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第2話 ヲタクが国民的アイドルを救う!?

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男は今にも銃の引き金を引こうとしていた。
俺はビビる事なく相手を睨み付けていた。

「全員、姿勢を低くしろっ!!」

と、俺は大きな声で叫びつつ前へと突進した。

「……うぜんだよ……死ね!!」
「止めて!」

真顔で男はギロッと俺を睨み付けながら銃の引き金を引く。

バーン!

銃口から銃弾が発射され、銃弾は直進で俺の方へと突き進む。
銃弾がこのまま直進すれば、間違いなく俺の額に確実に命中する。
が、俺は回避する素振りも一切見せず、自ら軌道を変えない弾丸へと突き進む。

「死ぬ気なんでこれっぽっちもねえよ!」

弾丸が視界にハッキリと捉えていた。
スローのようにゆっくりと弾丸が俺に突き進んでいるのかハッキリと分かる。
俺は弾丸に当たらないように軌道を見極めながら顔を右に反らし回避した。

「……は、外した?」

外したと思った男はもう一度、俺に狙いを定めて銃の引き金を引いた。

バーン! バーン! バーン! バーン!

今度は連射で弾丸を撃ち込んできた。
軌道も修正されている。
ちゃんと的を定めて引き金を引いているとなると、相手は素人レベルではないと察する事が出来る。

(……こいつ、軍人か?)

だが、そんな事は俺には全く関係なかった。
軍人だろうか、警察だろうか、俺には関係ないのだ。
4発撃ち込まれた弾丸の軌道を見極めて、身体をほぼ動かす事なく、顔を左右に反らすのみで回避した。

「なっ!? 一発も当たらないだと!?」

男は銃弾を全て俺に撃ち込むが、結局全て俺に回避される。

ガチャ……ガチャ……

何度も銃の引き金を引くも銃弾が発射されない事に男は顔を青ざめ焦りを見せる。

「弾が切れた!?」
「……残念。次は俺のターンだ!」
「なっ!?」

と、男が言葉を発した瞬間には既に俺の拳が相手の眼前に迫っていた。
相手も俺の拳には気付いたようだが時は遅く、俺の拳は相手の顔面にパキポキという鈍い音を立ててめり込んでいく。
そのまま拳を顔面こと地面へと叩き付けようとすると、相手の身体が宙で一回転し、後頭部と背中を地面に強打する。

 ドオン!

「ぐはっ!?」

男は大の字になって白目を向いて気絶していた。
鼻と口から大量の血を流し、鼻の骨はへし折れ、歯も数本抜けていた。
顔面には俺の拳の跡がくっきりと残っており、真っ赤に腫れていた。

「ありゃ、ちょっとやり過ぎたかな?」

周囲の様子を見渡すと物音が一切なく静寂していた。
血が上っていて冷静さを失っていた俺は、取り敢えず深呼吸して現状の把握をした。
先ずは心依ちゃんの安否確認が必要だ。

「こ、心依ちゃん! 怪我はしてない? 大丈夫?」
「だ、大丈夫です」

姿勢を低くして、白色の折り畳み式テーブルに身を潜めていたおかげで無事で済んだようだ。
心依ちゃんの安否確認が出来た為、次に周囲のファンの安否確認をした。

「他の方は大丈夫ですか? 流れ弾を受けた方はいませんか?」
「だ、大丈夫だと思います。皆、あなたの言う通りに低姿勢になってましたから……」

流れ弾による負傷者はいないようだ。
負傷者が出なかった事にホッとした。
後は銃弾で負傷したこの3名を救急車が来るまでにある程度の応急措置をしておかないと、3人の命に危険が及ぶリスクが高まってしまう。
それを避けたい俺は、周囲の心依ファンに協力を求めた。

「皆さんにお願いがあります。この負傷者3名の方の命を救いたいです。でも、俺一人ではどうにもなりません。だから皆さんの力を貸して下さい。お願いします!」

俺は3人の命を救いたい為に頭を下げてお願いした。
すると心依ファンだけでなく、他の推しのファン達やスタッフ達も俺に協力してくれる事になった。
先ずはスタッフさんには救急車と警察を手配して貰った。
救急車が来るまでにある程度の応急措置をしたい俺は、心依の名前が刺繍されているピンク色のタオルを首から取り、タオルを口にくわえビリビリと破く。
破いたタオルの切れ端を出血している腕に巻き、更にペンライトにも巻いて強く固定する。
これで止血は完了だ。
後は腹部に撃たれた男性の応急措置のみとなった。
銃弾が腹部を貫通している為、出血が止まらない状態だった。
取り敢えず、今出来る事は少しでもこの傷口からの出血を抑えること。

「スタッフさん、救急箱はありますか? 出来れば、ガーゼと消毒液をお願いしたいのですか?」
「分かりました!」

女性のスタッフさんが早急に救急箱を持ってきてくれた。
救急箱の中からガーゼと消毒液を取り出し、俺は腹部の傷口に消毒液を一滴残さず打っ掛けた後に、分厚めのガーゼを傷口を圧迫するように当てた。

「後は救急車が来るのを待つだけか……」
「松崎さん、しっかりして!」

心依ちゃんは松崎という男性のスタッフの手を握りしめながら彼の安否を心配していた。
確かに応急措置は完了はしている。
が、傷口の治療が出来た訳ではない。
腹部を貫通している以上、安心出来る状況ではない。
このまま出血が続けば、松崎というスタッフは出血多量で死を招く事になる。
持っても後10分程度だろう。
救急車がここに辿り着く前に松崎さんの命の方が先に失う事になる。

🎵~🎶~🎵~🎶~🎵~🎶~🎵~🎶


突然、パンツのポケットからスマホの着信音が鳴った。
ポケットからスマホを取り出し、画面をチェックすると裕太の名前が表示されていた。
取り敢えず、俺は画面をスワイプし、スマホを左肩と頬に挟んで電話に出た。

「もしもし? 何かようか? 今、取り込み中で手が離せないんだ……」
「は、陽翔氏! ご、ご無事だったのですね!」
「あぁ、何とかな……」
「無謀な行為をした高校生がいると聞いて、もしや陽翔氏ではと思い、慌てて電話をしましたぞ!」
「心配かけてごめんな……そうだ! 裕太に頼み事か……」
「何か嫌な予感か……」

俺は裕太にある頼み事をした。
受話音から裕太の不安がだだ漏れしていた。

「陽翔氏、あれ・・をやるつもりですね?」
「ご名答(笑) 俺の考えを直ぐに理解できるのは、やっぱり裕太だけだわ(笑)……裕太、頼めるか?」
「状況は分かりませんか、陽翔氏のその焦りようは危機的な状況下にあるって事なのでしょう。少し、私に時間を下さい」
「頼むわ、裕太……」

この状況を覆す方法はただ1つのみ。
あれ・・をするしかない。
その為には裕太がある条件を満たさないといけない。

「……裕太、頼む! これ以上は松崎さんの身体が持たない!」

間に合わないかと思った瞬間、バンッ!と館内の全照明が落ちた。

「きゃあ!」
「だ、大丈夫ですよ。ただの停電だと思います」
「停電? 幕張メッセで?」

だよな……。
心依ちゃんのリアクションは間違っていない。
普通は幕張メッセで停電なんで起きない。
これは人為的によるもの。

(……ギリギリセーフだ、裕太)

館内は照明が落ちた事で真っ暗だ。
普通の人間ならこの真っ暗な中では何も見えない筈だ。
俺はこれを狙っていた。
この館内にいる全員の視界が奪われている今が絶好のチャンスなのだから。

(サンキューな、裕太! このチャンスをちゃんと使わせて貰うぜ!)

傷口を圧迫しながら俺は脳裏にあるイメージを浮かべた。
貫通した傷口を塞ぐのではなく、出血した量の血を肉体に戻すイメージだ。
元々の量の血を体内に戻せば時間稼ぎが出来る。
俺は【輸血ブラッド・トランスフュージョン】と心の中で叫んだ。
すると、傷口を圧迫している右手から凄絶な金色の輝きが放たれた。
輝きが凄まじく、眩しすぎて誰も目を開けられないていた。

「な、何っ!? 光が眩しすぎて何も見えないわ!?」

皆の目が眩んでいる間に俺は金色の輝きで、松崎さんの体内に血を戻す事に成功した。
出血はしているものの、救急車がここに辿り着くまでの時間稼ぎは出来た。

「良し……こんなもんだろ……」

真っ暗な館内に再び照明が電灯され、その10分後に救急車がここへと辿り着き、松崎さんは無事に病院へと搬送された。

「ふぅ……何とかなった……」
「す、凄い……」
「へ?」

心依ちゃんが頬を真っ赤にして俺を見つめている。

「今も、昔も、やっぱり陽翔君・・・は凄いや♡」
「へ? なんで俺の名前を……」

白色の折り畳み式テーブルから飛び出した心依ちゃんは、何故か俺の名前を知っていて、しかも躊躇いもなく俺に抱き付いた。

「やっと……やっと、陽翔君に会えた♡」

心依ちゃんは頬を真っ赤に染めて、10cmぐらいの距離で俺の顔を見つめていた。

「え? え!? ど、どういう事!?!?!?」

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