ハーフ&ハーフ

黒蝶

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追暮篇(おいぐらしへん)

何よりも甘いもの

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夜までは我慢しようと心に決めた。
僕が本当は噛みたくないと思っているのがひとつ、七海に負担をかけたくないというのがひとつ...。
「木葉、大丈夫?」
「うん。少しぼうっとしてたけど、それだけだよ」
ノワールはまだ帰ってきていない。
恐らく、美桜さんに手紙に届けに行ったついでに色々と話をしているのだろう。
それを無理矢理止めて呼び戻そうなどという気は更々ない。
「七海、昨日母から預かった写真をもう1回見せてもらってもいい?」
返事がかえってこなくてどうしたのだろうと思っていると、手を押さえている七海が目に入った。
「七海、どうしたの?大丈夫...?」
「ちょっと火傷しただけだから、大丈夫だよ」
手の甲が腫れているのが目に入り、思わずぐっと手首を掴む。
「...木葉?」
「駄目だよ、冷やしたからって油断したら」
すぐに処置道具を用意して、そのまま水ぶくれを潰してしまわないように慎重に手当てしていく。
「よし、できた」
「ありがとう...」
「もしかして、チョコレートを作ってるときに火傷したの?」
「手つきが危なかったからかな...」
苦笑しながら、それでも必死に笑っている七海の頬に触れる。
その部分の傷も、まだ完全に癒えたわけではない。
「...ちょっとそこに座ってて」
「でも、」
「洗い物くらいは僕がやるし、紅茶も淹れるから」
「それじゃあ、お言葉に甘えて...」
そのしゅんとした様子さえも可愛いと思ってしまうのは、不謹慎だろうか。
「朝早くから起きてくれたんでしょ?少しは休んでて」
「そうさせてもらうね」
かちゃかちゃと音をたてながら食器を洗い終え、淹れたての紅茶をサーブする。
「七海、食べられそう?」
「すごくいいにおいがする...」
「フルーティーな香りがするものにしたんだ。多分パヴェにならこれが合うかなって思って、いつものとは違うものにしてみた」
「...確かに美味しいけど、私まで食べちゃった」
「ふたりで食べた方が楽しいよ」
「そう言ってもらえてよかった」
嬉しそうに笑う姿を見た瞬間、突然吸血欲求がこみあげてきた。
...愛しいという感情は本当に危険だ。
「木葉、大、」
「ごめん、ちょっと無理そう...」
陽が沈みきるそのとき、もう限界だった。
我慢なんてできないほどの衝動が僕に襲いかかる。
「私は大丈夫だから...お願い、噛んで」
「ごめん...」
目の前の綺麗な指先に、そっと牙を突き立てる。
痛いはずなのに、七海は柔らかく微笑んで頭を撫でてくれた。
「いつもは、私がしてもらってばかりだから...」
「あんまり可愛いこと、言わないで...。本当に止められなくなる」
「木葉が相手なら、それでもいい」
優しい彼女に、僕はもう1度噛みついてしまう。
それはどんなものよりも甘くて、それを求めてしまっている自分が恐ろしい。
そんな思いをそっと仕舞い、自分が傷つけてしまった指に軽く口づけた。
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