ハーフ&ハーフ

黒蝶

文字の大きさ
74 / 258
隠暮篇(かくれぐらしへん)

知らないもの

しおりを挟む
「ここの豚カツ、どうしていつもこんなにさくさくなんだろう...」
七海は本当に美味しそうに食べていて満足そうだ。
いつものことながら、それを微笑ましいと思っている自分がいる。
こういうのを、世間ではバカップルと呼ぶのかもしれない。
「木葉、もしかしてあんまりお腹すいてなかった?」
「ううん、七海の食べてる姿が可愛いなって思ってただけ」
「か、可愛くはないと思うけど...」
だんだん声が小さくなっていく七海を、本当は今すぐ抱きしめたい。
だが、彼女はかなり疲れているだろう。
僕に血を吸われた分と顔と心につけられた傷によって、本当なら泣きたいくらいに傷ついているはずだ。
それに、人前でそんなことをすればきっと嫌われてしまう。
「木葉、やっぱり食欲がないんじゃ...」
「本当に違うから心配しないで」
さくさくとしたてんぷらを食べながら、ちらっと七海を盗み見る。
そのとき僕の瞳にうつったのは、ここ数日で1番いい彼女の笑顔だった。
「もうすぐ今年も終わりだね」
「そうだね...」
「出会ってからあっという間だった気がする」
「確かにそんな気がするね」
「年越しはどうやって過ごそうか?」
...どうやって過ごすのか?
頭の中を『?』が舞い続けている。
何か特別なことをするのだろうか。
「...ごめん」
「どうして謝るの?」
「年なんていつも気づいたら越えてたから、その...」
「それじゃあ、年越し蕎麦とか食べたことないの?」
「何それ、そういうのがあるの?」
七海は少し驚いた様子だったが、納得したように頷いた。
「ヴァンパイアの人たちって夜型だから、てっきり盛大にお祝いしているんだと思ってたけど...そっか、そうだよね」
「どういうこと?」
「ずっと夜活動しているわけだから、わざわざ夜に年が明けたなんて言わないんじゃないかなって思ったんだ。
それに、大体の人たちは朝陽が出る前に寝ちゃうんだよね?だったらきっと、お祝い事みたいになったりはしないんだろうなって...失礼なことばっかり言ってごめん」
「ううん、事実だから。それに...人って言い方をしてくれて嬉しかった」
七海はいつも傷つけないように考えながら発言してくれている。
きっと今回も、イメージで話したから傷つけたのではないかと不安に思っているのだろう。
だが、力が弱い魔族や従者たちでは朝起きることができない。
それに、起きる度に夜では年が明けたかどうかなんて分からないだろう。
「1度だけパーティーをしたことはあったけど、後片づけが物凄く大変だったんだ。
僕や母たちは起きていられたけど、大半の人たちが寝ちゃったから」
「なんだか想像できる...」
「でしょ?でも、蕎麦を食べたことはないな...」
「それじゃあ今年は一緒に食べよう」
独りだった頃はできないと答えていたものをやってみようと思えるのは、側に七海がいてくれるおかげだ。
ただ頷いて答えると、彼女はまた嬉しそうに笑った。
たとえどんなことがあろうと護り抜いてみせよう...地面が白く染まる夜、ひとりそう誓う。
耳元のお揃いのイヤーカフが光っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...