ハーフ&ハーフ

黒蝶

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隠暮篇(かくれぐらしへん)

お見舞い

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「ごめんね、シェリ。...あの人の相手は大変でしょ?」
「た、楽しい、ことも、多いです」
半分は本当なのだろう。
確かにあの人といて楽しくなかったことはない。
だが、お屋敷勤めのみんなには相当迷惑をかけているはずだ。
「今度会ったら他のみんなにも伝えて」
シェリが頷くのを見ていると、七海が蜜柑をもうひとつむきはじめた。
「シェリ、よかったら食べて」
「...いいの?」
「勿論。シェリに食べてほしくて買ってきたから」
「あ、ありがとう...」
七海は笑っていたが、少し疲れている様子だった。
これだけ多くの気配を一気に感じ取ってしまうのだ、無理はない。
この病院自体は普通なのだろう...表向きは。
それもあってか人間の気配も交ざっている。
だが、この病棟に入院しているのは人間ではない者が多いようだ。
「もしよかったら中庭に行ってみない?」
「シェリがいいなら私が車椅子を押すよ」
「...行きたい。久しぶりに、外、行きたい」
空は今にも泣き出しそうな茜色だが、雨が降る感じはしない。
やはり大丈夫そうだと判断し、蜜柑を食べ終わったシェリの体を車椅子に乗せる。
七海は楽しそうにそれを押しながら、じっと僕の方を見つめて口を動かした。
『ありがとう』...そう動いた唇に嬉しくなって微笑みかける。
少し照れてしまったのか顔を背けられてしまったが、嫌がっているわけではないことは理解していた。
「そろそろ来るはずだよ」
「来るって何が?」
「空を見てて」
ふたりとも首を傾げていたが、シェリが近づいてきたものに気づいて声をあげた。
「ノワール...?」
何食わぬ顔でやってきたノワールは、かあとひと鳴きしてシェリの腕にとまろうとする。
「私の腕で我慢して。...怪我が酷くなるといけないから」
僕が止める前に七海が止めてくれた。
ノワールは寂しそうだったが、こればかりは仕方ない。
「ご飯、食べて...みんなを、困らせちゃ、駄目です」
かあ、と返事をすると、再び空高く飛び去ってしまった。
「お、怒ら、せた、でしょ、か」
「そんなことないと思う。...シェリが心配している気持ちはきっと伝わったよ」
「そうだと、いいな」
シェリは七海と出会ってから沢山の表情を見せるようになったのだと母から聞いたことがあったが、本当にそうなのかもしれない。
以前ならずっと気にして謝り倒していたはずだ。
それがこんなふうに笑って過ごせるというのは、間違いなくいいことだろう。
「あ、看護師さん...」
「そろそろ戻った方がよさそうだね」
しゅんと肩を落とすシェリに、七海はしゃがんで目を合わせながら優しく話しかける。
「今日はもう帰るけど、また来るね。...話せてよかった。すごく楽しかったよ」
「わ、私も...」
それからほどなくして看護師がやってきて、一礼してそのままわかれる。
そのとき、ぐらっと華奢な身体が傾いた。
「...七海!」
「木葉...ごめん。あてられちゃった、みた、」
「今は喋らなくていいから、そのまま掴まってて」
やはり無理をしていたのだと思うと、申し訳なくて涙が出そうになる。
「ごめんね...」
そのまま目を閉じた七海を抱きかかえ、小走りで外に出る。
「...ごめんは僕の方だよ」
いつの間にか降りだした雨に打たれながら家路を急ぐ。
そんな呟きは誰にも届かず、空に吸いこまれていった。
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