秘密メイクシンドローム

岩久 津樹

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第三の秘密

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 六月も半ばに差し掛かり、毎日のように雨が降っている。雨が降ると沸き起こる問題が傘の盗難だ。安っぽいビニール傘だと、コンビニや学校の傘立てに置いていると高確率で誰かに盗まれる。ビニール傘はコンビニで五百円程度で購入できるが、高校生にとって五百円は大金だ。そこで僕は盗みにくい傘にしてしまおうと考え、取っ手に大きく「黒田」と書き込んだ。これで盗めるものなら盗んでみろと、得意げな顔で登校をすると、教室の後ろに置いてある傘立てに、名前入りの傘をこれまた得意げに刺し込んだ。
「あ、おはよう黒田くん」
 その刹那、背後から声が聞こえて振り返る。そこには可愛らしい赤い傘を持った白石さんが立っていた。
「お、おはよう」
 僕は後悔した。冷静に考えれば高校生にもなって、傘に自分の名前を書き込んでいる男なんて恥ずかしいだろう。とにかく早くここから離れたいと、一言挨拶を返しただけで机に向かってしまった。席に座ると、白石さんと会話をできるチャンスだったのにと、再度後悔をする。なぜ僕は全ての選択を間違えてしまうのだろうか。梅雨の季節が僕のマイナス思考をさらに強めているようで、この日は一日中頭を抱えて後悔の念に押し潰されていた。
 やはり僕には秘密が必要だ。秘密ができたタイミングはあんなに白石さんと話すことができたのだ。とにかくもっと大きくて深い秘密を作らなければならない。しかし、どうすれば良いのか思い付かない。そうだ、白石さんと一緒に犯罪を犯そうか。そうすれば深い秘密を共有することになる。いや、そんな馬鹿げたことできるはずがない。ああ、それじゃあどうすれば良いのだ。
 こんな考えを毎日のように繰り返しては、授業も集中せずに一日が終わる。今日も気が付けば帰りのホームルームが終わっており、教室にはもう白石さんしか残っていなかった。今日はアルバイトの日だと思い出し、急いで帰り仕度をして立ち上がり、教室を出ようとした時に緑川と鉢合わせになった。
「おお黒田、今から帰るの?」
「うん。今日バイトなんだ」
「へえバイトしてるんだ。どこで?」
「駅前の喫茶店」
「え、もしかしてスタバ?」
「ううん、違う」
 緑川は長話をする気満々なのか、傘立ての上に座り始めた。一刻も早く喫茶アカサカに向かいたいのだが、緑川は矢継ぎ早に会話を進める。
「なんてお店?」
「喫茶アカサカってところ」
「知ってる! あの雑貨がいっぱい置いてあるラブホの横にある店だろ?」
「そうそう」
「あそこ薄暗いし入りにくんだよな。今度黒田がバイトの日に行っても良いか?」
「え、あ、うん。良いよ」
「サンキュー。何曜日にバイトなの?」
「えっと、月と水。あとは土日」
「週四で入ってるんだ。すげえな。何時から何時まで働いてるの?」
「平日は十七時から二十一時。土日は週によって違う」
 次々と繰り出す緑川の質問に、会話を切り上げるタイミングを失ってしまった。それにしてもスムーズに言葉が出てくる男だなと感心してしまう。
「それじゃあ今度部活終わったら遊びに行くわ。そうだ、黒田のメアド教えてくれない?」
 そう言ってポケットから携帯電話と取り出すと、慣れた手つきで操作を始める。
「はい、赤外線」
 携帯電話を差し出す緑川に、慌てて僕も携帯電話を取り出して、不慣れな手つきで赤外線受信の設定に進む。受け取った緑川のメールアドレスは、自身の名前と好きな単語が羅列してあるような内容だった。対して僕は名前と誕生日を掛け合わせたつまらないメールアドレスである。
「それじゃあそろそろバイトだから」
「ああ、呼び止めてごめんな。バイト終わってからで良いからメールくれよな」
 ようやく会話を止めることに成功して、教室を出ようとしたその時、ふと教室内に視線を映すと、文庫本を開いて席に座っている白石さんが視界に入った。そして白石さんは本を読んでいるわけではなく、緑川の方をジッと見つめていたのだ。
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