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第二章•魔王編

29話◆魔王を苛立たせる一言「何で?」

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「え、何で?」



結婚しない理由を、え、何で?と返す馬鹿。

したくないからに決まっているじゃないか…



でも、頭が空っぽのコイツにそう言った所で、また「え、何で?」と返されるに決まっている。



頭の中で、色んな答えをシミュレートしてみるが、全て「え、何で?」で返される。



ただ、ただ、腹が立つ。



ロージアは、頭の中であーだこーだと、シミュレートしている間ずっとライアンに正面から見つめられ続けていた事を思い出した。



ライアンの視線が鬱陶しい。



「…おい、アホの子…いい加減、僕を離せ……」


「ロージアって、スゲー美人だな…」



突然のライアンの発言にロージアの表情が強張る。



「……は?このタイミングで言うような事じゃないよね。
…どうでもいいから、離せよ…鬱陶しい…」



「え、何で?」



会話が成り立たない!!ムカつくわ!この「何で?」

ディアーナは馬鹿だけど、こいつは馬鹿になれる程の脳ミソも無い!
空っぽ過ぎて、ツラい!しんどい!

…うわー…泣きそう…。



「ロージア…スゲー可愛い……
魔王だとか、そんなん関係無く、俺…ロージアが好きなんだ…。」



「は?何で?」



ロージアの方から、逆に言ってしまった。「何で?」



「だって、ロージア可愛いし!美人だし!母上に似てるし!触った胸の感じもちょうどイイし!」



……なんか、女性を口説くワードとして絶対ダメだろうワー

ドが幾つか入ってないか?



「……とりあえず、お前が勇者どころか、男としても、人としても、サイテーなアホだってのは分かった。
……お前みたいなアホの子は、ディアナンネに帰って畑で肥えにまみれて芋でも作ってろ。」



「え、何で?」



ピキッ



ロージアの

何かにヒビが入った音がした。



「馬鹿は死ななきゃ治らないって言葉があるそうだよ!
ディアーナが居た遥か遠い異世界に!

お前にピッタリだね!」



ロージアの足元がザワザワと黒ずみ始め、やがて鞭のようにしなる植物のツルのような物がたくさん現れる。



「僕の夫になりたいなら、これくらい平気だよね!さようなら!
無事、生まれ変わったら僕の夫になってね!」



「え、何で?今の俺でイイじゃん。」



もう、口を開いて何か言うだけで腹が立つ!

もう、本当に死んでイイよコイツ!



ロージアの足元から広がったツルは、鋭い棘をたくさん生やし、イバラの鞭になりライアンに襲い掛かる。



「え、何だコレ。」



ライアンは襲い掛かるイバラの鞭に、ロージアの剣で正確に狙った位置を突いて軌道を変えていく。



「何か邪魔ー。」



何か邪魔!?僕が、お前を殺そうと思って攻撃してるのを、何か邪魔!?



「で、何で急に来たの?俺に会いたくなってくれた?
もう、何度剣を抜いても現れてくれなかったからさ、嫌われたかなって心配してたんだよー!」



ロージアのイバラの鞭を剣先でいなしながら、普通に話す。


認めよう、ディアーナ達に鍛え上げられ強くなった。

だが、強すぎない?

たった一年で、コレ?僕の攻撃を余裕であしらうとか。



「お前…何なの?」



本当に兄上とリリーの息子?

父が多くの少女達の魂に守られ、母は高位の神の力が触れた聖女の力を受け継いでいる。

そんな二人の息子だから、普通の人間ではないかも知れないが、それにしても子供であるのに魔王の僕と張り合えるなんて…。





「お前何なのって?俺!?ライアン!」



アホの子の答えは、想像以上にアホだった。



ロージアは脱力し、その場にガクッと膝をつく。



「どうしたんだ!大丈夫か!?腹が減ったのか!?」



もう、誰かコイツを黙らせて……



膝をついたロージアに駆け寄るライアン、そのライアンの腕を掴むとロージアは転移魔法を使った。





転移した場所はディアナンネの王城、王の間。



と言っても城と呼ぶには程遠い、ちょっと立派なお屋敷の王の間は、人が自由に王に意見を述べる場所から談話室みたいになりつつある。



王の間に居たディアナンネ国王夫妻は、急に現れたロージアに驚く。



「うおっ!ロージア!?」



驚いたレオンハルト国王が声を出す。

世界が平和な内はロージアは現れないと言っていた。

だから、もう生きている内に会う事は無いと思っていた。

そのロージアが現れた。

ライアンの腕を掴んで。



「馬鹿兄上!馬鹿息子を引き取れ!こいつが居ると僕の平和が侵される!」



涙目になって訴える魔王。世界を破滅させるかも知れない、神に連なる畏怖すべき存在。



の、ロージアがライアンの腕を掴んで涙目になっている。



「頼むから…頼むから!コイツを引き取れ!そして黙らせろ!」



ブワっと涙を溢れさせたロージアの可愛さに、キュンとしてしまうレオンハルト国王とライアン。



「ロージア…すまんが、それは出来ん。創造神と約束をしたからな。手元から離すと。」



「…………」



レオンハルト国王の後ろで、リリー王妃が視線をそらす。



創造神との約束はディアーナ様に預けるとの事で、手元から離すとか特に約束してはいなかったが…。



「そんな無責任な!兄上の馬鹿息子じゃん!何とかしてよ!」



「何とか出来ん!返品不可だ!妻のお腹には子供がいる!こんな奴が側に居たら、穏やかに過ごせんだろうが!」



ロージアは、レオンハルト国王の言葉に激しく同意した。

同意したが、だったら僕はどうすれば………。



「親にまで見捨てられて…ははっ、お前は誰からも愛されてないんだね」



ロージアはかつて、誰からも愛されない自身を呪い、愛される事を強く渇望した。

それゆえに、自身と同じように家族に疎まれるライアンに嘲笑を浮かべる。

笑ってなんかいられないよね?ざまあみろ。と。



「え、別にいいけど?俺がロージア愛してるから。
父上と母上が俺を見捨てても、俺もうロージアしか見てないし。」



…………一年前に、湖の畔で会った時は、馬鹿ではあったが普通の子供だった。



確かにあの時、コイツは僕と結婚したいと言った。

だが、あの時の子供の戯れ言だと聞き流せるようなホワホワとした淡い恋ごころじゃない。



確実にヒートアップしている!会ってもいなかったのに!

なぜ!?



「……お前、ディアーナに洗脳されてるだろ…?」



「洗脳?」



「でなかったら、何で急にこんなに僕にどハマりしてるんだよ!おかしいよ!」



「それはロージアが可愛くて、母上に似てるし胸の感じも好みで…」



「お前サイテーだ!!!」



ロージアはライアンを平手打ちした。パアンと小気味良い音が王の間に響く。



「バカ!!!」



ロージアは泣きながら姿を消した。



「ま、待てロージア!コイツを置いていくな!どうすりゃいいんだ!」



レオンハルト国王がライアンを指さしながら、ロージアの消えた空間に向かって声を掛ける。



「……せっかく来たのだから、何か野菜持ってっていい?父上。
ロージアも居なくなったから俺、転移魔法使ってディアーナ姉ちゃんの所に帰るし。」



「あ、ああ…転移魔法使えるのか、お前…」



少しばかり驚いた顔をしたレオンハルト国王の隣に立っていたリリーがツカツカとライアンに歩み寄り、久しぶりに会う息子に微笑みかける。



「ライアン…あなた、本当にサイテーよ?女性を何だと思ってるのよ。」



母のリリーが、笑顔で…

怖い位の笑顔で物凄く怒っていた。




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