ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~御前試合の代表決め~

激痛

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<発勁(はっけい)>…全身の筋肉や体重移動などを駆使し運動で発生した力や体重をそのまま相手に与えるスキル。

と言っても、一定以上のダメージを出したり身に付けるまでにかなりの反復練習と時間を労する為、玄人向けのスキルと言える。



ズリリ…

「ガフッ!…くそ…<発勁>とはまたニッチなスキルを持ってやがるな…
お陰で反応出来ずに諸に食らっちまったぜ…ゴホッ!」

ザリッ!

「力が強いだけであれば技術で凌駕すれば良い…技術を持っている奴には圧倒的な武力で凌駕すれば良い…
どちらも持ち合わせている奴にはスピードで翻弄すれば良い…
だがこれら全てを持ち合わせている【鬼神】には…?
そんな相手だな、全く…」


観客席との仕切りまで吹き飛ばされたゴファンは、何とか受け身を取った様で大事無い様子。

だが彼の腹部には今しがた付けられた3発分の拳の痕がくっきりと、そして痛々しく残っていた。


「で?俺が体当たりで【鬼神】殿から攻撃を引き出してやったが、対処出来るか…?」

「…<発勁>は予備動作が見えた。
…が、ゴファンを地面に叩き付けた時の攻撃は正直見えなかった…」

「あぁ、同じく…
…取り敢えずは食らうの前提で、その後の受け身や受け流しをしっかり『受け流せるもんなら流してみろ。』

「「っ!?」」


闘技場中央に居たハズのノアが音も気配も立てずにいつの間にか2人に接近していた。
これは<気配消失>と<忍び足>、<縮地>を併用して行った為である。


ヌゥッ…

「っ!」ガッ!ガシッ!

「待て!ゴフゥ!」


ノアが徐にゴフゥに右手を伸ばす。
あまりにもゆっくりな動作であった為、思わずゴフゥは伸ばされた腕を掴んでしまった。


にぃい…

ガシッ!ギュゥウウウウッ!

「あっ!?ぐぎゃあ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″っ!?」


笑みを浮かべたノアは、上半身裸のゴフゥに、まるで服の襟を掴むかの様に胸板の皮膚を思いっきり掴む。

ゴフゥ自身も<激痛耐性>を持っていたとは言え、信じられない力で皮膚を掴まれると言った経験をした事が無く、あまりの激痛に思わず悲鳴を上げてしまった。


「あ″あ″あ″あ″っ!!」

「おぉおおおおおっ!<三連撃>ぃっ!」ボボボッ! 

ガッ!バシッ!ガシッ!「んなっ!?」

ガゴッ!『『パガァッ!』』「ぅぶっ!」


悲鳴を上げるゴフゥを助けるべく、<三連撃>を発動した上で強烈な蹴りを繰り出したゴファン。
だが全弾腕で止められただけでなく、顎に一撃、胴体に2発の<発勁>を打ち込まれ、再びぶっ飛ばされてしまった。


「ぐっ…あ″があ″あ″…『ゴフゥさん。』…っ!?」

『受け流してみろぉっ!』ダガァンッ!

「…か…は…っ…!っがぁあっ!」

ドガッ!


不意に呼び掛けられたゴフゥは、ノアに掴まれたまま思いっきり地面に叩き付けられた。
まるで投げ捨てられた人形の様に地面を跳ねたゴフゥは、激痛から解放された瞬間修羅の様な表情をし、体勢を整えつつノアの肩に<渾身>と<蹴撃>を乗せた踵落としを繰り出した。


ガシッ!

『!』

「ッリャァアアッ!」ギィイイッ!

ガゴォオッ!!


その流れで首に足を掛けて固定した後、ノアの顎目掛けて気を練り込んだ膝蹴りを叩き込む。
所謂『虎王』と言う技である。

こんな物、普通に使用すれば決定打となる一撃であるのだが


…コキッ…

ガシッ!ズダァンッ!

「あぐっ…」


ノアは首を軽く捻ると、ゴフゥの絡まった足を掴み、そのまま地面に叩き付ける。


ズンッ!「ぬっ!?」バッ!
バッ!「ふっ!」ズズンッ!

バガァッ!!

「うぉおあっ!」


眼下に居るゴフゥの顔面目掛けて地面にめり込む程の拳を打ち付ける。
これを首を振って何とか回避したが、地面をひっぺ返して纏めて吹き飛ばされた。


ズンッ…ズズンッ!

「「「「「「オォオオオ…(観客)」」」」」」


″『な、何という息つく暇も無い程の攻防!
【鬼神】に至っては防ぐ事すらせず、超犀野人2の2人は彼からの攻撃に対し防御は意味を成していません!
誰が言ったか【鬼神】との対峙はまるでレイドボス戦!
誇張でも何でも無く正にその通り!上級冒険者である2人が全く手も足も出ません!
つーか幾らなんでも強すぎだろ【鬼神】!』″





パラ…パラパラ…

「おーいゴフゥ大丈夫か…?
胸に手の痕がくっきり付いてるぞ…?」

「…そう言うゴファンだって拳の痣が5個も付いてるだろ…?
…にしても想像以上の強さだ、レイドボスの方がマシとすら思う位だ…」


ゴフゥの胸板にはノアに掴まれた時に出来た手形がくっきりと浮き出ており、血が滲んでいてとても痛々しい。


「どれ位持つか分からないが、俺達も【獣化】して少しでも防御を固めた方が良いだろう。」ゴギンッ!

「あぁ…皮膚を掴まれて好き勝手されるのはもうゴメンだ…」メキメキ…


2人は闘技場中央に佇む人生最強の敵へと再び挑むべく【獣化】を開始した。





「「「「「オォオオオオオッ!(観客)」」」」」


″『お!おおっ!どうやら超犀野人2の2人が【獣化】を行う様です!
と言うかこの状況であればそうせざるを得ないでしょう!
犀獣人の【獣化】は攻撃力・防御力を著しく上昇させるモノとなります!
その代わりスピードが通常時よりも下がる為、こう言った試合や、冒険者稼業では却って弱体化に繋がってしまうので使わずに一生を終える者も居ります!ですが今!この場では使用すべきです!
相手はあの【鬼神】なのだから!』″






『『メキメキメキ…』』

「うおオォオオオオオッ!」

「ガァアアアッ!」

『……。』


巨躯であったゴフゥとゴファンだが、【獣化】により更に筋肉が肥大化し、高密度となっていく。
その上犀獣人であった為、他の獣人よりも硬質の皮膚を持っていたが、更に硬度を増し、まるで磨いた金属を思わせる光沢のある皮膚へと変化していった。

特に肩と太腿の筋肉量が増加し、首が胴体と一体化したのかと言う位太くなった。

他にも肩甲骨まで伸びる長い金髪が更に光量を増し、何とも目に優しくない物に変化している事等が挙げられるが、最も大きく変わった点と言えば2人の額から生えた太く長い一本角であろう。


『おー、まるで鬼人族みたいですね。』

「だろう?
だが鬼人族の角は骨で、犀獣人のは皮膚の一部が硬化したものだ。これ豆知識な。」

「今はそんな事どうでも良いだろう。
…【鬼神】殿、これが俺達が今出せる全力だ。
さっきから全力で君に挑んでいったが、次が本当の最後だ。
どうか君も全力で向かってきて欲しい。」

「この状態の俺達はそこらの重鎧をも凌ぐ防御力を持っているし、攻撃も一味違う。
勝てはせずともせめて一泡位は吹かせてやるからな?」

『存分に。』 
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