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追暮篇(おいぐらしへん)
知りたいこと
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それは、純血種だけが持つ恐ろしい殺気。
今までこんなに怒っている母を見たことがない。
「...塵になるまで楽しませてね」
それは一瞬だった。
いつの間にかその手に握られていた武器は、深紅の槍。
相手を1撃で貫き、深々と突き刺さっている。
「まさかこの程度で気絶してしまうなんて...本当に弱いのね。
群れて他者を蔑むことしかできないなんて、愚かな人間」
七海を抱えてただ呆然と立ち尽くすことしかできない僕を、冷たい言葉を発した女性がいつものほんわかとした表情でやってくる。
「彼女は大丈夫かしら?」
「し、止血はしたんだけど...」
「そう。それならこっちに来て。余程の緊急事態にならない限りは使わないのだけれど、こんな車があればきっと疑われてしまう」
「車...?」
よく見ると、少し離れた場所に見覚えのある真っ黒なリムジンが停められていた。
「どうしてこんな場所にその車できたの!?」
「ラッシュが大丈夫だって言うから...」
「その人たちはどうするの?」
「警察が来るはずよ。通報しておいたから私たちはここにいない方がいい」
やっぱり僕は自分の母親の考えが読めない。
いつも知的でいつも予想以上の動きをとる。
...それはもしかすると、母が永く生きているからなのかもしれない。
「...あの人たちはどうなったの?」
「殺してはいないわ。...実は峰打ちのような状態で、」
「そうなんだ...」
ただ、さっきの言葉の意味が気になって仕方がない。
『蓬を殺した』...母は確かにそう言った。
事故で死んだとしか聞いていなかったものの、殺されていたなんていう話は誰からも教えてもらっていない。
「...お母さん」
「どうしたの?」
「さっきのはどういうこと?」
その一言で、はっとしたような表情を浮かべる。
なのに、次の瞬間にはまたいつもの澄ましたような笑顔に戻っていた。
「さっきの、とはいつのこと?」
「お父さんが殺されたなんて聞いてない」
「...それを話したら、あなたはその子の事を好きになっていた?」
それを聞いて、ただ黙ることしかできない。
母は目を細めてただ悲しそうに笑った。
「人間と仲良くできる子になってほしかったの。だから、あなたにだけは話したくなかった」
「それで周りの人たちにも嘘を吐かせたの?」
「...そうよ。あなたの為だと言いながら、私は逃げていたのかもしれない」
沈黙が流れるなか、突然喉の渇きを強く感じた。
「木葉、あなたもしかして、」
「お父さんの、こと...聞いちゃいけない、って思ってた。でも、やっぱり...知りた、よ」
呂律が回らなくなっていくのを感じながら、抱えるようにして乗せている七海の体を強く抱きしめた。
「僕は...っ、それがどんなことでも...知りたいって、思ってた。
...なんで教えてくれなかったの」
「ごめんなさい、木葉」
意識がどんどん沈んでいく。
もっと話さなければならないことは沢山あるのに、なぜこんなことになってしまったのか。
──意識が黒に染まる前に触れたのは、温かい七海の指先だった。
今までこんなに怒っている母を見たことがない。
「...塵になるまで楽しませてね」
それは一瞬だった。
いつの間にかその手に握られていた武器は、深紅の槍。
相手を1撃で貫き、深々と突き刺さっている。
「まさかこの程度で気絶してしまうなんて...本当に弱いのね。
群れて他者を蔑むことしかできないなんて、愚かな人間」
七海を抱えてただ呆然と立ち尽くすことしかできない僕を、冷たい言葉を発した女性がいつものほんわかとした表情でやってくる。
「彼女は大丈夫かしら?」
「し、止血はしたんだけど...」
「そう。それならこっちに来て。余程の緊急事態にならない限りは使わないのだけれど、こんな車があればきっと疑われてしまう」
「車...?」
よく見ると、少し離れた場所に見覚えのある真っ黒なリムジンが停められていた。
「どうしてこんな場所にその車できたの!?」
「ラッシュが大丈夫だって言うから...」
「その人たちはどうするの?」
「警察が来るはずよ。通報しておいたから私たちはここにいない方がいい」
やっぱり僕は自分の母親の考えが読めない。
いつも知的でいつも予想以上の動きをとる。
...それはもしかすると、母が永く生きているからなのかもしれない。
「...あの人たちはどうなったの?」
「殺してはいないわ。...実は峰打ちのような状態で、」
「そうなんだ...」
ただ、さっきの言葉の意味が気になって仕方がない。
『蓬を殺した』...母は確かにそう言った。
事故で死んだとしか聞いていなかったものの、殺されていたなんていう話は誰からも教えてもらっていない。
「...お母さん」
「どうしたの?」
「さっきのはどういうこと?」
その一言で、はっとしたような表情を浮かべる。
なのに、次の瞬間にはまたいつもの澄ましたような笑顔に戻っていた。
「さっきの、とはいつのこと?」
「お父さんが殺されたなんて聞いてない」
「...それを話したら、あなたはその子の事を好きになっていた?」
それを聞いて、ただ黙ることしかできない。
母は目を細めてただ悲しそうに笑った。
「人間と仲良くできる子になってほしかったの。だから、あなたにだけは話したくなかった」
「それで周りの人たちにも嘘を吐かせたの?」
「...そうよ。あなたの為だと言いながら、私は逃げていたのかもしれない」
沈黙が流れるなか、突然喉の渇きを強く感じた。
「木葉、あなたもしかして、」
「お父さんの、こと...聞いちゃいけない、って思ってた。でも、やっぱり...知りた、よ」
呂律が回らなくなっていくのを感じながら、抱えるようにして乗せている七海の体を強く抱きしめた。
「僕は...っ、それがどんなことでも...知りたいって、思ってた。
...なんで教えてくれなかったの」
「ごめんなさい、木葉」
意識がどんどん沈んでいく。
もっと話さなければならないことは沢山あるのに、なぜこんなことになってしまったのか。
──意識が黒に染まる前に触れたのは、温かい七海の指先だった。
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