ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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王都編

少しお待ちを

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「少しお待ちを。」


そう告げると、ノアは徐に背中から矢を2本と魔竹弓を取り出し、50メル程離れた小高い丘の頂上へ向け弓を構える。

その動作だけで後ろを歩いていた各ギルドの面々は足を止める。

しかし未だ視界の中にモンスターの姿は無い。だが

キリッ…ギリリッ…バヒュンッ!

通常の矢なら、放物線を描いて飛ぶものだが、ノアの放った矢は一直線に進む。

ノアが矢を放ったと同時に小高い丘の向こうから泥の塊の様な物体がのそりと姿を現す。


「ん?あ!あれは『毛むくじゃら羊』だ!
ノア君あれは無害だ、殺しちゃいけない!」


列の後方に居た【洋裁】ギルドの男性が謎の塊の正体に気付く。
が、既に矢を放ってしまったのでこの男性の上げた声虚しい物になった。

ハズだったのだが


ギャウンッ!?

「「「「え!?」」」」


突如毛むくじゃら羊の背後から1頭のウルフが飛び掛かって来た。
ノアの放った矢がウルフの上顎に突き立つと、まるでハンマーで顔面を叩かれたかの様にウルフの体は縦に回転し、地面に叩き付けられる。

ギリリッ…バヒュォッ!

ギャンッ!?

ノアが2射目を放つと、毛むくじゃら羊の側面に遅れてやって来たウルフが困惑しながら辿り着き、即座に側頭部に矢が突き立ち、あり得ない吹き飛び方をして地面に叩き付けられた。


「毛むくじゃら羊か…初めて見るけど本当に毛むくじゃらだなぁ。
どうやら毛量が凄すぎて動きが鈍った所を襲われたのでしょう。
【洋裁】の方、あの羊の毛刈りますか?」

「え?お、おぅ…」


唖然としていた【洋裁】の男性は毛むくじゃら羊の毛を、【料理人】【防具】の者達は倒したウルフの元へ。

【魔術】でもモンスターの血を使う事はあるのだが、ウルフ程度の血では魔力の乗りが悪いとかで今回は不要となった。





ザッザシュ…
ズルッズルズル…

「よし、ウルフの皮、回収完了。」
「こっちも肉の回収は終わったわ。」

ゾッゾリ、ゾッゾッ…
メェ~

「こっちはもう少し掛かるな、なんつー毛量だ…」

「慌てなくて良いですよ、それじゃあ内臓の処理は、と…
グリード、宜しくね。」

バフッ!

ウルフから取り除いた内臓や、頭部等は地面の下にいるグリードが地面の土ごと飲み込んでいった。

ゲフッ。





メェェ~

通常の羊程にまで綺麗さっぱり毛を刈り取られた毛むくじゃら羊は、真っ白な体毛を靡かせつつ、嬉しそうな鳴き声を上げながら草原を駆けていった。

毛むくじゃら羊の毛を刈る際は、根元まで毛を刈らない事らしい。
毛量が多すぎると動きが鈍ってしまい、他のモンスターからしたら良い的になってしまうが、少なすぎると彼らにとって防具を剥ぎ取られる様な物なので、死活問題となるのだ。


「お待たせして済まないな。さて、向かいましょうか。」


毛を刈り取った男性は、大物を刈り終えた達成感からか良い笑顔をしている。


「ね、ねぇファル君?
選別の時に出た廃羊毛【植物】ギルドの方にまわしてくれない?」

「うん?構わないが、一体何に使うんだマロイ?」


村で畑を耕していたノアも知らなかった事なのだが、羊毛は田畑の良い肥料になるんだとか。

(本当、何に需要があるのか分からないものだ。)





小高い丘を越えると道の両脇に鬱蒼と森が生い茂り、早朝だと言うのに常に薄暗い通りに出る。

森の中はゴロゴロと岩場があり、最近この辺りに巣食っているという野盗が隠れられそうな場所が所々に存在する。

(ま、今の所人間の反応は無いけどね。
…それにしても、見える範囲だけで色々と木の実やらキノコが生えていて自然の恵みが豊富だ。)

ノアがキョロキョロと辺りを見回すと、それだけで数種類の食材が視界に入る。
後方を歩く【料理人】や【植物】、【錬金術】の面々も素材に気付いているのか周囲を見回している。


「少し歩く速度緩めて色々採っていきましょうか?」

「「「「「「賛成!」」」」」」


各々森に入り、食材となる物を採り始める。
ノアも上を見上げ、徐に飛び上がる。

ダンッ!ダッ!ガッ!ドッ!
ガサガサッ…
ズダンッ!

<縦横無尽>を発動させ、背の高い木の上まで上がったノアは、何かを採取した後地面に降り立つ。


「ノア君何採ってきたの?」

「木の上で陽当たりの良い場所にしかならないヤマモモです。
かなり生っていたので30個程採ってきました。」

ガブッ「ん~甘ぇ~。ほら、ヴァンディットさんとグリードもどうぞ。」

ズルン「頂きます。」

にゅるん グルル。


森の中は薄暗く陽が当たらない為ヴァンディットが姿を現し、ノアの足元からもにゅるっとグリードが現れる。

かぷっ「うーん、甘いですね~。」

ガブジュッ   グルル♪ウーン、フルーティ。

菓子等の甘さも良いものだが、こう言った自然の甘味もたまに食べたくなる。
ヴァンディットは、美味しさのあまり頬に手をやってうっとりとしている。

グリードは一体何処でそんな言葉を覚えたのか分からないが、取り敢えず美味しい様で、3個目の催促をしてきた所だ。

以前は仕草等で感情や行動を読み取っていたが、ある程度(と言うか既に達者に)喋れると、反応が直ぐに分かるのでグリードが言葉を覚えたのは本当に助かる。


「んお?…この反応は…猪かな?」

グル。

ノアとグリードが道の先からやって来るモンスターの反応を感知。
皆ノアの後方に居る為、狙われない様にノアが前にスタスタと歩いていく。

既に道の先にいる猪もこちらに気付いている様で、威嚇の為か鳴き声を上げている。

フゴォオオッ!

フゴッ    フゴゴッ

すると両脇の森から追加で2頭程現れ、こちらを睨み付けている。

ピュイッ!

周囲にいる各ギルドの面々とヴァモスとベレーザへの報せと、猪に向けての挑発の意味を込めてノアは指笛を鳴らす。


「わ!ホーミングボアだわ!」

「丸々とした良い個体、木の実やらキノコを食べまくってる様ね。」


【料理人】のレイルとドリーが道の先に居るホーミングボアへの感想を述べていると

『ズザザッ!』

「御呼びですかノア様!」
「一体どうなされ…あ!猪!?」


ヴァモス、ベレーザがノアの元に到着。
ホーミングボアの存在に気付いて身構えていると


「皆さんお腹空いてませんか?」


と、皆の腹の具合を聞いてきた。
 

「軽くは食べてきたけど…」
「入れようと思えばイケます。」
「そうだなぁ、俺は食ってきてないな…」
「私も…え?ノア君まさか…」

「2頭は皆さんに。
残りの1頭は丸焼きにでもして食べましょうか、実は少し腹減ってるので、ね!」

ダンッ!

言い終わる前に駆け出したノアは、徐に腰から荒鬼神を引き抜く。

道の先に居たホーミングボアはそれを見て足元をガリガリとやり、突進の体勢に入る。

「それっ!」ブォンッ!

ノアは<渾身>を発動し、ホーミングボアの頭上に向けて荒鬼神をぶん投げた。

バシュンッ!

荒鬼神の元まで転移したノアは、剣を逆手に持ち替え、真ん中にいるホーミングボアの首に荒鬼神の切っ先を深々と突き刺す。

ドズッ! ブゴッ!?

ホーミングボアが地面に張り付けられる中、地面に降り立ったノアはもう一本の荒鬼神を抜きながら<渾身>を発動し、右左と一連の動作でホーミングボアの首を撥ねる。

ザッ!ゾンッ!

両隣のホーミングボアは、悲鳴を上げる事無く地面に崩れ落ちた。

最後にホーミングボアの首に深々と突き刺した荒鬼神の柄を握ったノアは、<渾身>を発動して一気に首を撥ね飛ばして終わらせた。
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