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聖女のお役目
積もった雪が半分以上溶けた頃、私は目を覚ました。文字盤の見にくい、よく言えばアンティークな時計は、午後二時を指している。やっばい、最近夜中に出かけるせいで、昼夜逆転しかけてる。肌に悪い。
「んー…」
思いっきり伸びをする。レオン殿下には絶対見せられない仕草だ。さあて、今日はどんな聖女パフォーマンスを繰り出そうか…
「あくびするなら手くらい添えたらどうです。はしたないですよ」
「うるさい。放っといてよ」
聖女サマの崇高なる思考に水を差すのは、やっぱりリュカ。
執事とは言え、年頃の乙女の部屋にズカズカ上がり込むのはどーかと思うんだけど。
「ああ、そういえば、レオン殿下からお手紙が届いておりましたよ」
「それをさっさと言いなさいよ!」
投げつけた枕は、片手で受け止められた。
リュカから奪い取った手紙を、丁寧に開く。レオン殿下直筆の、少し尖った整った字。うっとりしたのも束の間だった。
要約すれば、皇太子妃、グロリア様が倒れられたから、お見舞いに行かなきゃならない、今日の夜は、来ないでくれ…って内容。
本当は行きたくない、リメッタといたい。大好きだ。そんな言葉が端々で踊っていた。
…わかってる。
レオン殿下が愛してるのは、間違いなく私。
だけど、こーゆーとき、私は愛人にすぎないんだって、思い知らされる。
家柄だとか、公務だとか、難しいことを考えたら、優先せざるを得ないのは、グロリア様…クシャリと、手の中の高級紙が音を立てた。
私にできるのは、レオン殿下の気持ちを、絶対に離さないことだけ。
「…リュカ。出かけるよ」
「御意」
***
馬車で一時間。都の角っこ、貧困地区に、目的地はある。
アルセーヌ孤児院。
グロリア様が皇太子妃になられてから、城下の治安は急速に悪化した。民に重税を課して、自分は贅沢放題。
哀れな孤児は増えるばかりだ。
そこで聖女の出番ってわけ。グロリア様のせいで苦しむ孤児を救う聖女…
民の支持も、王宮で生きていくには必要よ。
グロリアを断罪し、レオン殿下と婚約破棄させる。その後、私とレオン殿下が、民の祝福を一身に受けて結婚する。
これが、私の、たぶんレオン殿下も、望んでいるシナリオなんだから。
「ようこそおいでくださいました。聖女さま」
ここの先生、ニース。穏やかな雰囲気と溢れ出る知性。おまけにイケメン。この辺じゃモテモテなんだとか。
まーレオン殿下にゃ叶わないけどね。
「ニース先生。お会いしとうございました」
にこっと微笑んで見せる。ニースの纏う空気が、わずかに和らぐ。
うーん、この分なら、もう少しで落とせるなあ…こーゆータイプは以外と粘着質だったりするし、この辺が引き際かも。
背後のリュカが怒りオーラをびんびん送ってくるし。
聖女なら聖女らしくしろって?はいはい。
「さっそくですが、子供たちのところへ案内してくださりますか?」
***
「んー、疲れた!」
「そんな大声を出すものじゃありませんよ」
「いーじゃない。こっちはくったくたなんだから」
ふかふかの座席を兼ね備えた馬車は、貧困街をゆっくりと進む。どこかでカラスが鳴いている。もう夕方なんて、時間感覚狂いそう。
それにしても、正直、冬の孤児院を舐めてた。風邪をひいていない子供のほうが珍しいくらいだし、栄養不足で動けない子もしばしば。あれでもリュカ曰く、衛生環境がいい方っていうんだから信じられない。思わず、特大のため息。もう、寝ちゃおうかしら。
「…リムさま」
「何?」
てか、そんな子供の時のあだ名、やめてって言ってるのに。
反論する間もなく、視界が奪われる。ふわふわの毛布。
「…あなたさまは、お風邪を召されませんように」
…やれやれ。
「私がそんなヤワにみえる?」
「鉄筋入りのあず⚪︎バーよりも図太いと存じております」
「そこまで言えっつってないわよ!」
てか、あず⚪︎バーって何よ。
手近なカバンを投げつけて、私は今度こそ眠りについた。
「んー…」
思いっきり伸びをする。レオン殿下には絶対見せられない仕草だ。さあて、今日はどんな聖女パフォーマンスを繰り出そうか…
「あくびするなら手くらい添えたらどうです。はしたないですよ」
「うるさい。放っといてよ」
聖女サマの崇高なる思考に水を差すのは、やっぱりリュカ。
執事とは言え、年頃の乙女の部屋にズカズカ上がり込むのはどーかと思うんだけど。
「ああ、そういえば、レオン殿下からお手紙が届いておりましたよ」
「それをさっさと言いなさいよ!」
投げつけた枕は、片手で受け止められた。
リュカから奪い取った手紙を、丁寧に開く。レオン殿下直筆の、少し尖った整った字。うっとりしたのも束の間だった。
要約すれば、皇太子妃、グロリア様が倒れられたから、お見舞いに行かなきゃならない、今日の夜は、来ないでくれ…って内容。
本当は行きたくない、リメッタといたい。大好きだ。そんな言葉が端々で踊っていた。
…わかってる。
レオン殿下が愛してるのは、間違いなく私。
だけど、こーゆーとき、私は愛人にすぎないんだって、思い知らされる。
家柄だとか、公務だとか、難しいことを考えたら、優先せざるを得ないのは、グロリア様…クシャリと、手の中の高級紙が音を立てた。
私にできるのは、レオン殿下の気持ちを、絶対に離さないことだけ。
「…リュカ。出かけるよ」
「御意」
***
馬車で一時間。都の角っこ、貧困地区に、目的地はある。
アルセーヌ孤児院。
グロリア様が皇太子妃になられてから、城下の治安は急速に悪化した。民に重税を課して、自分は贅沢放題。
哀れな孤児は増えるばかりだ。
そこで聖女の出番ってわけ。グロリア様のせいで苦しむ孤児を救う聖女…
民の支持も、王宮で生きていくには必要よ。
グロリアを断罪し、レオン殿下と婚約破棄させる。その後、私とレオン殿下が、民の祝福を一身に受けて結婚する。
これが、私の、たぶんレオン殿下も、望んでいるシナリオなんだから。
「ようこそおいでくださいました。聖女さま」
ここの先生、ニース。穏やかな雰囲気と溢れ出る知性。おまけにイケメン。この辺じゃモテモテなんだとか。
まーレオン殿下にゃ叶わないけどね。
「ニース先生。お会いしとうございました」
にこっと微笑んで見せる。ニースの纏う空気が、わずかに和らぐ。
うーん、この分なら、もう少しで落とせるなあ…こーゆータイプは以外と粘着質だったりするし、この辺が引き際かも。
背後のリュカが怒りオーラをびんびん送ってくるし。
聖女なら聖女らしくしろって?はいはい。
「さっそくですが、子供たちのところへ案内してくださりますか?」
***
「んー、疲れた!」
「そんな大声を出すものじゃありませんよ」
「いーじゃない。こっちはくったくたなんだから」
ふかふかの座席を兼ね備えた馬車は、貧困街をゆっくりと進む。どこかでカラスが鳴いている。もう夕方なんて、時間感覚狂いそう。
それにしても、正直、冬の孤児院を舐めてた。風邪をひいていない子供のほうが珍しいくらいだし、栄養不足で動けない子もしばしば。あれでもリュカ曰く、衛生環境がいい方っていうんだから信じられない。思わず、特大のため息。もう、寝ちゃおうかしら。
「…リムさま」
「何?」
てか、そんな子供の時のあだ名、やめてって言ってるのに。
反論する間もなく、視界が奪われる。ふわふわの毛布。
「…あなたさまは、お風邪を召されませんように」
…やれやれ。
「私がそんなヤワにみえる?」
「鉄筋入りのあず⚪︎バーよりも図太いと存じております」
「そこまで言えっつってないわよ!」
てか、あず⚪︎バーって何よ。
手近なカバンを投げつけて、私は今度こそ眠りについた。
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