ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

.

文字の大きさ
281 / 1,117
王都編

例の"アレ"

しおりを挟む
「切り札…例の"アレ"か?」

「ええ。正直自分でも使うのは初めてだったので威力が分からず、あの様に多方面に要請を掛けてからぶっ放しました。」

「いや、そのお陰で街に被害が出ずに助かった。
…しかし、アレは何だったのだ?」

「あれは先程ジョーさんから話があったと思いますが、海洋種のクラーケンからお礼と言う形で頂いた素材を使用した防具に備わっていた必殺技です。」

「ク、クラーケンだとぉっ!?」


ノアが発した『クラーケン』と言う名前に、エルニストラ王は、驚き3割、興味津々7割の表情でいの一番に食い付く。


「王、大変興味がおありでしょうが今は報告の場です。
一先ず落ち着いて下さい。」

「はっ!…う、うむ…」

「…それで、予想外だった事に、海洋種の長が街に来ていた様で、あまりに必殺技が強力だったようで結界を張ってくれたみたいです。
それで昨日お礼を兼ねて国交の話を進めようと、ジョーさんと一緒に海洋種の方々が住まう場所に向かった、と言う訳です。
取り敢えず報告は以上です。」


側近のシアロに制され、落ち着きを取り戻した王を尻目に、ノアは報告を締め括った。


「ふむ、あの巨大な水の塊はその海洋種の方が展開した物だったか…
いやぁ、【鬼神】殿ご苦労であった。
色々と補完出来て助かった。」

「いえいえ、お役に立てたのなら幸いです。
ですので今度"僕の事を利用する時"は事前に言って頂いても構いませんか?」

ピクッ

ノアの言葉に王や側近、周囲の隊員らの動きが止まる。


「…気付いて…いたのだな…」


王の口から重苦しそうに言葉が紡がれる。


「利用している、と気付いたのはたまたまですがね。
鉱山で昇降機爆破した奴らから情報を引き出した時に"コモン・スロア"と言う存在を知りまして、息子であるデミ・スロアに問い質そうと思って向かおうとしたらライリさんとベルドラッドさんから今回の計画を聞きました。」


これを受けて全員がライリとベルドラッドへ視線を送る。


「怒らないであげて下さい。
あの時は僕も頭に血が昇っていたので、そうでもしないと収拾出来なかったでしょうから。」

「…それで、何故私が君を利用していると?」

「始めに違和感を感じたのは謁見の時です。
僕は以前から、ベルドラッドさんの件もあって絡まれたくないから王都に来たくないと再三再四言ってきました。
にも関わらず謁見の場、僕と『新鋭の翼』『槍サーの姫君』、バラス・アルキラー夫妻が居る所で僕の戦果だけ事細かに発していました。
自分が挙げた戦果ですが、端から聞いたらおかしな戦果ですから、デミの様な性格であれば絡んでくるのは分かりきっていたハズ。
王ともあろう御方が、デミのあの性格を知らないなんて事無いでしょうしね。」

「う、む…」

「初めは"知ってて故意にやってるな"と思ってたのですが、御前試合が決まったら決まったで、ライリさん経由で伝えてくれたり、ルール決めを僕に決定権を持たせてくれたりと、何処と無く気を配ってくれてる様な気がしました。
だから途中から"知ってて意図的に何かやってるな"と考えると、色々と腑に落ちたんですよ。」

「…なる程な…」


王は深い溜め息を吐くと、今回の事に付いて話し始める。


「…【鬼神】殿の言う通り確かに今回私は君を利用した。
こちらの調査で奴が非人道的な悪行を行っていると言う情報と国盗りを画策している事を掴んだ。
しかし確固たる証拠を得るには奴をこの王都に引っ張り出す必要があった。
そんな時、君が王都に来て謁見を受ける事が分かった。
デミは最近コモンに感化され、傀儡状態となっている為、【鬼神】殿に噛み付いて来る事は分かりきっていた。
…そこから先はご想像の通りだよ。」

「その後ライリさんとベルドラッドさんの2人から計画を聞いた僕は、街にいるコモンの目を全て僕に向けさせる為、監視共を襲撃したりコモンを煽りに行ったりしましたよ。
そしたら怒り狂って私兵全員呼ぶんですよ?
上手く行き過ぎて笑っちゃいましたよ。」


ノアがケラケラと笑いながら話していると、諜報部の内の1人がノアに向け歩み寄ってきた。

ザッ、ザリッ…

「正直あれは調査が大幅に捗りとても助かった、感謝する。」


声音からして女性だろうが、目深に被ったフードで人相が全く分からない。


「お役に立てたのなら幸いです。
…とまぁこういった連携を取り易くする為にも、事前に一声掛けてくれると助かります。」

「ああ、善処しよう。」


念押しするかの様に言うと、王は了承してくれたので、次に期待するとしよう。
その後は細かな補完や今後の動きなどを話し、ノアの報告が完了したのは、それから30分後の事だった。








「それでは自分はこれで失礼します。」

「協力感謝する【鬼神】殿。」


ノアは全員の方を向き礼をすると、そのまま王室を出ていった。
 

「…それにしても、【鬼神】殿が終始柔和な心持ちで助かったな…」

「普通利用されていた、と分かったら多少怒鳴り散らしても良いものですがね…」

「途中から気付いていたのもあるでしょうね…
ただその代わりに『新鋭の翼』に八つ当たりする、と当時申していました。」

「確かにボコボコにしていたな…
それにしても、【鬼神】殿は一体どんな戦闘訓練を積んだらあの様な戦い方が出来るのだ…
『調』、お主は【鬼神】殿の出自を知っておるか?」


『調』と呼ばれた先程の女性諜報部員は手をヒラヒラさせて返答する。


「あの辺りは局長の担当故、私は知らぬ。」

スタッ

「はい、局長ですよ。」


ジョーの隣にフードを目深に被った諜報部員が降り立つも、見慣れた光景なのか、ジョーは驚きもせずただただ立ち尽くしていた。


「全く、相変わらず丁度良い時に現れるな。
諜報部局長よ、お主【鬼神】殿の出自を知っておるかな?」

「ええ、勿論。
彼は王都より南方にある村の出です。
母親は元上級冒険者二つ名【個人要塞】で【剣士】のアミスティア。
父親は【精密射撃】の二つ名を持ち、同じく上級冒険者の【弓】のレドリック。
お互い強さで言えば中の上ではあるが、アミスティアは『圧倒的な武器保有量と手数』による『超至近距離戦闘』を得意とする。
レドリックは『感知系スキル全て最高ランク』まで鍛え、『広大な索敵範囲』を持つと言う。
今彼らの家に【勇者】が居るとの情報が入り、調査をしに行ったら、見事捕縛されてしまった…」

「ほぅ…お主程の者がなぁ…
しかしその様な両親からの戦闘訓練を受けておれば、あの様な強さになるのやも知れぬな…
うむ、報告ご苦労であった、下がって良いぞ。」

「それでは。」


そう言って局長と呼ばれた諜報部員はおろか、先程まで室内にいた女性諜報部員の姿も消えていた。


「ジョー殿、済まなかったな待たせてしまって。」

「いえいえ、お構い無く。」

「それでは報告会は一先ず終了としよう。
皆引き続き調査を頼むぞ。」


こうして事後報告会は幕を下ろした。
しおりを挟む
感想 1,253

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...