愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました

DAKUNちょめ

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72話◆新設中等部一学年Aクラス。生徒数は10人。

クリス義兄様が開いた扉から講堂に入ると、そこは広めの物置きを兼ねた準備室みたいな部屋で、向かい側の壁に扉があった。

その扉から出れば狭い廊下と壇上に続く階段が2箇所あり、僕達は階段を昇って壇上端に出る。

僕を含めた生徒会役員分の椅子が講堂の壇上の端に用意されており、式が始まる前に僕達はそこに座った。


今さらだけど、こりゃ生徒会に無関係のアカネちゃんをあの扉から入れたら駄目だったな。

フロアから壇上に上がる取り外し可能な階段は掛けられておらず、生徒会室側のあの入口から講堂に入ってから一般席に行くには、壇上から下に飛び降りるしか方法が無い。

ゲームや僕の前世ではクリストファー王子の計らいにより、と言うかゲームのシナリオ上、迷子のヒロインが講堂に着く前に生徒会役員になってこの入口から中に入ったから気にもしなかったけど…。
現実となると、やはりそうはいかないみたいだ。




壇上の上からは新入生の姿が一望出来る。
僕は壇上から一般席にいるであろうアカネちゃんを探したが見当たらなかった。

まさか入学式をボイコットしたのか?と思ったらば、開会ギリギリになって後ろの入口から、厳しい表情をした教師に伴われてアカネちゃんが講堂の中に入って来た。

皆の視線が一斉にアカネちゃんに注がれる。
さっき別れてから数分経ってるけど、まだ外に居たのか。
……もしかしてグラハムが鍵を掛けた壇上側の入口の向こうで、ずっと中に入れてとゴネていたのだろうか。
そこを教師に見つかり叱られたって感じ?

このヒロイン、悪目立ちするなぁ。
いや、もはや彼女をヒロインと呼んで良いかビミョーなんだけど。




入学式は滞り無く行われ、本年度の生徒会役員の紹介をもって終了した。
次は、個々の教室に移って担任教師やクラスメートとの顔合わせとなる。
式が終わってから壇上からフロアに降りる階段が教師による魔法で現れた。
そうなってんのか……。



小舅みたいにうるさいクリス義兄様が教師と話している隙に僕は壇上から階段を降りて、先に下に降りたリュースとニコラウスを追いかけた。

2人は姉様と同じ高等部1年のAクラスだ。


「ニコラウス、リュース、お願いがあるんだけど。」


近くに来た僕にあからさまに嬉しそうな顔をするリュースと「分かってる」と頷くニコラウス。


「シャルロット嬢にアカネが近付かないよう、見ていて欲しいって話だよな。」


ニコラウスの言葉に僕は大きく頷いた。

数日前に大聖堂に行った時に頼んだ事を覚えていてくれたんだ。
ぶっちゃけ、あの時はリュースを無視したんだけど。


「アヴニール…様は、なぜアカネ様がシャルロット様に近付くと、お思いなんです?」


リュースが周りの目を意識してか、貴族ではない自分の立場を弁えた口調で訊ねてきた。
普段は敬称も敬語も無しで会話をするため違和感がハンパない。


「あ、それ俺も気になっていた。
アカネは俺やリュースにはベタベタくっつきたがるけどな。」


リュースの質問にニコラウスも同じ疑問を持っていたらしく、同意するように頷いた。

今だって、隙あらばとリュースやニコラウスにくっついてきそうなんだが…アカネちゃんは今、教師に説教をされている。


「彼女はさ、生徒会メンバーの……リュース、ニコラウス、クリス義兄様、グラハム様、エドゥアール様を気に入ってんだよ。
だから紅一点で生徒会入りした姉様を羨ましく思うだろうなって。」


僕は説教を受けているアカネちゃんをチラっと見て苦笑した。


「羨ましく思うから文句のひとつも言ってきそうだとか?
男爵令嬢の身で侯爵令嬢に?」


ニコラウスの疑問ももっともなんだけど、ゲームの設定上での事をどう説明したものか。

文句を言うと言うより、言われたと言いがかりを付けて来るんじゃないかと思うんだよね。

身分が低いと馬鹿にされた、ひどい苛めを受けたとか…ゲームでそうあった様に。

今の姉様は、どう見ても嫌味を言ったり嫌がらせをしたりなんて絶対しないけど、ゲームの設定ではシャルロットは悪役令嬢であり、アカネちゃんの中でもそういう扱いだろう。

だからアカネちゃんは、攻略対象者達の庇護欲を掻き立てる為に姉様に苛められなきゃならないと思っている筈。


「妬ましさから姉様が悪者にされたりしない様に念のためなんだ。
だから、お願い…。」


真剣な僕の様子にリュースとニコラウスは顔を見合わせて頷いた。


「分かりましたよ、アヴニール。
貴方の憂いは私が払いましょう。」


「おいリュース、そこは私達がって言えよ。」


意気揚々と宣言したリュースに呆れ顔のニコラウスが突っ込み、2人が微笑んだ。
僕はホッとした表情をして2人に微笑み返す。


「ありがとう、リュース、ニコラウス。」


今のクリストファー義兄様ならば、アカネちゃんの味方をして姉様を断罪し国外追放を言い渡すなんて無いだろうけどさ。

ゲーム補正があったりしたら困るし念のためだよね。





講堂の前の廊下で姉様や皆と別れた僕は、クリストファー義兄様の陰謀により新設された中等部の校舎に向かった。

いつでも僕を見ていたいって義兄様の欲望により作られた煩悩中等部だが、姉様を側で見守りたかった僕が学園で一緒に居られる様になったのだから結果オーライって感じだ。


中等部は日本の中学校と同じく3学年あり、クラスは成績によって別れたABCの3つ。

僕は特待生として1年のAクラスに入る。

中等部は本年度から急に始まったので、まだ生徒数が少なく、特に1年は各クラスに10人位しか居ない。

だったら2クラスに纏めれば良かったじゃんと思ったけど、成績のバランス等でどうしても3クラスになったそう。

で、Aクラスには飛び級制度で合格したピヨちゃんこと、ジュリアス・マーダレスもいる。
また僕に、子分になれとか言って来たりしないだろうな。



教室に入ると、さっそくピヨちゃんが目に入った。
目立つんだよな、あの金髪オカッパは。
広い教室のど真ん中で、彼を中心にして3人の生徒が集まっている。
新しい子分なんだろうか…。

ピヨちゃんは本来ならば小学6年の年齢。
この教室に、飛び級制度で合格したちびっこは彼と僕だけで、後は皆中学一年生の年齢だ。

だからピヨちゃんの周りに居る子分だか取り巻きだかは皆年上だ。

もしかして、また自分チは侯爵家だとか威張り散らしたのか?
何であんな偉そうに出来んだかな、あの金髪オカッパ。

教室に入った僕は、教室の窓側の端っこの席に腰を下ろした。

教室内は、ピヨちゃんと取り巻き以外は皆が離れた場所に席を取って1人で座っている。

誰とも馴れ合うつもりは無いとでも言うかの様に。
いや、頭がいい奴らだし単なるコミュ障か…?(偏見)


「ジュリアス様は、もう婚約者がいらっしゃると?」


教室の端にまで聞こえる取り巻きらしき少年のセリフに思わず聞き耳を立ててしまった。

なんと、ピヨちゃんに婚約者が!?

やはり侯爵家の者ともなると、家の結び付きや政治的な何やかんやで早くに婚約者を決められたりすんのかな。

姉様だって、幼少の頃からクリストファー王子という婚約者が居たわけだし。

だったら…僕もその内に婚約者が出来たりすんのかな。
ヤダなぁ…

…ん?…長男のエドゥアールには居なかったよな、婚約者。


「正式な婚約者ではないが、ボクは将来妻にすると心に決めた女性がいる。」


何だよ、ピヨちゃんの勝手な片想いじゃん。
どこかの貴族のお嬢様にでも恋をしたのか?
どーでもいいわ聞き耳立てて損した。

僕はピヨちゃんの会話に興味を無くし、頬杖をついてフイと窓の外に目を向けた。


「年上だが厳しくも優しい女性だ。
黒髪の美しい人でミライという名なんだ。」


ズリュッ

頬杖から頬がズリ落ちた。
僕は、焦った様にピヨちゃんに目を向ける。
何て言った?将来、妻にしたい女性が居るって話だったよな!?
その黒髪の女性の名がミライ!?

それ、僕じゃないか!!


え?何で?それって、深淵の闇魔法使って地球人の喪女の姿になった僕だよな。
ピヨちゃんの尻をぶっ叩いた記憶しか無いんだけど。

……て言うか、ミライはこの世界には存在しない人物だよ?
結婚どうこう以前に絶対に見つからないし。


「実は、どこの令嬢だか分からなくてな。
それで多くの貴族子女が集まるこの学園ならば情報が集まるのではないかと尋ね人のポスターを作って来たのだ!」


ピヨちゃんがくるっと巻いた紙を取り出して広げて、取り巻きだけではなく、教室内にまばらに座った生徒側にも向けて見せた。

僕の方にも向けられ、書かれた文字に目をやる。


━━情報求む謝礼あり!
15歳から18歳くらいの美人。
黒く長い髪、真っ黒なドレス、名前はミライ。
心当たりがあったらマーダレス侯爵家のジュリアスまで━━


手書きの手配書かい!!

特徴が黒いドレスって、毎日同じ服なワケ無いじゃん。
美人って、お前の主観だろ
それ、貼るの?学舎の中に?やめろ!


ピヨちゃんの手製のポスターをガン見していた僕とピヨちゃんの目が合ってしまった。

ピヨちゃんがポスターをクルクルと巻きながら僕の席の横に歩み寄る。


「アヴニール、お前………
今日一緒に居た人じゃなくて、もう1人姉上が居るとかないのか?」


「な、無いよ!姉上は1人だけだ!」


「お前が知らないだけで実は、もう1人いたり…」


「はぁあ!?ナニ言ってんだよ!」


ミライ━━は僕と同じ様な顔をしていたらしいからな。
僕の姉じゃないかって?
ミライがパパ上の隠し子かもって言いたいのかよ。


「ジュリアス様、それ以上は口に出したらいけませんよ!」


「ローズウッド侯爵様を侮辱したと言われたら、どうするんです!」


「うるさい!邪魔をするな!
ボクはただ、ミライを見つけたいだけだ!」


「ジュリアス様、落ち着いて下さい!」


取り巻きの3人が慌ててピーピーさえずるジュリアスの言葉を遮った。
僕の席の横が騒がしくなった。

あぁぁ!うるせぇ!



バン!
突然、机の上を叩く大きな音が教室内になった。


「騒がしいぞ!お前ら黙れ!」


教室の廊下側の端の席に居た男子生徒が机を叩き、低めの大きな声を発して教室内がシン…と静まり返った。

声の主に注目が集まり、その少年は騒ぎの元凶のピヨちゃんを一回睨んでからフイと視線を逸らす。


おお?
他を寄せつけない一匹狼的、クールな不良みたいなタイプ?

着崩した衣装に、整ってない無造作な髪型、貴族のボンボンには珍しい。

この学園では初めて見るジャンルだなぁ。

もしかして…詰め寄られていた僕を助けてくれたのかな。
一応後から、お礼でも言っておくか。

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