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雷鳴を聞き、稲光を浴びて。
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ランは俺からの初めての受け身での口付けに、びっくりしたと分かり易い位に一瞬、身体を強張らせた。
俺の方から柔らかくフワッと重ねた唇は、すぐにランの方から強く押し当てられ、ランの親指が俺の顎先を撫でた。
顎先に当てた親指を緩く下側に引いて唇を開く様に促される。
深く重ね合わせたいと態度で催促をされる。
「ちょっ…ちょっと待て…」
唇の外側を重ねただけの口付けであるのに、余りにも熱のこもったランのキスに流されてしまいそうになり慌てた俺は、互いの唇の間に手の平を突っ込んでランの唇を遮った。
ランの唇の方に向けた俺の手の平に、チュクッと音を立ててランが吸い付く。
キスを遮る為に出した手の平に、ランの唇の質感と強く吸われた感触が伝わり、腰回りがゾクゾクっと震えて膝がカクッと折れそうになった。
「俺と会う前に、恋人が居た事があるって言っていたよね。
その人とは何度も深くキスをしたんだろ。
何で俺は駄目なの?男だから?」
「違う。
………天気が悪いとは言え、まだ明るい。
誰に見られるかも分からねぇし、落ち着かん。
相手がどうこう以前の問題だ。
日のある時間に、こんなオープンな場所では出来ん。」
ランが身を離し、一歩下がって距離を取った。
冷たい風が心地良く感じるほど、俺の顔は熱く火照っている。
今、ランが俺の頬に触れれば、先ほどまで「冷たい」と言っていた俺の顔が熱を帯びている事もすぐバレてしまうだろう。
幸い冷たい外気のせいか赤みが顔には現れてない様で、ランには俺が今テンパった状態だって事は気付かれてない様だ。
「その古い恋人とのキスを、大事にしているんじゃないよな」
「ンなワケあるか。
どれも、半年も持たなかったんだぞ。」
ランには一応、俺の恋愛遍歴を全て話してある。
3人の女性と付き合い、どの女性とも半年持たなかった。
ケンカ別れはしておらず、互いに何となく自然に離れていった。
今も彼女達の事は嫌いではない。
良い人達だったし、人として好ましい方なのだろうが、最初から最後まで恋愛はしてなかった気がする。
ランにも聞かれるままに正直に答え、そう話してある。
「半年も付き合ってない人達と何度もキスしたんだろ。
俺の事は………やっぱりまだ、認めらんない?」
「……ッ……うぅん……何でだかなぁ……何でなんだろうな?
違うんだよな……。認めるとか認めないとかでも無くてだな…」
何が違う、と問われれば気持ちの軽さが多分違う。
彼女達との付き合いはキスやセックスも含めて、もっとこうフラットな感じだった。
こんなにも激しく感情を揺さぶらされた事なんか無い。
親子ほども年下の男にキスされただけで、膝から力が抜けそうになるとか顔面から火を吹きそうな程熱くなるとか。
何だソレ。
「真弓を好き過ぎて、どうしたらいいか分からないと言ったら、だったらキスでもしとけって言ったのは真弓だろ。
なんで止めるんだよ。」
「だ、だから!!人の目につくような場所ではな!!」
これはもう、言質を取られたに等しい。
人の目につかない場所でなら、キスを許すと言ったのだと。
俺は「ハァー」と大きな溜め息を漏らす口を、手の平で押さえた。
「真弓、それ間接キスだ。」
「…………いちいち言わんでも、いいだろうが。
散々っぱらキスしといて、今さら間接キスがなんぼのモンだって言うんだ。」
ランが吸い付いた手の平を顔からどかし、ジーンズの腿の辺りにゴシゴシと擦り付けながらバイクを停めた場所に向かう。
いよいよ雨が降りそうな空模様となり、夕方を過ぎて薄暗くなってきた。
「真弓、ウチに帰ったらキス、させて。」
「…………………。」
ランに返事を出来なかった。
聞こえなかったフリすら出来ないままで、聞こえた上で返事をする事が出来なかった。
嫌だなんて言える立場ではない。
今までの恋人には出来た事を、ランには出来ないなんて納得するワケ無いだろう。
その理由が、感情がワチャワチャになって、しんどいからって言えるワケがネェ。
いや、ホント……ランが俺を好き過ぎて、どうしたらいいか分からないってのと同じ様に
俺も好かれ過ぎて、こんなの、どうしたらいいか分からん。
ただ、アイツにばかり我慢を強いるのは確かにフェアじゃない。
だから俺も覚悟を決めなきゃならんだろう。
十年ぶり位だろうがディープキスなんざ、未経験ってワケじゃねえんだし。
海を離れてバイクを走らせ、俺の家が見える頃にはポツポツだった雨が一気に降り始めた。
バイクを軒下に置いてシートを掛け、玄関に入った途端に雷も鳴り出し、雷鳴と共に屋根瓦に当たる雨の音がうるさくなった。
もう夜になっていたが、雨雲と稲光のせいなのか微妙に外が明るい。
まだ明かりを点けてない玄関でも互いの表情が分かる位には。
「本降りまでには間に合ったと思ったけど結構濡れたな。」
ランが濡れて頬に張り付いた俺の髪の毛を指先で摘んで耳に掛けていく。
濡れた肌に触れるランの指先に意識が捉われ言葉が出ない。
少し俯いた俺の前髪からポタリと滴る雫を指先で払って落としたランは、その指先を海でキスをした際と同じ様に俺の顎に運び、顎先に親指を当て摘んだ。
俯かせた顔を上げさせられ、互いの目を合わせる。
古い日本家屋の玄関はガラス張りの引き戸で、稲光がフラッシュの様に強い光を玄関に射し込ませた。
雷鳴も雨の音もうるさい、稲光はチカチカと目がおかしくなるほどに眩しい。
そんな中で、瞬きすら忘れてんじゃないかって程に俺を見ているランが居る。
ラン、お前が見ている今の俺は、一体どんなツラをしてるんだかな。
平静を装って無表情なのか?
それとも、覚悟を決めると思っておきながら情けなくキョドり気味な情けないツラを晒してんのか?
自分でも分からないんだよ。
どんなツラしてんのかも、どんな態度をしていたら良いのかも。
「真弓………愛してる。」
キスに関し、抵抗は一切しないでいようと決めた。
ランのしたい様にさせてやろうと。
だから顎先に当てられたランの親指が僅かに下がり、唇を開く様に促された俺は、それに従い閉じた唇に隙間を作った。
微かに開いた唇同士が重なり合う。
雨に濡れて冷たくなった唇の隙間から、熱い吐息が吹き込まれた。
「……ッラン……っっ……」
立っていた俺の身体がグラつき、ヨロけそうになる。
ランは俺の両腕を掴み、玄関の壁に俺の背を押し付けると俺の唇を食む様に深く唇を重ねて来た。
暫くは互いの吐息を交換するように、角度だけを変えて何度も何度も唇を重ね直す。
待て…待ってくれ…。もう頭がクラクラする。
まだ唇を深く重ねただけなのに。
ランの倍以上生きてんだから、今さらキス如きで膝ガクガクになるなんて、どうなんだ。
ツイ、とランの舌先が俺の唇の隙間を縫った。
腰骨の辺りから脊椎を通ってうなじまで、ゾクゾクっと電流が走った様な痺れが駆け上がる。
抵抗するつもりも縋り付くつもりも無く、無意識の内に俺の右手がランのシャツの左脇腹部分を強く掴んでいた。
それをランがどう受け取ったのか分からない。
ただそうしたタイミングで、ランの舌先が俺の腔内に深く潜り込んで来た。
「……!!!…ン…」
何だこれ…恥っずかしっ…!ランに俺の内側を知られんのが
スゲぇ恥ずい…!
嘘だ、マジかよ…ガキじゃあるまいし…何で俺、逃げたくなってんだよ。
ランの舌先は俺の口中の全てを知り尽くしたいと、全てを塗り替える様に隈なく丁寧に腔内を這い回る。
逃げたくなってる俺に気付いてはいないだろうが、俺の喉に手の平を当て、指先で顔を固定して顔を背ける事を許されない。
「ちょ…ま、待て…息が続かん…もう……」
呼吸が苦しくなるほどに続く口付けの合間に、か細い声でランに訴えた。
ランが額を突き合わせ、互いの鼻先を擦り合わせてきた。
「駄目だ、まだ足りない…もっと…もっと真弓が欲しい。
……俺は真弓に溺れている。
真弓は、どうしたら俺に溺れてくれる?……。
ああもう……狂いそうな程に真弓を愛してる。」
伸ばされたランの舌先が、俺の舌の上を滑る。
互いの呼気も味も繋がった舌の上で行き来し、初めて知るランの味にクラクラと酔いそうになる。
瞼が重く、視界が濡れて滲む。
ああ……俺も何処かに溺れて行きそうだ……。
今までの恋愛で、こんな経験はしたことが無い。
俺が俺でなくなりそうで、何だかこえーよ、ラン。
俺の方から柔らかくフワッと重ねた唇は、すぐにランの方から強く押し当てられ、ランの親指が俺の顎先を撫でた。
顎先に当てた親指を緩く下側に引いて唇を開く様に促される。
深く重ね合わせたいと態度で催促をされる。
「ちょっ…ちょっと待て…」
唇の外側を重ねただけの口付けであるのに、余りにも熱のこもったランのキスに流されてしまいそうになり慌てた俺は、互いの唇の間に手の平を突っ込んでランの唇を遮った。
ランの唇の方に向けた俺の手の平に、チュクッと音を立ててランが吸い付く。
キスを遮る為に出した手の平に、ランの唇の質感と強く吸われた感触が伝わり、腰回りがゾクゾクっと震えて膝がカクッと折れそうになった。
「俺と会う前に、恋人が居た事があるって言っていたよね。
その人とは何度も深くキスをしたんだろ。
何で俺は駄目なの?男だから?」
「違う。
………天気が悪いとは言え、まだ明るい。
誰に見られるかも分からねぇし、落ち着かん。
相手がどうこう以前の問題だ。
日のある時間に、こんなオープンな場所では出来ん。」
ランが身を離し、一歩下がって距離を取った。
冷たい風が心地良く感じるほど、俺の顔は熱く火照っている。
今、ランが俺の頬に触れれば、先ほどまで「冷たい」と言っていた俺の顔が熱を帯びている事もすぐバレてしまうだろう。
幸い冷たい外気のせいか赤みが顔には現れてない様で、ランには俺が今テンパった状態だって事は気付かれてない様だ。
「その古い恋人とのキスを、大事にしているんじゃないよな」
「ンなワケあるか。
どれも、半年も持たなかったんだぞ。」
ランには一応、俺の恋愛遍歴を全て話してある。
3人の女性と付き合い、どの女性とも半年持たなかった。
ケンカ別れはしておらず、互いに何となく自然に離れていった。
今も彼女達の事は嫌いではない。
良い人達だったし、人として好ましい方なのだろうが、最初から最後まで恋愛はしてなかった気がする。
ランにも聞かれるままに正直に答え、そう話してある。
「半年も付き合ってない人達と何度もキスしたんだろ。
俺の事は………やっぱりまだ、認めらんない?」
「……ッ……うぅん……何でだかなぁ……何でなんだろうな?
違うんだよな……。認めるとか認めないとかでも無くてだな…」
何が違う、と問われれば気持ちの軽さが多分違う。
彼女達との付き合いはキスやセックスも含めて、もっとこうフラットな感じだった。
こんなにも激しく感情を揺さぶらされた事なんか無い。
親子ほども年下の男にキスされただけで、膝から力が抜けそうになるとか顔面から火を吹きそうな程熱くなるとか。
何だソレ。
「真弓を好き過ぎて、どうしたらいいか分からないと言ったら、だったらキスでもしとけって言ったのは真弓だろ。
なんで止めるんだよ。」
「だ、だから!!人の目につくような場所ではな!!」
これはもう、言質を取られたに等しい。
人の目につかない場所でなら、キスを許すと言ったのだと。
俺は「ハァー」と大きな溜め息を漏らす口を、手の平で押さえた。
「真弓、それ間接キスだ。」
「…………いちいち言わんでも、いいだろうが。
散々っぱらキスしといて、今さら間接キスがなんぼのモンだって言うんだ。」
ランが吸い付いた手の平を顔からどかし、ジーンズの腿の辺りにゴシゴシと擦り付けながらバイクを停めた場所に向かう。
いよいよ雨が降りそうな空模様となり、夕方を過ぎて薄暗くなってきた。
「真弓、ウチに帰ったらキス、させて。」
「…………………。」
ランに返事を出来なかった。
聞こえなかったフリすら出来ないままで、聞こえた上で返事をする事が出来なかった。
嫌だなんて言える立場ではない。
今までの恋人には出来た事を、ランには出来ないなんて納得するワケ無いだろう。
その理由が、感情がワチャワチャになって、しんどいからって言えるワケがネェ。
いや、ホント……ランが俺を好き過ぎて、どうしたらいいか分からないってのと同じ様に
俺も好かれ過ぎて、こんなの、どうしたらいいか分からん。
ただ、アイツにばかり我慢を強いるのは確かにフェアじゃない。
だから俺も覚悟を決めなきゃならんだろう。
十年ぶり位だろうがディープキスなんざ、未経験ってワケじゃねえんだし。
海を離れてバイクを走らせ、俺の家が見える頃にはポツポツだった雨が一気に降り始めた。
バイクを軒下に置いてシートを掛け、玄関に入った途端に雷も鳴り出し、雷鳴と共に屋根瓦に当たる雨の音がうるさくなった。
もう夜になっていたが、雨雲と稲光のせいなのか微妙に外が明るい。
まだ明かりを点けてない玄関でも互いの表情が分かる位には。
「本降りまでには間に合ったと思ったけど結構濡れたな。」
ランが濡れて頬に張り付いた俺の髪の毛を指先で摘んで耳に掛けていく。
濡れた肌に触れるランの指先に意識が捉われ言葉が出ない。
少し俯いた俺の前髪からポタリと滴る雫を指先で払って落としたランは、その指先を海でキスをした際と同じ様に俺の顎に運び、顎先に親指を当て摘んだ。
俯かせた顔を上げさせられ、互いの目を合わせる。
古い日本家屋の玄関はガラス張りの引き戸で、稲光がフラッシュの様に強い光を玄関に射し込ませた。
雷鳴も雨の音もうるさい、稲光はチカチカと目がおかしくなるほどに眩しい。
そんな中で、瞬きすら忘れてんじゃないかって程に俺を見ているランが居る。
ラン、お前が見ている今の俺は、一体どんなツラをしてるんだかな。
平静を装って無表情なのか?
それとも、覚悟を決めると思っておきながら情けなくキョドり気味な情けないツラを晒してんのか?
自分でも分からないんだよ。
どんなツラしてんのかも、どんな態度をしていたら良いのかも。
「真弓………愛してる。」
キスに関し、抵抗は一切しないでいようと決めた。
ランのしたい様にさせてやろうと。
だから顎先に当てられたランの親指が僅かに下がり、唇を開く様に促された俺は、それに従い閉じた唇に隙間を作った。
微かに開いた唇同士が重なり合う。
雨に濡れて冷たくなった唇の隙間から、熱い吐息が吹き込まれた。
「……ッラン……っっ……」
立っていた俺の身体がグラつき、ヨロけそうになる。
ランは俺の両腕を掴み、玄関の壁に俺の背を押し付けると俺の唇を食む様に深く唇を重ねて来た。
暫くは互いの吐息を交換するように、角度だけを変えて何度も何度も唇を重ね直す。
待て…待ってくれ…。もう頭がクラクラする。
まだ唇を深く重ねただけなのに。
ランの倍以上生きてんだから、今さらキス如きで膝ガクガクになるなんて、どうなんだ。
ツイ、とランの舌先が俺の唇の隙間を縫った。
腰骨の辺りから脊椎を通ってうなじまで、ゾクゾクっと電流が走った様な痺れが駆け上がる。
抵抗するつもりも縋り付くつもりも無く、無意識の内に俺の右手がランのシャツの左脇腹部分を強く掴んでいた。
それをランがどう受け取ったのか分からない。
ただそうしたタイミングで、ランの舌先が俺の腔内に深く潜り込んで来た。
「……!!!…ン…」
何だこれ…恥っずかしっ…!ランに俺の内側を知られんのが
スゲぇ恥ずい…!
嘘だ、マジかよ…ガキじゃあるまいし…何で俺、逃げたくなってんだよ。
ランの舌先は俺の口中の全てを知り尽くしたいと、全てを塗り替える様に隈なく丁寧に腔内を這い回る。
逃げたくなってる俺に気付いてはいないだろうが、俺の喉に手の平を当て、指先で顔を固定して顔を背ける事を許されない。
「ちょ…ま、待て…息が続かん…もう……」
呼吸が苦しくなるほどに続く口付けの合間に、か細い声でランに訴えた。
ランが額を突き合わせ、互いの鼻先を擦り合わせてきた。
「駄目だ、まだ足りない…もっと…もっと真弓が欲しい。
……俺は真弓に溺れている。
真弓は、どうしたら俺に溺れてくれる?……。
ああもう……狂いそうな程に真弓を愛してる。」
伸ばされたランの舌先が、俺の舌の上を滑る。
互いの呼気も味も繋がった舌の上で行き来し、初めて知るランの味にクラクラと酔いそうになる。
瞼が重く、視界が濡れて滲む。
ああ……俺も何処かに溺れて行きそうだ……。
今までの恋愛で、こんな経験はしたことが無い。
俺が俺でなくなりそうで、何だかこえーよ、ラン。
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