ハーフ&ハーフ

黒蝶

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隠暮篇(かくれぐらしへん)

あてられるということ

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目の前にいるのは、1人の少女。
彼女は泣いているのに、暴力を振るう男。
少女はずっと泣きながら謝り続ける。
その声はどこかで聞いたことがあるような気がするけれど、頭がぼうっとしていてあまり考えられない。
少女の涙を拭いたいのに、手が届かないどこほか近づくことさえできなかった。
呆然と立ち尽くすしかなかったなか、突然硝子のようなものが飛んでくる。
(避けきれない)
思わずぎゅっと目を閉じる。
──次に目を開いたとき広がった景色は、見覚えがある天井だった。
「...!」
「起きた...?」
「木葉、ごめんね」
「お願い、もう謝らないで」
何故か木葉の瞳に翳りが差しているような気がして、そっと手を伸ばす。
頬に触れると、その体はぴくっと震えた。
「木葉のせいじゃないよ」
「でも、僕がもっと気をつけていればここまで酷くはならなかったかもしれないのに...」
今にも泣き出しそうな声でそんなことを話す姿に、愛しさと申し訳なさが募っていく。
「吐き気はない?」
「大丈夫だよ」
「...それじゃあ、夢を見たりしなかった?」
「少し不思議な夢だったけど、それも大丈夫だったよ」
今考えてみると、あれは人間だった存在の記憶だったのかもしれない。
...恐らくシェリだったのだろう。
多くの存在にあてられるというのは決していいものではない。
辛いことを思い出したり、具合が悪くなってしまったり...日常生活に支障が出ることもある。
けれど私は、悪いことばかりだとは思っていない。
「...何か飲む?」
「木葉は疲れてないの?」
「七海がいてくれるから、それだけでいい」
体を起こすとブランケットが掛けられていたのが目に入って、その直後に抱きしめられる。
「大丈夫そうでよかった...」
「心配させてごめんね」
次からはもう少し気をつけよう、そんなことを考えていて気づいたことがある。
(服が変わってる?)
「あの、木葉。...もしかして、着替えさせてくれた?」
「ごめん!雨が降ってきて濡れちゃったから、体を拭かせてもらいました」
だんだん声が小さくなっていく木葉の頭に手をのせる。
不思議そうな表情をしている彼に、私は言葉をかき集めて想いを伝えた。
「大変な思いをさせちゃってごめん。それから...助けてくれてありがとう。
木葉はやっぱり優しいね」
「僕が、優しい...?」
「うん。木葉はすごく優しいよ」
いつも言葉にして伝えているけれど、本人はぴんときていないらしい。
だったら何度だって伝えよう。
あなたほど優しい人を知らないって、あなたは化け物なんかじゃないって。
(それから、これが1番伝えたいこと)
「私はいつだって木葉のことを愛してる」
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