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追暮篇(おいぐらしへん)
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夜の特急列車に乗って、それから少し歩いて石段をのぼる。
「着いた。ここみたいなんだけど...」
その場所には、新しい建物があった。
石段の前に鳥居が残っていたおかげで、唐牛で神社だったことは分かる。
けれど、他のものは何も残っていなかった。
「...七海」
瞬間、木葉に抱きしめられる。
気づいたときには涙が溢れていた。
どんなに止めようとしても止められなくて、ただ泣くことしかできない。
「七海、まだ諦めるのは早いよ」
「どういうこと...?」
「この家に誰かがいる。だから迂回しないといけないんだけど、まだ歩けそう?」
「...うん。少しでも会える可能性があるなら頑張ってみたい」
木葉に手を繋いでもらって、険しい山道を奥へ奥へと進んでいく。
美桜さんとお母さんは、私が知らないうちに私を護ってくれていたはずだ。
『七海...』
今ならはっきりと思い出せる。
たとえ美桜さんがどんな姿になっていたとしても、優しく呼んでくれるその声をもう忘れたりはしない。
(美桜さん、待ってて)
「七海、あったよ!」
「あったって、」
何が、と訊く前にそれが目に入る。
間違いない、美桜さんがいたお社だ。
「...美桜さん」
お社に向かって手を伸ばすと、足を滑らせてしまう。
「七海...!」
「ありがとう、木葉」
もし木葉が手を掴んでくれなかったらと思うと、足がすくんで動けなくなってしまう。
それを察知されてしまったのか、そんな私を横抱きにしてお社のすぐ前まで運んでくれた。
「ありがとう」
「どういたしまし...!」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
お社ががたっと音をたてて小さな扉が開く。
その中から出てきたのは、鬼の形相をした女性だった。
「美桜さん!」
「う...じい...ざみじい」
どうすればいいのか分からずに固まっていると、木葉の声が辺りに響いた。
「七海、名前を呼んであげて!それから、何か好きなものがあればそれで元に戻れるかもしれない!」
「好きなもの...」
「ざ、みじ...な、な、」
「彼女の力は僕が抑えておくから大丈夫!」
木葉の表情から、もう限界が近いことは分かる。
もし会えたら渡したいと思っていたものがあった。
(...持ってきて正解だった)
「あなたの寂しさは理解できるけど、話を聞いてほしいんだ。
...お願い、彼女の話を聞いて」
「木葉、ありがとう。...ねえ、美桜さん。私が作ったお稲荷さん、食べてくれるって約束したよね?」
鞄からタッパーごと取り出して、そのまま笑ってみせた。
「美桜さん、一緒に食べよう」
「...七海?」
数年前と変わらない姿の女性が、驚いたように私の名前を呼ぶ。
「美桜さん、遅くなっちゃってごめんなさい」
「七海...」
抱きしめてくれる美桜さんの体は温かくて、本当に懐かしい。
視線をさまよわせると、木葉が倒れこんでいた。
「木葉...!」
「僕は大丈夫。会えてよかったね」
「うん。本当にありがとう」
「...その人は、七海の大切な人?」
私が頷くと、美桜さんは木葉に頭を下げた。
「ごめんなさい。最近力がおかしな方向に向いてしまって、襲いかかってしまった」
「いいんです。神様ってお社が汚れたり荒らされるとそうなるものだって、知っていましたから」
美桜さんは複雑そうな表情をしながら、ゆっくりとお社の扉を開ける。
「今夜はもう遅い。...襲ったりしないから、ゆっくり泊まっていって」
「着いた。ここみたいなんだけど...」
その場所には、新しい建物があった。
石段の前に鳥居が残っていたおかげで、唐牛で神社だったことは分かる。
けれど、他のものは何も残っていなかった。
「...七海」
瞬間、木葉に抱きしめられる。
気づいたときには涙が溢れていた。
どんなに止めようとしても止められなくて、ただ泣くことしかできない。
「七海、まだ諦めるのは早いよ」
「どういうこと...?」
「この家に誰かがいる。だから迂回しないといけないんだけど、まだ歩けそう?」
「...うん。少しでも会える可能性があるなら頑張ってみたい」
木葉に手を繋いでもらって、険しい山道を奥へ奥へと進んでいく。
美桜さんとお母さんは、私が知らないうちに私を護ってくれていたはずだ。
『七海...』
今ならはっきりと思い出せる。
たとえ美桜さんがどんな姿になっていたとしても、優しく呼んでくれるその声をもう忘れたりはしない。
(美桜さん、待ってて)
「七海、あったよ!」
「あったって、」
何が、と訊く前にそれが目に入る。
間違いない、美桜さんがいたお社だ。
「...美桜さん」
お社に向かって手を伸ばすと、足を滑らせてしまう。
「七海...!」
「ありがとう、木葉」
もし木葉が手を掴んでくれなかったらと思うと、足がすくんで動けなくなってしまう。
それを察知されてしまったのか、そんな私を横抱きにしてお社のすぐ前まで運んでくれた。
「ありがとう」
「どういたしまし...!」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
お社ががたっと音をたてて小さな扉が開く。
その中から出てきたのは、鬼の形相をした女性だった。
「美桜さん!」
「う...じい...ざみじい」
どうすればいいのか分からずに固まっていると、木葉の声が辺りに響いた。
「七海、名前を呼んであげて!それから、何か好きなものがあればそれで元に戻れるかもしれない!」
「好きなもの...」
「ざ、みじ...な、な、」
「彼女の力は僕が抑えておくから大丈夫!」
木葉の表情から、もう限界が近いことは分かる。
もし会えたら渡したいと思っていたものがあった。
(...持ってきて正解だった)
「あなたの寂しさは理解できるけど、話を聞いてほしいんだ。
...お願い、彼女の話を聞いて」
「木葉、ありがとう。...ねえ、美桜さん。私が作ったお稲荷さん、食べてくれるって約束したよね?」
鞄からタッパーごと取り出して、そのまま笑ってみせた。
「美桜さん、一緒に食べよう」
「...七海?」
数年前と変わらない姿の女性が、驚いたように私の名前を呼ぶ。
「美桜さん、遅くなっちゃってごめんなさい」
「七海...」
抱きしめてくれる美桜さんの体は温かくて、本当に懐かしい。
視線をさまよわせると、木葉が倒れこんでいた。
「木葉...!」
「僕は大丈夫。会えてよかったね」
「うん。本当にありがとう」
「...その人は、七海の大切な人?」
私が頷くと、美桜さんは木葉に頭を下げた。
「ごめんなさい。最近力がおかしな方向に向いてしまって、襲いかかってしまった」
「いいんです。神様ってお社が汚れたり荒らされるとそうなるものだって、知っていましたから」
美桜さんは複雑そうな表情をしながら、ゆっくりとお社の扉を開ける。
「今夜はもう遅い。...襲ったりしないから、ゆっくり泊まっていって」
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