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隠暮篇(かくれぐらしへん)
ナイトタイム
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「そろそろどこに向かっているのか教えてほしいな...」
「ごめん、あとちょっとだから」
人通りが少ない道を選んでくれるのはとてもありがたい。
けれど、どこに辿り着くのか全く予想がつかないのは少しだけ不安だった。
耳元を触って、さっきつけてもらったばかりのイヤーカフがちゃんとあるのを確認する。
ちょっとしたお揃いのものを持ってみたいというところまで見抜かれているとは思わなかった。
はじめは小説のヒントになればと思って読みはじめたものだったけれど、最終的にはもし木葉とできるならと想像していたことは記憶に新しい。
(あんな些細なことまで覚えてくれているなんて嬉しい)
「はい、着いたよ」
「すごい...」
そんなありふれた言葉しか出てこなくなるほど、目の前の景色はとても美しかった。
こんなふうに街を一望できる場所があるなんて全く知らなかったのだ。
「昔、人と来たことがあるんだ。...ある男性となんだけどね」
「その男性ってどんな人なの?」
「車椅子のおじいさんだったんだけど、すごく優しかったんだ。
いつもお菓子をくれて、ここで金平糖を食べるのが好きだった」
遠い空を見上げながら話している姿を見ていれば分かる。
恐らくもう、その人は...。
だから私はただ金平糖を差し出す。
「金平糖、私も好きだから。それに、木葉もいつも食べてるでしょ?」
「わあ、ありがとう!いただきます」
近くのベンチに座ってふたりで少しずつ食べる。
時間を忘れてしまうほどその景色を眺めて、そろそろ帰路につこうという話になったとき...それは突然だった。
「街が光ってる...」
「この時間帯なら一斉点灯になるはずだって思ってたから、連れてきたんだ。
たまには上じゃなくて下を見るのもいいかなって思って...駄目だった?」
「ありがとう、木葉」
人混みが苦手で明るい場所を避けがちな私が見られる、星以外の景色...。
隣に木葉がいてくれるおかげなのか、それはどんなものよりも輝いていた。
「今日1日で色々なものをもらった気がする」
「いつもは僕がもらってばかりだからね」
ただこうして、ふたりで笑いあう。
それだけで充分幸せだ。
(今度は私があげる番)
「木葉」
「どうしたの?」
「...家に帰ったら、噛んで。我慢しないでほしい」
今日1日、ずっと抑えこんでくれていたのは知っている。
けれど、それで彼が辛い思いをするのは私が耐えられない。
「なんでもお見通しだね。...ごめん」
「謝らないで。こんなことを言ったら怒られちゃうかもしれないけど、私は木葉の力になれることが1番嬉しいから」
「ありがとう...」
それから家に戻って、着替える間もなく首筋に牙がゆっくり沈んでいくのを感じる。
その感覚が酷く安心すると伝えたら、木葉はどんな顔をするのだろうか。
「...痛くなかった?」
「全然、平気...」
体がぽかぽかするのはいつものことだけれど、頭がふわふわする感覚にはあまり慣れない。
いつもより優しい噛み方に木葉の思いやりを感じながら、そのまま抱きついた。
「来年もこうやって一緒に過ごそうね」
「僕もずっと七海の隣にいたい」
どちらからともなく口づけた瞬間、1日の終わりを告げるベルが鳴る。
出掛けて疲れたのもあってか、ふたりでソファーに寝転んでそのまま眠ってしまった。
手を繋いだまま...抱きしめあったまま。
そのぬくもりが堪らなく心地よかった。
「ごめん、あとちょっとだから」
人通りが少ない道を選んでくれるのはとてもありがたい。
けれど、どこに辿り着くのか全く予想がつかないのは少しだけ不安だった。
耳元を触って、さっきつけてもらったばかりのイヤーカフがちゃんとあるのを確認する。
ちょっとしたお揃いのものを持ってみたいというところまで見抜かれているとは思わなかった。
はじめは小説のヒントになればと思って読みはじめたものだったけれど、最終的にはもし木葉とできるならと想像していたことは記憶に新しい。
(あんな些細なことまで覚えてくれているなんて嬉しい)
「はい、着いたよ」
「すごい...」
そんなありふれた言葉しか出てこなくなるほど、目の前の景色はとても美しかった。
こんなふうに街を一望できる場所があるなんて全く知らなかったのだ。
「昔、人と来たことがあるんだ。...ある男性となんだけどね」
「その男性ってどんな人なの?」
「車椅子のおじいさんだったんだけど、すごく優しかったんだ。
いつもお菓子をくれて、ここで金平糖を食べるのが好きだった」
遠い空を見上げながら話している姿を見ていれば分かる。
恐らくもう、その人は...。
だから私はただ金平糖を差し出す。
「金平糖、私も好きだから。それに、木葉もいつも食べてるでしょ?」
「わあ、ありがとう!いただきます」
近くのベンチに座ってふたりで少しずつ食べる。
時間を忘れてしまうほどその景色を眺めて、そろそろ帰路につこうという話になったとき...それは突然だった。
「街が光ってる...」
「この時間帯なら一斉点灯になるはずだって思ってたから、連れてきたんだ。
たまには上じゃなくて下を見るのもいいかなって思って...駄目だった?」
「ありがとう、木葉」
人混みが苦手で明るい場所を避けがちな私が見られる、星以外の景色...。
隣に木葉がいてくれるおかげなのか、それはどんなものよりも輝いていた。
「今日1日で色々なものをもらった気がする」
「いつもは僕がもらってばかりだからね」
ただこうして、ふたりで笑いあう。
それだけで充分幸せだ。
(今度は私があげる番)
「木葉」
「どうしたの?」
「...家に帰ったら、噛んで。我慢しないでほしい」
今日1日、ずっと抑えこんでくれていたのは知っている。
けれど、それで彼が辛い思いをするのは私が耐えられない。
「なんでもお見通しだね。...ごめん」
「謝らないで。こんなことを言ったら怒られちゃうかもしれないけど、私は木葉の力になれることが1番嬉しいから」
「ありがとう...」
それから家に戻って、着替える間もなく首筋に牙がゆっくり沈んでいくのを感じる。
その感覚が酷く安心すると伝えたら、木葉はどんな顔をするのだろうか。
「...痛くなかった?」
「全然、平気...」
体がぽかぽかするのはいつものことだけれど、頭がふわふわする感覚にはあまり慣れない。
いつもより優しい噛み方に木葉の思いやりを感じながら、そのまま抱きついた。
「来年もこうやって一緒に過ごそうね」
「僕もずっと七海の隣にいたい」
どちらからともなく口づけた瞬間、1日の終わりを告げるベルが鳴る。
出掛けて疲れたのもあってか、ふたりでソファーに寝転んでそのまま眠ってしまった。
手を繋いだまま...抱きしめあったまま。
そのぬくもりが堪らなく心地よかった。
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