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最後の秘密
二
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私が黒田くんに好意を持ち始めたのは、高校の入学式の事だった。斜め左後ろに座っていた黒田くんを一目惚れしてしまったのだ。中学時代にあんな経験をしたにもかかわらず、また人を好きになるなんて、自分で自分の恋愛体質を恨んだ。しかし、中学時代のトラウマのせいで、仲良くなろうとは思えなかった。なので二年間私は、ただただ黒田くんを眺めているだけの生活を送っていた。そして三年生になったある日、「アッパレ!」という番組で気になる異性との距離を縮める方法が紹介されており、衝撃を受けた。
秘密とはつまり、信頼できる相手の情報ではないか。そうだ、お互いの秘密を共有できれば、私も相手の事を信頼できる。だって、お互いがお互いの秘密を握っていれば、嘘なんかつけるはずがない。
そこで私は考えた。黒田くんと共有できる秘密を。だけど一向に思いつかずに、夜も眠れない日が続いた。そこであのジャーキング事件が起きたのだ。
あの時は本当に恥ずかしかった。だって黒田くんの笑い声が聞こえてきたから。きっと嫌われてしまったと、その時は考えたのだけど、私はそれを二人の秘密にしてしまおうと考えた。これが見事に成功して、今までで一番長い間黒田くんとお喋りをすることも叶った。あの時は幸せだったけど、やっぱりまだ黒田くんを信頼できなかった。この人も私を裏切るかもしれないと思ったから。黒田くんを信頼するには、黒田くんの秘密も知らないといけなかった。
そんな時、偶然にも黒田くんのカンニングという秘密を共有できた。おかげでメールアドレスの交換もできて、さらに黒田くんの事を知れて、信頼感も増していった。私のジャーキングの秘密も他の子に話している様子もなかったし、私はもっともっと黒田くんと仲良くなりたいと思った。だけど私には社交性があるわけでもないから、これ以上黒田くんと仲良くなれる方法が思い付かなかったし、それ以上に黒田くんを信頼するための道具……つまり秘密が欲しかった。
だから作ることにした。秘密を。それが煙草。私が煙草を吸っているという秘密を作って、黒田くんと共有しようと思った。それから毎日鞄に煙草を隠し持って、黒田くんと二人きりになれるタイミングを待った。その時に偶然ぶつかった振りをして、煙草の箱を落とそうという単純な手を考えて。
そして雨の降るあの日にそのタイミングは訪れた。黒田くんと緑川くんが傘立ての前で話していたあの日、いつも帰りのホームルームが終わるとすぐに帰っちゃうのに、黒田くんは考え事をしていたみたいで、なかなか席を立たなかった。それで私も本を読んでいる振りをして、他の子が帰るのを待った。だけど緑川くんと話し始めて、結局黒田くんが先に帰ってしまった。だけど私は気が付いた。緑川くんが座る傘立てに黒田くんの傘が置きっ放しである事を。その日の朝に傘の取っ手に大きく黒田くんの名前が書いてある事を知ったから、それが黒田くんの傘だってことはすぐに分かった。つまりもう少し待っていれば、黒田くんが傘を取りに戻ってくる。そう考えた私は、鞄の一番上に煙草の箱を置いて、チャックを開いて黒田くんが戻ってくるのを待っていた。あとはタイミングよくぶつかった振りをして、煙草の箱を落とせば良い。雑な作戦だったけど、意外にもあっさりと成功した。そこで黒田くんとたくさんお話ができて、あの時は本当に楽しかったし、黒田くんは信頼できる男の子だって思った。だけど、その信頼はその日中に崩れてしまった。
その日、黒田くんのバイト先は緑川くんとの会話で聞き取れたから、放課後にこっそり見学しようと思った。そうしたら黒田くんとさっきの女の人が出てきて、仲が良さそうに話しているのを目撃した。黒田くんの事をクロちゃんと呼ぶくらい、二人の関係は深いものだって思った。ああ、黒田くんもあの男みたいに、嘘をついて複数の女性と仲良くするんだ。そう思って失望した。だけど、まだ黒田くんを信頼したい気持ちも残っていた。だから、今度は黒田くんを試すための秘密を作ることにしたの。
その方法が、援助交際の偽造。黒田くんがバイトの日は絶対に二十一時に終わると、煙草事件の日に知ったから、時間を調整するのは簡単だった。近くにいた浮浪者に、ラブホテルの前で黒田くんが来るまで一緒にいて欲しいと一万円で頼んだ。ホテルの前でおじさんと立ってたら、きっと私が援助交際をしていると勘違いしてくれるだろうと踏んだんだけど、これも成功した。偶然私が浮浪者に一万円を渡す場面を見てくれたから、余計に援助交際感を出せたのだろう。本当はお金を受け取っていたのではなく、私が渡していたのに。一つ予定外だったのが、あの女に見られてしまったことくらいだろう。とにかく私は逃げる振りをした。そして捕まり……これも予定外だったのだけど、黒田くんが告白をしてくれたこと。本当に嬉しくてあの時は感極まって泣いてしまった。そして付き合った記念に二人で煙草を吸おうと言ってくれた黒田くんが、ライターを取りにバイト先に向かってから、なかなか戻って来ないから、こっそりあの喫茶店に行ってみた。そしたら、店の奥の方でまた黒田くんとあの女が仲良さそうに話している光景が見えた。絶望した。だけどやっぱりまだ黒田くんを信頼したかった。だから殺すことにしたの。殺人者になった私への反応を見て、本当に信頼できる男の子なのかを確かめるために。
だけど、それも失敗に終わったみたい。だってあの女も一緒に連れてきたから。そう、もう終わり。私にはもう、人を信頼する事ができない。さよなら黒田くん。これが私の最初で最後の秘密。きっと黒田くんも私に絶望したよね?
秘密とはつまり、信頼できる相手の情報ではないか。そうだ、お互いの秘密を共有できれば、私も相手の事を信頼できる。だって、お互いがお互いの秘密を握っていれば、嘘なんかつけるはずがない。
そこで私は考えた。黒田くんと共有できる秘密を。だけど一向に思いつかずに、夜も眠れない日が続いた。そこであのジャーキング事件が起きたのだ。
あの時は本当に恥ずかしかった。だって黒田くんの笑い声が聞こえてきたから。きっと嫌われてしまったと、その時は考えたのだけど、私はそれを二人の秘密にしてしまおうと考えた。これが見事に成功して、今までで一番長い間黒田くんとお喋りをすることも叶った。あの時は幸せだったけど、やっぱりまだ黒田くんを信頼できなかった。この人も私を裏切るかもしれないと思ったから。黒田くんを信頼するには、黒田くんの秘密も知らないといけなかった。
そんな時、偶然にも黒田くんのカンニングという秘密を共有できた。おかげでメールアドレスの交換もできて、さらに黒田くんの事を知れて、信頼感も増していった。私のジャーキングの秘密も他の子に話している様子もなかったし、私はもっともっと黒田くんと仲良くなりたいと思った。だけど私には社交性があるわけでもないから、これ以上黒田くんと仲良くなれる方法が思い付かなかったし、それ以上に黒田くんを信頼するための道具……つまり秘密が欲しかった。
だから作ることにした。秘密を。それが煙草。私が煙草を吸っているという秘密を作って、黒田くんと共有しようと思った。それから毎日鞄に煙草を隠し持って、黒田くんと二人きりになれるタイミングを待った。その時に偶然ぶつかった振りをして、煙草の箱を落とそうという単純な手を考えて。
そして雨の降るあの日にそのタイミングは訪れた。黒田くんと緑川くんが傘立ての前で話していたあの日、いつも帰りのホームルームが終わるとすぐに帰っちゃうのに、黒田くんは考え事をしていたみたいで、なかなか席を立たなかった。それで私も本を読んでいる振りをして、他の子が帰るのを待った。だけど緑川くんと話し始めて、結局黒田くんが先に帰ってしまった。だけど私は気が付いた。緑川くんが座る傘立てに黒田くんの傘が置きっ放しである事を。その日の朝に傘の取っ手に大きく黒田くんの名前が書いてある事を知ったから、それが黒田くんの傘だってことはすぐに分かった。つまりもう少し待っていれば、黒田くんが傘を取りに戻ってくる。そう考えた私は、鞄の一番上に煙草の箱を置いて、チャックを開いて黒田くんが戻ってくるのを待っていた。あとはタイミングよくぶつかった振りをして、煙草の箱を落とせば良い。雑な作戦だったけど、意外にもあっさりと成功した。そこで黒田くんとたくさんお話ができて、あの時は本当に楽しかったし、黒田くんは信頼できる男の子だって思った。だけど、その信頼はその日中に崩れてしまった。
その日、黒田くんのバイト先は緑川くんとの会話で聞き取れたから、放課後にこっそり見学しようと思った。そうしたら黒田くんとさっきの女の人が出てきて、仲が良さそうに話しているのを目撃した。黒田くんの事をクロちゃんと呼ぶくらい、二人の関係は深いものだって思った。ああ、黒田くんもあの男みたいに、嘘をついて複数の女性と仲良くするんだ。そう思って失望した。だけど、まだ黒田くんを信頼したい気持ちも残っていた。だから、今度は黒田くんを試すための秘密を作ることにしたの。
その方法が、援助交際の偽造。黒田くんがバイトの日は絶対に二十一時に終わると、煙草事件の日に知ったから、時間を調整するのは簡単だった。近くにいた浮浪者に、ラブホテルの前で黒田くんが来るまで一緒にいて欲しいと一万円で頼んだ。ホテルの前でおじさんと立ってたら、きっと私が援助交際をしていると勘違いしてくれるだろうと踏んだんだけど、これも成功した。偶然私が浮浪者に一万円を渡す場面を見てくれたから、余計に援助交際感を出せたのだろう。本当はお金を受け取っていたのではなく、私が渡していたのに。一つ予定外だったのが、あの女に見られてしまったことくらいだろう。とにかく私は逃げる振りをした。そして捕まり……これも予定外だったのだけど、黒田くんが告白をしてくれたこと。本当に嬉しくてあの時は感極まって泣いてしまった。そして付き合った記念に二人で煙草を吸おうと言ってくれた黒田くんが、ライターを取りにバイト先に向かってから、なかなか戻って来ないから、こっそりあの喫茶店に行ってみた。そしたら、店の奥の方でまた黒田くんとあの女が仲良さそうに話している光景が見えた。絶望した。だけどやっぱりまだ黒田くんを信頼したかった。だから殺すことにしたの。殺人者になった私への反応を見て、本当に信頼できる男の子なのかを確かめるために。
だけど、それも失敗に終わったみたい。だってあの女も一緒に連れてきたから。そう、もう終わり。私にはもう、人を信頼する事ができない。さよなら黒田くん。これが私の最初で最後の秘密。きっと黒田くんも私に絶望したよね?
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