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隠暮篇(かくれぐらしへん)
作戦
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数日後、私は1人で買い物をしていた。
「すみません、この服をください」
「プレゼント用ですか?」
私が頷いたのを確認して、店員さんはそれを包んでくれた。
「ありがとうございます」
そしてそのままお店を出て、人がほとんど来ないような通路に向かった。
勿論、それも1人でだ。
そのままぼんやりしていると、後ろから刃物を振り回す音がする。
「...」
私は全然怖くなかった。
さっき買ったものを、見覚えのある女に向かって投げつける。
瞬間、彼女は表情を歪めてその場に膝をついた。
「痛っ、何よこれ...」
「スプレー弾。さっき買ったもの」
そこまで話したところで刃物が音をたてて落ちる音がした。
煙っていてよく見えないけれど、木葉が倒したのだろう。
「七海、無事?」
「全然大丈夫だけど、すごく煙ってるね」
──ふたりして咳きこみながら、数日前の会話を思い出す。
「彼女はきっと、七海のことを渡瀬さんの奥さんと勘違いしているんだろうね。
...ストーカーの典型的なものだ」
「渡瀬さんは彼女を知らないと言っていたけど、どこかで会ったかもしれないってこと?」
「今の時代、なんでもありだろうから」
そう言って見せてくれたのは、SNSに載せられていた1枚の写真。
そこには、『早く会いたい愛しの旦那様』という文章が添えられていた。
(...まさかこんなことがあるなんて)
「この写真、加工されたものでしょ?それにこの後の部屋...家具がひとり用のものばっかりだ。
せめて椅子くらいはふたり分あるはずなのにそれがない」
「この背景、見覚えがある。...編集部だ」
そこで、お世話になっている場所のホームページを開いてみる。
そこには、全く同じ表情で写っている渡瀬さんの姿があった。
「うん、間違いない。それに暈しと色味を足したらこの写真の部屋になる」
「どこで知ったのかな...」
「そのあたりは分からないけど、このままだと奥さんやお子さんに被害が及ぶ可能性は否定できない」
「...私が囮になるよ」
「七海、」
「今から3日後、渡瀬さんは家族でデパートに出掛けるって言ってた。
その日を上手く利用すれば、きっと...」
あんなにいい人たちが酷い目に遭うのは嫌だ。
そう思うと、何もせずにはいられなかった。
「分かった。じゃあ七海は雑貨屋さんに向かって。...そこで色々用意してもらっておくから」
何時くらいに行くのか、どんなことをするのか...渡瀬さんにメッセージを送って然り気無く聞き出して、細かくたてた作戦。
それを決行して今に至る。
(まさかこんなに威力がある煙玉がこの世界に存在するなんて...)
ふたりで女を縛りながら話していると、乾いた拍手がその場に響いた。
「おまえら、お疲れさん」
目を向けると、そこにはもうひとりの心強い協力者がどっしりと構えていた。
「早かったね、ラッシュさん」
「すみません、この服をください」
「プレゼント用ですか?」
私が頷いたのを確認して、店員さんはそれを包んでくれた。
「ありがとうございます」
そしてそのままお店を出て、人がほとんど来ないような通路に向かった。
勿論、それも1人でだ。
そのままぼんやりしていると、後ろから刃物を振り回す音がする。
「...」
私は全然怖くなかった。
さっき買ったものを、見覚えのある女に向かって投げつける。
瞬間、彼女は表情を歪めてその場に膝をついた。
「痛っ、何よこれ...」
「スプレー弾。さっき買ったもの」
そこまで話したところで刃物が音をたてて落ちる音がした。
煙っていてよく見えないけれど、木葉が倒したのだろう。
「七海、無事?」
「全然大丈夫だけど、すごく煙ってるね」
──ふたりして咳きこみながら、数日前の会話を思い出す。
「彼女はきっと、七海のことを渡瀬さんの奥さんと勘違いしているんだろうね。
...ストーカーの典型的なものだ」
「渡瀬さんは彼女を知らないと言っていたけど、どこかで会ったかもしれないってこと?」
「今の時代、なんでもありだろうから」
そう言って見せてくれたのは、SNSに載せられていた1枚の写真。
そこには、『早く会いたい愛しの旦那様』という文章が添えられていた。
(...まさかこんなことがあるなんて)
「この写真、加工されたものでしょ?それにこの後の部屋...家具がひとり用のものばっかりだ。
せめて椅子くらいはふたり分あるはずなのにそれがない」
「この背景、見覚えがある。...編集部だ」
そこで、お世話になっている場所のホームページを開いてみる。
そこには、全く同じ表情で写っている渡瀬さんの姿があった。
「うん、間違いない。それに暈しと色味を足したらこの写真の部屋になる」
「どこで知ったのかな...」
「そのあたりは分からないけど、このままだと奥さんやお子さんに被害が及ぶ可能性は否定できない」
「...私が囮になるよ」
「七海、」
「今から3日後、渡瀬さんは家族でデパートに出掛けるって言ってた。
その日を上手く利用すれば、きっと...」
あんなにいい人たちが酷い目に遭うのは嫌だ。
そう思うと、何もせずにはいられなかった。
「分かった。じゃあ七海は雑貨屋さんに向かって。...そこで色々用意してもらっておくから」
何時くらいに行くのか、どんなことをするのか...渡瀬さんにメッセージを送って然り気無く聞き出して、細かくたてた作戦。
それを決行して今に至る。
(まさかこんなに威力がある煙玉がこの世界に存在するなんて...)
ふたりで女を縛りながら話していると、乾いた拍手がその場に響いた。
「おまえら、お疲れさん」
目を向けると、そこにはもうひとりの心強い協力者がどっしりと構えていた。
「早かったね、ラッシュさん」
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