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ユキちゃん恐怖症。

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喪服の様な黒いドレスを身に纏い、ジャラジャラのアクセサリーはつけ忘れたままドアを開ける。


メイクも急いだせいで、ただでさえ濃ゆいメイクが2割増し位にケバくなった。

急かされたせいで少し呼吸が荒い。

息を整えてトーンを抑えて低めの声を出す。


「何の用かしら白雪。」


「みゆきを出して下さい!私と会う約束をしていたのです!!」


食い気味に言って来る上に、目茶苦茶睨んで来るユキちゃん。

私が彼女を約束の場に行かせなかったと思っているみたいだ。

まぁ、間違ってはない。

侍女服も返しちゃったし、侍女のふりなんてもうするつもりない。

侍女のみゆきは、もう居ないのだ。

この先私は城を出て、この世界の一般人として生きていく。

何だか色んな便利魔法が使えるし、どこかで引き込もっても多分生きていける。

なので、パンピーみゆきなら近日誕生予定。


「……侍女のみゆき…あの子なら、クビにしたわ。」


「!!!首!?……斬首……」


「斬首!?ちっ!違うわよ!!!侍女の仕事を辞めさせたの!!」


うわぉ、ビックリしたぁあ!!クビにするって、この世界ではそうなっちゃうのか!!

あっぶね!!

ちょっと、焦り過ぎて必死で言い直した。


「なぜ、侍女を辞めさせたのです!?彼女が何を…!」


うわぁ追及うざったい!

なぜ、辞めさせた?私がもうしないからだよ!

侍女のふりなんて、めんど臭いから!!


「1日だけの、お試し侍女だったのよ!それで、本人がやっぱり侍女になるの、やめとくーって田舎に帰ったの!」


何だか変な言い訳を必死でしている私は、口調もベアトリーチェではなく、みゆきのままだ。

白雪に睨まれてるのも怖いし、早くこの状態から逃れたい。


「お義母様が辞めさせたのではなく、本人の意思により辞めたと…?先ほどは、辞めさせたと…」


突っ込むなぁ!!どっちでもいーじゃん!!


「やめとくーって言ったから、じゃぁ辞めてって辞めさせたの!もう、いいわね!?」


「……お義母様……」


この場を早く逃れたい私は強引に話を終わらせ、ドアを閉めようとした。

白雪の手が私の顔の方にスッと延びる。


首!締められる!?いきなり討伐!?


「口紅がはみ出してますわよ……」


白雪の親指が、私の唇の真横に当てられてはみ出した口紅を拭う。

はぁ?大嫌いな継母のメイクを自分の手で直す!?有り得ないでしょ!?

いくら、他人に対して無防備な白雪だって、嫌いな相手には触れたくないもんじゃないの?

オリジナルの白雪、ユルすぎないか?

つか、他人に肌に触れられんの、私が苦手だ…身体が強張る。


「ゆ、ユキちゃん!!!」

やめて!の意を込めて、白雪の手から逃れる様に顔を傾けた際に、思わず声をあげてしまった。

私の口紅が付いた白雪の親指が、宙に浮いたまま止まる。


他人に触れられる事に慣れてない私の心臓が、緊張からバクバク激しく動いている。

顔もきっと赤い。照れ等ではなく、私はひどく緊張して赤面する事が多々ある。


濃ゆいメイクで顔色は出てないかも知れないけれど、こめかみが汗ばんだ。

私は一歩後退り、自身の身を庇うように、胸の前で両手を交差させ自身の両腕を掴む様に撫でる。


「と、とにかく!あの子の事は忘れなさい!いいわね!白雪!」


それだけ言って、白雪を閉め出す様にしてドアを閉めてしまった。

ドアの向こう側の気配が消えない。去る足音が聞こえない。

この先、私を殺すと分かっているヒロインに触れられるの、凄く怖い。


……ううん、私……人に触れられるのが怖い。

潔癖症ってワケではなく、理屈じゃなく家族でも…何だか嫌なんだ。

私の領域を侵されてるみたいで。


だから私、恋とか結婚、無理かもなぁと思っていた。

だからって、人生諦めてる訳じゃないので、死んでもいーやなんて思ってないけど!


他人と関わらずに、一人で自由気ままに生きていきたい。

この世の支配者なんて、ある意味全人類と関わらなきゃじゃん。絶対やだわ。


ゆっくり歩く足音が聞こえ、ドアの向こう側の気配が遠退く。


白雪が去った様だ。

ホッと安堵のため息をつく。


そういえばユキちゃん、手が宙に浮いたまま止まっていたな。

何かあったっけ?

私が急に白雪の手をよけたから?

まぁ、冷たい継母だと思ってくれているなら、それでもいいわよ。

私が城を出てしまえば、もう逢う事も無いだろうし……。


おやぁ?それって白雪が、ゲームで組んだパーティーの誰かと恋をするフラグも全部ベキ折りするのかな?


知らん。お姫様なんだから、勝手に素敵な人見付けて勝手に幸せになって下さい。普通のお姫様として。


この城で!!


旅になんて出なくていーです。レベル上げないで、強くならないで。

無害な大魔女は放置して下さい。







実際の、このゲームのベアトリーチェが日中何をしていたのか分からないが………


私が彼女になってから、私は王妃の部屋を出ていない。

部屋を出たのは、白雪にブローチを渡す為に侍女に変装して出た一度きりで、王妃ベアトリーチェ自身は部屋を出ていない。


食事は部屋に運ばれて来るし食堂にも行かない。

元々が人払いをするよう言いつけてあるのか、部屋から出ない私を心配した誰かが見に来るとかも無いので、気楽なんだけど……


白雪だけは1日に数回、私の部屋を訪れる様になった。

私が覚えてしまった白雪の足音が、時々ドアの外に聞こえてしまうのが……怖い。

何をしに来てるのか分からないけど、私の部屋の前に立つ彼女の気配にかなりビビる。


いつ、何が理由で白雪がキレるか分からない。

私を討伐する意志を固める前に、早めに城を脱け出そう。


でも森に囲まれたこの城を、夜に出るのは怖いので……

夜が明けたら出よう!







朝陽が部屋に射し込む前に目を覚ました。

まだ、早朝。

動き始めた者も居るようだが、城の中は静かだ。


私はまた侍女か何かに変装して城を出ようと思ったのだが、私の部屋から出た所を誰かに見られたら(特に白雪)

面倒な事になると思い、王妃の格好のまま悠々と歩いて部屋を出た。


そして玄関エントランスに向かい、途中すれ違う使用人から挨拶されるのを悪役王妃らしく無視して、玄関から城の外へと出た。


「あ、あの…王妃様…どちらへ…?」


さすがに早朝に一人で門から出ようとする王妃を不自然に思ったのか、門の所に立つ衛兵が声を掛けて来た。


「散歩よ!!気にしないでちょうだい!誰にも言うんじゃないわよ!」


特に白雪には!!!


「散歩……城の回りの森には魔獣もおりますし、危険では……」


「大丈夫よ!!城の回りのモンスターはスライムと牙ウサギ、レベルは1と3!何とかなるわ!!」


ゲームの知識ではね!!

城の回りはゲームではかなり序盤だもの。

装備が城から持ち出した『木の棒』だけの白雪が頑張って戦っていたわ。


私は一応、魔法が使えるし……何しろラスボスだし。

大丈夫なハズよ。


「とにかく、私が散歩に出た事は誰にも言わない事よ!?」


そう言って速足で城から離れる。

背後から衛兵二人が「男でも囲ってんじゃないか?」「国王をたぶらかしたメス犬だからな」なんて王妃を馬鹿にする会話が聞こえてくる。


王妃が魔女だと知らないとは言え、あんたら、これが私でなく王妃本人だったら瞬殺されてるかもよ。

そーゆーのは本人が居なくなってからにしなよ。

いや、もうかなり離れてるのか…地獄耳なんだね、ベアトリーチェ。魔女だもんね。


森の入り口付近に辿り着いた私は、その場に立ち尽くしてしまった。


よくよく考えたら、一人で生きて行くのは良いとして……

どこに向かえばいいのだろうか。


この森の中に入ったら、野宿?ずっと野宿?

それはさすがに嫌だ。


近くの村や町を目指す?

そんなの、何処にあるんだろう。

ゲームの記憶での最初に行く村が、どの方角だったか分からない。

森の中には小人が住む家がある……いや、それ物語の白雪姫の話で、ゲームでは出てないわ。

ゲームの中では、小人の代わりにイケメンのパーティーが現れるもの。


そして、そのまま私を倒す為のレベルアップの旅に同行するから……


あ、でもそのイケメンパーティーがテントがわりに使っていた木こりの小屋か何かあったかな。


まだゲーム序盤だし、イケメンパーティーはまだ現れないハズ。一回そこを目指そう。


私は歩きにくい森の中を頑張って歩いて行く。

ヒールの高い靴を履いていたが、途中でブーツを取り寄せて履き替えた。

そのブーツが何処から来たのか分からない。


百円ショップのピーラーみたいに地球にいた私の記憶から生み出されたモノなのか、侍女の服みたいに誰かのモノを無理矢理借り出してしまったのか。


私は自分がどんな魔法を使えるかも、どれ位の力があるかも全く分からない。

魔女のクセに。

でも、前世でのゲームの知識があるから少しずつ試してみるのも有りかも知れない。


転移魔法…使えないかしら?


一度行った場所なら行ける様になる、RPGゲームではよくある瞬間移動出来るやつ。

行った事が無い場所には行けない。でも一度行ったならば魔法で行き来出来る。

それがあれば、迷子になっても大丈夫だし便利よね!


ゲームの知識…魔法………

そう言えば、地図魔法って無いのかしら?


何だか同じ場所をぐるぐる回っている気がする……。

方角が分からない。

ゲームでは木こり小屋は城から見て北西にあった。


北西ってどこだ!太陽を見たら方角分かる!?

太陽見えないし!


森の木々の隙間に、ログハウスの一部の様な物が見えた。

やったー!木こり小屋じゃない!?それ!

そこを拠点にして町や村を目指せば、万が一迷子になっても転移魔法で戻れば済む!

その前に、転移魔法使えるのか疑問なんだけど。

とりあえず、木こり小屋にむかぅ…………


「お許し下せぇ!!」

突然聞こえた男の声に、木こり小屋に向かっていた私の足が止まる。

聞き覚えがある声に、冷や汗がタラタラ流れ落ちる。


地獄耳な私は、木こり小屋からかなり離れた位置でその声を聞いた。

だから、遠く離れて声が聞こえる場所で何が行われているのかは、見えないので分からない。


………いや、見えないけど、分かっている。


イベント始まってやがる。


「わたしを、こんな森の奥深くに連れ出して、どうするつもりだったの?」


「王妃様に命令されました!姫を森に連れ出して殺す様にと……!気が向いたら!」


そう!気が向いたらねって言ったよね!!

逆に言えば、気が向かなかったら永遠にしなくていい!

お前、白雪に謝る位ならすんなよ!!

何で気が向いちゃってんの!


しかも早いわ!

思い立ったが吉日が今日か!?

私も思い立ったが吉日で今日、城を出たんだが!!


どうしよう…!何だか展開が早い!

もう、白雪が城を出てしまった!

このまま旅に出る感じになる!


木こり小屋にはイケメンパーティーが居て、森に置き去りにされた白雪を保護して暫く木こり小屋で共に過ごし、共に旅を……


イケメンパーティー、おらんぞ?

気配が無い。


「お義母様には、わたしを森の中で殺したと報告しなさい。そして褒美のお金を受け取ったら、貴方は早々に城から姿を消しなさい。お義母様に嘘がバレない内にね。」


「へい…お優しい、白雪様……どうか、ご無事で……」


白雪とモブ召し使いの、イベント会話が聞こえる。

ああ、私……ユキちゃんに、ユキちゃんの命を狙った者として認識されてしまった…。

しかも、召し使いのオッサンの命まで狙う、すんげぇヒドイ奴として。


何にもしてない私が、電流怖さに目の前に現れた台詞を読んだだけなのに……

討伐決定?やだ……ちょっと泣けてくる……。


木こり小屋から離れた場所で、私は膝を抱えてうずくまってしまった。

涙がポロポロ溢れて濃ゆいメイクが流れ落ちる。


「………誰?誰か居るの?」


白雪が私の方に声を掛けて来た。

はい!?何で気付かれたの!?

ここ、木こり小屋からかなり離れてるんだけど!!地獄耳なの、私だけじゃないわ!

ユキちゃんも、かなり地獄耳!


白雪が、私の方に向かって歩いて来る。


ちょっと!危機感無さ過ぎ!新しい刺客だったり、若い女の子に乱暴をはたらくようなゴロツキだったらどうするのよ!

人の人の気配がしたからって、若い女の子が一人で確認しに行く!?

私だったら、怖くて小屋の中に避難するわよ!

あわわわわ!白雪が来る!ユキちゃん来ちゃう!!


どどどどどうする!!


ガササッ!!!


繁みを掻き分けて白雪が私の前に来た。




「………みゆき………!どうして、こんな所に?」


「し、白雪様……お久しぶりです……ふへへへ……」


変な笑い方をしてしまった。

白雪が木こり小屋から私の方に向かって歩き出してから私の姿を見付ける迄の約3分。

その間に私は魔法でウェットティッシュを取り出し顔面を乱暴に拭きまくり、もう借りパクでもやむ無し!の精神で、どこの誰のか分からないけど、使用中でない村娘の服装を所望。

王妃の黒いドレスを脱いで遠くに投げ棄て、目の前に落ちた村娘の服に着替えている途中………だった。


届いたのはツーピース。スカートは履いていたが、ブラウスを着るのが間に合わなかった。

前のボタンが留められてない。胸元がはだけている。

ユキちゃんが焦った様に私に駆け寄る。


「その格好…!どうしたの!誰かに乱暴されたの!?」


「ち、違います!あ、あ、あ…暑かったので!涼んでました!」


変な言い訳をしてしまった。

深い森の中で女が一人、胸元はだけさせているのは…確かに可笑しな光景だわね。

しかも涼んでるとか、余計おかしいわ。


「乱暴されたのじゃないのね…良かったわ。…ねぇ、みゆき…城の侍女を辞めたと聞いたわ。なぜ?」


問い掛けながら、さりげに胸元はだけた状態の私に身を寄せて来る白雪。

身体が強張る。

ブラウスのボタンに指を掛け、ひとつずつ丁寧に閉めていく白雪。

それ、立場が逆ぅ!姫様が侍女の服を着せてあげるとか、無いでしょ?


「お、お城勤めに憧れまして…1日、お試しで侍女をやってみたのですが…合わなかったみたいで…」


「そう…いきなり居なくなって、寂しかったのよ…」


ブラウスのボタンを掛け終わったハズなのに、何でまだ密着してんの?

これは、ハグってやつかしら?されたことないし、されたくないし、私ガチガチに身体が固まってるんですけど。


「ひ、姫様こそ…このような場所におりますのは、おかしい話で…お城に戻った方が何かと都合がよいかと…」


主に私の都合。


「お義母様が私の命を狙っているの。だから帰れないわ。」


狙ってません。

だから安心して帰って欲しい。

やがて、木こり小屋にイケメンパーティーが来る。

白雪と共に私を討伐して世界を救うメンバーが……。

その前に、お城に戻って。


「白雪…様…」


目を潤ませて小刻みに身体を震えさせながら私を抱き締める白雪。

彼女は彼女で、何も悪い事はしていないのに継母に憎まれて命を狙われてしまう。

気の毒な、美少女なのだ。


気の毒な……美少女……なぜ、私の胸を揉む?


「みゆき……私、お義母様が怖いの…!」


「そ、そうですね…命を狙われてるなんて…こわ…」


怯える美少女が、恐怖を紛らわす為に人に抱き付くのは…まぁ、理解出来なくはない。

なぜ、胸を揉む?首筋に鼻先を擦り寄せて来る?

何か色々おかしくない?

私、ユキちゃんのが怖いわ!!


「しっ白雪様!!私、家に帰らないと!!家族が心配してますので!」


「みゆき…あったかい…いい香り…」


「いやっ!ちょっ!触らないで!揉まないで!やっ!」


これ、命を狙われる恐怖関係ある!?無いよね!?

別にレズとかでなく、女の子同士でキスしたり過剰なスキンシップする子って、いなくはなかったけど、私は駄目!

いや、男の人も駄目!

もう、他人とスキンシップやだ怖い!


「わ、私!生涯を共にする男性、旦那様になる人にしか肌に触らせたくないんで!女性でも駄目!」


口から出任せだけど、何となく世間一般で通用しそうな理屈を出してみる。


「えっ…」


ユキちゃんの手が止まった。私はユキちゃんの手から逃れる様に身を引いて身体を離す。

最後に見たユキちゃんの顔はショックを受けた様に目を開いて、制止した状態だった。


「……ごめんなさい、白雪様……お元気で……」


こんな森の中の木こり小屋に、ユキちゃんみたいないたいけな少女を一人残して離れるのは気が引ける。

でも、お城に帰りたくないユキちゃんを無理矢理お城に戻すのは無理。

だったら、白雪には木こり小屋に居てもらって、その内現れるイケメンパーティーと仲良く、よろしく、やりゃいーじゃん。


その間に私、反対方向へ逃げよう。

悪い事を一切企まなければ、討伐対象にならないよね?



「……ちなみに転移魔法ってイケるのかしら?……飛べ!お城の王妃の部屋へ!」



目の前の森の景色が砂嵐の様にざらついて消え、ワイパーを掛けた後の様に目に入ったのは城にある王妃の部屋だった。


「や…やった!転移魔法使えるじゃん!!これなら、いきなりユキちゃんパーティーが攻めて来て何かヤバくなっても、咄嗟に逃げられる!!」


あ、後は逃げる先を幾つかインプットしとかないと……

今の私、城と木こり小屋に近い森しか頭に描けん!


「その為にも、他の町や村を探さないと……何だか私の方が白雪より先に旅人やらなきゃみたいだわ。」


戻る気はなかったけど、村娘みゆきの姿のまま王妃の部屋に戻ってしまった私は、部屋に飾られた豪奢な姿見の鏡に写った自分を見る。


王妃らしさの欠片もない、普通の上原みゆきが村娘のコスプレしているみたいな姿。


『鏡よ鏡、この世で一番美しいのはだぁれ?50』


「はあっ!?いきなり強制イベント!?何で!」


会話をする相手も居ないのに!?

しかも、こんなクソ恥ずかしい台詞を言えと!!


「誰も居ないんだから、サラっと終わらせるわ!!鏡よ鏡よ鏡さん!この世で一番美しいのはだぁれ!!ほら!!」


ちょっとキレ気味に鏡に向かって台詞を言ってやった。

童話でも、ゲームでもそうだったけど、鏡が答える。


「ソレハ、白雪デス。」

「んな事、知っとるわ!!だから何だ!!」


キレ気味に鏡に文句を言う。そして、覗き込んだ鏡に映った白雪は……


木こり小屋の前で、イケメンパーティーに囲まれていた。


「キャー!!大魔女ベアトリーチェ討伐パーティー揃いつつあるじゃない!!キャー!ヤバい!!」


でも…何だか様子がおかしい。


音声は入らないので映像だけなんだけど…何だか揉めてるっポイ。

宥めるように語り掛けるイケメンパーティーの四人を前に、険しい顔のユキちゃん。

しまいにゃ壺を持ち出してイケメンパーティーに水を掛け始めた。

何だか押し売りを追い返すオバチャンみたいだわ。ユキちゃん。


「ええー……?イケメンパーティー……居なくなったよ?ユキちゃん、どうすんの?」






私は王妃の部屋、自室でベッドに入り朝を迎えた。


白雪はあの木こり小屋でたった一人で、怖い夜を過ごしたかも知れない。

私と同じか、年下位の少女。それも苦労を知らないお姫様。

そんな、か弱い女の子が森の中の小屋で一人なんて……


『おのれ白雪、この毒リンゴを届けてくれるわ。50』


「……げ!!朝イチで、これ!?」


第一回目の、白雪 対 継母のイベントバトルのフラグが立った。


「お、おのれ白雪!この毒リンゴ届けてやるわ!この毒リンゴって、どれ!!」


台詞を言い終わると、籠に入ったリンゴがドサッと足元に落ちた。


「……これぇ?これ持って白雪の所に行けっての?やだぁ……」


童話と違い、ゲームでは毒リンゴを白雪に食べさせるのではなく、リンゴ爆弾を使ってのバトルとなる。

当然、白雪とイケメンパーティーが勝って魔女は撃退されるのだが……。


「ユキちゃん、パーティー居ないんだよね…まだレベルも上がってないし…こんな爆弾投げたらユキちゃん死んじゃうよ……。」


回復する司祭も、爆弾の盾になってくれる剣士も、代わりに攻撃してくれる魔法使いも弓士も居ない。


台詞を読み上げたら終わりかと思っていたカウントが、台詞の無い状態で3600って宙に浮いた。



一時間……

一時間内に私はユキちゃんに毒リンゴを投げにいかなければならない。


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