ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

.

文字の大きさ
958 / 1,117
取り敢えず南へ編

閑話:【魔王】に関する出来事 その12

しおりを挟む
~南獄大陸・縦穴~


「…ハッ!?
…っ、頭痛っ…くらくらする…何で魔力が枯渇して『ガチッ!』
…え?身動きが…て言うかここ何処よ…暗くて何も見えないじゃない…」


女性が真っ暗な空間で目を覚ます。
彼女はとあるクランに所属していて、つい先程まで【勇者】軍として数千人規模の集団と行動を共にしていた。

目を覚ました彼女は魔力枯渇による頭痛とだるさに身悶えするが、身動き1つ出来ずに途方に暮れる事に。


(<夜目>発動…
…あれ…?私さっきまで何してたんだっけ…?
ドワーフ国を目指して平原まで差し掛かっ…て…
え…?)


真っ暗過ぎた為<夜目>を発動して周囲の状況を確認した彼女だが、そこには恐ろしい光景が広がっていた。


「オゴォ…『ゴボンゴボンッ。』グォ」
「『ゴグンゴグン…』オァァ…」
「アァ…『グビュッ!』ォブゥッ!」


薄暗い縦穴の壁には見知った男女がビッシリと意識朦朧の状態で磔にされていた。
その男女というのは勿論の事【勇者】軍の面々であった。

彼等の中には、縦穴の遥か上から垂れ下がる紐状の物体を咥えており、それを介して″何か″を強制的に摂取させられている様であった。


「な、何よこれ!何で皆ここに…!
お、起きて!起きろ野盗共!何か…何かさせられてるのよ!?」


女性は目に入った光景に驚き、声を荒げるが周りは覚醒する様子は無い。 

するとそこに


【目を覚ました者が居るか。
今後の事を考えれば意識を失っていれば良かったものを…】

「だ、誰!?何処に居るの!?
何やってんのよ!助けなさいよ!」

【それは出来ない相談だ、貴様達はここで一生″苗床″として生きるのだからな。】

「な、何訳分からない事言ってるのよ!?
そもそもアンタ何処に…」


『『『ビョルルンッ!』』』(紐状の物体が延びる)


「『ゴブッ!』ッゴォッ!?」

『『『ゴボゴボッ!』』』(体内に″何か″が流れ込む)

(ぅげぇっ…何こ…柔硬い何かが…何…)


何処からともなく聞こえる声に、更に声を荒げるも、上から垂れ下がった紐状の物体が差し込まれて何かを流し込まれてしまった。


スーッ…(降下)

【貴様達は【魔王】である俺を倒しに来た【勇者】軍。
貴様達は負け、私の捕虜となったのだ。
どういう扱いをしようが私の勝手だろう?】

「む!?むぐぅ!?」

【この世界では捕虜に対して人道的な施しをするのだろうが、私の居た世界ではその考えは破綻している。
それ位追い込まれているのだ、″有効活用″しない手は無い。
″我らの戦力増強″に役立たせて貰う。】

スッ…(上を指差す)


女性の頭上から降下してきた【魔王】アクロスが現在の【勇者】軍の現状を説明しつつ、分かりやすい″例″を指し示す。



『ガギガギガギ』…(『女鏖蟻・テンタクルイーリス』の鳴き声)


「ぅっ…!?ぅっ!?」

【″アレ″は『女鏖蟻・テンタクルイーリス』。
この島で絶賛増殖中の兵隊蟻を産み出し続けている狂暴な女王蟻だ。
″人間という苗床″に卵を産み付ければ通常よりも強い個体が産まれるのでその役目を担って貰うぞ。】

「うっ!ぅぇっ!ぅぁぁぁっ!もごぉああああああっ!」

【だからさっき言っただろう?
″今後の事を考えれば意識を失っていれば良かったものを″とな。
まぁせめてもの慈悲だ、″子″が産まれ、″餌食″となるまでは意識を失わせてやろう。】


縦穴上部を埋め尽くさん程にまで腹部に卵を詰め込んだ大型モンスター『女鏖蟻・テンタクルイーリス』が鎮座し、紐状の物体(卵菅)を延ばして【勇者】軍に産み付けていた。

女性は全てを理解し、悲鳴と絶叫、嗚咽と絶望がない交ぜとなった呻き声を上げていた。

だがその声も少しした後落ち着いていき、彼女は【魔王】の慈悲によって深く意識を落とすのであった。





~王都~


「…という事で、先日出現した【魔王】による報復措置で【勇者】・【聖女】の故郷イグレージャ・オシデンタルは破壊…と言う生易しいモノではなく、″消滅″した。
調査に向かった者達の言では【魔王】本人からそう告げられたらしい。(国王エルニストラ)」

「…報復措置を実行したという事は、【勇者】軍と【魔王】が戦闘になったと言う事。
そして【勇者】軍が″無事″撃破されたと言う事か。(南西の街の領主)」

「おい!″無事″とは何だ″無事″とは!
数千人規模の集団が被害に遭ったと言う事なのだぞ!不謹慎では無いか!(南東の街の領主)」

「オタクの街は直接被害出なかったから良いかもしれんが、こっちは【勇者】軍からモロに被害を受けているんだ。
やってる事は【魔王】よりも【魔王】であろう?
イグレージャ・オシデンタルが消滅し賠償請求も出来なくなったのだから、それ位言ったって許されるだろう?(南西の街の領主)」


イグレージャ・オシデンタル消滅後約3日経った後、集まった情報を元に王都国王エルニストラ・アーミスタから各街、国に対しての説明が行われていた。

王都を中心として東側にある街や国からは今後を不安視する声や【魔王】の脅威に関する声が上がっていたが、西側諸国からは比較的安堵の声が上がっていた。

両者の反応の違いは勿論″【勇者】軍の被害に遭ったかどうか″であった。

東側の街や国には【勇者】軍は向かっておらず、被害は0。
逆に西側は広範囲に渡って被害を被り、既に30を超える街・村・国からイグレージャ・オシデンタルに対して賠償請求や関係解消を申請している最中であった。


「我等に対して不謹慎不謹慎言うのであれば、被害額を見ても同じ事が言えるのだろうな?(南西の街の領主)」

「うっ…ぬ…
そ、それで王都としてのお考えは如何でしょうか…?(南東の街の領主)」


頬杖を突いた南西の街の領主に一蹴された南東の街の領主は、話題を変えようと国王エルニストラへ話を振る。


「こちらは当初と変わらん。
静観し動向を観察。だが接触は避けるつもりだ。(国王エルニストラ)」

「同感ですな。(南西の街の領主)」

「そもそも今の状況では復興以外難しいしな。(南西の街の領主2)」

「な!何故だ!
街1つを消し飛ばした脅威だぞ!?【魔王】なのだぞ!ここで立ち上がらなくてどう

「だったら貴君の街が″第二のイグレージャ・オシデンタル″を演じれば良いだろう?
どうやら王都にそれを演じさせようとしたらしいが、上手く行かなくて残念でしたな?(南西の街の領主)」

「な、何だと!?(南東の街の領主)」

「止さぬか!王の御前だぞ!(国王の配下)」


静観の構えの王都・西側に対し、武力行使で【魔王】排除を″して欲しい″東側諸国とがぶつかり合う始末。

そんな悪い雰囲気に更なる凶報が舞い込んでくる。


バンッ!「失礼します!(ライリ)」

「騒がしいな、如何した?(エルニストラ)」

「申し訳ありません。
ただ、旧イグレージャ・オシデンタルに″巨大な巣″が出現!
恐らく【魔王】に関したモノであると思われます!(ライリ)」

「「「「何っ!?」」」」
しおりを挟む
感想 1,253

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...