ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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王都編

マズイ

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(『マズイ。
マズイ、マズイ、マズイ!この局面でこれはマズイ!
親御さんとの特訓以降禁止行為何てやって無かったからすっかり油断してた…
どうする…弱体化は10分程度だが、この場での10分は致命的だ。』) 

(落ち着いて、『俺』。)

(『どうする…10分間逃げ回って体勢を整えてから…』)

(落ち着けって!『俺』!取り敢えず前見てみろ前!)

(『え?あ、あぁ、悪……え?』)



ノアから声が掛かっている事に漸く気付いた『俺』が、促されるまま視野を広げて前方を見てみる事に。

すると再生が完了したヒュドラ変異体が再び尻尾を自切し、2体目のヒュドラ変異体が産み出されようとしていた。


(『…ちょっと待て、あいつ増えるのか?』)

(見ての通りだ。…どうする?10分待つか?)

(『いや、こんな光景見ちまったらその選択肢は無しだ。
10分も放置してたら台所のアイツみたいに爆発的に増えちまう。
…つってもどうするよ、弱体化で主は剣すら持てねぇだろ?』)

(…うん…)

(『あの2体を屠るってなったら相当の火力が必要だ。
剣に付与させた俺の炎以外で火力ある物何かねぇだろ?』)

(そこで相談なんだが、一縷の望みを懸けてこの新防具に備わってる『必殺技』をぶつけてみないか?)

(『…お前さんが物に頼るとは相当追い込まれてるな…
何だっけ?『防具に溜めに溜めた力を全方位に解放する』だっけか?
んな物たかが知れてるだろ?』)

(…でも御前試合が始まってから溜めてるつもりなんだけどまだ発動可能状態になってないんだぜ?)

(『…え?王のおっさんがぶっ放したアレ食らってンのにか?』)

(あぁ…その他に奴の近接攻撃やブレスとかを何度か食らってるハズなんだがね。
もしそれだけの物を一気に解放したらどうなると思う?)

(『試す価値は…ある…って事か…
でもどうすんだ?まだ発動条件満たして無いんだろ?』)

(そりゃあ勿論…)


ノアは前方に居るヒュドラ変異体2体に視線を送る。


(『お前さん…
この間の事といい、普段しっかりしてんのに、たまにとんでも無く馬鹿んなるのなんなん?』)

(…お願い、今回も目を瞑ってて…)

ノアの中に居る『俺』が呆れた表情をしているだろう事は想像に難くなかった。






ザキッ!ザクッ!

『…さて、やってしまった事はこの際しょうがない。
次気を付ける事にして、早速行動に移そう。
残り8分弱、弱体化してしまった事で機動力が落ちちゃったから暫く足として使わせて貰うよ?』

グルルッ!


ノアは弱体化により持てなくなってしまった荒鬼神を地面に突き刺さし、両手にカランビットナイフを握り込んでグリードの上に上る。

(一応こういう時を想定してスキルを取りまくってたんだ、後は臨機応変に対応していくさ。)

(『ああ、そうだな。だが気を付けろよ?』)

(分かってる。
…っとそうだ、先に連絡しておかないとな。)

『レター。』







「ノア君どうしちゃったんだろう…突然立ち止まっちゃったけど…」

「いやいや、あれだけの戦闘繰り広げてたんだよー?
流石に休憩するでしょー…」


戦闘を眺めていたクロラとロゼはノアが立ち止まった事に何ら感じていなかったのだが


「お、おい!奴等2体に分裂しやがったぞ!」

「【鬼神】は何故動かない!流石に諦めたか!?」

「俺なら諦めるな…あんだけやって再生されて、その上分裂までされたんじゃ…」

「寧ろよくあそこまで戦ったよ、あんな物レイドパーティ組んでもいけるかどうか…」

「うむむ…彼の様な存在をこの場で失うのは惜しい、助太刀に…」


ノアがただただ佇んでしまった事と、ヒュドラ変異体が分裂した事に、周囲が『【鬼神】ですら諦めた』と勘違いし、騒然となる。

徐々に大きくなる喧騒に、流石の2人ですら飲まれそうになっていると


「あれ?クロラっち、腕輪光ってるよ!」

「え?あ!ホントだ!ちょっと待ってて…」


クロラはノアから届いた連絡を慌てて読む事に。


「えーっと…
"クロラさん、これからちょっと無茶な事やりますが落ち着いて行動して下さい。
恐らくクロラさんがいる場所には中級~上級の冒険者が多くいるでしょう。
その人達に声を掛けて、こちらから合図を送ったら試合場の周りにありったけの結界を張って下さい。
初めて使う物なので不発に終わる事も予想されますが無いに越した事はありません。
あと街の方を試合場からなるべく遠ざけて下さい。お願いします。"か…」

「え!?ノア君何やるつもり?」

「…分からないけど、兎に角ノア君を信じましょ!
すいませーん!周囲に居られる方の中で結界を張れる方は居ませんかー!」

「ぅおっ?」

「何だ、何だ?」

「おいお前ら!ちょっと黙れー!この子が伝えたい事があんだとよっ!」


突然クロラが大きな声を上げた事で、2人の周りに居た冒険者の青年が更にでかい声を上げ、騒がしくなりつつあった避難場所が一瞬静まり返る。


「この中で結界を張れる方は居ませんか!」

「結界を?」

「何でまた。」

「おぅ嬢ちゃん!人数はどんだけ欲しいんだ?」


先程大声を上げた冒険者の青年が特に理由等を聞きもせずクロラに問うてきた。


「ありったけだそうです。」

「ほぅ、ありったけか…
おい!ディオ!マール!ストラ!お前らん所に結界やら防御壁やら出せる奴居たよなぁっ?」

「うるせー!そこまででかい声出さなくても聞こえるっての!
この場に全員揃ってるぜ!何だ?何かやんのか?」

「試合場で戦ってるノアく…彼から連絡が来まして、彼の合図が来たらありったけの結界を張って欲しいそうなんです!」

「君は彼の知り合いか!」

「はい!」

「了解した!こちらからその辺り得手の者を出そう!
あと俺は【魔術】ギルドの連中に声掛けてくぜ?」

「ああ、頼む!」


意外な程あっさりと話が進み、冒険者らが動き出す。


「クロラっち、私はライリさんの所言って避難誘導の人員確保して来るね!」

「うん、お願い。」


駆け出すロゼを見送ったクロラは、声を上げてくれた冒険者の青年に礼をする。


「ありがとうございます、理由も聞かずに協力してくれて…」

「いや、盗み聞きするつもりは無かったんだが、彼から来たと言う連絡を君が読み上げていたのが聞こえてしまってね…」


すると周囲にいた他の冒険者がウンウンと頷き、声に出していた事に気付いていなかったクロラが顔を赤らめる。


「それと今声掛けた連中とは同郷でね、彼には故郷の近くの山に巣食っていたゴブリンを殲滅して貰った恩がある。
彼の力になるなら喜んで手を貸そう。
他に何か手伝える事は無いかい?」

「それであれば、試合場周辺にいる人の避難誘導を手伝って下さい。」

「了解した。
おい!手の空いてる奴が居たら避難誘導手伝ってくれ!」


声のでかい冒険者の青年が再び声を上げ、周囲の冒険者を募って試合場周辺の避難誘導へと向かう。
クロラも避難誘導に向かおうとすると何処からともなく声が掛かる。


「お~いそこな娘っ子ぉ、その話妾にも聞かせてくりゃれ~。」

スタッ!ストッ!スタッ!

クロラの眼前に降り立ったのは、ジャロルを肩車したヤンと『槍サーの姫君』メンバーのリンとフェイであった。





「ふむふむ、なる程のぅ。
あの少年が何か仕出かす様じゃから結界をとな…
よし、妾も手伝おう、勿論うぬらも手伝うのじゃぞ?」

「はいはーい。」

「りょーかーい。」

「りょ。」


『槍サーの姫君』達も協力を快諾してくれた。
ヤンとしては実況解説よりか体を動かしていた方が良かった様で張り切っている。


「じゃーリンとフェイは試合場を3方向から囲む様に移動して貰える?」

「「あーい。」」


ヤンが指示を飛ばした直後『槍サーの姫君』達は一斉に動き始めた。


「しかし娘っ子、あの少年の知り合いじゃったとはな、心配じゃろうにの。」

「はい…ですがノア君なら何とかしてくれるハズです。」

「ふふん、えらく信用しちょるのぅ、もしや恋慕う仲かな?」

「ぅえっ!?」

バシュッ!ズドドドドドドドドドドッ…

試合場の方から集束ブレスが放たれる音と共に爆発音と揺れが周囲を襲う。


「…と、冗談はさておいてこちらも準備に取り掛かろうかのぅ。」

「はい!」


頭を切り替えたジャロルとクロラはノアからの要望に応えるべく動き始めた。
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