ハーフ&ハーフ

黒蝶

文字の大きさ
63 / 258
隠暮篇(かくれぐらしへん)

秘密の理由

しおりを挟む
それから数日、木葉はあの手この手で聞き出そうとしてきた。
それをかわすだけでもだいぶ苦戦したけれど、楽しいとも感じた私は少しおかしいのだろうか。
「それじゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
いよいよ当日、木葉が早めにお仕事に向かうのを見送って準備を進める。
「...よし、できた」
ここにある冷蔵庫はかなり大きめで、なんとか今日まで食材を隠すことができた。
ケーキに唐揚げ、ローストビーフ...サラダ、スープ、そして炊きたての白米。
時間があればグラタンも作りたかったのだけれど、残念ながらそこまでは手が回らなかった。
用意したプレゼントも運んで準備は完璧だ。
(喜んでもらえるといいな)
月がだんだん上へと昇りはじめた頃、メッセージが届いたことを告げる音が鳴った。
《今日は帰りが遅くなるので待たずに寝ててください。ごめんね》
...迂闊だった。
木葉は今日がクリスマスイブだと知らない。
優しい彼ならきっと他の人の分まで仕事を受けるはずだ。
そうなれば帰りが遅くなるのは当然で...けれど私は待ち続ける。
(ケーキとローストビーフ、サラダと唐揚げは冷蔵庫に仕舞っておいて...あとのものは木葉が帰ってきてから温め直そう)
唐揚げをあげる前でよかったとほっとしつつ、今か今かと原稿を仕上げながら待ち続けた。
...時刻は12時になろうとしている。
それでもまだ彼は帰ってこない。
少し寂しさを覚えつつ、諦めようとしたそのときだった。
「ただい...え、何これ!?」
聞こえてきたのはそんな声。
やっぱり今でも気づいていないらしい。
「おかえりなさい。ご飯、これからもう少し時間がかかるから先にお風呂に入って」
「う、うん...」
明らかに戸惑っている。
そんな木葉を見るのは新鮮で...なかなか面白い。
「...熱っ」
眠気が残っているせいか、唐揚げを作るのに使っていたトングに手が当たってしまった。
(失敗したな...)
水で冷やしてガーゼで覆うようにしようとしたけれど、なかなか上手く貼れない。
苦戦していると、後ろから手が伸びてきた。
「火傷したの?」
「ちょっと失敗しちゃって...」
「手当ては僕がやるよ。...はい、終わり」
「ありがとう」
木葉は不思議そうに首を傾げている。
「ねえ、どうしてこんなに沢山の料理を用意してくれたの?」
やっぱり木葉は気づいていない。
「クリスマスイブだったから。...でも、木葉に話したら無茶をしてでも手伝おうとしてくれるんだろうなって思ったから、当日まで隠すことにしたんだ」
「え?」
「...それが秘密」
「今まで気づいてなかった...。去年までは、こんなふうにお祝い?したこともなかったから」
「私もだよ」
瞬間、木葉に抱きしめられる。
「全部僕の為に...ありがとう!」
この笑顔が見られれば、それだけで充分だ。
火傷の痛みも気にならないほど、この胸は想いで満たされている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...