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隠暮篇(かくれぐらしへん)
夜の仕事納め
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「木葉、今日はお仕事なんじゃ...」
七海に言われるまですっかり忘れていた。
今まで無遅刻無欠席でやってきたのだから、どうしても間に合わせたい。
「すっかり忘れてた!もう、渡瀬さんが茶化してくるからだよ...」
「まさかあんなふうに言ってもらえるとは思わなかったね」
「うん。意外だった」
あの状況ではDVを疑われても仕方ないのに、あの人からそんな気配はしなかった。
寧ろ微笑ましそうに見守っていたという方がしっくりくる。
「ご飯を食べたら行ってくるよ。僕も今日で仕事納めだから」
思い出しただけで恥ずかしくなってきて、つい話題を変えてしまう。
「知らなかった...」
「僕もさっきまですっかり忘れてたよ。戸締まりはしっかりして、眠かったら先に寝ておいてね」
「任せてください」
「それじゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
本当は僕がいない間に何かあったらどうしようと不安になるのだが、ここできちんと出勤しないと七海を心配させてしまう。
今日が終わればしばらくはずっと側で護れる...そう思うと、自然と足どりが軽くなっていた。
「柊」
「...木葉」
久しぶりに会った友人に声をかけてみると、なんだか少しだけ複雑そうな表情をしていた。
「大丈夫?」
「色々あって、少し考えこんでいるだけだ」
「それ絶対大丈夫じゃないでしょ」
僕の周りには、自分1人で何とかしようとする人が多すぎる。
七海もそうだが、柊はもっと抱えこみやすい。
「今日で今年の分は終わりだし、僕でよければ話を聞くよ。
それから、連絡してくれればいつでも対応するから」
「...ありがとう」
無感情だった彼はよく笑うようになった。
本人は自覚がないようなので黙っているが、気づくのはいつになるのだろう。
想像しただけで少し楽しみになった。
「今年もお疲れ様でした。各自ボーナスの支給もあるので、忘れずに持って帰るように」
周りが喜びの声をあげているなか、ただ冷静に言葉を交わす。
「それじゃあまた来年」
「...うん」
「あ、でも連絡はしてね」
「分かってる」
嬉しそうに去っていく柊の背中を見送った後、シェリに連絡を入れてみる。
3回ほど鳴ったところで、緊張した様子の声が耳に届いた。
『木葉様、あの...』
「突然連絡してごめん。...怪我の具合を聞きたかったんだ。
七海も気にしてたよ」
『私は、大丈夫、です。まだ、車椅子...ですけど』
「無理しないようにね」
『ありがとう、ございます』
「それじゃあまたね」
『...はい』
本当はもう少し話していたかったが、残念なことにそうはいかないらしい。
心臓が張り裂けそうなほどの欲望...吸血欲求だ。
七海にすがらせてもらうしかないことに申し訳なさを感じながら、冷たい風が吹き抜ける道をゆっくり歩く。
「...ただいま。まだ起きてたの?」
「おかえりなさい。勿論待ってたよ。...そろそろ限界なんじゃないかって思ってたから」
パジャマのボタンをふたつ外して、髪を片方にまとめて避けてくれる。
そこから見える透き通るような肌に、本能的に吸いついてしまった。
「んん...」
「ごめん、痛いよね...」
「いい...そのまま、続けて」
何度も呑ませてもらうわけにはいかない...そう頭の片隅で考えながらも、衝動を抑えることはできそうにない。
牙を突き立てた後の口の中には、ほろ苦い罪悪感と狂おしいほどの甘さで満ち溢れていた。
七海に言われるまですっかり忘れていた。
今まで無遅刻無欠席でやってきたのだから、どうしても間に合わせたい。
「すっかり忘れてた!もう、渡瀬さんが茶化してくるからだよ...」
「まさかあんなふうに言ってもらえるとは思わなかったね」
「うん。意外だった」
あの状況ではDVを疑われても仕方ないのに、あの人からそんな気配はしなかった。
寧ろ微笑ましそうに見守っていたという方がしっくりくる。
「ご飯を食べたら行ってくるよ。僕も今日で仕事納めだから」
思い出しただけで恥ずかしくなってきて、つい話題を変えてしまう。
「知らなかった...」
「僕もさっきまですっかり忘れてたよ。戸締まりはしっかりして、眠かったら先に寝ておいてね」
「任せてください」
「それじゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
本当は僕がいない間に何かあったらどうしようと不安になるのだが、ここできちんと出勤しないと七海を心配させてしまう。
今日が終わればしばらくはずっと側で護れる...そう思うと、自然と足どりが軽くなっていた。
「柊」
「...木葉」
久しぶりに会った友人に声をかけてみると、なんだか少しだけ複雑そうな表情をしていた。
「大丈夫?」
「色々あって、少し考えこんでいるだけだ」
「それ絶対大丈夫じゃないでしょ」
僕の周りには、自分1人で何とかしようとする人が多すぎる。
七海もそうだが、柊はもっと抱えこみやすい。
「今日で今年の分は終わりだし、僕でよければ話を聞くよ。
それから、連絡してくれればいつでも対応するから」
「...ありがとう」
無感情だった彼はよく笑うようになった。
本人は自覚がないようなので黙っているが、気づくのはいつになるのだろう。
想像しただけで少し楽しみになった。
「今年もお疲れ様でした。各自ボーナスの支給もあるので、忘れずに持って帰るように」
周りが喜びの声をあげているなか、ただ冷静に言葉を交わす。
「それじゃあまた来年」
「...うん」
「あ、でも連絡はしてね」
「分かってる」
嬉しそうに去っていく柊の背中を見送った後、シェリに連絡を入れてみる。
3回ほど鳴ったところで、緊張した様子の声が耳に届いた。
『木葉様、あの...』
「突然連絡してごめん。...怪我の具合を聞きたかったんだ。
七海も気にしてたよ」
『私は、大丈夫、です。まだ、車椅子...ですけど』
「無理しないようにね」
『ありがとう、ございます』
「それじゃあまたね」
『...はい』
本当はもう少し話していたかったが、残念なことにそうはいかないらしい。
心臓が張り裂けそうなほどの欲望...吸血欲求だ。
七海にすがらせてもらうしかないことに申し訳なさを感じながら、冷たい風が吹き抜ける道をゆっくり歩く。
「...ただいま。まだ起きてたの?」
「おかえりなさい。勿論待ってたよ。...そろそろ限界なんじゃないかって思ってたから」
パジャマのボタンをふたつ外して、髪を片方にまとめて避けてくれる。
そこから見える透き通るような肌に、本能的に吸いついてしまった。
「んん...」
「ごめん、痛いよね...」
「いい...そのまま、続けて」
何度も呑ませてもらうわけにはいかない...そう頭の片隅で考えながらも、衝動を抑えることはできそうにない。
牙を突き立てた後の口の中には、ほろ苦い罪悪感と狂おしいほどの甘さで満ち溢れていた。
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