ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~事後処理・決意・旅立ち~

挨拶回りその1

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~スロア領・裏門~

「む?そこのパーティよ止まりなさい!
ここはデミ・スロアが治める領地であるが、この門は一部の商人しか通行を許されていない。
用があれば正門を通って戴こう!」

「いただこー!」


通りから延びる真新しい荷馬車の車輪痕を辿って行くと、スロア領に通じる門が見えてきた。

救出作戦の時は木が生い茂り、薄暗い場所であったが、最近は岩塩を買いに来る商人や獣人国から手伝いに来る騎士や兵士等が頻繁に往来する為、以前よりも大分整備されていた。

門の近くには、スロア領の門兵が1人と、木の棒を手にした子供の獣人が門兵の真似事の様に立ってノア達を出迎えていた。


「随分と元気になったみたいですね。」

「あ!ノア殿!?
すいません、気付かずに…」

「いえいえ、連絡も無しに来たので申し訳ありません。
今日はそろそろ獣人国を発つので領主さんに挨拶に来たんです。」

「わ、分かりました。
君…じゃなかった、伝令君、領主さんにノア君が来たと伝えてきてくれるかな?」

「はーい!」タッタッタ…


門兵の真似事をしていた子供の獣人は、門兵の指示を聞いて通用口から領内へと駆けていった。


「元気でしょう?
ちょっと前まで外に出たがらなかったのに、商人や騎士とかが来訪してくる様になったら慣れてきたみたいで、時折ああやって門兵の真似事をしてるんです。
他の子達もあんな感じで、最近色んな事に興味を持ち始めてるんですよ。」

「精神面が心配でしたが、それなら大丈夫そうですね。」

「この間の式典での光景が目に焼き付いたみたいですよ。
きらびやかに宙を泳ぐ海洋種や派手な演出。
伝説上の生き物と言われていたクラーケンの超巨大な姿…
大人である私共ですら心奪われたのです、子供なら尚更でしょう。」


門兵の男性は当時の事を思い出して楽しそうに話していた。


ガコン…ギィイイ…

「…っと、すいません。
領主に用があったのに足止めしてしまいましたな。
どうぞお通り下さい、領主殿は首を長くして待っておりましたよ。」

「へ?」


門兵は門を開放してノア一行を迎え入れる。
同行しているラインハードとヴァンディットは小さく会釈して通っていった。





~スロア領領内~


ガコン…ガコン…

「おお~?何かちょっと来ない内に色々と発展してるなぁ…」

「何か畑が前よりも広くなっている様な…
子供達も手伝ってる様ですね…(ヴァンディット)」

「荷馬車が沢山…もしかして採掘した岩塩を買っているのかな?
ほら、商人さんが指を舐めて味を確認してる。(ラインハード)」

「うん…
その商人達の前でキノコ(クリストフ)がキノコ焼いてる光景が何とも…」


スロア領内に入ると、何台もの荷馬車が来訪しており、採取された岩塩の買付を行っていた。

そのものの味と実際に食材との相性をみる為か、一同の前でつかえるキノコのクリストフが塩を振りながらキノコを焼く姿は何ともシュールである。

更に周囲を見てみれば、以前よりも耕地面積が倍位になり、子供の獣人達と一緒に土から石や木の根を除去していた。

更に奥の方を<千里眼>で見てみると、幾人もの【大工】だろうか、10棟以上の建物を汗水流して建設していた。


「あらまぁ【鬼神】さんじゃないの。
今日は何用で?」

「あ、領主さんに挨拶を、と…
開墾の最中ですか?」

「えぇ。食べ盛りのこの子達の為ですから新たに森を伐り拓いておりましたの。
子供達も手伝ってくれてますが、石や根が縦横無尽に張り巡らされていて中々進みませんわ。」

「こんにちわーおにーちゃん。」
「みてみて、これだけとれたの。」


丁度開墾作業中だったスロア領の婦人と子供の獣人数人のグループがやって来た。
皆石や木の根が一杯に入ったカゴを持って運んでいた。

やはり力の無い女性と子供では中々進まず、男手が回ってくるのを待っている状況らしい。

一行はノア達に挨拶をした後、その場を後にしようとしたので、最後に1つだけ質問してみた。


「ちなみにどの辺まで伐り拓く予定ですか?」

「今見えている所から大体2~30メル奥まった森の中に目印が立っていますので、その辺り迄ですわ。」

「分かりました、ありがとうございます。」


と、礼を述べた後


(〔主様、開墾作業の手伝いに行ってきて良いでしょうか?〕)

(うん、お願いするよ。
ご婦人が言っていた様に、森の中の目印まで。
石や木の根の除去もそうだけど、大木の場合は危ないから倒してきて貰えると助かる。
幹から上はそのまま。薪にするだろうからね。)

(〔畏まり。〕)ズモモモ…


普段は声を掛け合って意志疎通しているが、一応契約獣なので<念話>が可能。

グリードから<念話>が飛んできたので、開墾作業の手伝いに行って貰った。

それと入れ違いの形で奥の方から強張った表情の領主デミ・スロアと、その執事である【戦闘執事(バトラー)】のローザが走ってきた。


(ん?何やら切羽詰まった表情…?)

(『表情が固い…困った様子だな。何か厄介事か?』)


とノアと鬼神が気にする中


『『ズザザザッ!』』

「おおぃノア君っ!
獣人国から数百枚の白金貨(100万ガル/枚)が届けられて、出所を聞いたら君がここに送ったモノらしいじゃないかっ!
ってか、これ元々君への褒賞金じゃないのかぁっ!(デミ)」

「止めて下さいこういうの!
本当に心臓が止まりそうになりましたよ!(ローザ)」


数百枚の白金貨が詰まった麻袋を超大事そうに抱えた【戦闘執事(バトラー)】のローザと共にデミが滑り込んできた。

確かに何の変哲もない麻袋を開いたら数十億相当の金が入っていれば心臓が止まってしまうかも知れない。


「僕は冒険者ですので、大金を持っていても仕方ありません。
助けた子供獣人達や領地経営にでも使って下さい。」

「い、いやそれは非常に助かるが、良いのか?
ほら、親御さん達とか…(デミ)」

「最初両親にも持っていって貰おうと思ったのですが、「途中で飯食って帰る」と言って1600ガルだけ持っていきました。
で、端数の数十万は頂いて残りはここに送りました。」

「それは殆ど全額じゃないか!(デミ)」

「それに、後日″子供達専門の教師″も派遣して下さるそうじゃないですか、貰うばかりでこちらからは何も出来ていません…(ローザ)」


デミの父親であるコモンが行った事(王都騒乱・造魔核の製造)を鑑みれば爵位剥奪所の騒ぎでは無い。

だが、当時緊張状態にあったヒュマノ聖王国と獣人国の近隣にあったスロア領等誰も欲しがらなかった事。

王都の件は規模が最小限に抑えられた事。

息子のデミが全く一連の件に関わっていなかった事などを考慮され、父親の後を継ぐ事になった。

だが領地経営等一切学んだ事の無いままの実践投入故、遅かれ早かれ領民諸とも路頭に迷う事が必定であると予想されていた。

だが、1人の冒険者が頭となり実行されたヒュマノ聖王国からの子供獣人救出作戦。

そこから全世界に知れ渡った禁止魔導具『隷属の首輪』の使用、洗脳教育、貨幣改鋳等により、無血で国の機能を停止させた。

それと同時に獣人国と海洋種と関係を持った事で領地経営も上手く軌道に乗ってきた。

スロア領にとって足枷となる国を排除し、後押しとなる様働き掛けてくれたのも全てノアが関わっていた事である。

デミとローザは、僅か2ヶ月程とは言え助けられてばかりで申し訳無く感じている様なのだ。

それに対するノアの返答として


「今領民の方々が行っている開墾作業と同じですよ。」

「「え?」」

「冒険者とは違い、領主として新たな道を切り開くデミさんの為、人手を集めて邪魔な石や木の根を排除。
僕がやったのはここまで。
協力を仰いでどういった作物を育てるか、水をやるのか、売るのか地産地消で済ますのかはデミさんの手腕に掛かっています。
あの寄付金はある意味僕からの″先行投資″です。
勿論見返りを求めるつもりはありません。
が、デミさんなら今以上に発展させてくれるだろうと信じてます。
そういった意味合いも含めていますよ?」


と、大金は″先行投資″であると言われたデミとローザは少し固まった後


「はは、先行投資か…
だったらその想いに応えないとダメだよなぁ…
それなら有り難く使わせて貰う。
余ったらギルド経由で返金させて貰うとするよ。(デミ)」

「そうですね若様。
明日からもみっちり領地経営について勉強致しましょうね。(ローザ)」


その後、デミとローザに別れの挨拶を済ませ(デミのパーティメンバーには次の訪問先へ行く途中で出会い挨拶をした。)、ノア達一行は次の訪問先へと向かうのであった。
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