【完結】オオイヌノフグリを遥か彼方の君のもとへ

DAKUNちょめ

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海は青く、空は水色い。

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私は雑草女に引き摺られて厩舎まで連れて来られた。

残念ながら、抵抗出来なかった。

出来なかったと言うか、通用しなかったと言うか…。



魔力にばかり頼ってきたとは言え、私も男だ。

それなりに体力はあるし、腕力も無い訳ではない。

それなりに鍛えた相手ならいざ知らず、細身の少女になど負ける筈が無い。



負けたのだが。



女が無遠慮に私をズルズル引き摺る手を振りほどこうとしては再び掴まれ、その場に踏ん張ろうとした身体はいとも容易く引っ張られ。



いっそ、重力魔法でも使ってその場から動けなくなってやろうかとも思ったが



「足取りが重いのなら、抱っこしてあげましょうか?」



とまで言われ、ゴネるのをやめた。

本当にされそうだったので。


━━女に抱き上げられる私。


そんな情けない姿を城に居る者達に見られる訳にはいかん。





厩舎に来た私達は、並ぶ馬を一頭ずつ順に見ていく。

雑草女は青い目を輝かせ、興奮気味に声をあげる。



「これがンマ!おっきい!」



発音が変わっている。ウマがンマに。



「馬だ。バカ者が。遠乗りするなら早く選べ。」



吐き捨てるように言って、女からフイと顔を背ける。



「この子にする!白い、綺麗な子!」



白馬を選んだ女を鼻で笑う。

白馬が綺麗だとか、王子様やお姫様に似合うだとか…。


この世の大半の人間は本質など見もしないで、見てくれだけでものを選んだり、逆に切り捨てたりする。



「アルビノではないみたいだけど、白くてダーリンに似ているわね。
とても綺麗だわ。」



雑草女は白馬を撫で、その鼻先に顔を寄せる。

白い馬体に雑草女の黒い髪が映える。



不本意ではあるが、美しいと思ってしまった。



白い馬を、私の呪われた様な姿に似て綺麗だと言う。

見てくれを意識し過ぎているのは…私の方か…



「……遠乗り…するのか?

乗馬も知らないお前が、どうやってだ。」



女はドングリを無くしたリスみたいな顔をしている。



「……アホか、お前は……」



私は白馬を連れて厩舎を出た。

屋外に出ると左手に手綱を握り、地面を蹴って馬の背に跨がった。
そして、女の腕を掴み引き上げる。

私の前に、女が馬に跨がるように座らせた。

手綱は私が持ってる…女の掴まる場所がない。

後ろに座らせるべきだったか。

いや、それはそれで腰に腕を回されるのも鬱陶しい。



「高いわね!凄い!これで走るの?」



「……走るな。
普通、馬は一人で乗るものだから、お前が振り落とされないように持つ場所が無い。
だから、振り落とされたら遠乗りは終了だ。」



何だか適当な事をいくつか言った。


振り落とされ落馬した所で死なないらしいし、貴重な私の時間をこんな、くだらない事に使われて苛立つのもあった。



「落ちないわよ。帰るまでが遠足って言うじゃない?」



エンソク?意味が分からない。

私は馬を走らせた。



馬は城の門を出て、街道を走る。

街中を通り過ぎ、やがて建物が無くなると草地や林等、人の手が加えられていない自然の姿が目に入る。



「綺麗な緑ね…地面が一面、緑だわ…」


「雑草だ。……所で、何処へ向かうつもりだ。」


「目的地…あ、湖とか、海とか、水がいっぱいある場所に行きたい!ある?」



水がいっぱいある場所……城の中にある池では駄目だったのだろうか…。



「海なら近いな…海に向かう。」



馬の進路を海の方角に変え、走る速度を上げる。


女は馬の背に跨がったまま、風になびく長い髪を指先で耳に掛け………


この速さで走る馬の背で、どこに掴まるでもなく驚異のバランスで私の前に座っている。

色々と人間離れしていると思ってはいたが……


人間ではないのかも知れない。



ならば、何者なのだろう。



「ダーリン!青い所の、一部がキラキラ光っているわ!

あれ、ナニ!?」



海が見えて来た。

太陽が反射して一部が眩しい位に光を放つ。


……青い所……?



「海が見えただけだろう?光っているのは反射した太陽の光だ。」



「あおーい!青い!海が青い!空も水色い!あはははは!」



何が面白いのか。


海が青いのも空が青いのも、雑草が緑なのも当たり前の光景ではないか。




馬を海岸まで走らせ、砂浜に降り立つ。

砂浜を全速力で走り出す雑草女。



「あはははははは!」



やがて、海にザブザブと入っていく。

そのまま溺れて居なくなってしまえと思ってしまう。



「………水と違って海水は塩辛いだろう…?」



全身ずぶ濡れになった女に尋ねてみる。



「塩辛い……て、ナニ?」



女は…味という物を知らない。

料理や食材だけではなく、味すら知らない。



「お前は…何者で、何処から来た……。

死なない身体で、私の力を無力化する。

……お前は……私を殺しに……」



死ぬのは構わない。それが私の運命ならば受け入れよう。

だが、私は知りたい。

雑草女が何処から来たのか何者なのか、知らずには死ねない。



「なぜわたしが、ダーリンを殺さなきゃならないのよ。

あと一年……も、無いんだけど、楽しい事をいっぱいしたいの。
わたしの事は、帰る時に教えるから見送りしてよね。」



見送り…私がか?



「さようなら!また会いましょう!って。」


「二度と来るなと言うだろうな。」



女はずぶ濡れになった身体で、私に体当たりした。

体当たり…と言うよりは抱き付いた。



「この場所が、わたしの最期の場所になる。

わたしが帰る時は、わたしを連れて此処に来て。」



「今、帰ってしまえば良いではないか。

喜んで見送ってやろう。」



ずぶ濡れ女に抱き付かれ、ずぶ濡れになった私は不機嫌そうに言う。



「寂しい事言わないでよ!
それに、帰りたくても帰れないの!時期があるんだから!

あと……もう300日も無いのね……」



女は時々、何処からか何らかの情報を得ている。

植物の名前然り、動物の名前然り……自身の滞在出来る期間さえか?



「この世界は…色があって綺麗だわ。」



「お前の居る世界には色が無くて、不幸な世界なのか?

私のせいで戦乱を終えたばかりならば、国は焼け野原で色も無く、植物も食物も無いのだろうな。」



「いいえ、不幸ではないわ。

食物が無く、餓えている事も無い。」



女は海を眺めながら黙り込んだ。

青い瞳に、青い海を、青い空を映して焼き付けるように、ずっと眺めていた。



そらが夕暮れとなり、辺りが橙色に染まり海が橙色に染まっていく様を見て、キャアキャアはしゃいだ声をあげた。



「雑草、そろそろ帰るぞ。

料理長が菓子を用意してくれている。」



「菓子!!!見たい!!」



食べたい、食べてみたいではなく、見たい…なのか。



私は女を馬に乗せ、自らも馬に跨がった。

来る時は馬を走らせたが、帰りは早足程度で移動する。



女は四方八方に視線を泳がせ、来る時とは違う色に染まる景色を見ていく。



「オレンジ色って、こーゆーの!凄い凄い!綺麗ね!」



はしゃぐ女を乗せた馬は街中を歩き、城の門に辿り着く。

門番に馬を預け、城の中に入った。



あちらこちらから、女達の視線が雑草女に突き刺さる。

あの中には、鮫の女と猿の女も居るのだろうか。



当の本人である雑草女は気にもしていないようだ。

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