ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~【勇者】アーク・ダンジョン『時の迷宮』~

"壊"心の秘訣は絶望的状況。

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ブゥウウウウンッ!

「オラァッ!」ブォンッ!

スカッ!ブスッ!

「うぐぅっ!?…ガァッ!」ブンッ!

スカッ!

ドスッ!ドスッ!ブスッ!ヂュゥウウッ!

「おがぁあぁああっ!!」


アークは周囲を飛び交う体長50セメルを越える巨大な蚊共に向けて剣を振るう。
だが剣は蚊に当たらずに空かした挙げ句、体の各所に次々と吸血針を刺される始末。


ブンッ!ブスブスッ!「あっ!ぐっ!?」

…ブンッ…ドスッ!ブスッ!ブスッ!「う…」


しかも吸血針を刺される度にアークの動きが緩慢になり、反応も鈍くなっていく。

その結果


ブスブスッ!ドッ!「……」ヂュゥウッ!ブスッ!ドスドスッ!ブスッ!ドスッ!

ドサッ…


巨大な蚊の群れに集られ、刺されまくったアークは、膝から崩れ落ちてそのまま動かなくなった。




「…おいおい…集団戦は如何に1対1に持ち込めるかがカギだってのに、そんな事一切考えずに突っ込んで行ったらそりゃ殺られるだろ…
今までどう戦ってたんだよ…」

「そ、そんな事よりノア君…あの『ヘヴィ・モスキート』の群れ、こっちに向かってきてるよ…?」

「早く迎撃体勢を取らなければマズイのでは…?」

チャキ…「アレの対処は僕の方でやります。
お2人はその間アークに蘇生薬を。」


カランビットナイフを手にしたノアは、向かってくる『ヘヴィ・モスキート』に向き直るのであった。



『ヘヴィ・モスキート』…デカい蚊。但し、口の鋭い針から状態異常"ヘヴィ(鈍重)"を付与する体液を流し込む事で、対象の動きを鈍らせ、その隙に体液を吸い取る。








「これで蘇生薬4本目…
あれ?アンタの強さに合わせて『時の迷宮』4層で、って事になってるんだよね?
全然見合って無いじゃん。戦績とかちょろまかして無い?」

「悪かったな!
…いつもは広域魔法やスキルを駆使して高火力、短期決着で終わらせてたんだ!
こう言う素材採取なんかのみみっちぃ雑用はミミシラや他の2人にやらせてたんだよ!」

「そのみみっちぃ雑用1つこなせてないんだよアンタは。」

「うぐぐっ…」


この場に総合力100の冒険者が居たとしよう。
1人は戦闘力が20しか無いが、回復役もこなせるし、盾役すら担える。故に総合力100。

片やもう1人は、回復役や盾役等は出来ないが、過剰とも言える火力を有しており、ただ相手を倒すだけならこちらの方が得手であり、これも総合力が100。

今の話を鑑みると、アークは後者に該当する。

今までも高火力で、ただただ討伐目的の依頼しかして来なかったアークにとって今回の処罰は、あまりにも不得手なモノとなるだろう。





「だから分かったろ?
俺にはこの手の処罰は向いて無いんだよ。
おたくらが使った蘇生薬だって馬鹿にならねぇだろ?
ここ(『時の迷宮』)での強制労働なんか辞めて、他の処罰を考えた方が良いんじゃねぇの?」

「うっ…」
「む…」


アークからの提案に揺れるハナとハウンド。
確かに蘇生薬は1本50万ガルもする高級品である。

この短時間に4本も使われ、成果と言えば先程の『アセレラ・ジャガー』2頭のみ。

収支で言えば圧倒的にマイナスである為、早い内に別の処罰を考えた方が良い様に思う。




「何勝手な事言ってんだ。
どうせ『時の迷宮』内で過ごすのが嫌だからそんな事言ってんでしょ。」

「う…」

「今回は僕の主導で行うと言ったでしょう。
要はあなたが死ななきゃ良いんでしょう?
簡単じゃないですか。」


と言ってノアはアイテムボックスからある物を取り出し、アークに装着するのであった。






ギュギュッ!

「はい、もう良いですよ。
次のモンスター探しましょうか。」

「おいちょっと待て!
これじゃ飼い犬みたいな扱いじゃないか!」

「ぷっ…」
「くすくす…」


アークの腰装備にノアが持参していたロープを括り付け、端をノアが持ってリードの様にしていた。

完全にペットと主人の様な見た目に、ハナとハウンドは顔を伏せて笑ってしまった。


「だってこうでもしないと避けれずに死ぬでしょ?
何なら左奥の林に『ヘヴィ・モスキート』の群れが居ますから行ってみます?
またぶぢゅぶぢゅに膨れて腐った木の実みたいな体になりますか?」

「……………いや…これで…お願いします…」


『ヘヴィ・モスキート』に集られて死んだのが余程堪えたのか、アークは素直に応じるのであった。


だが、この方法。
見た目はアレだが、アークに劇的な変化をもたらす事になるとはこの時(ノア以外)誰も思っていなかったのである。






ウボォオオオオオオッ!ズズンッ!!

「うおっ!?な、何だっ!?」

「あれは『ジクルタ・ドラッサオ』。
古い言葉で"短命"と言う意味を持つ超狂暴なゴリラです。
生命活動の全てを攻撃力に振っている為、寿命は長くても3年しかありません。
尻尾にある硬質のコブをハンマーの様に扱ってきます。」

「奴の攻撃1発1発が即死級です!
悪い事は言いません、逃げに徹した方が得策です!」


ハナとハウンドが焦りの表情を浮かべる。


ボァアアアアアッ!ウボァアッ!


木々を伝い、ノア達の前に降り立った体長3メルを越える筋骨隆々なゴリラは、既にこの場に居る全員に狙いを定めている様だ。

ノアの見立てでもアークとハナ、ハウンドが束になった所で太刀打ち出来るかどうかも怪しい所であった。

なので2人の言う通り、この場は避難する事にしよう。

としたのだが、ここでアークが余計な事を仕出かす。


「なぁ、"生命活動の全てを攻撃力に振っている"って言ったよな?
じゃあ俺の<洗脳>も効くんじゃね?」

「「「は?」」」


「何故そう思った?」と言う想いが過った3人を他所に、アークは


「おい脳筋ゴリラ、俺の下僕となり俺に尽くせ。」ギュィイイイッ…


アークの目が金色に輝き、対面に居る『ジクルタ・ドラッサオ』を見やる。

その結果


ヴボォ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"ッ!!!!



「何て事しやがるんだテメェッ!ブチギレじゃねぇかっ!!」

「の、脳筋なら効くと思ったんだよっ!」

「ハナさん、ハウンドさんはこの馬鹿連れて逃げ『ヴバァア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!』チッ!早速来やがった!」


初対面の時からキレていた『ジクルタ・ドラッサオ』だが、アークに精神を逆撫でにされて更に激怒。

発端となったアークに向けて殴り掛かって来たのである。


バァア"ア"ア"ア"ア"ッ!

「ひっ!?『グンッ!』おぅっ!?」

ドゴォオオオッ!!!


あっという間に距離を詰められ、大木の様な腕が振り下ろされるが、寸での所でノアがロープを引っ張り、直撃を免れた。

『ジクルタ・ドラッサオ』の腕が振り下ろされた地面は、爆発的な破壊の嵐が襲い、近くの木々が根刮ぎ倒れる程の陥没痕が出来上がったのである。


「はっはー!こりゃ良いや!
勝手に回避させてくれんだ!楽で『ゴシャッ!』おべぁっ!?」


ノアの手で直撃を免れたアークであったが、引っ張られた反動で近くの大木に叩き付けられた。

ここからアークにとっての地獄が開始される。

何せ、アークは自力での回避が無理な為、ノア頼りになる。

だが『ジクルタ・ドラッサオ』は発端となったアークを狙い続ける。

ノアはこれ以上アークを殺さない様に逃がす為、ロープを引っ張る。

つまり死にはしないが、この戦いが終結するまでの間アークは市中引き回し状態となるのである。   
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