【完結】オオイヌノフグリを遥か彼方の君のもとへ

DAKUNちょめ

文字の大きさ
5 / 11

ピーチクパーチクさえずるコトリとタンポポポ。

しおりを挟む
城に着くと料理長が私を出迎えた。



「陛下、お帰りなさいませ!軽食の準備が整っております。

その……仰せの通りに食堂に…。」



「ああ。」



この城の者達には普段の食事を各々の部屋で取らせている。


私は陛下と呼ばれこの城の主として此処に居るが、王ではない。


この城に居る使用人達も、先代国王の頃から使用人として仕えていた者が勝手に残っているだけで私の部下だと言う訳でもない。


勝手に仕事をしてくれるならば対価は払うが、私に仕えて貰っている訳ではない。


家族どころか、部下だと言える者すら居ない。

そんな私が誰かと食事を共にする等考えも及ばない。

よって、この城の食堂は放置状態だった。



その放置状態だった食堂を整えさせ、女が好きであろう見目美しい菓子を作らせた。


そしてこの城に居る、私に差し出された美姫達を食堂に呼んである。







物置のようになっていた食堂が綺麗に整えられ、真っ白なテーブルクロスを掛けた長テーブルには雑草ではない花が飾られた。
美姫達の、それぞれの席の前には切り分けられたケーキが並ぶ。


「女達が支度をして食堂に来るまで、あと一時間後位か…。

私も着替えて来るか。」



ずぶ濡れの雑草女に抱き付かれたせいで私の衣服もかなり濡れており、しかも砂まみれだ。


私は着替える為に私室へと向かい、中庭に面した城の廊下を歩き始めた。




「新参ものが大きな顔をしているんじゃないわよ!」


「陛下が迷惑がっているの分かってらっしゃらないの!?」


「一体、あなた何処の国から来たのよ!」



荒れた中庭の片隅で、女達が雑草女を囲んで責め立てている場面に出くわした。


恥ずかしげもなく大きな声で複数の女が一人の少女を責め立てる姿を見た私は…

かつての自分の姿を思い出した。



生まれつきの白い髪、赤い瞳、呪われた子どもだと言われ、長生きは出来ないだろうと、幼い私は生みの親によって町を外れた森に捨てられた。

生きる術を持たない幼子だった私は、幸か不幸か死に至る前に魔法使いと呼ばれる老婆に拾われた。


老婆は魔法使いとは呼ばれてはいたが魔力などさほど無く、彼女もまた、厄介者として町から追われた者だった。


魔法使いと言うよりは薬師に近い彼女は、作った薬を町に売りに行く。


彼女に連れられ、町に行く私は迫害の対象になった。


醜い、呪われている…そんな罵詈雑言を浴びせる。

……なら近寄らなければ良いだろう?



なぜ、寄ってたかって私をいたぶるのか…。

ボロくずのようになるまで。

なぜ…なぜ…何もしていない、この姿で生まれただけで…







「ダーリンは貴女達の所有物じゃないのだから、わたしが声を掛けて何か悪いの?」



雑草女はシレッと答える。

彼女の声に、思い出した過去の自身の姿に囚われつつあった私はハッと我に返った。


「まぁぁあ!」と女達の、怒りを越えた呆れ声が響いた。



「自分達だって、声を掛けりゃいいじゃない。

無視されるなら飛び付いちゃえば?」




雑草女よ…

女が私に飛び付こうとすれば、私はすべて弾き飛ばす。

私の魔法を無力化して私に飛び付けるのは、お前だけだ。




私は少し離れた位置から中庭に居る女達の様子をうかがう。


雑草女は相変わらずで、不遜な態度は変わらない。

よく、こんな女が2ヶ月も目立つ事無く大人しくしていられたもんだ。



「何処の国からって聞いたけど、わたしの居た場所には国なんてないわ。」



「国がない!?どんな辺境の地から来たのよ!

田舎者もいいとこだわ!!」



「あなた、魔界から来た魔物ではなくて!?気味が悪い!」



雑草女は、ボケーっと女達の話を聞いて…いや、聞き流している。



「魔界なんて、無いわよ。存在が証明されてないもん。

…ピーチクパーチク…うるせ。コトリか。

……コトリって何だろう。」



雑草女が自分の呟きに疑問を持ち、宙を見つめている。



「うるさい小鳥ですって!?小鳥って何なのよ!!」



雑草女に馬鹿にされたと、いきり立つ女達がみっともなく声を荒げる。
ヒステリックに騒ぎ立てる女達を無視し、雑草女は宙に目を向け何やら思案中の様だ。



「言ってみたはいいけど、何なのか分からないから調べてるわよ!
コトリ…小鳥!?小鳥の種類が多いわ!

ピーチクパーチクうるさいのはどれだ!」



私は吹き出してしまった。


女達は小鳥が何かを聞いた訳ではないだろうに、雑草女は小鳥の種類を聞かれたと思っているようだ。

吹き出してしまった私の存在に気付いた女達の顔が青ざめる。



「へ、陛下…!わたくし達、この方を責めていたのでは…!」


「そ、そうですわ、わたくし達…教えて差し上げていたのですわ!ここでの事を…!」


私は思わず吹き出した口元を手で隠し、追い払う様に手の平を数回払った。


「気にしなくていい、食堂に菓子を用意してある。

私も着替えて向かうから先に行っていろ。」



中庭から女達がゾロゾロと去って行く。

一人残された雑草女は、納得いかない顔で宙を眺めていた。



「……雑草、小鳥とは小さな鳥すべてを表す言葉で、ピーチクパーチクはそんな小鳥達がやかましくさえずるように、お前らもうるさいわボケ、という意味だ。

どの種類の鳥がとかは関係無い。」



「そうなんだ!ダーリンは物知りね!」



「お前が知らなすぎるだけだ。変な知識だけはあるのにな。」



中庭に面した廊下から、中庭に立つ雑草女に声を掛ける。

雑草女は、女達が踏み潰した雑草の花を手に取り唇を当てた。



「……何をしている?汚いだろう。」



「唇を当てるのはキスじゃない?キスは親愛の表現でしょう?

わたしは、この花を愛している。

タンポポポと言うのよ…。」



「ポが多いわ。タンポポだ。アホ。」



喉の奥から笑いが込み上げる。クツクツと声を漏らしながら、私は私室に向かう。



魔界から来た魔物だろうが何だろうが構わない。

あの女は面白い。

あの女の言動すべてが私には未知で、あの女のすべてを私は知りたい。



それこそ、あの女の身体を引き裂いてでも、肉体の内側の全ても見尽くしたい。

本当に人間ではないのか?


私の所有物として、壊し尽くすまで……



「一年……以内にか。」



知的欲求と言うのか、知りたいが故にどす黒い感情が芽生えかけたが……どうやって?



そもそも雑草女、死なないし。

引き裂いてもクソも、攻撃一切効かないし。

遺体にして解剖。いや、そもそも死なないし。


なんだそりゃ。詰んでるじゃないか。



「あははははは!」



私室に着いた私は大声をあげて笑った。


この世に生まれてから、初めてかもしれない大笑いをした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

勇者の様子がおかしい

しばたろう
ファンタジー
勇者は、少しおかしい。 そう思ったのは、王宮で出会ったその日からだった。 神に選ばれ、魔王討伐の旅に出た勇者マルク。 線の細い優男で、実力は確かだが、人と距離を取り、馴れ合いを嫌う奇妙な男。 だが、ある夜。 仲間のひとりは、決定的な違和感に気づいてしまう。 ――勇者は、男ではなかった。 女であることを隠し、勇者として剣を振るうマルク。 そして、その秘密を知りながら「知らないふり」を選んだ仲間。 正体を隠す者と、真実を抱え込む者。 交わらぬはずの想いを抱えたまま、旅は続いていく。 これは、 「勇者であること」と 「自分であること」のあいだで揺れる物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

灰の街の灯火と、名もなき英雄

にゃ-さん
ファンタジー
「英雄なんて、もういらない」 滅びかけた異世界〈グレンヘイム〉に転生した青年リオは、過去の記憶と引き換えに“世界の欠片”を託された。荒廃した街、心を失った住人たち、光を信じなくなった国。だが、灰の中でも灯は消えていなかった。 リオは仲間とともに、滅びの真実を探す旅へ出る。 守るためではなく――“誰かをもう一度信じるため”に。 運命に抗う者たちが紡ぐ、再生と希望のファンタジー。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...