあのヒュドラを召喚した野盗とその取り巻きです。
もう少しいるので回収行ってきますね。」

「え!?ノア君じゃない。」

「あ、ライリさん、この間はどうも。
この野盗達、少し毒状態なのと火傷をしているので治療をお願いします。」

「おい、ノア君!ちょっと待ってくれ。」

「あ、ベルドラッドさんお久しぶりです。」

「あ、ああ久しぶり…じゃなくて、"アレ"は何だ?」

「僕の契約獣ですのでご心配無く。」

「いや、何となくそれは察したがそうじゃない、"アレ"は何だ?」


ビシッとグリードに指を差してノアに問い質してくるベルドラッド。


「グリードって言います、今はそれ以上は言えません。」


そう言ってノアは再び残りの野盗の回収に向かう。
ベルドラッドは頭をガシガシと掻いた後重装兵と上級魔法使いに指示を飛ばす。


「取り敢えず皆、門の外に集結し直ぐに戦える様に準備せよ。」


ベルドラッドから指示を受けた兵達は次々に防壁の外へと向かう。
外では依然として捕食を続けるグリードと、一方的に、だが止めを刺されないまま生かされ続けるヒュドラがいた。

門の外に出た兵達がまず思った事は『あれ?さっきより大きくなってね?』であった。


現在のグリードは全長が30メルを超え、大きさで言えば殆どヒュドラと変わり無い。
大きくなった分捕食の速度も変わり、一口でヒュドラの首を2本纏めて丸囓り出来る程まで成長した。

ヒュドラは既にグリードに対して完全に怯えきっており、何回か脱走を図るも直ぐに尾で捕らえられ、9割方食われて再生するのを待つというのを繰り返している。


「嘘だろ…あのヒュドラが一方的に…」

「ねぇ、本当にあれ、契約獣なの?
そもそもあんな生物自体見た事無いわよ?」

「ベルドラッドさんの話だとそうらしいがベルドラッドさんもあの生物が何なのかは分からないそうだ。
取り敢えずは静観と行こう。」





「…よし…これで全員か?」

「はい、かなり広範囲を探したので間違いないハズです。」

「分かった、ご苦労様。」

「それでは戻ります。」


周辺を走り回り、野盗の残りを捜索していたノアが防壁に戻って来た。
最後に回収したのはジュラとバクラの2人だった。

スタッ!

「あ、お疲れ様です、お疲れ様ですー。」


防壁の下に降りると重装兵と上級魔法使い合わせて60名が待機しており、その者達に向け礼をするノア。


「あ、ああ…」

「どうも…」


周囲の反応は悪い、何故なら皆、前で起きてる惨劇に目が釘付けになっているからだ。

グリードが一方的に食らい続けて暫し、既にグリードの大きさは当初の5倍にまで成長し、ヒュドラを見下ろす迄になった


「うわー、大きくなったなぁ。どう?満足した?」

グルルォアアッ!

「おーそっかそっか、それじゃあ終わりにしよっか。」

グルルッ!ゾブッ!ジュォアアアアッ!?


ノアからの指示で側面から凄まじい速さで食らい付いたグリードは一口でヒュドラの首を全て噛み千切り、2口目で更に口を大きく開けて胴体ごと持ち上げて正に踊り食いをする。

グリードの口から何とか逃げ出そうとするも、グシャリと心臓を噛み砕かれたヒュドラは力無く飲み込まれていった。

ゲフゥッ!

食事が終わったグリードの近くに魔法陣が展開、巨体を感じさせない素早い動きでその魔法陣の中に飛び込んだグリードはそのまま姿を消した。

あまりに唐突に終わった決着に誰も声を発せずにいた。


「……。」

「……。」

「…あ、終わりました。」


こうして一連の野盗集団の殲滅とヒュドラ討伐は、事の重大さの割に静かに決着となった。







「さてノア君、説明して貰おうか、"アレ"は何だ?」


場所は移って街の冒険者ギルド内、表は隊員が張っており、中ではベルドラッド、ライリ、重装兵、上級魔法使いの皆さんが勢揃いしていた。


「どうしても言わなきゃダメですか?」

「当たり前だ、ヒュドラを食い殺すモンスターなんて初めて見たわい!
その上誰も見た事無い、鑑定しても『???』しか表示されない。
上に何と報告すれば良いのだ?」

「言ったらぜっっったい面倒くさい事が起こりそうなので言いたくありません。」

「面倒事など起こすものか!」

「前例が何言っても全く説得力無いですよ?」

「ぐはっ!?」


頑なに正体を拒むノア、終いには「王に会わないで良いなら話す」とまで言われた為、ベルドラッドが折れる形となった。


「分かった。取り敢えずあやふやに報告してみるが、それでも追及されたらその時は考えてくれよ。」

「…分かりました。」

「取り敢えずこの件は以上だ!
さぁ、お前達も仕事に戻れ!野盗の問題やら事後処理、やる事は幾らでもあるぞ!」

「うぇぃっす。」

周りの兵達の気の抜けた声が響く、実際表には未だに400人以上の野盗が捕縛されており、移送先、犯罪奴隷専門商人との対応やら残盗の捜索、ヒュドラの汚染処理、貿易路の整備等やる事は山の様にあるのだ。


「はー…報告すんの嫌だなぁ…」


ベルドラッドはと言うと、王にどう説明したものか、それだけが頭の中をぐーるぐると駆け巡っていた。



しかし、このベルドラッドの心配とは裏腹に王は割とあっさりと受け取ったらしい。


王からベルドラッドへの質問は

『契約主はその少年で間違いないか?』

『グリードと言う名は愛称か?個体名か?』

この2つだけだった。


1つ目の質問は「間違いない」と当時の事を振り返りつつ答え、2つ目の質問に関しては「分からない」と答えたが、王は笑い飛ばしただけで終わった。

王曰く「私の想像通りであれば隠しておきたい存在であるのは間違いないな」との事らしい。
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