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二章 虚なる化け物
12. 復興
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──王都アルコン、教皇親衛隊軍議場公務室。
「ヘルクリーズ殿、コルトスの動向は以上となります」
「ご苦労。避難民は王都の復興に携わってもらおう。客でいてもらう余裕はない」
「はっ! では失礼します!」
「…………」
ヘルクリーズは伝令を見送ると、卓上にため息を落とした。
所属の異なる教皇親衛隊の拠点にヘルクリーズがいるのは、闘技場の動乱に際した反乱により、王国軍の軍議場が修復中だからである。今は残党の制圧と都市機能の復旧活動のため、教会の施設を間借りしている状況だった。
「最悪の日だった……まさか、あいつが愚者に成り果てるとは」
凝り固まった体を動かすべくヘルクリーズは窓辺に立って街を見下ろした。焼け落ちた建物は元の形を思い出すかのように、何人もの作業員によって骨組みを組み立てられていた。
──壊れても立て直せる。むしろ、時間と資金が許せば元の王都よりも住み良い環境が作り出せるだろうとヘルクリーズは信じていた。
「孤児院は、あの辺りかな」
ヘルクリーズが窓に映った己の顔の情けなさにもう一度ため息を吐こうとした時、コンコンと扉が叩かれた。
「ヘルクリーズ、入るよ」
「アルテミス……」
公務室、あるいは臨時王国軍司令室に最も緊張せずに入ることのできる少女は、入室するやいなや、ヘルクリーズに魔法を放った。青い炎──浄化の炎と呼ばれる、聖者にしか使えない魔法である。
愚者の戦意を鎮静させるのに用いるほか、軍内では精神を安らげるのにも利用される。
「すまない。コルトスから帰ってきて、疲れてるだろうに」
「ヘルクリーズの方が疲れてそうだよ。……ハイドラは、見つかってないの?」
「ああ。王都に潜伏していることは、おそらくない。逃げたとすれば、ここから西、コルトスの方面だろうが……」
「どうして?」
「俺ならそうする。人と荷物を隠すなら港だ」
「ご、ごめん。見つけられなかった……」
「別に責めているわけじゃない。そもそも取り逃したのは俺だ」
ヘルクリーズは再び椅子に座った。卓上には王国と周辺国の記された王国で最も詳細な地図が描かれており、王都には赤い印が付けられていた。これから、コルトスにも同様の印を付けることとなる。都市機能が麻痺した印だ。
「アルテミス。今、一番心配なのは君だ。『仲間』を二人も失った君が、虚骸にならないかどうか」
「……わからない。でも、コルトスで『仲間』って言える人が見つかったんだ。田舎町の予備隊の、女の人なんだけど」
「そうか。ゆっくりと『仲間』を増やしていこう。言葉ばかりの関係ではない、心を許せる『仲間』を」
「…………ユスティナみたいな?」
皮肉である。
アルテミスにとって一番の仲間はハイドラの姉にあたるユスティナであり、それを殺めたのはヘルクリーズと王国のドクトリンだった。
一人を犠牲により多くの聖者を生み出そうとする聖誕の儀。此度の儀式は、アルテミスにとっては親友を失い虚骸化の未来を鮮明にした最悪の結果となった。
「……そうだ。生きてさえいれば、良い出逢いに恵まれる。俺も君の『仲間』として支えていこう」
「うん。ありがとう、ヘルクリーズ。……ヘルクリーズも、大事な仲間だよ」
アルテミスはそれだけ言って退室した。その背中は、崩れる鉱山からコルトスの港町と住民を守り抜いた英雄の姿とはとうてい言えなかった。
「新規聖者五十人余り」──王都のみの集計であり、一日に生まれる聖者の数としてあり得ない数字だった。一度の聖誕の儀で生まれる聖者は、多くとも二十人。記録に残る過去最高の人数でも六十人だ。
ユスティナの人生のうち、最たる偉業ともいえるだろう。もしユスティナが孤児でなければ、一族ごと祝福されて然るべきだ。
しかし、ヘルクリーズはアルテミスにその偉業を告げようとはとても思えなかった。
「ユスティナ……君の願いは必ず俺が叶えてみせる。『世界平和』なんて本気で願ってしまった君の、途方もない誓約を、俺が果たしてやる」
「ヘルクリーズ殿、コルトスの動向は以上となります」
「ご苦労。避難民は王都の復興に携わってもらおう。客でいてもらう余裕はない」
「はっ! では失礼します!」
「…………」
ヘルクリーズは伝令を見送ると、卓上にため息を落とした。
所属の異なる教皇親衛隊の拠点にヘルクリーズがいるのは、闘技場の動乱に際した反乱により、王国軍の軍議場が修復中だからである。今は残党の制圧と都市機能の復旧活動のため、教会の施設を間借りしている状況だった。
「最悪の日だった……まさか、あいつが愚者に成り果てるとは」
凝り固まった体を動かすべくヘルクリーズは窓辺に立って街を見下ろした。焼け落ちた建物は元の形を思い出すかのように、何人もの作業員によって骨組みを組み立てられていた。
──壊れても立て直せる。むしろ、時間と資金が許せば元の王都よりも住み良い環境が作り出せるだろうとヘルクリーズは信じていた。
「孤児院は、あの辺りかな」
ヘルクリーズが窓に映った己の顔の情けなさにもう一度ため息を吐こうとした時、コンコンと扉が叩かれた。
「ヘルクリーズ、入るよ」
「アルテミス……」
公務室、あるいは臨時王国軍司令室に最も緊張せずに入ることのできる少女は、入室するやいなや、ヘルクリーズに魔法を放った。青い炎──浄化の炎と呼ばれる、聖者にしか使えない魔法である。
愚者の戦意を鎮静させるのに用いるほか、軍内では精神を安らげるのにも利用される。
「すまない。コルトスから帰ってきて、疲れてるだろうに」
「ヘルクリーズの方が疲れてそうだよ。……ハイドラは、見つかってないの?」
「ああ。王都に潜伏していることは、おそらくない。逃げたとすれば、ここから西、コルトスの方面だろうが……」
「どうして?」
「俺ならそうする。人と荷物を隠すなら港だ」
「ご、ごめん。見つけられなかった……」
「別に責めているわけじゃない。そもそも取り逃したのは俺だ」
ヘルクリーズは再び椅子に座った。卓上には王国と周辺国の記された王国で最も詳細な地図が描かれており、王都には赤い印が付けられていた。これから、コルトスにも同様の印を付けることとなる。都市機能が麻痺した印だ。
「アルテミス。今、一番心配なのは君だ。『仲間』を二人も失った君が、虚骸にならないかどうか」
「……わからない。でも、コルトスで『仲間』って言える人が見つかったんだ。田舎町の予備隊の、女の人なんだけど」
「そうか。ゆっくりと『仲間』を増やしていこう。言葉ばかりの関係ではない、心を許せる『仲間』を」
「…………ユスティナみたいな?」
皮肉である。
アルテミスにとって一番の仲間はハイドラの姉にあたるユスティナであり、それを殺めたのはヘルクリーズと王国のドクトリンだった。
一人を犠牲により多くの聖者を生み出そうとする聖誕の儀。此度の儀式は、アルテミスにとっては親友を失い虚骸化の未来を鮮明にした最悪の結果となった。
「……そうだ。生きてさえいれば、良い出逢いに恵まれる。俺も君の『仲間』として支えていこう」
「うん。ありがとう、ヘルクリーズ。……ヘルクリーズも、大事な仲間だよ」
アルテミスはそれだけ言って退室した。その背中は、崩れる鉱山からコルトスの港町と住民を守り抜いた英雄の姿とはとうてい言えなかった。
「新規聖者五十人余り」──王都のみの集計であり、一日に生まれる聖者の数としてあり得ない数字だった。一度の聖誕の儀で生まれる聖者は、多くとも二十人。記録に残る過去最高の人数でも六十人だ。
ユスティナの人生のうち、最たる偉業ともいえるだろう。もしユスティナが孤児でなければ、一族ごと祝福されて然るべきだ。
しかし、ヘルクリーズはアルテミスにその偉業を告げようとはとても思えなかった。
「ユスティナ……君の願いは必ず俺が叶えてみせる。『世界平和』なんて本気で願ってしまった君の、途方もない誓約を、俺が果たしてやる」
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