68 / 258
隠暮篇(かくれぐらしへん)
不思議な気配
しおりを挟む
「おはよう」
「ん、はよ...」
欠伸を噛み殺して、いつの間にか腕から抜け出していた七海に言葉を返す。
「ご飯できてるよ」
「ありがとう。昨日結構乱暴に噛んじゃったけど、痛くない?」
「うん。全然大丈夫だよ」
僕が1番嫌なのは、僕のせいで七海が傷つくことだ。
もし彼女の身体に消えないような傷痕が残ってしまったらと思うと、かなり怖い。
最近少しずつ呑む頻度が増えてきているのも気になる。
「木葉?」
「ごめん、まだちょっとぼんやりしてた...。いただきます」
席に着いてふたりで同じものを食べる。
こうして同じ時間を共有できることの尊さを1番よく知っているのは僕だ。
それは、ラッシュさんや母が望んでも手に入らなかったものだと幼い頃から理解している。
だからこそ、それを大切にしたいのだ。
「私、これから打ち合わせに行かないといけないからそろそろ行くね」
「七海」
「どうしたの?」
「...帰り、迎えに行ってもいい?夕飯の買い物に丁度いい時間帯だから」
過保護すぎるのかもしれない。
だが、万が一シェリを襲った相手が人間でないとしたら...華奢な七海では勝てないだろう。
そんな話をするわけにもいかず、結局苦し紛れに出た言葉がそれだった。
「勿論。いつものカフェでやる予定だから待ってる。
多分3時くらいには終わるはずだけど、遅くなりそうだったら連絡するね」
「ありがとう。それじゃあ、いってらっしゃい」
「...うん。いってきます」
いってきますといってらっしゃいがある生活に浮かれながらも、やるべきことから目を背けるつもりはない。
七海のことは僕が護る。
...必ずそうすると、シェリと約束したから。
食べ終わった食器を片づけ、掃除をして...そうこうしているうちに、時間なんてあっという間に過ぎていた。
「...そろそろ行かないと」
カフェまで走っていると、何やら不思議な気配を感じる。
それが悪意であることには気づいたが、誰に向けられたものまでかは分からない。
...まだまだ修行が足りないということなのだろうか。
少し離れた場所から七海と担当の男性が出てくるのが見える。
そのとき、気配が強くなったのを全身で感じた。
「七海」
「木葉...。時間ぴったりにありがとう」
頬が緩んでいるところを見ると、原稿が上手くいったことくらいすぐ分かる。
そんな姿が瞳に映り、できるだけ不安を感じさせないように気をつけながら動くことしかできなかった。
「ごめん、ちょっと早かった?」
「ううん。本当に丁度終わったところだったから」
楽しく話しているうちに、悪意がこもった気配は消えていた。
先程のあれは偶然か必然か...そんなことを考えていることさえ悟られないようにしつつ、担当者の男性に一礼する。
それから七海の手を繋ぎ、目的の店へと向かって歩き出す。
周囲を警戒しながら自らに言い聞かせる。
──七海を襲うような不安要素なんて、全て僕が消し去ってしまえばいい。
僕だけが背負えばいいのだと。
「ん、はよ...」
欠伸を噛み殺して、いつの間にか腕から抜け出していた七海に言葉を返す。
「ご飯できてるよ」
「ありがとう。昨日結構乱暴に噛んじゃったけど、痛くない?」
「うん。全然大丈夫だよ」
僕が1番嫌なのは、僕のせいで七海が傷つくことだ。
もし彼女の身体に消えないような傷痕が残ってしまったらと思うと、かなり怖い。
最近少しずつ呑む頻度が増えてきているのも気になる。
「木葉?」
「ごめん、まだちょっとぼんやりしてた...。いただきます」
席に着いてふたりで同じものを食べる。
こうして同じ時間を共有できることの尊さを1番よく知っているのは僕だ。
それは、ラッシュさんや母が望んでも手に入らなかったものだと幼い頃から理解している。
だからこそ、それを大切にしたいのだ。
「私、これから打ち合わせに行かないといけないからそろそろ行くね」
「七海」
「どうしたの?」
「...帰り、迎えに行ってもいい?夕飯の買い物に丁度いい時間帯だから」
過保護すぎるのかもしれない。
だが、万が一シェリを襲った相手が人間でないとしたら...華奢な七海では勝てないだろう。
そんな話をするわけにもいかず、結局苦し紛れに出た言葉がそれだった。
「勿論。いつものカフェでやる予定だから待ってる。
多分3時くらいには終わるはずだけど、遅くなりそうだったら連絡するね」
「ありがとう。それじゃあ、いってらっしゃい」
「...うん。いってきます」
いってきますといってらっしゃいがある生活に浮かれながらも、やるべきことから目を背けるつもりはない。
七海のことは僕が護る。
...必ずそうすると、シェリと約束したから。
食べ終わった食器を片づけ、掃除をして...そうこうしているうちに、時間なんてあっという間に過ぎていた。
「...そろそろ行かないと」
カフェまで走っていると、何やら不思議な気配を感じる。
それが悪意であることには気づいたが、誰に向けられたものまでかは分からない。
...まだまだ修行が足りないということなのだろうか。
少し離れた場所から七海と担当の男性が出てくるのが見える。
そのとき、気配が強くなったのを全身で感じた。
「七海」
「木葉...。時間ぴったりにありがとう」
頬が緩んでいるところを見ると、原稿が上手くいったことくらいすぐ分かる。
そんな姿が瞳に映り、できるだけ不安を感じさせないように気をつけながら動くことしかできなかった。
「ごめん、ちょっと早かった?」
「ううん。本当に丁度終わったところだったから」
楽しく話しているうちに、悪意がこもった気配は消えていた。
先程のあれは偶然か必然か...そんなことを考えていることさえ悟られないようにしつつ、担当者の男性に一礼する。
それから七海の手を繋ぎ、目的の店へと向かって歩き出す。
周囲を警戒しながら自らに言い聞かせる。
──七海を襲うような不安要素なんて、全て僕が消し去ってしまえばいい。
僕だけが背負えばいいのだと。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる