孤高の女王の国と狂戦士。そして傍若無人の若き王。

DAKUNちょめ

文字の大きさ
19 / 22

傀儡の王の国と傍若無人な若き王の国

しおりを挟む
翌朝、朝食の用意がされた食堂の長テーブルに、アンドリューの姿はなかった。


デルフィナは空席になっている夫アンドリューの席を悲しげに見つめる。


オブザイアとして接した、昨夜のアンドリューの姿が脳裏に浮かぶ。


あのようなアンドリューの姿を見たのは初めてで、オブザイアだった自分はどうして良いか分からなかった。

だからと言って、デルフィナになったとしても何を言って、何をしてあげたら良いか分からない。



「簡単じゃないのよ。
本当の夫婦になれば良いだけじゃないの。」



少女のような姿でありながら、朝からワイングラスを手にした王太后であるマリアンナがサラリと言う。



「はっ…!母上!?本当の夫婦にって…!どういう…!」



考えていた事を見抜かれたデルフィナは焦ってしまい、裏返った声を張る。



「抱かれてあげたらって言ってんのよ。
…いや、そんな受け身じゃ駄目ね、夫婦になるのだもの。
抱き合って、二人、一つになったら?」



デルフィナの言葉を遮るように答えたマリアンナは、空になったワイングラスをテーブルに置いてデルフィナに真剣な眼差しを向ける。


いつもは無邪気な少女のように、フワフワとした雰囲気を醸し出しているマリアンナが珍しく母親の顔を見せる。



「いつまで逃げているの?
オブザイアに恋をして、命を失う覚悟でこの国に来たアンドリューを受け入れたのはあなた達でしょう?
命を賭けた彼の想いを、いつまでもないがしろにしていてはいけないわ。」



「それは…分かってるけれど…でも………。」



デルフィナは顔を赤らめ、俯いてしまう。

アンドリューが城に来たばかりの頃は、自ら抱かれたいと常に思っていた。

この国の女王として、早く世継ぎを作らねば!と思っていた。



アンドリューを、夫という名の役割を与えた者としてではなく一人の男だと、自分を好いてくれている夫だと知った時から、自分もアンドリューを好きなのだと改めて気付いてしまった。


気付いてしまった時から、アンドリューの顔を見ているだけで心臓が早鐘を打つようで…傍に居るのが辛くなる。

胸が苦しくて…倒れそうになる。



「デルフィナ、あの王の国の名前を知っているかい?
最近は「傍若無人な王の国」と呼ばれていたっけ。
昔はね、「傀儡かいらいの王の国」と呼ばれてたんだよ。」



同じテーブルについて朝食を取っていたシルヴィアンが、ナプキンで口元を拭いながら言った。



「傀儡の…王の国?」



「あの国の王族はね、代々神輿みこしなんだよ。
国の頂点に座らせられ、回りから欲しくもない物を延々貢がれて、王だ何だと祭り上げられて…
で、戦を起こしては敵国に殺されたり、負けた責任を取らされて処刑されたり。
そして新しい誰かがまた王の座につく。
あの国の王は、いくらでも替えのきくお人形なのさ。」



デルフィナは、アンドリューが名前も顔も知らない兄弟が居ると言っていたのを思い出した。

アンドリューの次の王は、この「彼の国」に兄である先王のアンドリューを殺した仇討ちだと言って攻め入って来た。

オブザイアでサクッと殺してやったが。



その後に、アンドリューの国はアンドリューが生きていた事を知り、我らが王よ、お戻り下さい!と書簡を送って来ていた。

その時点では、玉座にパッとしない男が王として座らせられていたらしい。

もし、アンドリューが書簡に従って国に帰っていたら、その玉座に座らせられていた男は王の名を語った偽の王として、処刑されていたであろうと。

シルヴィアンは言った。



「あの国の王は色んな物を与えられ続け、自分が何をしたいか何が欲しいのかすら考える事が出来なくなる。
考える力を衰えさせられる。
……考える事を禁じられている奴隷と同じさ。」



シルヴィアンは元は奴隷であった隣のロータスに目を向ける。

シルヴィアンの夫であるロータスは、目が合ったシルヴィアンに甘えるように寄り掛かった。


「ロータス、食事中は行儀良くしな。
……アンドリューは、そんな国の王に祀り上げられながらも、常に自分を見失わないよう考えてきたのだと思うよ。
回りの言いなりになって無意味に与えられるより、自分で欲しい、奪いたいのだと流されない自我をアピールして。
……そんな、あの国の王が自ら本気で欲しい物を、見付けたって…それがオブザイアだって?
ふふふ、凄いじゃないか。」



デルフィナは以前、アンドリューが言っていた言葉を思い出していた。



『欲しい物は、どんな手を使ってでも手に入れる…とか?
欲しい物なんて無かったからな。
クズかごの中でクズを掴んで投げ捨てての繰り返しだ。』



自国に居た頃は、欲しい物なんて無かったと言っていた。

傍若無人な王と呼ばれ、貪欲にあれもこれもと手を出し欲しがって見えたのは、全てポーズだったのだと。



そんなアンドリューが初めて…………



「………アンドリューに、会って来ます。
私は…あやつに向き合ってなかった………。」



そう、アンドリューは殺される覚悟をしてオブザイアの元に来た。

そのアンドリューを受け入れる事を決めたのは自分なのに…
アンドリューの想いに応える覚悟をしていなかった。


デルフィナは席を立ち、食堂を出て行く。


デルフィナが居なくなった食堂で、ロータスにべったり甘えられているシルヴィアンがマリアンナに声を掛ける。



「言われた通り煽ってみたけど…本当に良かったのかい?
あの二人を本物の夫婦にしちまって。
「彼の国」の女王の夫が、「傀儡の国」の王だなんてさ。
しなくて良い苦労をするよ?
あの国は王が飾りだけど、そんな王を作った国自体が貪欲だからね。
もっと楽な相手を見付けた方が良かったんじゃないのかい?」



マリアンナは空になったグラスにワインが注がれると、グラスを揺らしてほくそ笑む。


「いいんですのよ、シルヴィアン伯母様。
アンドリューは、デルフィナもオブザイアも愛してますもの。
ロータスさんもそうですけど、どちらも愛せるって…凄い事ですわよ?」



「伯母上もロータス君が初めてなんじゃないのですか?
「彼の国」の白百合と例えられ数多の求婚をされた伯母上が、狂戦士に変化した姿も受け入れて貰えたのは。」



甥であり先代国王のダイオスの言葉に、古い記憶を呼び起こしたシルヴィアンは嘲笑する。



「ああ、ろくな男が居なかったねぇ。
どいつもこいつもダルゼリアの姿を見た途端に怯えてさぁ。
だからあたしはバァさんになるまで結婚しなかったんだけど…
ロータス、あんただけだよ。
あたしもダルゼリアも愛してると言ってくれんのは。」



「シルヴィアンさん…」



ロータスがシルヴィアンにギュッと抱き付く。

祖母と孫と言っておかしくない程の年の差だが、二人は確かに男女として愛し合っている。



「「彼の国」は、アンドリューを女王の夫として迎え入れるわ。
アンドリューがデルフィナともオブザイアとも結ばれたら、そう公言するつもりよ。
傍若無人な若き王が治めていた国と戦になってもね。
この国から何かを奪おうとする者には破滅をくれてやるわよ。」



「獅子の国」の出身である女傑マリアンナは無邪気な少女のように笑った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...