ハーフ&ハーフ

黒蝶

文字の大きさ
上 下
116 / 258
追暮篇(おいぐらしへん)

再会

しおりを挟む
夜の特急列車に乗って、それから少し歩いて石段をのぼる。
「着いた。ここみたいなんだけど...」
その場所には、新しい建物があった。
石段の前に鳥居が残っていたおかげで、唐牛で神社だったことは分かる。
けれど、他のものは何も残っていなかった。
「...七海」
瞬間、木葉に抱きしめられる。
気づいたときには涙が溢れていた。
どんなに止めようとしても止められなくて、ただ泣くことしかできない。
「七海、まだ諦めるのは早いよ」
「どういうこと...?」
「この家に誰かがいる。だから迂回しないといけないんだけど、まだ歩けそう?」
「...うん。少しでも会える可能性があるなら頑張ってみたい」
木葉に手を繋いでもらって、険しい山道を奥へ奥へと進んでいく。
美桜さんとお母さんは、私が知らないうちに私を護ってくれていたはずだ。
『七海...』
今ならはっきりと思い出せる。
たとえ美桜さんがどんな姿になっていたとしても、優しく呼んでくれるその声をもう忘れたりはしない。
(美桜さん、待ってて)
「七海、あったよ!」
「あったって、」
何が、と訊く前にそれが目に入る。
間違いない、美桜さんがいたお社だ。
「...美桜さん」
お社に向かって手を伸ばすと、足を滑らせてしまう。
「七海...!」
「ありがとう、木葉」
もし木葉が手を掴んでくれなかったらと思うと、足がすくんで動けなくなってしまう。
それを察知されてしまったのか、そんな私を横抱きにしてお社のすぐ前まで運んでくれた。
「ありがとう」
「どういたしまし...!」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
お社ががたっと音をたてて小さな扉が開く。
その中から出てきたのは、鬼の形相をした女性だった。
「美桜さん!」
「う...じい...ざみじい」
どうすればいいのか分からずに固まっていると、木葉の声が辺りに響いた。
「七海、名前を呼んであげて!それから、何か好きなものがあればそれで元に戻れるかもしれない!」
「好きなもの...」
「ざ、みじ...な、な、」
「彼女の力は僕が抑えておくから大丈夫!」
木葉の表情から、もう限界が近いことは分かる。
もし会えたら渡したいと思っていたものがあった。
(...持ってきて正解だった)
「あなたの寂しさは理解できるけど、話を聞いてほしいんだ。
...お願い、彼女の話を聞いて」
「木葉、ありがとう。...ねえ、美桜さん。私が作ったお稲荷さん、食べてくれるって約束したよね?」
鞄からタッパーごと取り出して、そのまま笑ってみせた。
「美桜さん、一緒に食べよう」
「...七海?」
数年前と変わらない姿の女性が、驚いたように私の名前を呼ぶ。
「美桜さん、遅くなっちゃってごめんなさい」
「七海...」
抱きしめてくれる美桜さんの体は温かくて、本当に懐かしい。
視線をさまよわせると、木葉が倒れこんでいた。
「木葉...!」
「僕は大丈夫。会えてよかったね」
「うん。本当にありがとう」
「...その人は、七海の大切な人?」
私が頷くと、美桜さんは木葉に頭を下げた。
「ごめんなさい。最近力がおかしな方向に向いてしまって、襲いかかってしまった」
「いいんです。神様ってお社が汚れたり荒らされるとそうなるものだって、知っていましたから」
美桜さんは複雑そうな表情をしながら、ゆっくりとお社の扉を開ける。
「今夜はもう遅い。...襲ったりしないから、ゆっくり泊まっていって」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

夫に「好きな人が出来たので離縁してくれ」と言われました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,570pt お気に入り:3,871

この結婚、ケリつけさせて頂きます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,895pt お気に入り:2,913

辺境伯の奥様は「世界一の悪妻」を目指している

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:1,447

色ハくれなゐ 情ハ愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:79

婚約破棄になったら、駄犬に懐かれました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:1,232

授かり婚したら、男の溺愛が始まった

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:120

わたしの王子様

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,228pt お気に入り:4,012

旦那様に離縁をつきつけたら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:3,600

【R18】窓辺に揺れる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:100

処理中です...