それでもヒロインは私ですっ!

翡翠

文字の大きさ
2 / 5

聖女のお役目

積もった雪が半分以上溶けた頃、私は目を覚ました。文字盤の見にくい、よく言えばアンティークな時計は、午後二時を指している。やっばい、最近夜中に出かけるせいで、昼夜逆転しかけてる。肌に悪い。

「んー…」

思いっきり伸びをする。レオン殿下には絶対見せられない仕草だ。さあて、今日はどんな聖女パフォーマンスを繰り出そうか…

「あくびするなら手くらい添えたらどうです。はしたないですよ」
「うるさい。放っといてよ」

聖女サマの崇高なる思考に水を差すのは、やっぱりリュカ。
執事とは言え、年頃の乙女の部屋にズカズカ上がり込むのはどーかと思うんだけど。

「ああ、そういえば、レオン殿下からお手紙が届いておりましたよ」
「それをさっさと言いなさいよ!」

投げつけた枕は、片手で受け止められた。
リュカから奪い取った手紙を、丁寧に開く。レオン殿下直筆の、少し尖った整った字。うっとりしたのも束の間だった。
要約すれば、皇太子妃、グロリア様が倒れられたから、お見舞いに行かなきゃならない、今日の夜は、来ないでくれ…って内容。
本当は行きたくない、リメッタといたい。大好きだ。そんな言葉が端々で踊っていた。
…わかってる。
レオン殿下が愛してるのは、間違いなく私。
だけど、こーゆーとき、私は愛人にすぎないんだって、思い知らされる。
家柄だとか、公務だとか、難しいことを考えたら、優先せざるを得ないのは、グロリア様…クシャリと、手の中の高級紙が音を立てた。
私にできるのは、レオン殿下の気持ちを、絶対に離さないことだけ。

「…リュカ。出かけるよ」
「御意」

***
馬車で一時間。都の角っこ、貧困地区に、目的地はある。
アルセーヌ孤児院。
グロリア様が皇太子妃になられてから、城下の治安は急速に悪化した。民に重税を課して、自分は贅沢放題。
哀れな孤児は増えるばかりだ。
そこで聖女わたしの出番ってわけ。グロリア様のせいで苦しむ孤児を救う聖女…
民の支持も、王宮で生きていくには必要よ。
グロリアを断罪し、レオン殿下と婚約破棄させる。その後、私とレオン殿下が、民の祝福を一身に受けて結婚する。
これが、私の、たぶんレオン殿下も、望んでいるシナリオなんだから。

「ようこそおいでくださいました。聖女さま」

ここの先生、ニース。穏やかな雰囲気と溢れ出る知性。おまけにイケメン。この辺じゃモテモテなんだとか。
まーレオン殿下にゃ叶わないけどね。

「ニース先生。お会いしとうございました」

にこっと微笑んで見せる。ニースの纏う空気が、わずかに和らぐ。
うーん、この分なら、もう少しで落とせるなあ…こーゆータイプは以外と粘着質だったりするし、この辺が引き際かも。
背後のリュカが怒りオーラをびんびん送ってくるし。
聖女なら聖女らしくしろって?はいはい。

「さっそくですが、子供たちのところへ案内してくださりますか?」

***
「んー、疲れた!」
「そんな大声を出すものじゃありませんよ」
「いーじゃない。こっちはくったくたなんだから」

ふかふかの座席を兼ね備えた馬車は、貧困街をゆっくりと進む。どこかでカラスが鳴いている。もう夕方なんて、時間感覚狂いそう。
それにしても、正直、冬の孤児院を舐めてた。風邪をひいていない子供のほうが珍しいくらいだし、栄養不足で動けない子もしばしば。あれでもリュカ曰く、衛生環境がいい方っていうんだから信じられない。思わず、特大のため息。もう、寝ちゃおうかしら。

「…リムさま」
「何?」

てか、そんな子供の時のあだ名、やめてって言ってるのに。
反論する間もなく、視界が奪われる。ふわふわの毛布。

「…あなたさまは、お風邪を召されませんように」

…やれやれ。

「私がそんなヤワにみえる?」
「鉄筋入りのあず⚪︎バーよりも図太いと存じております」
「そこまで言えっつってないわよ!」

てか、あず⚪︎バーって何よ。
手近なカバンを投げつけて、私は今度こそ眠りについた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

My Knight

チャーコ
恋愛
地味で控えめな公爵令嬢のエレオノーラ。彼女の婚約者は年若く美しいヴィルヘルム王太子である。それが不釣り合いに感じた隣国の王女はエレオノーラからヴィルヘルムを奪おうと思い立つが、エレオノーラの意外な正体が明らかになると──? ※他サイトにも掲載しています。 ※表紙絵はあっきコタロウさんに描いていただきました。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。