ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

.

文字の大きさ
299 / 1,117
王都編

薪の煤と脂が混じった良い香り

しおりを挟む
カラメル牛の肉がチリチリと低温で炙られ、ポタリポタリと肉汁が薪に滴る度、辺りには薪の煤と脂が混じった良い香りが漂っていた。

ジジジ…ジュゥウウ…

プスッ

「うん、透明な肉汁しか出てこないからキチンと火が通ってますね。」

「何か同じ光景さっきも見た様な…」



あの後、気性の荒いカラメル牛が追加で5頭、ホーミングボアが3頭現れノア達を襲うも、難なくこれを撃破。

レイルとドリー、【洋裁】の男性も手伝って解体を行っている。

ノアは警戒しつつも脚の部位を焼き、味を見ようとしていた。

ちなみに他の面々は、先程たらふく食べたので断られた。
ヴァモスとベレーザも食べたそうにしていたが胃にもう入らない様だ。
後で食べさせてあげる事にしよう。


「頂きます。」ガブッ!

イタダキマス。  ガブッ、ゴギンッ!

掌サイズに切り分けたカラメル牛の塊肉を、口から溢れんばかりにかぶり付く。
1噛み目は肉のあまりの柔らかさに驚き、2噛み目は口の端から溢れ的そうな程の肉汁に驚き、3噛み目で鼻に抜ける濃厚な肉の香りに驚く。

ヤワラカイノニタベゴタエアルネ。

グリードも同じ感想な様だ。
ちなみにグリードは図太い骨ごと食べているが、相変わらず問題ない様である。


「ノア君ごめーん、解体ちょっと時間掛かるかも。」

「カラメル牛の血、貰い受けるわ。」

「牛の内臓で欲しい部位があるので是非とも【薬剤】に。」

「済まない、あまり毛皮を傷付けたく無いから慎重にやらせて欲しい。」

「いえいえ、構いませんよ。」


カラメル牛の毛もそうだが皮も需要がある。
冒険者が着ける防具というよりは鞄や財布、靴等の日常品が主である。

【魔術】ギルドの面々は瓶の様な保存容器を取り出して血を採取したいそうだ。
絵面は怪しいが、カラメル牛程のモンスターの血は魔力のノリが良いとか何とか。

【薬剤】の面々は内臓の一部を欲している様だ。
何でも生薬に使うとか何とか。

ノアがほぼ一撃で仕留めるので、素材に全くと言って良い程傷が無い為、捨てる部分が無いので解体は取り分け慎重に行う必要がある様だ。

時間にして最低でも30分は掛かるそうだ。
特に急ぐ必要も無いので急かしたりはしないが。


「ヴァモス、ベレーザ、時間が出来たから少し遊ばないか?」

「「遊び…ですか?」」

「そう、鬼ごっこやろうか。
2人が鬼になって30分以内に僕を捕まえるんだ。」

そう提案された2人は、鬼ごっこをやるのには賛成したが


「鬼ごっこをやるのは構いません。
ですが30分は流石にノア様でも無謀では…」

「ノア様の実力を疑う訳ではありませんが、私達かなり速いですよ?」

「うん、知ってる。
遊びとは言ったけど、一応今後の事を考えて獲物を獲る練習も兼ねてるからそのつもりでね。」

「…分かりました。
ベレーザ、最初はボクに行かせて欲しい。
30分と言わず30秒で捕えてみせますよ。」

「うん、分かったわ。」

「それじゃあルールを決めてしまおう。
範囲は皆が解体やってる所からあの小川まで。
大体100メル位かな?
ヴァモス、ベレーザは僕に触れれば勝ち、僕は触られでもしたら負け。
僕は基本的に避けるけど、僕から触りにいくのは有りでも良いかな?」

「ええ、良いですよ。
生まれ変わったボクの力をお見せしましょう。」


2人は30メル程離れて向かい合う。
ベレーザはヴァモスの少し後ろで待機している。


「はい、じゃあ行くよー。始め。」パチン

ドッ!

ノアが手を叩くと同時にヴァモスは1歩で20メル程の距離を詰め、ノアの右肩に触れる様、左手を伸ばす。

ヒョイ。「あ!?」

ノアは体を捻って肩を後方へやると、ヴァモスの手が空を切る。
そのままノアは静かに体を滑らせてヴァモスの背後へと回る。


「くっ!…あれ?…あれ?」


ヴァモスは慌てて後ろを振り向くが、ノアの姿が無いので再度振り返るも、姿が見えないので混乱している。

すると


「ヴァモス!後ろ!ノア様はずっと後ろに居るよ!」

「えっ!?」バッ!


ベレーザから告げられ再び振り向くがノアの姿が無い。
が、ふとヴァモスが自身の足元を見るとノアの足が見えた為、前方に向かって大きく跳躍する。

ダッ!

「ふふふ~どうだい、気付かなかっただろう?」

「ええ…ベレーザが言ってくれなければ気付きませんでしたよ…」

「今後は意識して周囲の気配を探る事。良いね?」

「はい!」ズドッ!


先程よりも更に速度を上げてヴァモスが駆け出す。今度は両手を体の前で構え、完全に掴み掛かる姿勢を取る。

ブォンッ!ブォン、ブォンッブォンッ!ブォンッ!

スッスッヒョイッスッヒョイヒョイ

ヴァモスが繰り出す猛攻を、ノアは後ろに下がりつつ全て紙一重で避ける。
2分程コレを続けたヴァモスは、流石に痺れを切らし


「ご、ごめんベレーザ!やっぱり手伝って!」

「うっしゃあ、待ってたよ!」


先程からヴァモスとノアのやり取りをウズウズと、尻尾をフリフリと揺らしながら待機していたベレーザが勢いよく飛び出す。

ダダダダダダダダッ!

「ニャニャニャニャニャッ!」


ベレーザって猫獣人だったっけ?と錯覚させる様な声を上げてノアの元へ。
さ「」

ブォン『ボッ』ブォン、ブォ『ボッ!』ンッブォンッ『ボッ』ブォンッ!『ボッ』

スッ『バッ』スッ『ババッ』ヒョイッ『バッ!』スッ『バッ!』ヒョイ『ババッ!』ヒョイ

(ほぉ…ヴァモスの大振りの合間を埋める様にベレーザが掴み掛かって来るな…
案外良いコンビかも知れないな…)


「ぬぬぬ!速度はこっちの方が速いハズなのに全部避けられる…」

「し、しかもノアさみゃ、涼しい顔してるニャア…
絶対他の事考えてるニャア…」


自分から持ち掛けた訓練なのでそう易々と捕まる訳にはいかない為、ノアは心を鬼にして事にあたっていた。

解体中の他の者達も時折手を止め、ノア達の鬼ごっこを観戦していた為、結局50分程続いた。






「お、皆さん終わった様ですね。」

「あ、あぁ…」
「うん…」
「…お疲れ様…」

「それじゃあ鬼ごっこはこの辺にして、依頼の続きといきましょうか。」

「は、はい…」
「うにゃあ…」


50分間翻弄されまくった2獣人は、両足をガク付かせながら皆の元へと戻る。

少し疲れた表情をさせているが、2人共口角を上げて晴れ晴れとした顔をしていた。


「ヴァモスは速度は申し分無いが、もう少し小回りを利かせた方が良いな。
踏み込みと着地を意識すると良いよ。」

「はい…!」

「ベレーザはヴァモスの大振りのスキを狙うのは良かったよ。
ただ自分からも、もう少し仕掛けような。」

「はい、次の機会があればそうします。」


等々、感想戦を行っていると


「あ、見えてきた。」

「うん?
お、薄らと煙突が見える…あれが西の村ですか。」


遠くの山と山の麓辺りに薄らと集落の様な物が見えてきた。
皆の反応からして西の村で間違い無い様だ。

(このままのペースで行けば到着は2時間半位後かな?)

と、予想したノアだが、カラメル牛やホーミングボアとの遭遇、野草の採集等を行った結果、西の村に着いたのは3時間後となった。
しおりを挟む
感想 1,253

あなたにおすすめの小説

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...